天上の海・掌中の星

    “彼らの事情♪”

        *いつぞやの別部屋の猫のお友達とのお話です。
         鼻が詰まってて集中出来ないので、
         何だこりゃ度合いも高めですし。(おいおい)
         オリキャラが出て来る話はちょっとという方は
         自己判断でご遠慮ください。



記録的な寒さと豪雪とに襲われ中の、この冬の日本列島だが。
それでもさすがに、
一番冷えるとされる二月もその終わりが見えて来たせいか。
2回に1回は妙に生暖かい雨の日が訪れるようになり、
上着や手套はまだまだ要るものの、
マフラーは…時々邪魔っけになるかなぁという案配の日があったりし。

 「だからって、忘れて来ていいってこっちゃねぇからな。」
 「うん。」

あんまり褒められたことではないのは本人も承知か、
頬をほりほりと指先で掻きつつ“たはは…”と面目なさげに笑う坊っちゃんへ。
しょうがねぇなぁと口許をひん曲げて見せつつ、
だがだが、実をいや こちらさんもさほど怒ってまではいない、
緑頭の保護者代理様だったりし。
ルフィの通う公立高校も、
三年生が私大の受験期間に入ったのと、
そこをこそ受験する中学生らの入試が近いせいか、
先生方も職員の皆様もいろいろな準備に忙しく。
それとの兼ね合いか、早い目の期末考査が終わったと同時、
今日から試験休みに入ったらしいのだが、

 『ルフィ、お前マフラーして行かなかったか?』
 『あれぇ?』

ただいまとのお声も高らかに、
昼過ぎに戻って来た坊ちゃんの首回りが随分とスカスカだったため、
出迎えがてらに一応はと訊いてみたところ。
教室を出るときは確かに巻いていたが、

 『どこで外したか覚えてねぇ。』

…との お返事で。
電車の中じゃあ暑かったから、巻きつけてた前を緩めた気がする。
そのままこっちに着いて、えとえっと。
お腹が空いたんでコンビニに寄ったし、菱屋のコロッケも食べた。
そうだ、おばちゃんから
ソースがつくから気をつけなねって言われたから
そこまでは巻いてたと、
ギリギリ何とか思い出したルフィだったので。
正式なお昼ご飯、
かりっと揚がったエビのフリッターつき、
ドライカレーピラフ(大盛り)を平らげてから、
寄り道の経路を逆に辿りつつ、
どっかにないかと、
商店街までの道をほてほて探しに出て来た二人だったりし。
昼下がりの住宅街には人の気配も少なくて、
もう少し経てば保育園のお迎えのお母さんたちが
ついでに買い物だと行き来もするのだが、と、
ゾロの方が思い出している辺り。

 「…何が言いたい。」
 「んん? どした? ゾロ。」

あはは、別にいいじゃないですか、
ご町内のタイムテーブルに詳しくたって。
そんなワケで、
まるきり無人で貸し切りのような通りをゆく二人であり。

 「どこだったのかなぁ。
  菱屋さんから後は、
  すぐにこっちの道へ入ってたと思うんだけどもなぁ。」

忘れ物が多いうっかりさんなのは、今に始まったことじゃあないし、
坊やご本人のみならず、破邪さんも割と大雑把な性格なので、
多少のブツは“ま・いっか”扱いになることも多いのだが。

 「兄貴からのクリスマスプレゼントだろうが。」
 「うん…。」

日頃は地球のやや裏っ側にあたるカナダで、
アーチェリーの修行、もとえ、留学中のエースが、
珍しくバイトをしたんでと、
去年のクリスマスプレゼントに送ってくれた贈り物。
冬場は寒い土地ならではの、そりゃあ暖かいカナダ産の逸品であり、
色や柄もあか抜けていて、
ルフィ本人も気に入って使っていた代物だっただけに。
こう見えて、失くしたご本人も
かなりがところドキドキしているようであり。

 「とはいえ、こうまで何にもないところで、
  わざわざ外すってタイミングもなかろうにな。」

買い物していてだとか、
友達とふざけ合っていた弾みでというならまだ判るが、
こちらの住宅街へ入って来るのは彼一人。
駅までは一緒の顔触れも、そこで三々五々散り散りになるらしく。
風に撒かれてすべり落ちたんかなぁ、でもだったら、
にぎやかな柄だから、すぐにも落ちてんのが見えて来そうなもんだけどと。
舗道から風で飛ばされてないか、
通りに向かって車庫のあるお家の庭先なんかもさりげなく見やりつつ、
ほてほてとゆっくり歩んでいた二人の視野を、

  さささっ、と

不意を突くよに、そりゃあ素早く駆け抜けた影があり。
人影こそないけれど、よくよく耳を澄ましてみれば、
どこかのお宅で見ているものか、
バラエティ番組の効果音だろう複数の笑い声も聞こえて来るし。
向こうの通りからのそれか、スクーターが走る響きもする。
のどかであっけらかんといいお天気の下、
乾いたアスファルトの通りを たかたかたかと、
それは軽快に右から左、
正確に言や、こっちの歩道から飛び出してって、
向かい側のお家の脇の隙間に飛び込むように駆けてったのは、

