天上の海・掌中の星

   “そういう日だけど、えっとね?”


カレンダーも三月弥生となったれば、
いくら何でもそろそろ、
春の到来がいろんな形で察せられる頃合いで。
記録的な豪雪のみならず、
台風並みの強風による吹雪が大暴れしもした、
それは途轍もない寒波が長々と居座ったことで、
うんざりさせられた身としては。
暖かくなること大歓迎、じゃああったものの、

 「…いきなりGW並みとか、そういうのは思ってなかったよな。」

道が凍って大変とか、
雪が突風に乗って襲って来て、顔が痛かったとか。
この冬は東京でも随分な混乱があったほど、
雪だ氷だに悩まされたっていうのにね。
三月に入ってすぐにも、20度近くまで気温が上がる上がる。
いきなりコートやマフラーが荷物になるよな気温になって、
街角ではソフトクリームがバカ売れし、
うあ、薄いコートってあったかな、何着るもんだっけ?と大慌て。
しかも、それが日替わりで冬の寒さまで後戻りしちゃうもんだから、

 『何か、風邪ひいてった奴が結構いてサ。』

柔道部の練習、このままどんどん集まりが悪くなってったら、
学級閉鎖ならぬ部活閉鎖とかになっちゃうかも知れないと。
ご当人はそういうのに縁がないルフィさん、
もっと大変な風疹の流行も、どこ吹く風でいるようで。

 『当たり前だっ。』

自分が傍についているのだからと、
胸高に雄々しくも腕を組み、
大威張りで言い放った破邪様だったらしいが。
……その台詞はちょっと。(笑)

 かのごとく、春と言ってもまだまだ序の口。
 さすがに名ばかりではなくなりつつあるものの、
 すんなり穏やかにやって来るというワケには行かないようで。




      ◇◇



いきなりですが、春と言えば、日本では年度末。
カレンダーは3月4月を数える中途半端な頃合いに、
なんでまたそんな、ズレ込んじゃっているのかといや、
端的に言うと、昔の暦がそうじゃなかったから、でして。
文明が文明を呼び、そこから新しい文明を生みして、
世界中の遠い国同士でも交流するようになったはいいが、
お互いの使う暦がばらばらでは、
国交だの貿易だのでの約束事も決めにくいため。
じゃあ1つに絞りましょうということで、
イエス様が生まれた日、あるいは“冬至”という
一番 昼が短い日を1年の初めであるとして編纂された“太陽暦”を
多くの国が共通のカレンダーとして使い始めたのですが。
季節の習慣など生活に深く根差してることまでも
大きく変えてしまうのは容易ではなく。
何せ“暦”というのは、
本来、その土地その土地の四季や気候にも絡まり合って成立しているもの。
ですから、杓子定規に“切り替えよ”と言われても、
例えば、種蒔きの時期だからこそのしきたりとか、
雪に覆われる時期だからこその段取りとかには、
そうそう太刀打ち出来っこないというもので。
そこで、そちらはそのままで良いでしょうとしたもんだから、
国交や交易レベルに留まらず、
今や市民レベルで当たり前のそれとして浸透しているカレンダーが、
なのに生活の流れや決算などなどには合っとらんという
不可思議な状況になっちゃってるんですね。


  ……閑話休題(それはさておき)。


社会人の皆様には
“決算期”だったり“納税”だったりするこの時期は、
学生さんには“卒業”だったり“入学”だったり致しまし。
卒業生という節目の年齢にあたる人たちには、
まずは進路への英断や受験へ立ち向かう緊張の正念場であり、
それが一段落したらしたで、今度は惜別の春となるワケで。

 『そか? 出発の春だろう?』

シャンクスもエースも、
だから桜みたいな豪気な花がパッと咲いて、
パッと派手に花吹雪で送ってくれるんだぞって言ってたぞと。
こちらのお宅の、やっぱり豪気な坊っちゃんが
いつの春だか、そんな豪快なお言いようをしておられ。
霊的存在への感応力が高いことと
そういう豪胆さが絶対同居出来ないとまでは言わないが、

 “そっか、
  基本 感受性豊かな子なのに、
  言動の端々がそうは思えぬほど大胆不敵なのは、
  周囲を固めてた環境のせいなんだな。”

おっかない想いも数え切れないほどしただろに、
ひねずへこたれず、こうまでお元気な坊やでいるのは、
そんな親御や兄上の盛り上げようの賜物と思えば、
むしろ大したものなのかも。
無邪気で明るく、冒険好きで。
小さい子への面倒見もよく、人懐っこくて。
今時の子らしくも飽きっぽいように見えるが、
あれでなかなか粘り強くて頑張り屋で……

 「…………。」

 「…お〜い。
  口数減るのは構わんが、玄関前で立ち止まるのはやめな。」

この年齢という見栄えでありながら、
そういや不思議と車の免許を持ってないこと、
時々 怪訝そうに問われては、
サンジさんの暗示で
“そんな不審なぞなかった”ことにしてもらっている、
当家の主夫のお兄さん。
今日はちょこっと遠い大型スーパーの売り出し日だったため、
車は使わぬが、道中のところどころで、
時空移動という術を用いるという“近道技”を繰り出して出掛け。
部活だけの登校から早く帰って来るはずな、
ルフィ坊っちゃんのお昼ご飯に間に合うよう、
帰りもやはり急ぎ足で帰宅したというに。
一体何事へ意識が逸れていたのやら、
門を入って玄関まで2段ほどのステップを上がって…というドア前で、
いきなり立ち止まり、動かなくなってしまったものだから。
大きな背中をじりりと睨んでいた聖封さんが、
30秒ほど待ってから、おもむろにそんなお声を掛けていたりし。
さすがに場合が場合ということもあり、

