天上の海・掌中の星

   “笹の葉さらさら”


年に一度、七月七日の晩にだけ、
天の川にかかるカササギの橋の上で逢うことが叶う恋人たちのお話は、
それこそ幼稚園の年中行事にも組み入れられての、

 さあさ
 皆で短冊にお願いごとを書いて笹に飾りましょうね、なんて

可愛らしいお祭りのように広められているけれど。

 「あれって、ホントは“習い事を上達させます”っていう、
  頑張るぞ・おーってのを書くのが正しいんだってな。」

期末考査も先週末で終え、
今日からしばしの試験休みだということで、
朝っぱらから ソーダ味のアイスキャンデーを齧りつつ、
なあなあ知ってたかなんて、
それこそ 小さい子供が知ったばかりの蘊蓄を
身近な大人に聞かせたいような声を出すルフィだったのへ、

 「さてなぁ。」

庭先の物干しに、シーツやパジャマ、バスタオル、
坊っちゃんの体操服などなどを干し出して、
掃き出し窓から上がって来たばかりの背の高いお兄さんが。
何とも素っ気ない声を返したのは、

 「俺ゃあ七夕自体、ここんチに来てから覚えたクチだかんな。」

だってのに詳細まで知るはずがないよということならしくて。

 「そうなんだ。」
 「うん。」

妙に真面目な顔になってのやりとりの後、

 「じゃあサじゃあサ、
  豆まきとか七夕とかの日に、
  いろんな人が、普段はしないのにその日だけ神様を信じちゃって、
  なむなむってお願い事とかしたらば、
  その信心に追われた小さい邪妖が町の辻なんかへ集まって、
  大きい固まりになっちゃって、
  退治するお役目は余計な苦労が増えるっていうのは?」

 「……おいこら、エロ眉毛っ。
  ウチの坊主に余計な知恵つけてんじゃねぇぞっ

ルフィ本人へのお返事もあったもんじゃなくの速攻で、
リビングの天井を見上げて いきなり恫喝する方もする方ならば。

 「誰がエロ眉毛だ、くぉら

なんだ、そこに居たから声掛けたのかとルフィが納得しかかったのへ、
いえいえ今さっきまで空の彼方におりましたと、
連れのチョッパーがぜいぜい言いつつ説明してくれて。
これって息が合うのか合わぬのか、
相変わらずの迷コンビが、何だとごらと角を突き合わせてしまっておいで。

 “ウチの坊主ってところは突っ込まなくてもいいのかなぁ。”

だって、ルフィってゾロの子供じゃないのにねぇと。
のど乾いたろ、ジュースあんぞと、
オレンジジュースを氷つきのグラスにそそいでくれたルフィを前に、
そんなこと思ってしまったチョッパーも、
ノリは似たようなものかも知れないが。(おいおい)

 「そんな事細かな俗信情報を、
  何でわざわざ霊感坊主へ吹き込まにゃならんのだ。」

ホントだったら見に行こうと、飛び出してったら問題だろうがと、
やっぱり色々と突っ込みどころの多い切り返しをしたサンジだったのへ、

 「何だ、早とちりだったか。チッ。」
 「チッ。じゃなくて謝れよ、早とちりマン。」

この暑いのに朝から元気なことだと、
にぎやかなのは嬉しいか、
にんにき笑って見物していたルフィだったが、

 「じゃあ、ルフィはサ、そのお話は誰から聞いたんだ?」

七夕の由来から、
急に話が逸れてっての うっちゃって一本というような。
やや強引な流れだったようなと、
話自体はそこから聞いていたらしいチョッパーの言いようであり。

 「人んチの朝の会話を、
  運転中のFMラジオみたいに ながらで聞いてんじゃねぇよ。」
 「じゃあ真剣に聞くんなら構わねぇのかよ。」

まま真剣に構えんでも、
今日の献立の話とか、ルフィが誰とどこへ出掛けるのかくらいしか
話題にゃあ上らんくせによと。
天巌宮の御曹司が自慢げに言い放ったのへは、

 「凄げぇな、サンジ。そこまで分析出来てるほど聞いてたんか?」
 「……いやその、そういう意味じゃあなくてだな。」

他でもない、ルフィ坊っちゃんから突っ込まれていては世話はない。

 「じゃあなくては俺も同感だがな。
  ルフィ、誰からそんな理屈だてを聞いたんだ?」

というのも、それってまるきりのデタラメとも言い切れぬ。
信仰とか精霊の種類・管轄が、
自分たちのそれとは異なる考えようから出た説っぽいものの、
人の念じの偏りが思わぬ歪みを生みかねないという解釈に直せば、
そのまま、彼らの預かる“次界の歪み”に関わる大事へも
関与してくる話だからで。

 「うん。キュウゾウが言ってた。」

にゃはーと無邪気に笑った坊ちゃん曰く、
向こうの大妖狩りの方々が始末の対象にしているのは、
こっちの方々が対象にしている“来訪者”ではなく、
こっちの世界に巣食っていたり、人の心の暗渠から生まれた格好の、
忌まわしき邪妖や妖異なので。
日ごろは不信心な人が、
珍しくも、しかも一斉にお祈りする日は忙しいのだと、


  「大きい久蔵が、昨夜来てそう言ってたぞ?」





 「ちょっと待て、
  大きい久蔵ってのは何だ、俺 訊いてないぞルフィ。」

 「つか、昨夜っつったら、
  馬鹿デカくて クソ面倒だった邪妖が3匹も沸いてだなっ。」

 「えっとえっとぉ、
  オレ、ルフィは寝てるからって留守番は免除されたんだもんっ。」


  えーーーーっとぉ。

  今年の七夕は、
  前倒しの熱帯夜だったこと以外でも、
  結構にぎやかだったらしいです。

  以上。





    〜Fine〜  13.07.08.


  *相変わらず、某処のネコさんとのお付き合いは続いているようで、
   しかもしかも、大きいほうの久蔵さんも
   こっちに足を延ばしたおりは、ルフィのお顔を見てゆくらしいです。
   しっかりしろ、破邪殿。(苦笑)

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