天上の海・掌中の星

   “また来年”


クリスマスまでは指折り数えてわくわくするのに、
それが明けたら 何か急に
ばたばたばたって勢いで 年末になだれ込むって気がする。
俺みたいな子供じゃあ、
することも限られてっからそうでもないけど、
大人ともなりゃ時間が幾らあっても足らないそうで。
決算期末の詰めだか〆めだかとか、忘年会とかも大変らしいし、
それが片付いたら今度は家の方の御用が控えてて。
大掃除とか正月の用意とか、
帰省するならその準備もあるだろし、
遠いと列車に乗る苦行もあろうしな。
逆に親戚が集まる家だったら、もてなしの用意や準備が要るそうだし。
そんなの関係ないねと海外に行けば行ったで、
お父さんは色んな手配や通訳やどらーばーまで任されるから、
温かいところでのんびりと骨休めしてんだか
勝手の違う土地で家族サービスの総ざらえをやらされてんだか
どっちだか判らなくなるのだとかで。
国内への居残りは居残りで、
一夜飾りでは縁起が悪いそうなのでと、早めにお飾りを揃えの、
そうそう、おせちの材料や餅や、
三が日の間の食事のための買い出しとか。
初詣でとかで着物を着るなら、
早い目に出しとかなきゃショウノウ臭いしよ。
そうこうする内に大みそかになって、
煮物の匂いとかしてきて、
重箱や雑煮用の椀はどこに仕舞ったっけって騒ぎになって。
そのうち夕方になったら、晩ご飯食べながら紅白観て、
あれあれ?って気がついたら、
年越蕎麦を喰ってるところへ
除夜の鐘とかニューイヤー特番とか始まってて。

 「そうもそんな一息で、年が明けるまでを語りやがんのな。」
 「いや、こんくらい あっと言う間だってことで。」

口から吐き出される息がほやほや白くなるほどの寒気の中を、
二人連れだって歩むは駅前まで。
さほどの遠出じゃあないけれど、それでも会話は弾みまくりで、

 それに、俺も大掃除とか手伝ってるしよ

 当たり前だ、
 大体、一番“大掃除”の必要があるのはお前の部屋だろが、と

緑の髪を短く刈った髪形で、襟足もあらわと来て、
トレーナーの短い襟から出ている首回りが
この急な寒波襲来の中では寒くないものかと、
通りすがりの皆様に
等しく案じるような顔をさせておいでの困った男性が、
連れの坊やへそんな憎まれを言う。

 「こないだも、
  持って帰ったばかりの部活のしおりと連絡先一覧を
  その日のうちに行方不明にしただろうが。」

 「う〜ん、そんなこともあったかなぁ?」

年明けすぐに行われるとかいう
“寒稽古”の集合場所が変わったと、
部長さんからメールでの連絡が来て。
だというに“あれ?それっていつだっけ”と、
そこからしてうっかり忘れ去っていた
困った坊やだったそうで。
そんな身で大掃除を案じるとは
片腹痛いと言いたかったらしいゾロであり。

 「他の場所は日頃から手をつけてるから、
  わざわざ大掃除の必要なんてないからな。」

油汚れとかで一番大変そうなキッチンなんぞ、
清潔にして整頓しておかないと
誰かさんからいちいち難癖つけられるのがうざったい…という順番から、
モデルハウスばりにきちんと片付いてるし。
風呂場やトイレも、庭も玄関回りも、
ルフィが学校に行ってる間は 暇なのと、
把握し切れていないところにはどんな邪気が宿るか判らないのでと、
湿気の多いところは特に入念にチェックを入れるそのついで、
掃除や整理も手掛けるものだから、
今更 慌てて手をつけずともいいくらい、
十分きれいだぞと胸を張る、大きなのっぽの君であり。

