天上の海・掌中の星

   “ヒロインなんて ヤなこった”

      *夏休み特別枝番
       だってのに、
       すいませんルフィが出てきませんがご了承くださいませ、
       特にそこの緑頭の破邪さん


戦隊ものの紅一点は、最近ではそれほどでもなくなって来つつあるけれど、
ヒーローものとか、そうじゃなくても敵と戦う構図のあるアニメやドラマって、
必ず、お話の“華”みたいな役どころのヒロインがいるじゃない。
ヒーリングの能力を持ってるとか、主人公が守るべき組織の要だとか、
それなりの理屈づけがどんなにあっても、
お話の終盤で必ず人質に取られたりして、主人公の足枷になってしまう。
本人が可憐なばかりじゃあなくて、
それは高潔な意志でもて、毅然としている場合でも、
それって主人公が必ず助けに来てくれるからじゃないのかな。

 自分は手を挙げないからって非暴力を説いても
 それってあんまり説得力ないぞ、とか。
 もっとはっきり、○○要らねーし、邪魔よ邪魔とか、
 ファンから完全否定されてたヒロインも少なくなくて。

ここまで最強を誇って来たヒーローだから、
最後にして最悪のハンデキャップを乗っけないと
正念場のお話が盛り上がらないじゃないですかという、
制作側のワンパターンに躍らされてるだけなんだろけど。


  それってやっぱ、
  ヒロインさんばかりが気の毒じゃね?





     ◇◇◇



今年の夏は“殺す気か”というほどにとにかく暑い。
バイト先のコンビニも、
家でご飯作る気にもならんという主婦が殺到したりしたら
やっべ忙しんじゃねと危ぶんだけど。
そういう地区でもなかったか、
むしろ若いのが出て来れんくてか、陽のある内はいつもより暇だったほどで。

 「ちゃん、明日の昼シフト代わってもらえないか?」
 「いいっすよ。」

さほど商品も動かなくとも一応はと、
棚のあちこち見て回り、
都指定のゴミ袋が品薄なのを補充していたら。
かがんでた頭上から、大学生のバイト仲間さんがそうと声をかけて来た。

 「なんすか、お出掛けとか?」
 「だったら良いんだけどな。
  つか、ちゃんみたく そんな元気もないんだって。」

何ですかそりゃと言い返しつつ、
エプロンの裾をペンペンと叩きつつ立ち上がれば。
男なのにカチューシャが激イケ(てる)と評判の、ひょろりとした先輩は、

 「ウチ、甥っこが夏休みで遊びに来ててサ。
  毎日ウチんチのちびと声を揃えて“どっか連れてけ”って大騒ぎなんだわ。」

 「ありゃま。」

お盆にはそっちの家へまんまこっちが出向くってのが、
まあ毎年の習わしなんだけど、
この暑さじゃあ、
ウチのおふくろも、そっちんチの親御も疲れ果ててるようなんで。

 「俺も援軍にって駆り出されちまってな。」

 「おお、先輩も子守りっすか。
  ▲▲遊園地に戦隊ヒーローショーとか観に行くんすか?」

ああ、何とかレンジャーなと、あははと笑い、
観に行くかもなぁ、今ってどんなのやってんだろ、
ちゃん知ってっか?と。
妙に沸いたまま会話は続いたもんの、

 “…心配しなくても大丈夫だって。
  先輩はあんたが一番好きなんだからさ。”

だから、
そんなマスコットに宿ってるだけの“念”だってのに
そこまで赤くなって煮えないの、と。
先輩のズボンのポッケから飛び出してた、
携帯ストラップ用のフェルト細工の小さなマスコットへ、
チラ見をしつつ宥めるように囁きかけてやるアタシは、
実は微妙ながら霊感少女だったりするんだな、これが。


