天上の海・掌中の星

   “坊やの行方?”


さて、参議院選挙も終わって、今日は土用の丑の日で。

 「土曜じゃないぞ、月曜だぞvv」

言うと思っただろ?と、
ドヤ顔ならぬ“にゃはーvv”っという満面の笑みで言い足した、
当家の坊ちゃんだったのへ、

 「土用じゃねぇなら、ウナギは喰わんのだな。」
 「あーっ、喰う喰う喰うっっ! 喰うったら喰うっ!」

朝の忙しい時間帯にちょっかいかけてくんじゃねぇよなんて、
すげなく冷たい物言いで返すでなし。
聞いているのか いないのか“はいはい”とあしらって相手にしないなんてな、
芸のない 通り一遍なこともせず。
しょーもないことをいうんじゃねぇと窘めつつ、
だというのに“ゾロなんて嫌いだ”と拗ねさせないところが、

 「さすが、主夫歴もこうまで長くなれば、
  ツボは ばっちりというところかねぇ。」

 「うっせぇよ

先週の末に終業式があり、
ルフィの通う公立高校も正式な夏休みに突入。
となると、学業が完全にお休み扱いとなるため、
柔道部の合同練習があるのへ出るための登校だけという日々となり、
しかもしかも、
暑さ対策ということから、午前中の早い時間帯のみのそれなので、
六時台に“眠いよお”とまだ頭がぐらんぐらんしているのを何とか送り出すと、
干前には帰って来るというスケジュールになっているらしく。

 「そういうのって何てんだっけ。
  ああそうだ“サマータイム”とか言わねぇか?」

ワイドショーなぞで
“百年に一度”という級の酷暑だと
毎日のように何かしらが話題となっている今年の夏で。
冗談抜きに、熱中症で倒れるお人も多く、
水は喉が渇いたと感じてから飲んでいては遅いとか、
ただ水だけ飲めばいいのじゃなくて、塩や糖分も摂取しないとダメだとか、
一昔前だとお医者レベルだったろう こまやかな対処法を、
今や普通一般の方々も熟知しているほどだから恐るべし。
そんな夏の暑さに負けないよう、精をつけるべく
この日にうなぎを食べるよう推奨したのは平賀源内だそうだが、

 「それって、そもそもはこの時期にさっぱり売れない鰻屋を見かねて、
  今で言う広告、広め屋として宣伝を打ってやったっていうから、
  聖バレンタインデーのチョコレートや、
  節分の恵方巻きといい勝負だよな。」

子供の日の菖蒲湯も冬至のゆず湯も、
一説では風呂屋が古式を調べて
“時期のものですよ、だからお風呂に入りましょうね”と
宣伝を打ったのが定着したっていうから、
日本人てそういうのに乗せられやすいよなぁ。(う〜ん)
しつこいようだが、も一つデータのお話を持ち出すなら、
年々、稚魚の漁獲高が減っているとかで
とうとう絶滅危惧種に入りかけという話も聞くうなぎ。
どうせなら格別に美味しいのが食べたかろと、
わざわざ辣腕シェフ殿をお呼びして、
待ち切れなかろうからと、
お昼ご飯に出して上げようセッティングを構えた主夫殿。

 「ほ〜れ、召し上がれ。」
 「うわぁっ、凄げぇっ!」

ふかふわ肉厚、甘辛のたれも程よく馴染んでの、
表面はこんがり、
だがだが脂の乗りは殺さぬ絶妙の焼き加減という。
どこで何年修行しましたかという絶品の蒲焼きを、
堅すぎず粘り過ぎずという、
こちらも丼ものに打ってつけな銘柄らしき米を
上手に炊いたのの上に載せた 特製うな丼と、
付け合わせは きゅうりの浅漬けにえのきのお吸い物。