 「…ネコだ。」
 「しかも、誰かさんの襟巻きを咥えてたよな。」

端っこを咥えてたなら長々と引きずっただろうが、
上手いこと真ん中辺りを咥えており。
まるで騎馬武将が幟をはためかせて
あっと言う間に駆け抜けたような姿じゃああったが。
それでも加速していたから宙に躍っていただけで、

 「あのまま路地や隙間を引っ張り回されたなら、
  どっかで引っ掛けてずたぼろにされるか。」
 「あやや…。」
 「それに猫の身も危ういぞ。」

自分だけなら擦り抜けられる茂みとか、
一緒くたになって絡まったら、自力では抜けられんかも、と。
物騒な例えばを言う割に、
動き出しもしないで突っ立ったままのお暢気な破邪さんへ、

 「何だよ、それ。だったら追っかけにゃ危ないじゃんか。」

マフラーだって取り返さにゃと、
こちらさんはGパンにスニーカーという足元も軽快に、
足踏みでの助走に入ってたそのまま、駆け出しかかったルフィ坊。
そんな彼の、ジャンパー越しでも小ぶりな肩を、
それはたやすく捕まえると、あっさり引き留めたゾロだったのは。

 「まあ、待ちな。」

そちらさんも、今日は暖かいのでと
スムースジャージに目の詰んだパーカータイプのカーディガンと
ボトムはワークパンツというざっくりした格好だった破邪さんの、
真っ直ぐ見やった先には、

  にゃおん。

左右の長さを大きく互い違いにさせて、
淡いスモークトーンながら、
虹色にも見えなかないほど そりゃあカラフルな襟巻きを、
小さい顎が埋まるほどぐるぐると、そのお首へと巻いた幼子が立っており。
浅い色合いのフリースの上下は、
まだ二月という しかも戸外では、ともすりゃ寒そうないで立ちだったが。
今日の暖かな日和の下では、
軽やかな金の髪の柔らかそうな撥ね具合といい、
ふわふかな白い頬へと滲む、甘い笑顔の愛らしさといい。
その輪郭ごと何ともやさしく暖かそうに毛ぶる、
天使のような存在にしか見えずで。
それに、こっちの二人にしてみれば、
単なる小さな坊やではなく、

 「…キュウゾウか?」
 「にゃうみぃvv」

掛けたお声への素直な応じ、
いかにも まだまだ年端のゆかぬ仔猫の、甘い甘い鳴き声で。
そーだよと応じてくれた小さな坊や。
車の往来なんてなかったけれど、それでも一応は左右を確認してから、
たったかたと通りを渡って間近までを駆け寄れば、
大人しく待っていた小さな坊やが、
そりゃあ嬉しそうに目許を細め、
こちらへ身を擦り寄せつつ、にゃうみゃ・にぃみぃと懐いてくれて。

 「何だよ、どうした。」

さっき眼前を駆け抜けてったのは、別な猫に見えたのにね。
つか、この坊やも実はその本体は猫ちゃんで、
アメリカ産のメインクーンという毛の長い種の猫なのだけれど。
物怪の姿が見えるルフィには、
不思議とこんな風に人の子に見えてしまう存在なのであり。

 「島田さんと来てるのか?」

飼い主の名を聞けば、ん〜んとかぶりを振る。
とはいえ、ここいらでちょいと迷子になるには無理があるというもの。
だって結構な距離もあるお家の子だから、えっとうっと。
何の理由もなく、一人でひょいっと此処まで来るというのには、
色々と平仄が合わないのでは……と。
直に逢うのは少し久し振りのお友達だから、
嬉しいは嬉しいなんだが、ちょっとばかり腑に落ちないなぁと。
さすがに こちらの坊やが戸惑っておれば、


 《 なに、先程こちらの方面で、
   お前様が襲われているような気配を拾ったらしゅうてな。》


聞き覚えのない そんなお声が挟まって来た。
え…?と意外そうに顔を上げ、
キョロキョロッと慌てて周囲を見回したルフィだったが、
見回せる通りの向こうからとこっちまでの差し渡しのどこにも、
新たな人影なんてのはなかったし、
誰かがやって来た足音も気配もしなかった。
何より、

 「今の声って…?」

すぐ傍らに立っている破邪のお兄さんが平静のお顔でいるのは、
まったくの全然 危険なんかじゃあないからだろうが。
でもね、あのね?

