天上の海・掌中の星

   “高校生の祭典”


秋でもないのに台風による豪雨が襲い来るのが
さほど珍しいことじゃあなくなった、
ここ最近の夏でもあって。
どうかすると梅雨の頭にもちょっかい出されている辺り、

 温暖化の影響って恐ろしい、と

 「この坊主に言わせてる自然現象だってのが、
  俺りゃ恐ろしいがな。」

 「何だとー。」

失敬だぞ、サンジと、
ちょっとした小料理屋のカウンターに
お通しの見本みたいに煮物が盛られてそうな、
それは重たげで大ぶりの鉢を抱え、
カレー用のスプーンを振り回すルフィさん。
とはいえ、関東では梅雨の間の雨も上がったそのまま、
今度は打って変わっての照りつける陽の下、
すさまじいまでの酷暑が続いており。
そこへ雨や台風の話と来たものだから、

 何だよ、そういう宿題でも出てるのか?
 そうじゃなくても、話題として出るこっただろーが、と

子供扱いされているのが詰まらないのだろう、
ぷぷーと膨れつつ。
そんな口論もどきのお相手が指南したという、
ふっわふわな卵とじの親子丼、スペシャルサイズを、
それは元気よくかっ込んでる最中のルフィさんだったりし。

 「おお、もう平らげそうだな。」

ふふんと、ややご満悦なお顔になったシェフ殿だが、
自分の手になる料理ではなく。
なのに どうして、
こういう楽しげなお顔になったのかといえば、
こういう料理の卵をふわふわにするコツを、

 『教えてくれっつっとるんだ。』
 『それが人にものを頼む態度か、ごら

相変わらずのお約束、
片やは 大太刀こしらえの精霊刀を抜き放ち、
もう片やも 戦闘用の覇気を目一杯のゲインで放出しという、
天界の組成が大揺れしかかった ド派手な喧嘩もどきをこなしてから。
ついでに、やっぱりナミさんとゼフさんから、
罰として
飛び散ってしまった四方柱周りの雲海を整備しろと
こっぴどく叱られもしてから。(笑)
こちら、地上のルフィさんチのキッチンで
サンジ師匠から伝授された、結構器用だったゾロさんが作っており。
いつも大喰らいだからと、丼もの用に使う大鉢へと盛ったのに、
それがもうそろそろ米粒幾つと数えられそな勢いで。

 「そういう話をする割に、
  お前さんは相変わらず元気そうだよな。」

学生さんでも倒れて搬送されているというに、
相変わらずのこの食欲だし、

 「おうよ。今年もインターハイあるしなっ♪」

これだと言い方が妙だが、

 「そうか、今年も代表に選ばれたか。」

今年も というところに厭味の気配を感じるのは
もーりんの僻目(ひがめ)でしょうか。(う〜ん)
当然、そういう小さいことにはこだわらないルフィさんは、
おうよと大きく胸を張りながら、
空っぽになった大鉢を
間合いをようよう見越したらしく、
丁度キッチンからやって来たゾロへと差し出すお元気さ。
はいよとそれと交換された、やっぱり大きな鉢には、
今度は天津飯風のあんかけ卵丼が盛られてあって。

 「おわ、美味そうvv」

いっただきま〜すと、
さっそく勇んでスプーンを入れる健啖家ぶり。
だが、

 「…あれ、ちょっと待て。
  高校総体ってのは、
  確か 今時分にもう開催されてなかったか?」

妙なところで地上通の日本通なサンジさん。
代表に選ばれたという坊ちゃんが、
なのに この日取りで自宅にいるのが不思議だと、
すっかり“身内が選手だ”感覚になっておいでな発言が
うっかりポロリしたのだが、

