天上の海・掌中の星

   “夏休みと言えば…”


これこそ地球温暖化の最たる影響か、
ここんところは毎年毎年、
冷夏というより、猛暑な夏が続いてて。
観測史上何番目とかいう記録的な暑さとやらも、
必ずテレビとかで報じられててサ。
でもそういうのって、
何日も続いた真夏日のうちの ほんの数日ほど、
猛暑日がグラフのお山の頂点として飛び出したのを差して
…とかいう格好だったはずだ。

 「何なんだよ、今年はよ〜〜。」

東京とか都心はサ、
大きなビルやら網の目みたいに走る道路がコンクリなせいと、
その大きいビルへの冷房と、
会社や役所、電車の運行その他もろもろ、
もはや無くては生活が立ちゆかぬ大きいコンピュータへの
冷却装置とかいうのを稼働させる関係から、
そういう排熱のせいで人工的にも気温が上がりやすいとかで。
そんなこんなで立て続けに無茶苦茶暑いし、
そうかと思えば、いきなり台風みたいな大雨になるし。

 「こっちはまだマシな方だそうだぞ?」

四国じゃ渇水、大阪では15日間連続猛暑日とやらで、
水道がいつ止まるか判らんわ、
熱中症で倒れる人が後を絶たんわだと、と。
お膝の上あたりへゆったりと広げていた全国紙をわささと畳み、
リビングの低いテーブルにあれこれ広げておいでの当家の坊っちゃんを、
微妙な苦笑交じりに見やったのが。
緑という珍しい色合いの髪をさも快活に短く刈った、
若いにしては存在感があって重厚な男衆、
というのも…実は人ならぬ身の破邪という存在様で。
基本、今いるこの世界の出自ではないせいか、
猛暑も極寒もあんまり堪えぬ存在だが。
そんな自分はともあれ、
庇護しているルフィが快適でないのはよろしくないというのが、
一応は優先されているものだから。

 “今日はどの辺りが涼しいものか…。”

午後はプールに行かせるとして、
もしも雨が降り出したら、図書館…だと居眠りしちまうから不味いな。
植物園で写生と運ぶか、
児童館は小学生と一緒くたになって騒いだ挙句、
汗だくになっちまうから不味いだろうしな、なんて。
過ごしやすい場所をその胸中で算段しておいで。

 “うっせぇなっ 熱中症で倒れたら不味かろうよ。”

なので、特別甘やかしてはないと言いたげだが。
相棒の聖封様いわく、

 『ルフィが あやつへ
  “寒くないか暑くないか”と気遣うくらいだからな。』

何とも感じぬと判っているなら、そんなことはそうそう気にしなかろう。
思いやりが深い子であればあったで、
自分は感じぬことをこまやかに構ってくれるゾロだということへ、
もしかしたら気が咎めてしまうやも知れぬ。
その丁度真ん中あたりの、
子供っぽいがその分 下心なしの純真な気遣いを返せるような、
それは程よい過保護とやら、上手に降らせておいでの破邪殿だそうで。

 「うう〜、何でこんなあるんだよぉ。」

そうは見えずとも、バリバリに過保護されておいでの
当の坊ちゃんはといえば。
英文のプリントアウトを結構な厚さで綴じた冊子やら、
やたら数式が居並ぶ 同上やら、
どうやら学校から出された宿題を前に、むむうと不貞ておいでならしく。

 「せっかくの夏休みなんだし、凄げぇ暑かったんだしサ。
  少しくらいは まけてくれりゃあいいのによ。」

 「そんな商店街のおまけみたいには いかんだろ。」

でもさーでもさーと、ラグへじかに座り込んだまま、
ローテーブルを卓袱台みたいにして机とし、
延ばした腕で向こう側の縁を掴むと
抱え込んでのガタガタと揺すぶる様は、
どこから見たって立派な駄々っ子で。