  人が発した肉声ではない、
  不思議な響きだったように思うんだけれど、と。

なあと、あらためて自分の連れのお兄さんを見やった坊や。
そんな彼の真上へ、
少し薄日だった日和が強まったからか、
すぐ傍に建っている家の陰が、
輪郭の鮮明さを増しての濃く変わり。
ルフィの足元へまで伸びて来ていた屋根のラインが

  うにゃりと動いたものだから

ええっと何度も瞬きをし、まさかまさかとお顔を上げれば、
一戸建て瓦葺き屋根の上に、
太陽光発電の蓄電パネルを思わす大きさの何かが。
それは泰然と、その身を伏せるようにしてうずくまっており。

 「え? まさか、さっきの声って…?」

 《 ああ。私だ、和子よ。》

同じ声がし、しかもその大きな毛もじゃが、
尻尾らしいのを、宙空をはたくよに はたりと揺さぶって見せる。
お顔がすっかりと獣のそれなので“表情”は伺えないが、

 「にゃあみゃvv」
 「え? あれがクロ、なのか?」

傍らにいた小さなお友達が、
それはご機嫌さんなお声にて、
自身の新しいお仲間のお名前をご紹介くださったのが届いたもんだから。

 「えええ〜〜〜〜??」

ルフィ坊やの驚きはいかばかりか。
だって、先日メールに添付してもらった写真では、
間違いなく小さな小さな黒猫だったのに。
少なくとも、一緒に写っていたこっちの久蔵の素の姿、
まだ子供なメインクーンちゃんよりも小さい、
赤ちゃんのこぶしほどの仔猫だった筈なのに。
単に日頃見慣れている猫を巨大化させた体型じゃあなくて、
昔話の絵草紙に載ってる挿絵のそれのような、
口元が狼みたいにやや尖って突き出しており、

 「……お狐様みたいだ。」

 《 うむ、この姿ではそちらに似ておるかも知れぬ。》

他を持ち出されても、侮蔑にはならぬのか。
機嫌がよさそうな声音のまま、大きな尻尾をゆらゆら振っていて、
それをくるんとしならせると地上へまで長々と延ばす。
すると、

 「みゃうに、にゃあにぃぁvv」

小さな坊やのキュウゾウちゃんが、
いかにも楽しそうににっこり微笑ってルフィの手を引き、
その尻尾へ乗っかろうと歩み寄る。
え?え?と、いつものやんちゃにはめずらしく、戸惑いを見せたが、

 「背中へ乗っけてやるとサ。」

用心深いはずな破邪のお兄さんまで、後押しするような言い方をし、
にんまり微笑っておいでなあたり、
はは〜んと、コトの次第が既に判っておいでなようで。
こっちの坊やがどこかで落としたマフラーには、
かれの生気が少なからず滲んでいたがため、
物怪の小者が悪戯してどこかへ持ち去ってしまったのだろう。
それを、遠い空の下にて察知したこちらのキュウゾウちゃんが、
はた、お友達が攫われたと勘違いし、
大変だ〜〜っと飛んで来た、のであるらしく。

 “こんな大きなお仲間ができたとはな。”

あの、大妖狩りとしての青年の姿へと戻ったなら、
自身の力だけでも軽々と、
このくらいの距離、ひとっ飛び出来ただろうが。
日輪の支配する昼のうちとあっては、
全力を一気に解放するのは難しい身。
だがだが、どうやら系列が微妙に異なる身のこちらさんなら、
彼の足代わりになってひとっ飛び…も可能であったらしくって。

 「マフラーを取り返してくれたんだ。
  そのお駄賃に、遊んでやっても罰はあたらんだろう。」

 「うんっ!」

天聖世界のお仲間じゃあないけれど、ゾロがいいというなら大丈夫。
そんな順番で納得したものか、
打って変わっての楽しげに、
それは大きい猫の妖異の背中までをよじ登った腕白さん。
つややかでふかふかの手触りは、どんな上等なムートンでも敵うまいと。
うわあうわあと ごろごろ懐いてから、

 「じゃあ、そのままウチまで送ってもらえ。」

探し物も見つかったことだしと、
そちらさんはすっかり安堵して、
じゃあなと手を振る破邪のお兄さんだが。
穏やかで物分かりが善さそうに見せといて、

 《 あれは一応、マフラーを攫った悪戯者を探しておくつもりだな。》

にっかり笑ったお顔の微妙な堅さから、
破邪殿のそんな心胆までもを読み取れた辺り。
こちらさんも実は、奥行きの深い心根をなさっておいでのクロ殿であるようで。
屈託のない無邪気な猫を可愛がりましょうとされた記念日へ
同じように当てはめていい対象なものなやら。
間近な春の気配も色濃い、ほかほかと暖かな陽向の中を、
ふわんと飛び上がった不思議な大猫様の影へと向けて。
日頃よりもたくさん、猫たちの鳴く甘い声がしたご町内であったそうな。






   〜Fine〜  12.02.22.


  *海賊のお部屋は
   ぱぴぃしかり、蒼夏のチョビくんしかり、
   どっちかというと“わんこ”しかいなかったんですが、
   せっかくの猫の日ということで、
   別のお部屋からのお客様に出張していただきました。
   オリキャラみたいなもんだ、
   よく判んなくて ややこしいぞと思われた方には相すみません。

  *それにしても鼻詰まりのせいでダルイったりゃありゃしません。
   花粉症かな、でも喉も痛いし体の節々も軋むし、
   ということで、風邪と判定されてますが。
   このところ、暖かくなりつつあるもんだから、
   布団を蹴っての肩を冷やしてる悪循環でして。
   これだから
   シーズンを少し外した間抜けな風邪ってのは…。(ぶつぶつ)

**ご感想はこちら*めるふぉvv

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