天上の海・掌中の星

   “秋は大忙し”



いつからだろうか、
天体ショーという言葉が
特に天文に関心がない人の口からも聞かれるようになった。
途轍もなくの昔、
ハレー彗星の急接近が話題になって、
それへの解説のみならず、
まつわる歌だのドラマだのまで
世に飛び交ったほどの 一大ブームになったもので。
いやいや、それより古く“ジャコビニ流星群”というのがあってねと
某超人野球マンガを知ってる人なら御存知のがあったり。
何のもっともっと大昔には、
時の帝や朝廷が衰えたり起こったりを暗示するものとして、
凶星とか瑞兆星として古い書物に記されてもいるぞと。
さすが、深夜の空を不意打ちで翔る 異様で壮大な現象だけに、
ずんとずんと昔からも、世を騒がせたものではあったらしいけれど。

 とはいえ、昨今のそれは微妙に違うような気もして。

 「太陽系の惑星が全部一直線に並ぶとか、
  凄いには違いないけど
  言われなきゃ気づきもしなかっただろうことまで、
  最近のニュースでは扱うからなぁ。」

某あんじぇりーな・じょりーさんの
トレジャーハンター映画にも出て来ましたよね、それ。(もう古い?)
いろんな流星群にしてもそうだし、
一際でっかい“スーパームーン”が今年は3回もあったこととか、
皆既月食もそういや普通の時間帯のニュースでやってたよな。

 「惑星イトカワから はやぶさが戻って来たのもチョー凄かったけど、
  今の定着ぶりってのは、それが発端ってこともないもんな。」

赤が基調のタータンチェックの大きな毛布に
頭の先から肩や背中や、
座ってるお尻は言うに及ばず、
そこから伸ばした脚までもという全身を覆う ぐるぐる巻きとなり、
腕白そうな童顔をだけ、
何とか外へ覗かせておいでのルフィ坊やだったのへ、

 「…………。」
 「熱なんかねぇぞ、サンジ。」

つか、風邪気味とかだったら
ゾロが屋根に上げてなんかくれねぇしと。
黙ったままこちらのおでこへ白い手を伏せた、
ダークスーツもバシッと決まった、
金髪痩躯の天界の天才シェフ殿のいかにもな態度へ。
そんな言いようを向けるところが、まだ穏便というか、

 「馬鹿にしてんじゃねぇって ツッコミが返って来ねぇ。」
 「俺はお笑い芸人か。」

今度こそは“いい加減にしなさい”という裏拳でのツッコミが、
ペシッと宙で振られたものだから。
おおお、それでこそと、
今度は自分の胸へホッとしたよに手を伏せる、
天巌宮の貴公子様だったりして。

 「そんな言うお前こそ、
  天文ファンとかじゃあ なかっただろうがよ。」

いつだったか朝も早よから金環食が観測出来た日とか、
陽の高いうちに起こる現象や、
宵の口の七時八時が見ごろだった 先日の月食程度ならともかくも。
このごろでは五時を回るともう暮れてしまうお天道様と、
余程に気が合う性分をしているものか、

 「十時を回れば欠伸が止まらなくなるハズの奴が、
  日付が変わろうかって時間帯に起きてりゃあ、
  俺でなくとも驚くわい。」

しかもしかも、
天文関係の専門的な物言いを滔々と連ねるのだもの、

 「どっかのタヌキが化けてでもいるものかって思ったが、」
 「わあっ、美味そーっ!」

揚げたてのフライドチキン&ポテトの大籠盛りに、
ほかほかのコーンポタージュを保温カップへそそいで持って来たのへ、
さっそく視線で食いついており。

 「熱っちっ、あちあちっ!」

 「完璧に姿をなぞっておきながら こうまで詰めが甘いんじゃあ、
  辻褄が合わんから本物だな。」

猫舌なくせに頓着なくパクリと齧りつき、
うあっと慌てて見せる迂闊っぷりは、間違いなくルフィさんだと、
妙な関心をしているシェフ殿で。(笑)

 「言ってやるな、宿題らしいぞ。」
 「おや。」

住宅街では十分“夜更け”という時間帯なので、
そこを案じてか そちらさんも声を低めにしていて。
とはいえ、それにしては、
こんな夜更けの薄暗い中だから、
見ている人もそうそうおるまいという警戒の緩さからだろう、
結構いいガタイなのに、
ふわんと軽々、宙をひとまたぎして屋根の上まで上がって来たのが、
緑頭の破邪殿こと、ルフィ坊やの保護責任者代理のゾロさんであり。

 「ほれ、ココアだ。」
 「うわいvv」

当初はそれだけをお供にしての観測という運びだったのだが、
どういう気まぐれか、
見回りの途中とか言いつつ天世界から降りて来た聖封さんが、
飛び入りで夜食を作ってくださったのであり。

 「宿題?」

夏休みの自由研究にしては日がずれまくりだがと、
怪訝そうに細い眉をしかめたサンジだったのへ。

 「授業日数とやらが足りてないらしくてな。」

保温の利くステンレスマグを抱え込み、
ふうふうと息を吹きかけてる坊やの
まとまりの悪い髪へぽそりと大きな手を置いて、
そういう辺りにはさすがに詳しくなったゾロが言うには、

