天上の海・掌中の星

    “節分は日曜”


こちらのみならず別のお部屋でも
あれこれと毎年ご説明しておりますので、
起源じゃ何じゃは省略しますが、
今年の節分は2月3日、恵方は南々東だそうです。

 そう、今年の節分は日曜日。

どっかのお部屋の過激な坊やは
“チッ”とか思っているかもですね。
いやいや、
自分もガッコが休みだから
好都合だという方向でにんまりしているかも?
勿論、お兄さんたちの練習は
休みにはならないと思われますので、
存分に暴れてやっていいと思います。

 ……て、そうじゃなくって。




     ◇◇



 「なあなあ、ゾロ。
  あの“恵方巻き”っての、関西から来たんだってな。」

朝一番の朝食として、
ご飯担当のお兄さんの大きな手で握られたお結びを6つと、
具が一杯はいってたけんちん汁
(ゆうべのみそ汁に具を追加)も3杯平らげた豪傑が、
まだまだ余裕ということか食べ物のお話を振ってくる。
食器を片付け、洗濯機はまだ当分は止まらぬとあって、
自分もリビングへと移動して来た、
家庭的なお仕事を極めて手際よくこなすが、
緑髪を短めに刈ったその風貌は至って雄々しいお兄さんが
“何の話だ”と坊やを見やれば。
ソファーに片足上げてという行儀の悪い座り方のまま、
新聞の間に挟まれていたチラシの中から、
近隣のデパートの
月末売り出し特集というのに見入っていたルフィだったらしく。

 「物産展か?」
 「違う。節分特集。」

大判の1枚チラシながら、
地下食品売り場とは別なのか、
色とりどりの写真が山ほど掲載されてある。
ふ〜んとのぞき込んだそのまま、
まず最初にこぼれた感慨は、

 「今頃だと
  バレンタインのチョコレート特集じゃねぇの?」
 「おおお、ゾロがそれ持ち出すのって意外。」
 「今更 何を言ってやがるかな。」

 毎年律義にも、
 サンジに手伝わせてチョコ菓子作ってたりしやがるくせに。

 あれはあれは、
 いつもすまねぇって意味からだなっ。//////

 そういう主旨なら勤労感謝の日ってのがあろうよ。

 いーじゃんか、つか…そっちっていつだっけ?

 んん? 九月じゃなかったか?

 「11月23日だぞ、お二人さん。」

 「お、サンジ。」
 「あ、サンジだ。」

ちなみに、今日はまだ平日の木曜で、
ルフィ坊ちゃんも
まだ受験学年ではないので(…そういうことで)
平常運転の授業がある身だったはず。
それが証拠に制服姿で、
手元には外出用のマフラーやらコートの用意もある模様。

 「というワケで、ガッコはまだ良いのか?」

ト書に便乗という ちょこっとズボラな訊きようをした
相変わらずの洒落者で、
バーガンディのスーツを小粋にまとった、
天聖界の天才美丈夫シェフ殿だったれど。
お元気坊やは特に慌てもせぬまんま、

 「まあ、まだちょこっと余裕だけどな。」

にひゃっと微笑う天真爛漫さよ。
一方、そうは行かないらしかったのが、

 「ホントかぁ?」

現在の主夫代理、緑頭のお兄さんが、
そのフレーズへすかさずの“待った”をかけており。

 「お前、いつも一旦出てってから駆け足で戻ってくるだろが。」
 「いつもじゃねぇもん。1週間に3回有るか無しかだもん。」
 「5割以上なら十分“いつも”だ。」

忘れ物したこと思い出せてるだけでも偉いじゃん、
きっちり確認しとれば戻って来んでも済むだろが…と。
仲が善さげだからこそと十分匂わせるタイプの
兄弟ゲンカもどきが始まって、

 “気がついてねぇのかな、こいつら。”

だって、反発心 丸だしな諍いだったら、
少なくともお膝に抱えられたまんまという態勢なのへ、
どっちかが嫌がっての、
追い出すなり飛び出すなりするだろうにねぇと。
涼やかな青玻璃の双眸をやや眇め、
呆れたそのまま、彼らが眺めていたらしいチラシを手にする。

 「…おや、のり巻きのシーズンなんだな。」
 「そうそう。それってサ、サンジ…。」

大した諍いではなかった証拠のその2、ということか。
あっさりと罵り合いの鉾を収めたルフィさん、

 「なんか色んな店が、
  ゴーカなのとか美味しそうなのとか揃えてっけど。」

なんてのか、厄よけ?
そういう食べもんだったらサ、
決まりごととかあるんじゃねぇの?