  アタシ、って言います、初めまして。







そういうのの自覚というか、
気がついたのが いつだったかは、もう忘れたな。
大声で触れ回ったって良いことはなし、
せいぜい、思わぬ拍子に皆には見えないものが見えてのこと、
ギクッとした弾みからとんでもない言動をしでかさないよう、
それだけを注意して来たってところかな。
そうそういつも何かがまといついては来ないから、
さほどに強い霊気とかあるでなし。
思わぬところからこっち見てた相手に、
なのに随分経ってから気が突くほどのトロさだから、
探査の力も他愛ないみたいだしで。
特に、人の霊体には全くご縁がないから、
これはもう、前世がタヌキとかキツネだったのか、はたまた、

 《 守護霊が獣か、ってか?》

馬鹿言ってんじゃねぇよと、
やや乱暴な物言いをするのは、でもアタシにしか聞こえてなくて。

 「それじゃあ、こっちの粒ガムも一緒にネ。」

カウンターの向こうに立っているのは、
この暑いのに、ジャケットきっちり着こなしてる
どこのモデルさんですか?つうレベルの 弩級のイケメンさんだ。
恐らくはガイジンさんだろう鋭角的な面差しで、
さらさらの金髪に、肌は白くて、
今時にはそれも渋ツールの無精髭が、精悍というよりも妙に色っぽい。
ほら、ジョニデみたいにさvv
線の細い面差しをしているからだろうけど、
体つきもそりゃあ引き締まってての痩躯だけど、
でも、なんかこう、優しそうというより
妙に生気みなぎる人だよなと思っていたらば、

 『そこっ、そういう小者でも油断してんじゃねぇよっ。』

コンビニの裏手で、
届いたばかりの週刊誌の束を、カッターナイフ片手にほどいていたらば、
その束の上へと乗っかってアタシと睨めっこしていた小さい霊体を、
それは素早く ぱっしと横殴りに蹴っ飛ばしたそのお人。
実はアタシなんか比べものにならないほどの能力者であるらしく。

 『害のないのだと思わせといて、
  少しずつ生気を盗むような性の悪いのだっているんだぜ?』

 『…えと、ありがとうございます。』

確かにそういえば、
あれとお喋りした後はお腹が空いたり目眩がしたりしてました。
でも、あのトト○の映画に出て来る
“真っ黒ク○スケ”みたいで可愛かったんで、
ついつい油断してたっすと、素直に頭を下げたれば、

 『いや…こっちこそ女の子へ問答無用は悪かった。』

綺麗な、器用そうな指で、深みのある金の髪をもそもそ掻き回したその人は、
それからも時々、ちょっとした買い物に寄ってくれるようになり。
実はテレパシーも使えるんだぜと、
他の人に聞かれては引かれそうな話題を
そっちで付き合ってくれるようにもなっていて。
初見で霊体を把握してたの見られたくらいだからか、
アタシがそういうの見える才があるってのも
早々と飲み込んでの、でも、
あんまり特別視はしないでいてくれて。

 《 そんでか、朝早くや夕方のシフトは苦手なの。》

 “うん。うっかり見えちゃうとつい会釈しちゃうからさ。”

ほら、今時は色んな家電とかが喋るじゃん。
ピントを合わせて下さいとか、後部ドアが半ドアですとか、
どうかすると冷蔵庫の開けっ放しのピーってブザーにまで
“はいはいちょっと待って”なんて答えちゃう人だから、

 “目鼻があってこっち向いてるようなものが立ってると、
  つい“ちわっす”なんて会釈しちゃうんだな。”

 《 それは直した方がいいな、うん。》

お兄さんが言うには、そういう存在って、
星と同じで昼間だって同じ数だけそこいらにうろうろしてるそうだけど。
太陽のふりまく生気が強すぎるので、
明るいところにまでは出て来れなかったりするんだって。
なので、朝早くとか黄昏どき以降に現れる訳なんだけど、

