天上の海・掌中の星

    “そういう日だけど、あのね?”


厚めで質のいい、パステルピンクの紙袋は、
表面がロウ掛けしたみたいになっていて、
提げ紐も柔らかそうなのが長いめに掛かってて。
マチが結構あるもんだから、上から中もよく見えて。
パールがかったリボンをかけた真っ赤な包みは、
どっかのお店のじゃあないみたいだから、
中身はまだ判らないながら、
ラッピングはきっと自分でしたんだろうな。
それを提げてるご本人もまた、
そりゃあ可愛らしく装っていて。
目の詰んだシルクのシャツの上へ、
レースっぽい編み目を生かしたニットのインナーを着て、
チュチュみたいにレースを重ねたミニスカート。
そんな可憐な格好なのへ、
ルーズな長さのモヘアのネックウォーマーとそれから、
何故だか…キャメル色のレザー素材の、
ライダーズジャケットなんていうハードなものを羽織っているのは。
甘いばっかじゃ大人しめだから、
色なり型なり意外なものを持って来て“差す”のが、
今時のコーデュネイトの基本なんだそうで。
そこんところは、
サンジからの丁寧な説明聞いてもよく判らなかったんだけれど。

 『あのあの、あのね?』

すべすべの頬とか、つやつやの口許とか、
テレビに出てるアイドルみたいなサラサラの髪の毛とか、
きっと普段からお手入れしてるんだろうな。
プレゼントを差し出す手の、玉子型の爪も きちんと揃ってて。
少し傍になったときに ふわんって匂って来たのは、
桃みたいな、いやいや アンズみたいな甘い匂いだったのも印象的で。

 『もしかして口に合わないかもしれないけど。』

昨夜、頑張って作りました、
よかったら受け取ってくださいって。
最後のほうは随分な早口で、
しかもしかも、何か後ずさり気味になってもいて。
こっちが受け取ったと見るや、真っ赤になったそのまま、
声こそ出てはなかったけれど
見るからに“きゃ〜ん”と叫びつつ、
その場から駆け去ってった女の子は、

 “確か、同じガッコの子じゃああったよな。”

でもでも、同じクラスとか同じ柔道部の子じゃあない。
いくら何でも、そこまで物覚え悪くねぇし、
見覚えってのも、去年の文化祭からなんだよな。
青空カフェの、こっちはウェイターをやってた時に、
お運び同士だったからか、
あちこちで何度も一緒になった子だったような。
真っ赤な包みも、造花のついたリボンもかわいい、
いかにもなプレゼントの包みを、
お行儀悪くもソファーに寝そべったお顔の上で、
矯めつ眇めつ眺めておれば、

 「お、何だ貰ったのか。」
 「何だって何だよ。」

学校の方は、
先週末の連休から早くも試験休みに入っていたけれど。
柔道部の練習があるのでと、午前中だけ登校していたルフィさん。
その帰り際に、数人の女子の人から呼び止められて、
お友達数人から“頑張れ”と後押しされてた女の子により、
どうぞと差し出されたのがこのチョコだったのだけれども。

 「言っとくが、俺って結構 毎年たくさんもらってんだぞ?」
 「だそうだな。」

そのくらいは知ってるサと、
リビングの天井からという ドアではないところから、
ふっと擦り抜けてご来訪遊ばした天聖界の凄腕シェフ殿が、
くすすと笑いつつ応じたものの、

 「でもな、いつもだと、
  お前さんてば、あんまりそうまで関心寄せねぇじゃないか。」

部活の帰りにもらったと、紙袋一杯とか抱えて帰って来はしても、
ロクに見ないまま、これで何か作ってと差し出されるのがセオリーだのにと。
そこを“おや”と感じたのだと、
口許へと手をかぶせ、紙巻きへ火を点けながら、
微に入り細に入りな付け足しをしてくれたサンジであり。

 「う…ん。」

らしくないのは確かに承知だったものか。
真っ直ぐな指摘を…照れ隠しからムキになって否定することもないまま。
逆に“そうなんだよなぁ”と受け入れたルフィさん。

 「告白つきってのは初めてだったなぁって。」

今までのはあのネ、
大半が名前だけとか、どこの誰からなのかも判らないようなのが多かった。
それでも一応は、同じガッコの子とかには、
終業式の日なんかに、ホワイトデーには遅れたけどって、
キャンディとか、お返しもちゃんと渡してたんだけど。

