天上の海・掌中の星

   “新学期がやってきた”


雪国の学校では、
雪に閉ざされる時期の冬休みを長くする代わり
夏休みが短めだったりするそうだが、
最近では、平野部の学校でも
夏休みが前倒しで始まるところがあるそうで。

 「エアコン入ってるから暑くないだろって理屈らしいぞ?」
 「エアコン?」

今時の子はみんな“エアコン”って言うんですてね。
昭和の世代は“クーラー”って呼ぶんですよ?
そのココロは、暑い時期だけに使う“冷房機器”だったから。
暖房は コタツや灯油ストーブ、ガスストーブが主流で、
燃費もそっちの方が断然良かったからですね。
それはともかく、

 「教室は涼しいけどサ、登下校の間がなぁ。」

学校が近所にある小学生はまだいいけど、
中学校は学区割りの関係でちょっと遠い子もいるから
そういう子は気の毒だよなぁなんて。
うんうんといやに感慨深げになっている当家の坊っちゃん、
ルフィさんの通う公立高校は
九月の頭からという順当な始まり方をしたようで。

 「それもそれで大変は大変だけどもな。」

今年は月曜始まりだったから、
いきなり まるっと1週間通うのがなぁなんて。
不平をこぼしているものの、

 “友達とワイワイ騒ぐのが好きなくせによ。”

休みだといっても家に居続けるってことが まずはない、
どっか行って駆け回りたい、はしゃぎたいとなるクチで。
学校も、勉強はさておいて(おいおい)
友達の顔を見に行ってるようなものというお祭り少年だったりし。

 「で。今年の文化祭は何すんだ?」

 「うん。
  去年のが好評だったから
  ヒーローもののOVAもどき
  ぱあと2…なんだけどもな。」

だったよね?(こらこら)
激しい格闘だの派手な爆発シーンだのも勿論ないから、
それほど 特撮っぽくなくて。
でもドラマの部分もさほど凝ってはなくて。
強いて言えばスラップスティックなドタバタ喜劇みたいな、
鬼ごっこシーンが主流の古風な作り。
大事な秘密兵器とか、危ない薬品とかを
持ち去られたり奪われそうになったりするのへ、
逃げろや逃げろとなる展開の中、
時折、コミカルな格闘が挟まるという仕立てで、

 「台本がウソップ監修だから鉄板で面白いし、
  取っ組み合ったりパンチし合うところは、
  何遍も何遍も練習したかんな。」

全然当たってないのに 当たってるように見えるような
そんな叩き合いを何度もリハーサルしたと胸を張る坊ちゃんが、
今年もヒーロー役を張ってるそうで。

 「部活の方はいつもの青空カフェで、
  今年の仮装はまだ決まってないけど。」

 「仮装になるってところは決まってるんだな。」

柔道部や剣道部など、
武道場で顔を合わせる機会の多い部が合同で、
グラウンドにテントやテーブルを出し、
ちょっとした軽食を供す食堂もどきを展開するのが
こちらも恒例なのだけれど。
最初は道着姿でのお運びさんというのが
凛々しかったり可愛かったりして受けていたものが、
いつからだろうか、
その年その年に流行しているアニメやドラマやへの
仮装という傾向へと固定したらしく、

 「でも去年なんか
  ふなっしーって提案したのに却下されたんだよな。」

ちょさく権の問題かなぁ。
さてなぁ。つか、お前 著作権くらい漢字で言え…なんて、
お呑気なやりとりを交わしておいでの
夏も秋も溌剌坊やと 家事が得意なお兄さんで。
いやまあ、それだけでもないんですが(苦笑)
どっちも忙しそうな季節と季節の変わり目くらい、
ほっと息をついてのんびりお過ごしよと。
昨夜ざっと降ったらしい小雨の露に濡れてる庭先の梢が、
涼風にあおられては ゆらゆら揺れてた午後でした。






  ● おまけ ●


ところで、二学期初日の学校から早めに帰って来たルフィさんが
おやつのよにしてパクパクと食べていたのが、
リビングのテーブルを埋めるほどに積み上げられてた
山盛りの紅白まんじゅうで。
側生地もふんわりした 丁寧な出来のじょうよ饅頭で、
白いのは白あん、淡い緋色のは小豆のこしあんという別もある凝ったもの。

 「インターハイは八月の頭だったんだけどもな♪」

んまいんまいvvとご機嫌そうに頬張る坊ちゃんなのへ、
緑頭のお兄さんも苦笑が絶えぬ。
こんな逸品をしかも大量に、
遠方から送って来たのは、ルフィさんの母方の祖母様で。

 『なに、高校総体の様子を録画させたDVDを先日観てな。』

一般の人にはなかなか知られていないが、
流通業界では世界に名だたる巨大な総合商社
“アマゾンリリィ”の総括取締役をなさっておいでの
それはそれはお忙しい身であらしゃる 美貌のハンコック様が、
移動中や食事中という僅かな寸暇を削ってまでして、
何日かかかって余す事なく観てくださった
ルフィさんの奮闘ぶりに感動し、
ご褒美じゃと送って来てくださったらしく。

 「何か物凄い伝手を使ったらしいぞ。」

 俺はよく知らんのだが、クソ眉毛が言うには
 今の日本で5本の指に入るだろう
 和菓子の匠の庵房の名前らしいぞ、
 このしおりに印刷されてんの。

 ふ〜ん、そうなんだ。

いや、ありがたいとは思ってるようですが、
そうまで逸品にしなくとも良かったみたいな空気もするよな、
そんなほのぼのしたおやつタイムだったみたいです。





     〜Fine〜  14.09.01.


  *ああ美味しかったと平らげてから、
   特別にアドレスを教えてもらってある先へ
   “ばあちゃん ありがとう、美味しかったぞvv”と
   お礼のメールを打ったれば、

   「…っ。こ、これはっ!」

   いやあぁぁんんっ、と
   嬉し恥ずかし 身もだえなさるわ、
   何日かは唐突に思い出し笑いもなさるわで、

   『ホントはね、電話でお礼したいのにって前にも言われたんだけど。』

   時差の問題も勿論あるけれど、
   これ以上の影響が出るとお仕事に障りが出かねないからなの、と。
   お付きのマーガレットさんが
   苦笑しつつ緑頭の保護者さんへ教えてくれたのは やや後日のことでした。
 

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