 「関西の方のメルトモのおばちゃんのご近所じゃあ、
  なんのなんの、
  エビチリを芯にしたのとか、
  ヒレカツとレタスを巻いたのとか、
  ご飯がチャーハンで具は鷄の唐揚げとか、
  なんかもう何でも有りのが一杯出回ってんだって。」

あ、説明してたら
口が“のり巻き食べたい仕様”になってきたぞなんて、
余計なおまけ付きの力説だったのへ、

 「ほれ。」

今から丸かぶりもなかろうと
きちんと切り分けてあるのり巻きが、
3分かからず皿に乗って出てくるから不思議。

 「あ、具はキュウリとカニカマと卵焼きだ。」
 「贅沢言わない。」

いや、凄いですって、それ。(ウチにも来て)
無論のこと、
ルフィも足りないという意味合いで言ったんじゃあなかったし、

 「だからさ、
  確か、7つの具をノリでひとまとめにして
  のり巻きにすっから縁起が良いとか
  言ってなかったかなぁって。」
 「そういや、訊いたことがあったなぁ。」

ご飯も酢飯だ、サンジ手際良いなぁと
坊ちゃんの、あくまでも罪のないつぶやきに、

 「〜〜〜〜。」

片やのお兄さんがこそりと闘志を燃やしたのは
此処だけの内緒だが。(笑)

 「まあ、それ言ったら、
  クリスマスの式次第とか、
  そうそう、バレンタインデーのチョコレートにしたって、
  どこまで正式かで弾かれたら、
  残れないもんも多々あるんだろうしな。」

そもそものり巻きを食う風習自体も、
ここいらには無かったんだし、

 「いちいち正当じゃなくてもいいんじゃね?」

ましてや、今の日本人が皆して農業やってる訳じゃなし。
季節の変わり目だぞってのを
意識するのに意味があるんだろうから。

 「美味しいもので腹膨らまして
  “しやわせ〜vv”で構わないんじゃね?」
 「そっか。うん、俺もそれが好きvv」

天聖界の料理人様からてきぱきと導き出された答えが、
坊ちゃんにはよほどのことお気に召したのか。
お顔をぱあっと輝かせて笑うと、何度も何度も頷いて見せ、

 「ルフィ、ガッコ遅れるぞ。」
 「あ、うん。行ってくる。」

あわわと焦ったせいでだろ、
いつもなら
玄関先で“行ってきます”を
も一度言うのがすっ飛ばされたほど。

 「…だったからって、こっちを睨むな。」

大人げねぇなと、再び目元を眇めたサンジさんだが、
破邪様が表情を顰めたのはさすがに“それへ”ではなくて、

 「…緊急か?」
 「まあな。」

彼らの本業は、
実は隣り合っているが構成の異なる次元へと
何らかの事情や突発現象からはみ出した存在を、
押し戻すか滅殺するか、
どっちにしたって力づくになろう“処理”を担当する能力者。
しかもしかも、最も強力で、
だからこそ非常事態に召喚される級の腕自慢ゆえ、

 「忙しい頃合いだろうと思って、
  多重結界で出現時間を押さえて来たが、」

 「それでも、もう間近だな。」

サンジは封印担当、
しかも、何なら時間さえ操作できるほど。
それでも、瞬時の完全封印は無理だろうということで、
滅殺担当のゾロを呼ぶこととなり、
その際、相手に自分を追わせた
…というところが省略されていたということは、

 「瞬殺対象か?」
 「ああ。毒素をばらまいてやがるんでな。」

異世界へ現れた拍子、
自身の構成要素が“此処”に不適合だったその余波で
変化した結果だろうと、

 「んナミすゎんが断定して下さってな。」
 「判った。」

いつもと変わらぬリビングで、
普段通りのドタバタを見送ってから、さてと。
座り込んでたソファーから
ひょいと立ち上がったトレーナー姿の青年が。
宙のどこかから呼び出した日本刀を手にした途端、
威容をまとった偉丈夫へとその印象を塗り替える。
すぐさま喧嘩腰になる相手だが、
その実力はちゃんと認めておればこそ、

 「飛ばすぞ。」
 「ああ。」

気配で察した相手への、
様子見も遠慮も要らぬとの指示を丸のみにし、
ぐんっと、地を蹴ったそのまま
亜空間へと身を飛ばした破邪殿であり。

 「…ああ、待てって。」

彼が向かったその軌跡も封じねば、
例えではなくの“目にも止まらぬ”一閃が繰り出されれば、
それで発生した毒素の残滓がこっちへも飛びかねぬ。
そんな非常事態を背負って来たと
匂わせもしなかったポーカーフェイスの君だが、

 「…ったくよ。」

今度は打って変わっての苦笑交じり、
しょうがねぇなと口元ほころばせ、
後を追うよに、彼もまた
リビングかかそのまま、宙へと姿を消したのでありました。






   〜Fine〜  13.01.31.


  *仲が良いからって言うんじゃないけれど、
   つか、むしろ相性とか最低なほどに仲悪いのに、
   そこは超一級同士ならではで、
   いざという時は信頼もあってのこと、
   言葉の少ない“ツーカー”が通る仲ってカッコいいですよね。


  *勿論のこと、ルフィさんには知らされずで、
   坊やの周辺は至ってお呑気な日常のまんまです。

   「久蔵も豆まきすんのか?」

   【 みゃ?】
   【 にゅう、みゃvv】

   「そか、クロの方が物知りなんだな。」

   【 にゃう…。】
   【 みゃあにゃ。】

   「こらこら、いじけんじゃねぇって。
    クロはたまたま知ってただけじゃんか。」

   【 みゃうにぃ。】
   【 みゅい?】
   【 みゃう。】

   「ほらみろ。だから機嫌直せよな。」

   【 にゃうみゃvv】
   【 みゅうにゃvv】

   七郎次さん、落ち着け!(笑)

ご感想はこちら*めるふぉvv

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