天上の海・掌中の星

   “鬼門も いろいろ”


相変わらず、いきなりのこととして
こちらは夏日だ、
何の何のこっちでは真夏日だったぞというほどに、
妙に気温の上がりやすい初夏の列島だったりし。
本来は“クリアランス”といって、
季節の終わりに売れ残ったものを値下げして
在庫一掃、売り捌いていたものだったはずが。
近年ではアウトレットでもない正規品による夏物のバーゲンが
夏が始まる前にあちこちで催されていても
少しも不思議ではない順番になってるくらいだから。
この気象の前倒し、相当なものだと言えるかも。
そういう季節感にまつわるものといや、
日本の学生さんには“制服”という規制もあって。

 「クールビズが五月からなんだから、
  学校の制服もそれへ併せてくれりゃいいのにな。」

分厚いブレザーを着て行かないのは、
さすがに先生方からも容認されているようだけれど。
シャツはあいにくと長袖のままなので、
ぞんざいな腕まくりのまま顔なんぞ洗おうものなら、
ずり落ちて来た袖口、
肘まで浸してびしょびしょにしてしまうのだとか。

 「後は帰るだけとか、
  体操服へ着替える部活があるとかいうならいいけど。
  すぐにも授業なんてなったら
  結構絞っても拭いても 机やノートが濡れるしなぁ。」

何より乾きが悪いから落ち着けぬ。
まま人目があってもそんくらいってもんで、
教室入ってシャツ脱いで、
トレシャツにささって着替えられっけどサと、
そこは男子だけに、
あっけらかんとした対処も取れはするらしいが、

 「六月からが夏だってのは、
  昔の暦や平均気温からの話なんだろうから、
  今時の“地球温暖化”も考慮して、
  夏自体を前倒ししてくんねぇかなぁ。」

くどいようだが、大人たちの“クールビズ”だって、
五月の頭から気温が上がることや、
それへと添うて
商業施設で冷房をかけ始めることからの対処なのだろに。
しかも、政府の環境庁が率先してやってることなのだから、
だったら学生の制服へも、
せめて猶予期間の幅を延ばしてくんねぇかなぁと。
いかにも不平たらたらな口調にて、
そうと言いたいらしいルフィさんのお言葉なのへ、

 「お前もなかなか、弁舌が立つようになったよなぁ。」

もうもうと上がる湯気の向こうから、
やや伏し目がちになっているゾロがそんな合いの手を入れてやる。
そこは素直な坊やだし、相手が大好きなゾロでもあったので。
やたっ褒められたvvと受け取ったのだろう、

 「高校生だからなっ。」

新聞の“てんせーじんご”も読んでんだぜ?と、
いやに威張りんぼな言いようになって
薄い胸を“むん”と張って見せる坊ちゃんだけれど。
やや平仮名っぽい発音なのは明らかであり、

 “漢字で書けと言われたら危ないんじゃあないか?”

そんな杞憂をその胸中へこっそりと浮かべながら、
大きな手で結構器用にアイロンを操っていた破邪殿。
何とか形を崩さぬよう仕上げられたぞと、
アイロン台の上から制服のズボンを引きはがし。
風通しのいいところへ下げとかないとと
クリップつきのハンガーを引き寄せて、

 「御託はいいから、
  とっととその“天声人語”とやらの書き写しに取り掛からんか。」

いいお天気が掃き出し窓の向こうに広がる、
まだまだ明るい昼下がりのリビングのテーブルへ
ごちゃごちゃ広げられていたのは、現代国語のノートと新聞と。
帰り道で水たまりを跳ね上げたという制服、
ウォッシャブル表示を確かめた上で洗ってもらい、
アイロンを掛けんとなと言い出したゾロを眺めてたくてか、
宿題だというそれらを、此処で広げたルフィさんだったのだが。
さっきから何やらいろいろと話しかけるばかりで
手が一向に動いていない。

 「もしかせんでも、
  それって こないだの中間考査に関係してねぇか?」

 「うう…。」

追試や補習を受けるのはヤだからと、
一応はお勉強も頑張っているルフィさんだが、
気が散りやすいのが困った点で。
三学期の期末考査は確かソチ五輪と重なってなかったか、
今回のはGW明けに卓球世界大会があったんだよなと、
その辺りの中継ものを思い起こしてみる破邪様で。
それは無邪気に、
頑張れっ、やれっ、やたっ!と、
はしゃいで観ているものへ、
試験への復習はいいのかと水を差すのも忍びなく。

 “…おまけに。”

ちょうどその辺りといやぁ、
ややこしい妖異に手をこまねいていたところを、
乱入して来たこの子に 救われもしたものだから。
この荒くたいお兄さんでも、そこは…立場的に、
微妙なことながら つけつけ言いにくかった間合いでもあって。

 「今日のが済んだら、おやつを出してやっからよ。」

特製ソーセージとキャベツのカレー炒めを挟んだ
ホットドッグの食い放題だ、と。
ご褒美を先に言っちゃうところが、
結局は相変わらず対処が甘い保護者殿であり。
やったぁとはしゃぎつつも、

 「お題によっては、写しやすい日もあんだけどなぁ。」

それこそ、スポーツの結果を
解説者の人がとやこう書いてる日のとかさと。
書き写しておいでと言われた日付のはそうではなかったようで、
いかにも不平そうに頬を膨らまし、
む〜んと口許尖らせまでしてしまうところが、

 “おいおい、何でそうも無駄にやたらと
  “構ってオーラ”を垂れ流すかな。////////” ←あ(笑)

ちなみに、それってもしかして
“無闇矢鱈”と言いたかった破邪様なのかなぁと、
直観的に思ったあなたは 私と同類。

 “……っ。

照れ隠しの八つ当たりとやらで、
あの精霊刀が威容も物凄くぶん回されたなら、
手に手を取って逃げましょうねと、
場外でこそり約束したい、
雨上がりの五月のとある昼下がりなのでありました。





     〜Fine〜  14.05.16.


  *試験に出る“天声人語”とかいう、
   新書だか資料図録本だかがあるそうですね。
   そりゃまあ、どのご家庭も 朝日新聞取ってるとは限りませんし。
   でも だったら、それを模試や受験の問題文に出すってのは、
   ちょっと偏向の傾向がなくないかなんて思ったりするのは
   考え過ぎなんでしょうかね。
   ええ、ウチもずっと朝日新聞を取ってる家ですが。
 

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