 「大体、あとは何が間に合っとらんのだ?」
 「ん〜と、数学のプリントと英文の翻訳と古典の感想文。」

どれもこれもテキストと向かい合うしかない難物ばかりで、
机の前に30分も座ってられぬルフィとしては、そこがお気に召さないらしく。

 「小学校の宿題だったらサ、
  日記とか読書感想文とか写生とか、
  自由研究も、俺 得意だったからそうそう困らなかったのになぁ。」

などと。
大人って詰まらないとでも言いたいらしい感慨を零すものの。

 「小学生でもドリルとかあったんじゃねぇのか?」
 「お、何でそんなん知ってんだ、ゾロ?」

知り合ったのは中学の夏なのにね、
ああそれとも、
他の子がヤダヤダって泣いてるの、さんざん見て来たとか?と。
だったら同情されないかとでも思うたか、
ガバリと身を起こしつつ ワクワクと訊けば、

 「ほとんど真っ白なお前の懐かしい取り置きのドリルが、
  納戸や屋根裏のロフトに たんと残ってるだろうが。」

 「あ…っ☆」

そうそう、こちらの家人、坊やの肉親の皆様は、
外洋航路を行く大型船の船長である父上と、
カナダへ留学中の兄上が 只今絶賛不在中であるものの。
この無邪気な次男坊を、それはそれは溺愛しておいでなので。
初めての靴っくや、初めて齧った絵本に始まり、
これまでの全学年でいただいて来た通知表は言うに及ばず、
学校で描いた絵に工作にと何から何までお取りおき状態になっており。
そのまま後輩へ使えと渡せるくらいの手つかずさのものは、
果たして取ってある意味があるんだろうかと、
馴染みもなければ全くの門外漢であるゾロでさえ首を傾げたそうで。

 「ま、大人の苦しみとやらも たんと味わっておくんだな。」
 「ふにゃぁあ〜。」

プリントの上へ へたりと突っ伏す坊やじゃあるが、
これでも、
この時期に手をつけてないのはなんて数え始めただけマシな方。

  だってね、あのねvv

確かにそれはそれは暑い夏だったけれど、
体力はともかく回復力が凄まじい、元気の塊な筈の子供でさえ、
お出掛けイヤイヤと尻込みする子も多かった酷暑の夏だったというに、

 インターハイから戻ってすぐに、
 海に行って、スイカ割して、かき氷も食べたし。
 花火大会にも行って、
 縁日で綿飴にとうきびにイカ焼き食べて、ラムネも飲んだし。
 キャンプにも行って、ハンモックで昼寝して、
 バーベキュー食べたし、空一杯の星も見たし、テントで寝たし。
 ご町内の子供会の肝試しにも、お化けの役でお手伝いして、
 夜中までキャーキャーはしゃいだし。
 ご町内といや盆踊りも楽しくて、
 浴衣も着たし、甚兵衛っていうのも着たし。
 プールはしょっちゅう行ったし、
 その狭間には、天世界にもご招待されて遊びに行った。
 あと、もっと狭間だったけど、面倒なのが飛び出して来たのと鉢合わせて、
 ゾロやサンジが、
 時々はキュウゾウも割り込んで(おおお)
 大暴れしたのを見守ったりもして。

 「うん。何か凄い充実してたもんな、今年も♪」

さすがにすることも尽きたので、宿題でもやるかという順番で、
机の上で埃をかぶってた冊子や何や、
広げる気になった坊ちゃんだったらしく。


  ―― これも“リア充”って言っていいのかねぇ?(う〜ん)


つか、最後のは何だ、最後のは と、
あの猫の剣豪が いつ来てたんだと、
それへといきり立つ破邪様の、微妙に大人げないところこそ、

 “おお、やっとゾロらしいじゃんvv”

なんて 思われてるとも知らないで。(笑)
それはそれはお互い様な、
もとえ、それはにぎやかだったらしい夏も
どうやら終盤へと差しかかっているようで。
どうかお元気なまま、
やはり忙しいだろう秋を お迎えくださいますように。


  残暑 お見舞い申し上げます。





    〜どさくさ・どっとはらい〜  13.08.22.


  *今年は、富士山の世界遺産登録の影響か、
   山登りする人も増えたそうで。
   暑い砂浜より富士山の地下洞窟の方が
   確かに涼しかったことでしょうね。
   それにしても、
   こちら様は相変わらずにお元気な夏休みだったみたいで。
   おばさんたら体力なくて、フォロー出来てなくってすいません。(苦笑)
   女子高生とかOLだと
   女子会とかケーキバイキングとかも入るんでしょうね、イベントに。
   夏のお疲れ、どうか秋に引きずらないようにね。

ご感想はこちら*めるふぉvv

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