 「バランスを考えれば、
  野菜多めのさっぱり煮とか付けたいところだが、
  この年頃の食べ盛りじゃあ、箸が向かねぇだろしな。」

但し、スプーン使うなんて甘えは許さんと構えていたが、
その心配は要らなんだようで、

 「うめぇ〜っっ!」

それは器用に箸だけ使って、
ラーメン用という大きめの丼に盛ったそれ、
都合三杯をペロリと食べた豪傑さんだったりし。
ごっそさ〜んと、
パッチン 手を合わせるお行儀の良さはいいとして、

 「いつも思うが、どこへ入るんだろうな。」
 「しかも、こんだけ喰っても晩飯も同じほど食うからな。」

燃費が悪いにも程があると肩をすくめつつ、
そんな食いしん坊さんが愛しくてたまらぬ証拠、

 「冷たいもんは食い合わせになるらしいからな。
  アイスは一休みしてからだぞ?」

 「おおvv」

食器を下げがてら後片付けへ向かいつつ、
冷凍庫に用意してありますよと婉曲に教えるところが、
破邪様ったら甘い甘いvv(苦笑)
そんなゾロの後を追うように、
キッチンまで追って来た坊ちゃんだったので、

 「こら、後でだ つっただろうが。」

さっきの返事は何だったんだ?と眉を寄せれば、

 「違うって。これ。」

ほれと差し出したのが一枚のプリント。
終業式の日にたいがいの連絡告知プリントは預かったがなと、
父上が不在の間は保護者でもある破邪様、
食器を洗い桶へ浸けると、どらと手に取り見やったものの、

 「進路志望って、お前こりゃ先月提出しただろよ。」
 「うん。」

こちらはリビングに居残って和んでおいでのサンジとチョッパーが、
キッチンから届いたやり取りに顔を見合わせる。

 「しんろしぼうって、何だ? サンジ。」
 「うん。
  将来何になりたいかとか、
  どこの大学へ進学するつもりかとか、
  そういう先行きの希望のこったな。」

そういやここんチの坊やは、あれでも高校三年生なので、
そういう話題も出てしかるべきなのであり。

 “まあ、もう何年目でしょうかって三年生じゃああるけどな。”

ほっといて。(苦笑)
サンジからの簡単明瞭な説明へ、
トナカイの聖獣さんがあれれえ?と小首を傾げる。

 「ルフィは柔道っていうのを続けるんだろ?」
 「おお、お前も聞いてたか。」

だって、今通ってる高校ってトコも、
それを続けたくて選んだっていうじゃないか、と。
さすが、聖なる…とつくだけあって、
そういった細かいところはちゃんと把握出来てるお利口さんだが、

 「そこなんだよな。」

こっちの会話が向こうへも聞こえていたか、
刳り貫きになった戸口から戻って来た坊やが言うには、

 「推薦でN大学へ進学しないかって、顧問の先生が薦めるんだけどもな。
  そこに通うとなると こっから遠いんだな。」
 「…ほほぉ。」

この年頃なのだから、
登校が大変だというのなら、寮に入るとか下宿とか、
いっそワンルームマンションへ独立という手もあろうに、

 「どうあっても自宅から通える範囲にこだわるか?」

紙巻きを唇の端で上下させ、こんの破邪コンがと、
ややこしい揶揄を飛ばす聖封さんへ、

 「何だ? その初聞きのコンパみてぇな新語はよ
 「聞いて判らんセンスのねぇ奴に言っても判るまいよ。」

ンだとごら、表へ出ろ、
やなこったね、この暑いのに…と。
いつもの睨み合いになってる二人は置いとくとして、

 「ルフィ、ゾロと長く居たいからって今の高校も選んだんだろ?」
 「そだぞ?」

照れもせずに すぱりと応じたルフィさん。だがだが、

 「ただな、
  そっちは何だったら
  ゾロも一緒に下宿先へ来てもらうって手があるから
  問題ないんだけどな。」

 「…問題ないんか、それ。」

真っ向から睨み合ってた相手から、かくりと90度ほど顔を横向け、
おいおいとルフィへ物申すしたサンジさんなのも判らんではないけれど、

 「コウシロウさ…黒須先生がな、
  何ならそういう手もありますって、こいつに吹き込みやがったんだよ。」

かつての育ての親で戦の天使長、
今は転生した身でルフィの通うガッコの先生という黒須コウシロウさんが、
彼らの事情もようよう知っている身であればこその
ナイスアドバイスをくれたのだとか。
それを告げつつ、こちらさんも…こっちは逆のほうへお顔を逸らしたゾロであり。
お耳が赤いのへ、おお照れているとチョッパーが感動していると、