 《 中には図々しいのとかいるからな、
   ちゃんも自分から近づくのは無しだぜ?》

吸うけどごめんと会釈してから、
今さっき買ったばかりのパッケージから紙巻きを引っ張り出して、
ライターで火を灯した白い横顔が、路地裏の暗がりにぼやんと浮かぶ。
店の中のほうが涼しいに決まってるけど、
ちょっと話があるからと、お兄さんに呼ばれてしまい。
自動販売機の補充に行ってきますって誤魔化して、
ジュースの箱を乗せる台車を取りに向かった裏手に、やっぱりこの人が待っていて。

 《 黙ってるのは偉いと思うよ。
   見える人なの 知ってる人がいないって大変だったろに。》

霊体を蹴っ飛ばせる自分はどうよと思いつつ、
ああでも、

 “でも、確かめようがないもん、相手がどこまで信じてくれてるかとか。”

 《 ?? ああ、それは不安だわな。》

でしょう? お兄さんと こやって思うことをやり取りしてるのだって、
通じるのは強く固めた気持ちだけ。
時々ちょっと休憩って腹筋さすんないと、
聞こえないぞって笑っちゃうんだ、この人。
まあね、
思うことが片っ端から判るってのもそれはそれで問題だろけどさ。

 《 何か言ったか?》

 “あ、ごめん。
  だからサ、思うことが片っ端から判るってのも
  それはそれで問題だろけどって。”

ま、大人になったら聞こえなくなる見えなくなるって言うし、
現に昔はもっと見えてたのが気がつかなくなりつつあるから。
あとちょっと待つしかないかなって思ってる。

 「さあ、どいたどいた。アタシ、仕事中なんで。」
 「おおお。逞しいお姉ちゃんだvv」

倉庫へ回ると、
売れてるコーラやペットボトルのお茶を適当に段ボール箱へがさごそ入れて、
スリムな台車をガラガラ押して戻って来れば、もうお兄さんはいなくって、でも、
フリーペーパーで器用に折ったバラの花が
ちょうど目の高さの雨樋の留め具に挟んであった。
縁が赤いの上手いこと使ってて、
ああこういうの上手そうな手をしてたもんなと、
ちょいと摘まんで制服のエプロンに留めてた名札に差し込む。
大きくないから目立たないだろと、
そのまま自販機の補充をし、店内へと戻ってみれば、
昼下がりの、しかも一番暑い盛りだからか、お客の姿は一人もなくって。
冷房もさ、それほどガンガンとはかけてないから、
ちょっとでも動き回れば汗が滲むんだなこれが。
まま、もう補充は終わったから、ただぼーっと立ってりゃいいんだけど。

 「……。」

不思議なお兄さんに少しずつあれこれ話せるようになったからかな。
何か見えても気づいても、シカトするのが上手になって来た。
こっちから関わりの切っ掛けを作るなってのが基本だって聞いたし、
知らん顔してたら 大概のは空気みたいに、
はたまた水中の藻みたいに、右から左へ流れて行っちゃうしね。
なので、お店の片隅からぼやんって滲み出して来た陰があったのへ、
でも知らん顔をしていたら、

 「あ、ごめんな。ちゃん。」

明日のシフトを代わってって言って来てた先輩が、店内の冷蔵庫の整理から戻って来た。
こういうコンビニのドリンク用の冷蔵庫ってのは、
店側とバックヤード側からも開くようになってるんで。
お客が来ても声かけられるしってんで
アタシが裏に出てたって平気でそういう補充も出来たらしいんだけど。

 「さっきの派手なお兄ちゃん、ちゃんの知り合い?」
 「いえいえ、お客さんっすよ。」

最近来るようになった人で、名前も知りませんものと、
にゃは〜っと笑ってから、

 「あ、もしかして、ミチルちゃんとか坂下さんから探り入ったんじゃあ?」
 「あはは、あの子ら目ざといもんなぁ。」

ちょっとカッコいいお客さんだと、
いつ来るのか何処から来るのかって、そりゃあすごい情報集めしちゃうもんね。
下手な調査会社より辣腕っすよ、あの子ら、と。
軽口を叩いてたんだけど、

