天上の海・掌中の星

   “凶魔降臨、鵺哭く森”



朽ちかけたその廃墟は、どうやら随分と古い王宮の跡地であるらしく、
凝った間取りの跡が そこだけ居残った石組みの基礎部に見受けられ。
かつて此処にあって生き生きと営まれていたのだろう、
国なり街なりの栄華を偲ばせる。
だが 今はといえば、
何かしらが生活している気配なぞ欠片もない、
ただただ乾いて朽ちた“遺跡もどき”でしかなくて。
そこに人々がいたおりは、
美観や融通のため、剪定されていたのだろう
下生えや茂み、立木などなどという緑の群棲が、
今は我が物顔で これでもかと繁茂していて。
落ちた屋根の代わり、天蓋のようになった梢が雨を遮っていたり、
蔓などが這うことで何とか保たれている壁なぞがあるのだから、
順序が逆で皮肉じゃあある。

 「…っ。」

誰もいないはずの地域、区画なのは間違いないのに、
かさりというかすかな物音がして、
漆喰も剥げた石の壁へ凭れていた少年がその肩をひくりと震わせる。

 「何かいるぞ。」
 「ふえぇえぇっ?」

こちらの気配を悟られたくないか、小声で告げたというに、
それを訊いた相棒が、
すぐさま驚いたように素っ頓狂な声を上げたものだから、

  きしゃあぁっっ! 、と

微妙に粘着質な金切り声がやや離れた壁の向こうから聞こえて、
相手も思わぬ存在に当たるこちらの気配に気づいた模様。

 「ありゃま。」

犬や猫といった小動物レベルの声じゃあない。
何より、こっちにも覚えのある威嚇の声だとあって、
ああ、やっぱりアレがいたかと、
確認出来ました的な顔になったのが、
真っ赤なマントを小さな背中へ装備した少年の方ならば、

 「うひゃあ〜〜〜。」

自分の声で気づかせたのかなという怯みもあってだろう、
あわわと口許を押さえた小さな手の先、
愛らしい蹄がややもすると震えておいでの、
小さな小さな直立トナカイさんが、

 「るふぃ〜〜〜。」

よほどに怖いか、早くも逃げ腰。
導師装備の堅苦しい道着が台なしなほどの脅えようを見せており。
そんなまでの危機感に、あわわと緊張しまくりな彼に引き換え、

 「こりゃ 次の一歩でエンカウント(遭遇)だな。」
 「そそそ、そんな悠長な言い方してんなよなっ!」

随分と古ぼけた麦ワラ帽子をひょいと持ち上げ、
その下になっていたまとまりの悪い黒髪をもしゃりと掻き回す手は、
美しいとは言いがたいが、さりとて武骨な大人のそれでもない。
造作や動作が まだまだどこか幼くも大雑把であり、
よほどの怪物がこちらへ気づいてしまったらしい状況下だというに、
その頭へぽそんと再び帽子を乗っけ、
やはり無造作に鼻の頭を押し潰すようにしてごしごし擦るところがまた、
随分と結構な豪傑なようで。

 「恐らくは此処の大ボス、アンシェント・ドラゴンだってのにっ!」
 「でもよぉ。それを倒さにゃ、このエリアはクリア出来ないんだぜ?」

胸倉掴まれているのだが、
体格の差から抱きつかれているだけにしか見えない。
そんなまで勢いよく、
抗議の声を上げるチョッパーさんへ、
やっぱりのほほんとした調子で返事をするルフィさん。

 「ということは、
  ずっとずっとこのエリアに居なきゃなんねぇワケで。」

 「ふえぇえ…っ。」

 「チョッパーとしては、緑が多くて居心地もいいかもしんないが。
  俺としては もちょっと人が多いとこがいいなぁ。」

第一、教会も宿もないから、
全員が倒れないとパーティーが欠けたままで続けにゃならんしと。
何だか物騒な言いようをして、
中世欧州辺りの設定か、
こちらも微妙にコスプレもどきないで立ちの彼が
ワクワクしていることこそ 何とも不安なのだろう、

 「せ、せめてサンジかゾロが居れば、
  大ボスドラゴンでも力押しで倒せただろうに。」

うううと気弱そうにつぶらな瞳で見やった先では、
雑草に埋もれかかった石段の真ん中にそれぞれ、
同じ仲間内だったらしい誰かさんたちが倒れ伏しておいで。
そちらさんたちも、古めかしい導師服だの、
はたまた騎士ぽい装備だのを身にまとっている、
金髪と緑頭の…どうやらお馴染みのお二人らしいのだが、

