天上の海・掌中の星

   “木枯らしの楽しみ方。”


夏の凄まじい暑さだったのが影響してか、
秋になってもいつまでも暑いまま。
いつになったら紅葉が赤くなるんだろうかというほどに、
いつまでもいつまでも夏日が続き。
そうかと思えばゲリラ豪雨が炸裂するわ、
途轍もない勢力の台風が幾つも来るわ。
それがやっとこ収まって、やれやれやっと秋かと思や、
ほんの何日かで木枯らし吹くよな寒さが罷り越し、

 「今年のは とんでもなくせっかちな冬だよな。」

急ぎ過ぎて、一月ごろの気温になってやんのと、
吹き付ける冷ややかな風のせいで
ふわふかな頬を真っ赤にして家路を辿っておいでなのは 誰あろう。
大きな襟元にはボアがたっぷりはみ出した、
少し大きめのブルゾンジャケットを羽織り、
ふっかふかのイヤーマフに、なかなかしゃれた虹色のニットマフラー、
フリースのイージーパンツにハーフブーツといういで立ちの、
モンキー・D・ルフィさんではありませんか。
苦難の期末考査も終えており、
何とか赤点は免れたため、
採点休みの間や冬休みに出て来いという補習は受けずにすんでおり。
柔道部の練習も、採点休みの間は顧問のせんせえが出て来れないので
自主トレを頑張れとの名の下に お休み中。
そうともなれば、
この年頃の子なら バイトに勤しむか、
クリスマスの雰囲気に沸く繁華街にでも出掛けるか。
大いに遊びほうけるのが相場だが、

 そういうのより よっぽど楽しいことがあるものだから

用もないのに街なかなんぞへ出掛けてもなぁと、
ついついの含み笑いに頬が緩む。

 「あ、ゾロ〜っ!」

手首や足首も大きめズボンとコートで隙間なく防御して、
首元にはマフラー巻いてと、言われた通りの完全防備をし。
顔だけは晒すしかないまま、
ポケットへ手を入れ、ちょっぴり肩をいからせて風に立ち向かい、
てくてくと表へ出て来た坊やが目指していたのは…といえば、

 「だあもう、ウチで待ってろって言っただろうがっ

牛・豚・鷄、それぞれ3キロずつと、
紅鮭にサンマに冷凍イカエビ海鮮ミックス、
生サーモンに、マグロの短冊10パックなどなどなど。
配達してもらえない生鮮食品の山を、
肩から提げたぱんぱんのトートバッグのみならず、
雄々しい双腕でも軽々抱え、
帰宅の途についてた頼もしい保護者こと破邪様で。

 「だってさ、待てど暮らせど戻って来ねぇんだもの。」

ぷんぷくぷーと、まろやかな頬をますますと膨らませると、
すすけたアスファルトを蹴って、てことこブーツを弾ませて、
お留守番に飽きて出て来た坊ちゃんが、
Pコートにカーゴパンツという、ざっくりした恰好のお兄さんへ
楽しそうな小走りで駆け寄っている。

 「凄げぇな、買い物。」
 「これを1週間で喰っちまうお前も凄いぞ。」

 あ、1週間では言い過ぎだぞ。
 そうか? 俺りゃあ毎週毎週こういう買い出しをしとるんだがな。

一通り何でもこなせるし、
身元に関する照会云々は暗示でうやむやにして通して。
人の生活圏への紛れ込みようはそれで完璧かと思ったが、
ここが盲点だったというか、車の免許を持っていないゾロなので、
こういう買い出しともなれば、徒歩&自力でという運びになっており。

 「免許がないのを誤魔化せたとしても、
  運転そのものが出来ねぇもんな。」

 「うっせぇよ#」

何か持つぞと手を伸ばすものの、
どれも大物、しかもみっちり重そうなので、
いいから任せなと
苦笑混じりにかぶりを振ったゾロとしては、

 「手を出すと冷えるだろうが。」

つか、お前 手套はどうしたよ、と。
持つよ ほらと、
自分へと延ばされて来たルフィの手が
裸んぼだったことの方が、気になっておいでなようで。
訊かれたルフィはルフィで、