 “やだな、何か……。”

無視するに限るって言われたから、その通りにしてるのに。
捕らえどころのない陰は、どういう案配かレジのほうへと押し寄せて来る。
何だ何だ、新手のコンビニ強盗か?
そういう霊体の世界でもお金が要るよになったのか?
バーコードをスキャンする赤外線バーを持ってた手が、
思わずのこと シッシッて宙を切るよに動いたもんだから、

 「んん? ハエでもいた?」

先輩がこっち見てから辺りを見回す。
あ、しまった、
つか、違うんだよ、その人は何も見えてないんだよと、
踏み出してのついつい先にと、すぐそこまで押し寄せてた陰へ手を伸ばしたところ、

 「……ダメだろうが、知らん顔してないと。」
 「え?」

真横から伸びた手が、こっちの腕を掴んで止める。
残りの手で、前髪を掻き上げて留めてたカチューシャをむしり取れば、
そこから現れたのは……ビジュアル系のミュージシャンみたいな緑色の髪で。


  ……………え? え?


こっちの手を捕まえてる手も、心なしかいつもの先輩のより大きいし、
胸板とか肩幅とか信じられなくらい頼もしい分厚さになってるし。
極めつけはお顔で、目尻が吊り上がり気味の目ヂカラ物凄い目許だし、
ちょっぴり頬が薄いめの、精悍で男臭い何ともおっかない顔になってて。

 《 それって別人て言わんか?》

 「…………あっ。」

途轍もなく絶妙なツッコミと共に、
コンビニ正面の入り口からつかつかと入って来たのが、
さっきまで来ていた あの金髪のお兄さんだ。
居なくなったから帰ったって思ったのにね。
そんな顔をして見やっておれば、

 「ああほら、その紙の花。」
 「え?」

結界にって差しといたのに、今見に行ったらないんだものなと、
やや乾いた苦笑をしつつ、

 「そいであやつが現れちゃったってワケなんだけど。」
 「うわわ、すいませんっ!」

あ、いっけない、落とし物はカウンターへだ。
ポッケに入れちゃいかんのだった。
基本からして忘れてた暑いもんなぁと、頭を掻けば、

 「ま、俺の気持ちが籠もってるのに惹かれたんじゃあしょうがないけど?」
 「引くの間違いだろ。」

間髪入れぬツッコミへ、
何だこのクソまりも野郎がよっ表へ出ろや!と、
初めて見るおっかないお顔になったお兄さんであり。

 「……ま、それもともかく。////////」

取り乱したのを恥じてから、
パチンと指を鳴らすと、そこからふわっとあふれ出した金の光が
カウンターの中を蝶々みたいに舞い飛んで、光の蚊帳みたいのを作り出す。

 「ここから出ちゃあいけないよ? ちゃん。」

え? あ、はい。
というやり取りが終わらぬうちにも、ジジジッていう何か感電したような音がして、
何だ何だと振り返れば、
さっきから気持ち悪いのが気になってた陰が光と接触し、
そこからバチバチィッていう火花が散ってる。

 「あれは、言ってみりゃマイナスの気の塊で、
  あ、マイナスイオンじゃないからね。」

 「…はい。」

手っ取り早く言えば、
ちゃんにも見えてた霊体のアメーバタイプってトコだろか。
どんな特別変異だか、結構な大きさのに育っちゃってるんで、

 「もしかしたら、人を取り込むかもしれない恐れがあるんでね。」

真っ昼間の住宅街に出るなんて、どんだけ生気の濃い奴か。
じわじわ中和してたらいつ人目につくか、
いやさ人を攫って吸い込むかも知れないのでと、

 「強制収用に来たってワケ。」
 「御託並べてねぇで、結界の振幅シンクロ教えろよ。」

先輩、に化けてたらしいもう一人のお兄さんも、
金髪のお兄さんのお仲間らしく。
でもって、あれって日本刀なんじゃあ?
そんなの使うって、封印のおまじないとかするの?と。
まだちょっとのんびり構えていたらば、