 「そっかぁ。
  ゾロって料理だけ行き届いて来たんじゃなかったのか。」

洗濯もアイロンがけも上手になったもんな。
あと、ご近所付き合いも行き届いてるしさと、
指折り数え上げるルフィさんなのへ、

 「おうよ、恐れ入ったか。」

ふふんと鼻高々に笑って見せるゾロも、
出会ったばかり辺りの昔を思えば、結構こなれてきた模様。
冗談モードの口調へトーンを合わせ、
入った入ったとこちらも嬉しそうに笑ったルフィが、
そのまま、トートバッグを提げてない方の腕へはっしとくっつき、

 「じゃあさ、俺が大きくなったら嫁に来てくれな?」

ぬぁんてことを訊いたれば。
何を馬鹿なこと言い出すかと 焦ったり怒ったりもせず、
これまた落ち着いた様子で
ちょいと宙へと視線を投げ、考える振りをして見せてから、

 「う〜ん、稼ぎによるかなぁ。」

 え〜〜? 二つ返事じゃないのかよ?
 甘い甘い、世界がお前中心にばっか回ってると思うな

揚げ足取ったつもりらしいが、
それって…聞きようによっては、
求婚の台詞自体は
受けて立ってるように聞こえかねません、破邪様。(笑)
かように、
昼間ひなかの路上だというに
やや恥ずかしい会話を繰り広げている
立派にバカップルぽいお二人さんでもあって。

 「…まったくだぜ。」

ほりほりと後ろ頭を掻きながら、
そんなお二人の進路沿いに立っていたのが、

 「あ、サンジ。」
 「よお。」

挨拶代わりに片手を挙げた、金髪痩躯の天界関係者。
ゾロとは邪妖封滅に於けるタッグを組んでいる聖封様ではあるが、

 「言っとくが、仲人は御免こうむるからな。」
 「あ、聞いてたな。」

人影がなかったから ああいう話も出来たんだってばと言いたいか、
一応は良識あるよな主張をするところが、
ちょっとはお兄さんになって来たルフィさんかも知れないものの、

 「でも、そっか…仲人さえ立てられりゃあ、
  宣誓くらいは出来るよな。」

やだ具体的な話が見えて来たじゃないのと、
ふわふかな頬を自分の両手で押さえ込む坊ちゃんなのへ、

 「だから、そんな義理はないし、
  何が哀しゅうて男同士の立ち会い人にならにゃならん。」

 「つか、余計なことを吹き込むな。そこの色事師。」

 誰が色事師だ、誰が。
 四六時中女のことしか考えてない、そこのグル眉毛のことだよ、と

なかなか会話がエキサイトして来たイケメン揃いの男衆。
誰に聞かれているか判らんから、とっとと目的地へ向かいたまえ。

 「つか、今日はいよいよの年越しの買い溜めだよな。」

最近では、コンビニやチェーンスーパーなんぞが
“元旦から営業”しているのが 当たり前という風潮になりつつあるが、
実はあれって、
相当な企業力がないと出来ない所業なのですよ、御存知か?
というのも、流通の要にあたる“市場”が、
元旦から3が日にかけてはお休みになるからで、
よって、お正月(とお盆)は、
その日に採れた新鮮な野菜やお魚を
小売店が仕入れることは出来ません。
なので、以前は
“3が日は休業致します”なんてな張り紙が張られている
商店街の風景というのがお正月の風物詩でもあったのだが。
自社工場だの自社農場だのをお持ちの
巨大チェーンスーパーなんぞはそういう事情も関係ないし、
お魚に至っては、
自社倉庫(冷凍設備完備)で大量に保存してらっしゃるので、
やっぱり以下同文と来て。
余裕で365日 通常営業をこなせてしまうので、
年末だから、お正月明けの分も食材を買っておこうという準備は
年々要らなくなりつつあるようですが。

 「ちょっとしたスーパーなら、
  エリアマネージャーがドン引きするほども買い占めてやるぜ。」

 「おう、品定めは任せときな。
  しょむない品しか置いてねぇ店は
  責任者呼んで片っ端からパシリにしてやんぜ。」

こらこら、そこの大人げない大おとな二人。
妙なところで何でまた、そうまで息が合ってますかね。

 「何をワケ判らん茶目っ気だしてるかな、二人がかりで。」

ルフィさんまで怪訝そうな顔になっておりますが、
実をいや、ルフィが知らないところで とある因縁があったようで。

 “あんのサブチーフとかいう青二才がよ、
  売り出し品ですので、若鷄もも肉は お一人様2パックまでだとぉ?”

