天上の海・掌中の星

    “噂の男…?”


トレーナー姿が多い辺り、
タンガリーシャツやポロシャツ一辺倒じゃあないとはいえ、
下手を打てばお父さんの休日ファッションのお仲間に
なりかねない装いになってしまうのだけれども。
胸元も覆うタイプのデニムや帆布のエプロンを装着し、
ルーズに引き降ろすだらしなさではなくの、
高い位置に座った腰で止めて履くジーンズの着こなしが、
なかなかにカッコいいと評判で。
昼間っからスーパーにお運びなのだって、
今時は“イケダン”とかいうのがむしろカッコいいご時勢。
まま、さほどハイソな都心でもない住宅地じゃあ
まだそこまで認知はされてないかも知れないとしたって、

 「あの大きい手で鷲掴みにした大根の、
  品定めとかしてる姿が、何だか妙にセクシーでvv」
 「そうそう。ハクサイも余裕でひと掴みですもんね♪」

しかも、ぶっきらぼうに見せといて、
実は意外なところで目端が利くというか、
いやそれは基本だからでしょうよという機転が
結構利く人なのも外せない。

 「ほら、○○さんトコの奥さんが、
  ベビーカートごと受け止めてもらった話。」
 「あ・そうだそうだ、それがあったわよねぇ。」
 「何それ、あたし知らないわ。」
 「▽▽マート前の広場の大階段から降りしなに、
  すれ違った学生さんの大きいスポーツバッグが当たって
  カートが転げ落ちかけたのよね。」
 「そうなのよ、乱暴な若い子がいたもんでねぇ。」

若いお母さん、真っ青になって咄嗟にハンドルへ飛びついたものの、
既に落下していたカートに引っ張られ、一緒に転げ落ちそになった。
そこへとたまたま通りかかったゾロさんが、
片手でベビーカートを、片手で奥さんを受け止めると、
元の位置じゃあなく、降りるつもりだった最下段までを
そりゃあ丁寧に降ろしてくれたそうで。

 「そりゃあさ、○○さんは小柄でスリムじゃああったけど。」
 「それでもね、咄嗟にひょいは出来ないわよねぇvv」

頼もしいわねぇ、素敵よねぇと。
大通り沿いのオープンカフェ…ならぬ、
スーパー前の広場に置かれた
イートインもどきのテーブルにて、
おしゃべりの花を咲かせておいでは。
ご町内の若奥様がたのご一同。
保育園やら幼稚園前の小さなお子様を抱えた年頃、
子供を通じて仲良しや顔見知りとなった層のお母様たちで。
お子様の送り迎えやお買い物の時間帯が重なるものだからと、
こうしてお喋りの場を持っちゃあ情報交換なさっておいでは、
いつの時代もそうは変わらぬ。
いやさ、こういう親しみやすい輪こそ、
出来るだけたくさん存続していてほしいなと
思ってやまぬ筆者なのは、まま…今はさておいて。

 「…何だよ、あれ。」
 「何だと言われてもなぁ。」

結構 至近を通り過ぎた二人連れ。
何とか声が届かぬほども離れた辺りで、
小柄な方がやや不満げなお声を立ててみせ、
それへ応じた相方は相方で、困ったように唸っていたりし。
お喋りに夢中だったお母様がたは、
不思議と気づかなかったらしいけれど。
実は実は、その話題のお人、
この若さで、なのに“主夫”業を手際よくこなしておいでの、
ゾロというお兄さんだったりし。
緑というやや珍しい色合いの髪を短く刈っていて、
結構な長身を頼もしいまでの精悍に鍛え上げた身をしつつ、
耳には三連のピアスなんていう、
硬派なんだか軟派なんだか微妙な風貌なさっておいで。
そうそう愛想がいいとも言えずで、
当初は恐持てなお人だなぁなんて警戒されてもいたらしかったが、
何せ同居しているのが
ご町内でも人気者なお元気坊やのルフィくんだったので。
まずは年嵩なお母様がたが、
好奇心半分、ルフィくんに不自由させてない?という心配半分、
何かとお声をかけて下さったのが始まりとなり。
あれで結構子供のあしらいが上手だとか、
子供向けのアニメや番組にも通じてるのよとか、
様々な情報が飛び交った末、
悪い人じゃあないとの指針が定まった途端、

 “人気者なんだよな、これが。”

隠れファンが山ほどいるほどの名物お兄さんになりつつあること、
実はルフィも薄々気づいているもんだから。
一人暮らしのおばあちゃんチの古新聞や粗大ゴミ出しのお手伝いだの、
ご町内のクリーン作戦への加勢だの。
ゾロも行こうとさんざん引っ張り回した張本人のくせに、
“いい男vv”として取り沙汰されるのは、
実は実はあんまり嬉しくない模様。

 「何だよ、俺のせいじゃなかろうが。」
 「そうは言ってねぇっての。」

むむうと膨れているの、隠しもしない坊ちゃんへ、
あくまでも濡れ衣だと言い張る破邪殿だが、

 “疚しいって思ってなきゃあ、
  言い訳なんて出ないもんだがな。”

彼らのはるか頭上の空の上、
おもしろい展開へニヤニヤ笑っておいでの聖封さんなのも相変わらず。
ただでさえ寒々しい季節です。
どうか仲良く、ほこほこと暖かくいて下さいませね。




   〜Fine〜  12.01.25.


  *もはやすっかりと市民権を得ている感のある“主夫”ですが、
   中途半端に都会とも言いがたい住宅街では
   どんな把握だろかと思いまして。
   少なくとも奥様たちからは容認されてる…どころか、
   ルフィが妬いちゃうほど
   人気を博してる主夫さんらしいです。
(笑)

   あ、あと、これは関係ないのですが、
   東京では住宅街には滅多に喫茶店がないってホントですか?
   関西じゃあちょっとした角地にひょこりと、
   喫茶店とかお好み焼き屋とか あるもんなんですがね。

ご感想はこちらvv**めるふぉvv

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