 「…あ、忘れた。」

自分でもその手を見やり、
ありゃと、今の今 気づいたらしいところが何ともはや。
空っぽの両手のひらを自分へ向けて、
ひょこりと小首を傾げている様子は、
まるで
“夢の中では嵌めてたんだが、訝しいなぁ”
とでも言ってるようで、微妙に可笑しい。
そんな間合いへ、

 「…とっ。」

ひゅんと背後から吹いて来たのが、勢いのある風で。
柔道部のホープゆえ、本人まではさすがに押されなんだが、
イヤーマフの上へ ややかぶさっていた、
まとまりの悪い黒髪が、ばさばさばさっとなぶられ、
その先が頬を叩くのがくすぐったくて、

 「ひゃぁぁあぁ〜〜っ。」

半分くらいは面白がってのこと、
身を縮めながら“うひゃあ”という声を上げたれば、

 「ほらよ。」

前に立ってた影がずいと近寄り、
ばふりと腹辺りへ受け止めてくれて。

 「誰も見てねぇか?」
 「え? ………あ、うん。誰もいない。」

間近になったお兄さんの声に、一瞬意味が判らなかったものの、
あ・そかそかとすぐさま通じるところは慣れたもの。
ブロック塀が続く一本道は、接している家からなら望める位置だが、
そこは…ゾロが気配を消す咒を呟いたので、
わざわざ窓から外を見やる気を起こすよな人はいなくなっており。

 「じゃあ、まずはこれを、と。」

腕に抱えていた大きな袋をもう少し抱え上げ、宙空へと消し去る。
10キロの米袋ほどはあったのが2つ、ほいほいと消え、
彼らより一足先に、お家のキッチンへと到着している次界移動をやってのけ。

 「俺らも…は、無理なんか?」
 「出来なかねぇが。」

言いながら、トートバッグも先にお帰りと飛ばしてしまい、
電柱にしがみつく子熊よろしく、
両手を回してぎゅうと抱きつき、
そこへ頬をくっつけたままという恰好で、
懐ろからこっちを見上げて来るルフィを見やったゾロは、

 「そんな急いで帰りたいのか?」
 「う?」

両手も肩も空いたゾロ。
長い腕を降ろして来ると、
見上げるカッコで起こしていたルフィの頭を
大きな手で もしゃりと撫でて、

 「せっかく出て来たんだ、神社を回って帰らねぇか?」

この風でイチョウがとうとう散り終えちまうかも知れんから、
それを見ての遠回りをしての、西からって回り道。

 「今時分だったら、
  石焼き芋のトラックが神社わきの公園に来てるしな。」

 「焼き芋!」

あ、もしかしてゲンさんのだろ、
あすこのは“ホクホク系”じゃなくて
“ねっとり甘甘系”なんだよな…と、
早くもお芋の甘味を思ってのこと
うっとりと陶酔の表情になっておいでの坊ちゃんなので、

 「じゃあ決まりだな。」
 「おおっ!」

手套ないからその代わりということか。
一緒に並んで歩き出すついで、
長くて堅い腕へ、自分の腕を巻き付けて
ゾロのPコートのポッケへ手を突っ込み、
暖を取るルフィだったりし。
またもや ぴゅぴゅうと風が吹いたが、
もう平気だもんねと、にんまり笑い、
うりうりうりと、脾腹辺りへの頬擦り攻撃を仕掛ける、
もとえ、甘える坊ちゃんだったのでありました。




    〜Fine〜  13.12.18.


  *そうなんですよね、
   ゾロさんもサンジさんも、運転免許だけは取れません。
   まま、職務質問や検問にさえ引っ掛からなけりゃあということで、
   無免許運転をし続ける手もありますが。
   (よい子は真似しないでね?)
   ゾロさんの場合、運転自体もこなせないんじゃなかろうか。

    「何なら、俺が来年
     頑張って取ってもいいんだけどもな。」

    【 みゃんにぃ・みぃ?】

    「お、言ったな 久蔵。
     これでも俺、運動神経は…。」

    【 にぃみゃん、ぐるる。】

    「うー。まあ何だ、
     テスト受けるのは考えてなかったけどな。」

   おいおい おいおい。
(苦笑)

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