 “別に安いから買いてぇって行ったんじゃねぇってんだよ、ああ"?”

ほんの数日前という、
クリスマスの買い出しにての一幕らしく、
あいにくとルフィは同座しなかったので顛末をまるきり知らない出来事。
食べ盛りさんを抱えておいでの、
毎回大量に買っていただいてるお得意さんだと知っていた店長が
どひゃあっと慌てて飛んで来たものの、
決まりは決まりと譲らなかった精肉コーナーのサブチーフ殿に、
恨み骨髄でおいでの天界人のお二人らしく。

 「二度と買い物に行けねぇ騒ぎだけは勘弁だからな、二人とも。」

おおお、
ルフィさんが他の誰かへ
こんな言いようをするのを聞ける日が来ようとは。(大笑)
ややもすると目許を眇めているらしいのだが、
大きなドングリ目ではそれもなかなか難しいらしく。

 「ともかく、買い物は任したから。」
 「お? 何だなんだ、あれ買えこれ喰いたいは今回はなしか?」

天界の辣腕コックと、
修行中ながらルフィさんの好みをよく知るシェフとが
今回同様、堂々の揃い踏みをしているという場面であれ、
総菜のコーナーに近づくと、ついつい
揚げたてのコロッケだのメンチカツだのが喰いたいとおねだりしだすわ、
新発売らしきスナック菓子を見つけると味見をしたいと言い出すわ、
小学生かというような他愛ないレベルの我儘を並べるのが常なのに。
売り場にさえ向かわぬと言い出すなんて珍しいと、
グル眉のシェフ殿が小首を傾げるが、

 「俺には俺の大役があるんだ、うん。」

鼻息荒く、うんうんと頷いて、
スカジャンのポッケからその手に取り出したのが、
商店街主催の福引券数枚、だったりし。

 「どうしても欲しい景品があっからな。
  それを引き当ててくっから、
  買い物のほうはよろしくってことだ♪」

今からワクワクが止まらないものか、
にっぱりという満面の笑みにて、
目許を細めの口許ほころばせのする坊ちゃんなのへ、

 「欲しい景品?」

確か、父上の名義の口座カードを自由に使える身で、
無茶はしないがそれでも、
欲しいものなら大概は手に入る子じゃあなかったっけと。
そこまで通じている聖封さんがキョトンとしたが、

 「内緒だ、さらば。」

意味深に“ふっふっふっ”と笑いつつ、
まずはと見えて来たアーケードへ駆けてくルフィさんが、
どれほどのこと、くじ運に恵まれているかもまた有名で。

 『だからさ、今年の特別賞が。』

その道の名人が彫ったという、
百万円は下らない臼と杵のセットだったそうで。
それを当てて、
盛大な餅つき大会を目指しておいでのルフィさんだったようで。

 『何なら天界でもやろうか♪』

天界へ持ち込めるんだろうか、
いやまあ そこは、意志のない物質だから何とかなるんじゃね?と。
そっちの方が盛り上がっちゃったのは のちのお話。
ビールや コシヒカリ10キロも当てたが、
一番の目的、見事落とした運のよさは健在だったかどうかは、
年が明けてからのお楽しみということで。


  今年もお世話になりました。
  皆様がよい年をお迎えになられますように。




     〜Fine〜  13.12.30.


  *春も夏も秋変でしたが、
   冬も何だか妙な始まりようですね。
   新年のご挨拶は諸事情から出来ませんが、
   来年もまた、遊びに来ていただけたら嬉しいですvv
   それでは、またねvv

*めるふぉvv ご感想はこちらへvv

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