 「おう、すまんな。」

はっと我に返った破邪さん、
両手へ提げの抱えのした大きなトートバッグを揺すりつつ、
鋭い眼光一閃だけで鍵を開けると、中へと入る。
鍵こそ掛かっていたけれど、それは習慣的なもの。
玄関先にはスニーカーが転がっていて、
坊やはもうご帰宅なのが察せられ。
だがだが、

 「ルフィ?」

なんか変だなと、すぐさま違和感を覚えたらしいゾロなのへこそ、

 「どした?」

こちらさんも、食材がいっぱいの大きめのクラフト紙の袋を
その両腕で抱きかかえたまま、まずはキッチンへ直行しつつ、
サンジが不審そうに訊いたのだけれど。

 「お〜い、ルフィ?」

そちらは日用品担当だったからか、大荷物ごとリビングへ直行し。
それらをどさどさとソファーへ置きつつ、
視線は室内を隈なく見回しておいで。

 「なんだ、どしたよ。」
 「ああ、居ないみたいなんでな。」

気もそぞろに応じ、あちこち見回す彼であり。
大きな窓から気の早い春めきの陽が降りそそぐというに、
誰もいないお部屋は いつになく素っ気ないばかり。

 「二階で昼寝でもしてんじゃねぇのか?」
 「いや、それはねぇと思う。」

家にいるなら、そしてゾロが出掛けてていたのなら、
まずは“お帰り”と飛びついて来るのがセオリー。
出掛けていて不在の家へ戻ると、
なぁんだ居ないのかと、ちょっぴり寂しくなる坊っちゃんなようで。
その分も加算されてのこと、
お留守番の寂しさごと勢いよく飛びついて来るのにな。
そこまで行かずとも、お顔を見にと駆け出して来るのになと。
それが“いつも”なものだからか、
そうでないと違和感を呼ぶのであるらしく。

 「る〜ふぃ?」

しかもしかも。
こちらの破邪さん、気配の感知がちょみっと苦手だ。
自分へと向けられた猛烈な殺気や
ルフィ坊やからのSOSならともかくも、

 “息をひそめられるとお手上げってか?”

何だ情けないと、
微妙に所在無さげな様子で
リビングのあちこちを見回す偉丈夫さんを
こちらは横目で見やりつつ。
冷蔵庫や冷凍庫へ
生鮮食品を手際よく仕舞っていたサンジだったが、

 「お〜い。」
 「……おいおい。」

時折首を伸ばしまでして、あちこち隈なく覗き込むのは判るとして。
リビングとダイニングキッチンとの狭間に置かれてあった、
筒状の屑籠を覗きつつの声掛けへは、
さすがに斜めにコケかけた聖封さん。
高さも直径も30センチくらいという大きさには、
確かに高校生の坊やは隠れ切れなかろう。
いくら何でもと、ボケたことをやらかしたお仲間へ、
蹴ってやろうかとまで呆れつつ、

 「いい機会だから、気配読んで捜し当ててみな。」

宿題だ宿題と、他人事ならではな無責任さで笑いつつ、
同朋へそんな風にけしかけたサンジだったものの、

 「♪♪♪♪〜♪♪ ……?」

乾物を収めている場所、
コンロや水回りやらから離れた位置の釣り戸棚の扉を開けた途端、
鼻歌がもつれそうになったのは。

 一見、そういう置物かと思えたほど
 四肢を丸めてのいかにも自然にそこへと収まっていた、
 ルフィと視線が合ったから。

 「…………。」
 「〜〜〜〜。」

無論、向こうさんも困ったなぁというお顔になっており。
どういう隠れんぼなんだとか、食材を入れるところへ上がるなとか、
いろいろと言いたいことはあったらしいものの、


  「…………、……。」


 無言なまんまの坊やと、一言も交わすことなく。
 そのまま扉を閉め直すところが、
 ウチのサンジさんクォリティ。(こらー)

 『だからさ、
  サンジに渡すマシュマロをどこに置こうかなって。』

先月の聖バレンタインデーでは、
それは美味しいチョコ菓子を作っていただいたので。
他の女の子たちへと配ったのと同じく、
そのお返しを差し上げなけりゃと思い立ち。
サプライズにしたかったんでと、
キッチンのあちこちを候補として見回していたんだそうで。

 『…それであ〜んな狭くて高いところへ
  フツー嵌まるか、お前。』

自分こそ気配に敏感でなけりゃあいけないのに、
十分びっくりしたもんだからか。
金髪の貴公子様、口元をひん曲げて
坊やへ苦情たらたらだったのは、後日のお話でしたけれど。
そういう日に、こういうことしちゃう、
無邪気なお人たちだったらしいです。
いやぁ、春です、春。(…おいこら)






   〜Fine〜  13.03.15.


  *世界番付で 春の花絶景を特集してましたね。
   青森の弘前城、一度は行ってみたいですよね。

   それはさておき、
   何か妙なお話ですいません。
   台所の吊り戸棚って、高いから使い勝手悪くって、
   あんまり使わないものを入れがちで。
   滅多に開けないんです、ウチなんて。
   なので、何が入っているか、覚えている人もいないくらい。
   だからって、
   ルフィさんが入ってたらはなかったですかね、すいません。

   「ウチの吊り戸棚はデカいんだよ、京間仕立てだから。」
   「それは畳や押し入れの間口の話だ。」
   「キュウゾウ〜、サンジが意地悪言うんだよぉ〜。」

   【 にゅう〜、みゃうみゃ。】

   「ほら、そんなしたらいかんぞって。」
   「その前に、仔猫へ助けを求めるな。」(笑)

ご感想はこちら*めるふぉvv

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