 「うん。でも、今年は凄げぇ近所だからな。」

例年だと、八月直前に合宿に入りの、
そのまま現地の宿舎へ移動しのと運ぶのだが、

 「今年は関東開催だし、柔道は成田なんだな。」

へへぇと嬉しそうに微笑う坊ちゃんであり、

 「一応 前乗りってのか、
  前日にスポーツセンターに集まって泊まって、
  当日、大きいバスで現地入りすんだけどもな。」

国立や立川や武蔵野や、
都内と言ってもやや遠いところから来る顔触れへの
負担を考えての処置だそうで。
なので、

 「センターへの集合時間に余裕で間に合うんなら、
  当日集合なんだな これがvv」

午前中だけど、ゾロが送ってってくれるってから余裕だと、
冷たい麦茶を運んで来たそのまま、傍らに立つ緑頭のお兄さんへ
“なあ〜?”という相槌の笑顔を向けるところがまたあどけない。
そうかい反則技行使かいと、
こちら、そこまで通じてしまう聖封さんが、
どこまで甘いんだかと、あくまでも破邪さんへの苦笑を零すよな。
そんな深読みにも気づかぬまんま、
無邪気さいっぱいの笑顔を、だが
此処でちょっぴり膨らましたルフィであり。

 「でもなぁ。俺、軽量級はもう飽きたなぁ。」

 「おいおいおい、そういうもんじゃなかろうに。」

こちらも大きめ、ビアジョッキ級のグラスへ、
クラッシュアイスとともに麦茶をそそいだの、
ほれと出してくれたゾロへは、もう既知の話らしくって、

 「だってよ。俺、無差別級ってので出たいのに。」
 「…おや。」

一応、最重量級のクラスが
何処まで重くても可というランクのはずで。
無差別という名が示すのは、
体重をハンデとしない猛者たちの級という意味だろに。
実質は、最重量級か重量級がもう一つというのが常。

 「小っさいから軽量級って物差し、
  何とかなんねぇのかなぁ。」

柔道ってそもそも
そういうのがハンデになんない武道のはずなのによと、
珍しくも理屈で攻めて来る坊ちゃんなのは。
それだけ長いこと、
同じ駄々をあっちからこっちからと
彼なりに工夫して捏ねてた証しかも知れんなと。
サンジがこっそり苦笑する。

 “そりゃあまあ、
  関係筋の大人たちにすりゃあ、
  確実に勝ちを取りたいんだろうな。”

自分たちや、柔道部の部員連中は、
この坊やが この小柄な身で
どんだけ粘り腰の強わものかも重々承知だが、
何とか連盟とか、都代表を統括してなさるような大人たち、
たまにというレベルの接し方しかしてはないよな顔触れには
そうそう信じろと言っても無理な話だろうしな、と。
そっちの事情も判るので、
もっと大おとなの二人が苦笑を濃くしたのも無理はなく。

 まあまあ、たんと食って力をつけな。
 おうっ。

俺も景気づけに何か作ってやるよと、
キッチンへと向かう金髪痩躯のお兄さんを、丼の縁越しに見送れば。

 「…?」

大きな手が とさんと頭へ乗っかって来て。
お?とお顔を上げれば、
頬にくっついてたご飯粒を取ってくれる。

 「まあなんだ、怪我がなければ上等だから。」

健全な場での大暴れ、思い切り健闘して来いなと、
小さく、だが、まろやかに微笑った破邪さんへ、

 「おうっ!」

こちらさんも、お天道様みたいに
殊更嬉しそうに笑ったルフィさんだったそうでございます。






     〜Fine〜  14.08.04.


  *今年は東京や神奈川、千葉、山梨で開催のインターハイですね。
   うちのあちこちの(笑)高校生たちも、
   応援団が喜々として会場まで押しかけそうですし、

    【 みゃうにぃ、まぉvv】

    「え? キュウゾウも応援に来る?
     いやあの、それは無理だろう。」

    【 いえいえ、伺いますよ?】

    「あ…あ、ビックリした。
     七郎次さん、こんにちは。」

    【 凄いですよね、ずっとチャンピオンなんですって?
      ウチの皆で応援に行きますよ。】

    「うあ、嬉しいなぁ♪」

    【 みゃお〜んvv】 ×2
 

ご感想はこちらへvv*めるふぉvv

**bbs-p.gif


戻る