天上の海・掌中の星

   “出撃前に…”


 「…っ。」

不意に嗅ぎ取れた異物感へ、
片やの破邪殿が 顎からという勢いでその男臭い顔を上げる。
もう片やの聖封殿は、
逆に…無精髭の残る細い顎を引いたまま、
室内を目線だけでぐるりと見回し、

 「此処じゃあ狭いな。」

ソファーから立ち上がると、
胸の前にて双手を向かい合わせ。
触れさせぬその空隙へ、
何かしらを見えぬまま練り合わせたいものか、
念を込めての見下ろせば、

  ばちばち・ばちぃっ、と

白味の強さが目映い、青白い閃光が沸き立っての溢れだし。
そこから上がった視線が見据えた、リビングの一角、
何もない壁へその両の手のひらを向ければ、
そこへと稲光が躍り込み、
紫の縁取りが妖しい漆黒の空洞が音もなく穿たれる。

 「…あれってホントの穴か?」
 「いんや。亜空間への入り口ってだけだ。」

安心しなと、当家の坊ちゃんへ苦笑を寄越すと、
唇の端へ引っかけていた紙巻きを
ピンと弾いて宙へと消し去り、
大太刀の体裁をした精霊刀を
やはり宙から呼び出しているゾロの大きな背中を
恐れもなく トンと蹴りつける。

 「ああ"?」
 「急ぐぞ。」

肩越しに思い切り眉をしかめて振り返って来た相手へ、
しれっとしたままなお顔で応じたのは、
出来るだけ
“何てことない相手だ”と装いたかったからだが、

 「それは無理がある偽装だぞ、おい。」
 「何でだよ。」

他でもない、
お前の大事なルフィさんが
危ない局面へ一丁咬みして来ねぇようにだなという、
サンジの心遣いも判った上でだろう。
だがだがと、
かぶりを振ったゾロが
顎をしゃくって後ろを見れと指した先では、
ゴルファーやドライバーが使うそれのような、
指先のない革の手套をはめた両手をぱしぃっと打ち合わせ、
やる気満々・勇気りんりんというの、
絵に描いたような態度でおいでのルフィさんが、
後へと続かんというノリでいるようだったりし。
これはいかんと口許歪め、
待ったと手を延べ、通せんぼをして、

 「こらこら、付いてくんじゃねぇぞ。」
 「なんでだよー。」

 正式な資格保持者じゃないからだ。
 前まではそんな堅いこと言わなかったじゃんか。

 「これまでは
  向こうから襲い来たからしょうがなかったからだ。」
 「今日のだって、ウチんチに向こうから来たんじゃんか。」

それとも何か、
ウチの壁にずっと無断で住んでた奴に、
今やっと気がついたんか?
そんなはずがあるかい、と。
喧々諤々、揉めている二人を置き去りにして、
先んじて壁の向こうへ
よっこらせと旅立ってしまった緑頭の破壊神を追い、

 「あ、しまった。」
 「ずるいぞ、ゾロっ。」

どうせ坊や一人を置き去りにも出来ぬ。
彼の保持する無尽蔵な生気に
惹き寄せられた邪妖や妖異なのだろから、
護衛しながらの対処となるのはいつもの事で。
とっとと片付けりゃあいいことだろうにと、
さばさばと立ち向かうだけ、
一番機転が利いているのかも知れぬのが
最も計算から遠い男であるゾロだったりする辺り。

  ……大丈夫か、この皆さん。

 「どういう意味か、とくと聞かせてもらおうじゃねぇか。」
 「おお、筆者といえど、甘くは出来んな。」
 「え?え? もーりんさんが どうかしたんか?」

 とっとと戦え、3人共っ





     〜Fine〜  14.01.16.


  *ずいぶんと手短ですが、
   不意にシーンが浮かんだもんで。
   お正月も小正月も関係なく、
   来るもの拒まず、去るもの作らず、
   行きは良い良い、帰りは怖い…な、
   相変わらずな相性のユニットで
   今年もGO、みたいなお三人さんだということで。
   ちなみに、サンジさんとしては、
   まともなのがゾロという不本意な風評だけは
   どうあっても避けたかったらしいです。

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