 「ちゃん、俺が肩に手ぇ置いて合図したら、息を止めるんだよ?」
 「え? はぃい?」

何ですか、その唐突なパフォーマンス。
え?え? もうやんの? 心の準備が…っ。
とか何とか言いつつも、目の前の光景から目が離せない。
合図と共に息を止めたその瞬間、
それはガッツリと雄々しいほどのいい体躯をした緑頭のお兄さんは、
肩甲骨以上にむきんと出っ張った背中の筋骨をそりゃあ頼もしくたわませて、
体の前で日本刀を両手もちに構えると、

 むんっ、と

強い息みを気合いとし、
何やら真っ向から押し寄せて来るものへ、
裂帛の気合いもろともに、鋭い一太刀を浴びせかける。
思い切りの上段から振り下ろされた切っ先は、
アタシには淡い陰としか見えなんだ何かを
すぱりと見事に真っ二つに切り割ったらしく。
そこから一気に どばどばどば〜〜〜〜〜っと吹き出して来た
タールみたいな黒々と重たげな何かが、どうしてだろかそれはおっかなくって。
立ってられなくなったか、傍にいた金髪のほうのお兄さんに掴まったほど。

 「あ、もういいよ、息しても。
  つか…それって貧血じゃないね。」

ふわって、長い腕を背中まで回してくれて、
やっぱり綺麗なもう片やの手をかざすと、
それこそおまじないみたいに、
ゆっくりと手のひらをこちらへ向けたまま何事か小声で呟いた。
そしたら、そこから柔らかい風が吹いて来て、
息苦しさとか体のだるさとか、次々に薄めてくれた物凄さ。

 「さっきの霊体が弾けたのが、ちょっぴりかかってしまったようだ。
  結界張っても影響が来るとは、
  ……お前、角度考えて太刀を浴びせんかっ!」

 「うっせぇなっ、そっちこそ万全の結界を張っとけ、しみったれっ。」


  おいおい、お仲間だろうに喧嘩はよくないぞ……。








アタシね? 庇われてばっかのヒロインってやなんだ。
大した力もなくて、だから庇われるのはしょうがないけど、
誰かの足かせになっちゃうのってやっぱやだもん。

そっか? それって強いヒーローへのハンデじゃないか。

だったら尚更イヤ。
例えば、土壇場で敵に攫われて、
ヒーローへの抵抗するなっていう条件の楯にでもされたら?
何の役にも立たないどころか、
身内なのに妨害に走る“重し”ですってことでしょうが。

それは言い過ぎじゃね?

だって…。

重し、足かせ、大いに結構だがな。
知らないところで困ってたり危機一髪なんて目に遭ってるよか、
いっそ判りやすく人質になってて、居場所が分かってるほうが楽だと思うぜ?

おいおい、極端な奴め。

………。

確かにこっちも言い過ぎだが、
攫われたのはむしろこっちの力不足なんだって。
か弱い存在が抵抗したって知れてるだろが。
あっさり撃退してたらヒーローの立つ瀬がないぞ?
こわい想いをしてないか、怪我をしてないか、
それをこそ案じてるんだから、人質は是非とも我が身大事を優先しなきゃな。


 《 無事で良かったって。
   それは晴れやかに微笑ってくれたんだろうが、その“ヒーロー様”はよ。》

 「…うん。」


そうだ、アタシも、もしかせずとも先輩も、
記憶を封印されてて忘れてた。
もっとずっと大昔、アタシがまだ小学生だったころに、
今みたいに得体の知れないのが押し寄せて来て。

