天上の海・掌中の星

   “最強寒波も何のその”


12月から既にずんと寒かったこの冬は、
クリスマスがそうでもなかった割に、
明けると極寒が押し寄せ。
大みそかまではキツかったのがお正月は穏やかでと、
微妙な波になって極寒がやって来るというややこしさであり。
最も寒いと言われる大寒の直前も、
それにしてはの暖かさだったが、
たった1日の間に大きくがくんと気温が下がった恐ろしさ。
それを“最強寒波”と呼んで震え上がった翌週には、
打って変わっての暖かさが訪れて。
あれあれ?
節分や立春が近いとはいえ、この暖かさはなにごと?なんて、
微妙に気が緩んだところへ、そんな足元を掬うよに、

 「昨日とのこの差はナニ?って、
  どこのニュースでもうるさいほどだったもんなぁ。」

前日の節分の日は、
ちょっと動き回ると上着が要らなくなるほどに
ずんと暖かだったから余計に、
東京の都心でさえ、傘が要るだろうほどの雪が舞った立春や
あちこちで氷やツララが見られた翌朝だったのは、
記録的酷暑だった夏と張り合うつもりかと聞きたくなるよな、
何とも変な案配であり。

 「寒い〜〜、ただいま〜〜〜〜。」
 「お、何だ何だ、妙な挨拶だよな。」

玄関からのお声へ、
キッチンにいた主夫殿が“おや?”と感じたのは、
語彙も妙だったし、それを紡いだトーンも微妙だったから。
いつもお元気なルフィさん、
どんなに寒かろと
“たっだいま〜っ”と勢いのある声を出してたはずで。
具合でも悪くなったのかと、
洗い物の手を止め、タオルで手を拭って
出迎えにと向かう所存だったお兄さんだったが、

 「ぱっふ〜んっ♪」
 「わ、こら。元気じゃねぇか。」

振り向くまでもなく、
その大きな背中へ“ぼふ〜ん”と
抱きついている誰か様なのだから世話はない。
手套つきの手が胸元へ回されているのを見下ろし、
コートで着膨れているにもかかわらず、
両方ともが前へと届いているのは
ぎゅうと力いっぱいしがみついてる証しと確かめてから。

 「そんな寒かったのか?」
 「おお。陽が出てんのに冷凍庫みたいだったぞ?」

三年が入試だから、今月は短縮なんだけどもサ、
昼なのにこの寒さってどうよと、
自分のお顔をこちらの背中へ
むいむいと押し付けて来ているルフィさんなのが。

 “恐らくは八つ当たりなんだろうが。”

不平をこぼしている筈なのに、
ゾロには甘えにしか感じられなくてこそばゆい。

 「寄り道はしなかったのか?」
 「したぞ、肉マン2つ食べた。」

でもさあのさ、と
やや言葉を濁らせて。

 「商店街にゾロいねぇんだもんな。」
 「ああ、そういやこんくらいの時間か。」

それを見越してわくわくと帰って来たんだろうに、
駅前の商店街にお兄さんの姿がなかったのが、
ルフィへ寒さを倍化させた原因でもあったのだろう。
小さい子供じゃあるまいにというのも判っているから余計に、
それそのものを言えなくての八つ当たり、と察して、

 「今日はタイムセールがあったんでな。」

背中にくっつき虫させたまま、
ゆっくりとした歩調でキッチンを出てリビングへと移動する。

 「タイムセール?」
 「おお、焼きたてクロワッサンの詰め放題。」

 …それって焼きたての風合いが台なしにならんか?
 なってる奥さんが多かったかな?

大きなソファーの手前で立ち止まると、
やっとこ手をはがすので、そこでゾロだけが“回われ右”をし。
先に座面へと腰を下ろせば、
そのお膝へ膝から乗り上がる呼吸も慣れたもの。
背もたれへやや凭れかかる格好で背中を預けるお兄さんの、
ちょみっと力を抜いた懐ろへ、
大きな枕に寄り添うような感覚でぱふりと抱きつく坊ちゃんであり。

 「おお、頬っぺが冷えてるな。」
 「耳も。」
 「うん。」

言われるまま大きな手でくるんとくるめば、
じかに触れる暖かい感触が心地いいものか。
ごつごつしていて寝心地はよくなかろうに、
お兄さんの胸元に頬を埋めるようにし、
ふにゃんと眸を伏せるのが いとけない仔犬のようで。

 「もー、いつまで寒いんかなぁ。」
 「さてなぁ。今月中はしょうがねえんじゃね?」
 「う〜〜。」

自分の胴の上へ乗っかって来られても、
大した負荷ではないほど小さき坊やだが、

 “どうしてどうして、だよな…。”

天界を引っ繰り返した大騒動の核となった素養を持ち、
また、ご本人も結構な度胸の持ち主だしと来て。
願わくば、大きな騒ぎや厄介ごとが罹り越さにゃあいいのだがと、
自分こそ破天荒なところを長年案じられてた破邪様、
今頃 案じる側に回ってしまい、
こっそり溜息ついてる冬だったそうな。





     〜Fine〜  14.02.06.


  *最強寒波 再びだそうで。
   酷暑もかないませんが、寒いのもイヤよぉ。
   何かするにも防寒態勢整えにゃならないしぃ。(とほほ)

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