 「それでなくとも九月は残暑を見越しての半日態勢だったうえ、
  十月後半は国体があって。」

ちなみに今年は長崎でした。
関東ブロック代表選出の大会は八月中にあって、

 「本来、柔道少年が目指すメジャーな冠というと、
  三月の全国柔道選手権大会、
  七月の全鷲旗、八月のインターハイが、
  高校柔道の三大大会らしいんだが。」

此処に来てやっと掴めました、もーりんも。(遅)

 「それだけに出て満足していちゃいけない、
  経験値を上げるべく、
  思いがけない遠隔地の他校とも組み合っといて損は無しとか
  果ては同世代の子たちのレベルを上げるためにとかどうとか。
  こいつ、どこっていう道場所属じゃあないもんだから、
  連盟だか関係者だかのお偉いさんが、
  顧問の方へ やいやい言ってくるんだと。」

本人様はそういうややこしいことにはノータッチながら、
さすがに気が引けたか、
まだお若い顧問の先生が、ほんの先日
保護者のゾロへと説明をしてくれたそうで。

 「何だそりゃ、自分とこの選手大事からの横槍か?」

少しでも疲弊させて潰そうってのか?
自分のものにならぬなら、いっそ殺してしまおうかってクチかよと、
どこのドロドロ昼ドラかという喩えを出す聖封さんだったのへは、

 「そういうんじゃないから困んだよなぁ。」

ご本人が眉を下げての苦笑とやらをして見せて。
それへ、はあと溜息をついたゾロが続けたのが、

 「自分が関係している大学や企業へ引っ張りたいけど、
  それこそ自分のお膝下の
  高校やら道場やらから引っ張ってくる顔触れとは
  肩書のそこんところにポカリと穴が空いてることになる。」

 「そっか、それで少しでも経歴の足しになるよう、
  参加&優勝大会を増やさせたいと。」

どっちにしたって大人の事情、
多少は拒否権もあろうが、それでもまだ子供である以上、
何かと振り回されるしかないことも多かりし…というところならしく。

 “それが悲痛なことに聞こえないところが
  凄いんだろうよな、こいつの場合。”

例えば、そういうお節介だか横槍だかを断り切れない顧問の先生なのへ、
こっちは子供だから余計に、
毅然としてイヤなものはイヤだ…とは言いにくいしぃとなってる身じゃあない。
ご本人も“試合は沢山こなしたい♪”とワクワクしているらしいとか。

 「何たって 一つの大会の中じゃあ
  対戦出来ずに終わっちゃう相手も結構いるしさ。」

わあ、あいつ強いなぁ デカイなぁなんて注目していた相手が、
でも巡り合わせが悪かったか、直接対戦出来なかった例も多々あって。
ご当人にすれば、それが毎度毎度悔やまれてしょうがなかったとか。

 「…で、そんなこんなで忙しいもんだから、
  授業の出席日数が足りないとか、
  定期考査で赤点取ったとかいう教科の補習の代わり、
  こういうレポートを提出しなさいってお達しが来るらしくてな。」

 「ほほぉ。」

ただ、流星群にしてもスーパームーンや月食にしても、
新聞やウェブの記事をかき集めてレポート書いてもいいのだろうに、
実際に見たほうが早いとばかり、
こうして デジカメ片手に毛布にくるまり、
イモムシもどきになりながら、
流星来い来いと待ってる無邪気さよ。
その画像を貼った“観ました、凄げかった”レポートの屈託のなさで、
きっちり及第点を取れるのも、ある意味 人柄なんでしょうねぇとは、
黒須せんせえの苦笑交じりの評だったが、それは後日のお話で。

 「体育祭と国体と中間考査は終わったけど、
  今週末には文化祭もあっし、
  十一月にはマラソン大会もあっしよ。」

秋って毎年こんな忙しかったかなぁと、
そろそろ食べ頃になって来た、
サンジ特製スパイシーチキンをうまうまと堪能しつつ、
困った困ったと微笑っている豪傑さんへ。
破邪さんや聖封さんは言うに及ばず、
精霊界の誰かしら“頑張れ頑張れ”と言いたかったものか、
今宵はやたらと星が降り、新聞までにぎわったそうでございます。




     〜Fine〜  14.10.30.


  *お話の中の事象はすべてフィクションで、
   もーりんの頭の中で起きたことです、悪しからず。(笑)
   でも、今年は“極大”が満月と重なったけど結構見えたそうですよ。

   ………で。

   サッカーの天皇杯、
   1回戦とか始まって、トーナメント表を見ると、
   高校チームが名を連ねてることがあるじゃないですか。
   でも、全国高校選手権と もろに予選日程が重なってないか?とか
   毎年不思議だなぁって思ってたんですよね。
   ただそっちは調べるトコまでの関心はなかったのですが。(こら)
   で、柔道のほうの高校生のスケジュールも
   実はあんまり知らなんだので、
   この際だとググったら、
   そういう“三大大会”があるって初めて知った訳で。
   そっか、秋の国体は
   さほど躍起になって出るもんでもないのか。(こらこら失敬な)
   (何で“この際”なのかは、某バレー漫画の影響だったりします・笑)
 

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