 やっぱ夏休みで、
 蝉の声がやたらうるさい、近所の神社の境内だったなぁ。

幼なじみだった先輩も、その時はまだ中学生だったけど、
それでも必死で、モップとか振り回してアタシを庇ってくれたんだ。
何か見えない化け物が、
辺りの樹木とか へし折ってはあっちこっちから降りかかって来てて。
そりゃあ凶悪な何かで、こっちは両方普通の人間だもの、全然太刀打ち出来なくて。
でもね、最後には自分の体で覆うようにして庇ってくれて。

 「あん時は遅れてゴメンな。」
 「ううん。手当てしてくれたもん。」

アタシも先輩も、結構深い傷もあったろに、どこも何ともないまま、
二人で木陰のベンチに凭れて、
呑気に昼寝してたよって皆から言われたものだった。

 でもね、多分。その何かはアタシを狙って来たんだと思うの。

 「だってさ、覚えのないホクロつかアザっつか、
  こめかみの奥んトコにいつの間にかあったんですけど。」

 「うん。髪の中だから目立たないかなってことで、
  ちゃんにだけ、魔除けの印を刻ませてもらった。」

何がどうしたのかは、うん、全然記憶にもないんだけれど。
そん時からかな、朧げながらに思ったの、ヒロインなんてヤダって。
ドラマやアニメを見ていても、
庇われるばかりのヒロインには冗談抜きに吐き気がしたし、
こんなことへ関わりたくない、どうしても巻き込まれるって言うんなら、
誰にも守られないキャラでいなきゃって。

 「あの兄ちゃんて、どっか遠い高校に進学してったんだろ?」

 「うん。だから、此処で偶然また会ってもサ、
  前に近所にいた人だけど、
  あんまり仲よくしてなかったみたいな感覚だったな。」

従業員用の控室で、あのとき同様にうたた寝中の先輩は、
そういや、可愛げない口調のアタシを
そんでも妹みたいにいちいち構ってくれている。

 「…覚えてたのかなぁ。」
 「そうかもな。
  ちなみに、今回は何も見てないから兄ちゃんの記憶はいじりません。」
 「えー? じゃあアタシの記憶はやっぱ消されるの?」
 「当然。」

魔除けの印も強化するから覚悟しなさいね。
あ、つか安心しなさいかな?

う…うん、それはありがたいけど。

第一、ジョニデみたいなイケメンが
2日と空けずに来てたこととか、
ちゃんだけ覚えてたら後々ややこしいでしょう。

誰がイケメ…ちょっと待て。

 「あんた、アタシの頭ん中、////////」

 「あ、ごめん、
  緊急避難態勢だったから、
  形になってないのも時々読ませてもらってた…って、
  今日びの女子高生のゲンコは痛いなぁ、おいっ。」

全部じゃねっての、お腹空いたから帰ったらデリバのピザ頼もうとか、
今日は てらそまさんの吹き替えシネマあるじゃんとか、
そんな程度しか…………っ。


  やっぱ こういう時に含羞みだけで終わるのヤだから、
  アタシ、ヒロインにはなりたくないっ





    〜どさくさ・どっとはらい〜  13.08.09.


  *ルフィさんがインターハイにお出掛け中のお務めでした。
   ちょっと判りにくかったかもですが、
   サンジさんが単独で昔に関わりがあった女の子で、
   またぞろ妙な気配に狙われたんで、
   微妙に担当ではない級の相手だけど、
   受け持っての破邪封滅しちゃったようです。
   ゾロは単なる暇つぶしのお付き合いってことで。

   「ルフィもな、ヒロイン属性で庇われてくれりゃあいっそ楽なのに。」
   「………。」
   「聖護翅翼の盾だと?
    どんくらいの効果があるか知らんが絶対に眼ぇ離すなよ?」
   「わぁってるよっ。」

   大変だぁ、天下の最強コンビ振り回すんだもの。(苦笑)

ご感想はこちら*めるふぉvv

**bbs-p.gif


戻る