 「ただサ、
  大学とか就職先とか、それだけを目安に選んでくとな、
  大人ンなって選手から引退した後、
  いきなり進む先がなくなりかねないぞって気が付いたんだな。」

 「???」

居合わせた3人がとってもとっても珍しくも揃って首を傾げたのへ、
3人がかりでそれはないだろと口許ひん曲げつつ、

 「だから。
  推薦で大学行って、
  その先も推薦つか おいでおいでされて企業に入ったとしてもさ、
  40くらいになって引退したらば、
  次はコーチとかになる道しかないんだよな。」

 「…うん。そうだよな。」

おっ、と。
サンジが目を見張り、ゾロが眉をぐんと寄せたのは、
早くもその先が読めたから。
そして、そんな彼らの思ってたおおよそその通り、

 「俺、指導するのって向いてないからサ。」
 「凄い、ルフィが先のことを考えている。」

チョッパー、それってどういう意味だよと。
膨れて聞き返す坊ちゃんなのへ、

 「なんなら、芸能人になって騒がすってのはどうだ。」

バラエティ番組に出てる元スポーツ選手ってのも結構いるじゃねぇかと、
何が笑えるのか にまにまと口添えするサンジなのへ、

 「そういうのは もっと向いてねぇし。」

真面目に考えてんのによと、口元尖らせるルフィさん。
いや それはそれで、
バラエティやってる皆さんへ失礼かも知れんぞ、君。(う〜ん)

 「そんじゃあ、何がしたいんだ?」

自分で気がついたらしい坊ちゃんへ感に入りつつも、
それを隠して先へと話を進める破邪様なのへ、

 「うん。俺はさ、お巡りさんになろうかと思ってサ。」
 「いやぁ、それは難しくないか?」

 いいか? お巡りさんてのは、
 標準で運転免許を持ってないといかんらしいぞ?

 えー? ホントか?それ。

 「じゃあ、映画とかのスタントマン。」
 「ああいうのはな、ただ暴れてんじゃねぇ、
  演技を打ち合わせて、少しもブレなくその通りに動くんだぞ?」

う〜〜〜と、じゃあなじゃあなと、
坊やにはめずらしく、懸命に考え込んでるお顔を、
向かい合って座ったソファーから、
頬杖の陰でそれは優しく見守る破邪様であり。

 “……おやおやvv”

それが今晩の献立でも、将来計画でも、
ルフィが大事な“彼”にとっては、同じくらいに大事で愛しい話題なようで。
それへこそ気づいて、聖封様がこそりと苦笑し。
何に決まっても全力でフォローするのだろう親ばかな相棒様へ、
やれやれと、こちらもまた和んだ眼差し向けた、
陽盛りから陽炎立ちのぼる酷暑の午後のことでした。




    〜Fine〜  13.07.22.


  *いやはや、毎日暑いですね。
   陽のあるうちは、お洗濯以外、何もする気が起きません。

  *サザエさん現象真っ只中で進路の話です。
   たまには“三年生”なの思い出さんとなぁと思いまして。
   ゾロと離れたくないからと、遠出をいやがってたルフィさんでしたが、
   黒須せんせえが余計な入れ知恵したみたいで、
   主夫さん連れての独立は“独立”と言わんぞ、坊ちゃん。
   昔もそういうネタがよくあったよな。
   進学に合わせて借りた部屋というのが
   4人家族でも広いだろう億ションでメイドさんつき。
   これは独立とは言えんぞというネタで。
   誰に使ったかで世代が判るという
   …いいえ跡部様なら古くはないと思いますが。(笑)

ご感想はこちら*めるふぉvv

**bbs-p.gif


戻る