 「そんなお気楽な渡され方だったからサ、
  どっかお互い様で済んでたんだよな。」

ハイあげるね、とか、
だってカッコイイじゃん、ルフィって、とか。
先輩大好き、とか、三年部員からのだからネとか。
そういう気さくなチョコだったから、
こっちも“はいお返し”でよかったけれど。

 「結構頑張って渡してくれたのにサ、
  同じってのは いけなかないかなって。」

そこで、珍しくも“う〜ん”なんて唸ってたらしく。

 “そいで、
  あいつもあいつで、うさぎリンゴを量産しとるのか。”

幾つ剥いたら気が済むものか、
結構大きな盛り鉢に山ほど、
赤い皮でお耳を残したりんごのウサギさんを
キッチンにて剥いておいでの破邪様だったりし。

 「まあ、なんだ。」

紫煙をぷかりと吐いて、
その手の小指で額の端っこ、
さりさりと掻いた聖封さんだったのは。
多少なりとも“考えました”ということか。
それから、

 「結局は、お前の気持ちの問題だろう。」

 断ったら傷つけちゃうんじゃなかろうかなんて、
 お前にしちゃあ考えてるほうだが、
 そんでもそれは自惚れもいいとこだぞ?
 向こうさんだって、
 いわゆる同情でお付き合いしてほしい訳でもなかろうし。

特に難しい相談じゃねぇしとの余裕にて、
それなりの指南を授けて差し上げる。

 「チョコ美味しかったぞで、いいんじゃね?」
 「そっかvv」

そだよな、回りくどいこと言ったところで、
そうそう気持ちが変えられるもんじゃねぇんだし、なんて。
答えは出ており、ただ、
誰かに“それでいいんだよ”と
背中を押してもらいたかっただけならしい坊ちゃん。
うんうんと深々頷くと、
よいせと身を起こして来ての、それからあのね?

 「あんなあんな、
  中にチョコのクリームが入ってる
  チョコケーキってあったじゃん。」

 「ああ。フォンダン・ショコラな。」

 「俺、今日はあれを食べたいぞ。」

そうと言いつつ、
ソファーの足元に置いていた大きめの紙袋、
サンジへ改めて差し出すゲンキンさよ。

 「マリモ野郎には頼まんのか?」
 「う〜ん、ゾロはどっちかって言うと、
  ガッツリ系が得意だからなぁ。」

肉まんとか ちまきは絶品なんだぜと、
それは朗らかに言ってから、

 「それにな、」

こそりと付け足されたのが、

 「手の込んだもの作ってもらうと、
  そんだけ一緒にいられねぇじゃん。////////」

 「あ〜あ〜、そうかい。」

はやばやと甘いのを御馳走さんと、
女子の人からの贈り物がたんと詰まってる紙袋を預かると、
そのまま足早にキッチンへ向かったシェフ殿が、

 「〜〜〜っ
 「…ってぇな、いきなり何しやがんだよっ!」

そのまま どかんと蹴り上げたのが、
そこにいた緑頭のお兄さんのお尻であっても、
今回はしょうがないと思う人、一、二の三で手を挙げて。(笑)





   〜Fine〜  13.02.14.


  *聖バレンタインデーがどういう日かくらいは知ってるけれど。
   だからこそのこと、
   チョコレートは市販のでいいから、その代わり。
   頼もしくて暖かい、男臭い懐ろに掻い込んでもらって、
   こっちのも美味いぞ、アーモンド入ってるから甘くないぞなんて、
   食べさせ合いっこしたりする方が楽しいし…なんて。
   言われた緑頭のお兄さんまで真っ赤っ赤になるような、
   でもでも、全然意識なんてしてない殺し文句を
   ペロッと言っちゃう恐ろしい子だったりします、相変わらずvv


   「久蔵とクロは、チョコは…食えねぇよな?」

   【 みゅうぅ。】
   【 にうみゅ。】

   「だよなぁ。貧血起こすんだったっけ。
    でもな、何もチョコじゃなくてもいいんだぞ?」

   【 みゃ?】

   「好きな人と好きって気持ちを確かめ合う日だから、
    (誓い合う日、とも言われてますが。)
    甘いものは おまけだおまけ。」

   【 みゃみゃっvv】
   【 にゃみゃっvv】

   「そうそう。カステラでもクッキーでも、
    シュークリームでもモンブランでもいいんだぞ?」

   【 みゃお〜んっvv】×2

   口許ぎゅむと押さえたまんま、
   七郎次さんがケーキ屋さんへ駆け出すかもですな。(笑)

ご感想はこちら*めるふぉvv

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