  ―― 声を掛けたが返事がない。しかばねのようだ。

 「大体よぉ、
  サンジはゾロに先制取られるのが癪だっつって、
  闇雲に飛び出してっては、
  相手からの後攻魔法であっさりやられるし。」

しかも美人魔女に弱いしと、
そういう手合いにやられたか、
お顔に口紅によるキスマークを幾つも押され、
本人は満足そうに倒れておいでの
金髪痩躯の盗賊シェフさんなのへ肩をすくめたルフィさん、

 「ゾロはゾロで、
  剣士ってジョブがないもんだから、
  戦士でも騎士でも
  防具の装備を着ないと防御力ないぞって言ってんのによ。」

 「だよね。」

そんな重くて不格好なの、
ごそごそ着れっかと聞く耳持たないものだから。
中級の鉄の鎧で十分防げるレベルの攻撃でも
あっと言う間にHP削られまくってる爲體(ていたらく)。

 「チョッパーもサー。
  せっかく攻撃の呪文も覚えたのに、使わないんだもんなぁ。」
 「ううう、だってだって…。」

医者から転職した白魔導師さんは、
ヒーリング専門 打撃系という意識が抜けないか。
寄るな触るなとトネリコの杖を振り回し、
相手を殴る攻撃しか出さない効率の悪さであり。

 「……お、こっち来るみたいだぞ。」
 「ヤダよぉ〜〜〜。」

この二人で大ボスとのエンカウントなんて最悪だぁと、
小さな魔導師さん、やっぱり小さな勇者のマントにすがりつき、
これで何回目の勝ち目のない対戦だよと、
真っ青になってたりするのであった。




     ◇◇◇



 「……何で俺はもう倒れてんだ?」
 「だから〜。」

携帯ゲームのRPG。
よくあるタイプので、パーティーの顔触れに好きな名前をつけられたり、
アバターの顔や姿も変えられたりするのでと、
ファンタジーな設定ものだ、
せっかくだからと天界関係のお友達で固めたところが、

 「ゾロがいちいち口を出すからだろうがよ。」

やれ、そんな仰々しい鎧なんざ要らねぇとか、
魔法とやらの防御も要らないとか、我儘言うしよ。

 「せめて持ってるだけでいいからって楯装備とかさしてもサ、
  何をどうやってんだか、いつの間にか勝手に外してるしよ。」

 「う…。」

こういうのの操作とか、出来ないって言ってたくせにサと、
一丁前に斜に構えた視線で責めれば、
さすがに大人げない干渉だというのは判るのか、
さりげなく視線を逸らす破邪様で。

 「そんなして防御力が弱すぎっから、
  サンジと同じでしょむない敵に序盤でやられてんじゃんかよ。」

ちなみに、サンジさんの設定その他は、
同じソフトで遊んでたチョッパーが持ち込んだもので。
そちらさんも、
こちらの破邪さんとあんまり変わらぬ“干渉”をしていたらしいのが
戦いようや装備の端々に伺えますが。(女性は蹴らないとか?・大笑)

 “今度、ゲーム会社の人へメールしなきゃあな。”

リビングのソファーに陣取り、
大型テレビへ接続したゲーム機のリモコンを
カチカチャと慣れた様子で操作しているルフィさん。
クリアな大画面の中では、
このエリアの大ボスと勇者るふぃが
生き残ったチョッパーさんと二人で結構な苦戦を呈しておいで。
そんな対戦を…平素のお顔を繕いながら、
その実、時折大きな手を握ったり閉じたりしていて
ハラハラして見守ってるらしいゾロが可笑しいと、

 “……♪”

吹き出しそうになっては頑張って耐えている坊っちゃんだったりし。
その内心にて思っていたのはといや、

   ―― 根性だけで怪我を治してしまう
     刀以外は装備出来ない、
     剣豪というジョブも設定してください、と

そういうリクエストをしてみよう。
だって、ゾロも満足な戦いようで進めたいもんと、
こっそり思ってた、
今だけはパーティーリーダーの勇者の坊やだったりするのであった。


  平和だ、うん。





     〜Fine〜  14.10.01.


  *急に舞台設定が変なことですいません。
   最近のゲームって、本当に色んなことが出来るらしいので。(笑)
   ゾロさん、どうやら誰かに相談して
   ゲーム機の操作法やゲームソフトの扱いとか多少は覚えたらしいですね。
   サンジさん…ってのは無いとして、
   ウソップか大穴でエースさんとか?(大穴過ぎる?)
   ルフィさんが気に入ってて、
   こうやってリビングでまで遊んでたからでもありましょうが、
   そうまで関心出て来たらしいのなら尚更に、
   ご希望のジョブや装備で出してやりたくなる ルフィさんだったようで。
   どうせなら一緒に
   色んな展開へ“おお〜♪”とか言い合って楽しみたいですもんね。。
 

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