天上の海・掌中の星

    “未来予想図?”


宅配便が届くというのは、
それが自分で申し込んだ通販の荷物でも
何とはなく心が浮きたってしまうもので。
くじ運の良い坊やがいるので、
懸賞で何か当たってという、思いがけない方の段ボール箱も
よくよく届きはする家だったが、

 「あ、ばあちゃんからだ♪」

週末で、部活もなくというのが重なり、
たまたま家にいたルフィ本人が受け取ったお届け物は、
要冷蔵というステッカーが貼られた、どうやら生ものであるらしく。
高校生にしては小柄とはいえ、
柔道部で大活躍している 結構力持ちなルフィであり。
それが両腕で抱えるほどの、大きさと重さのものであるらしく。
とたとたと玄関からダイニングまでを運んで来がてら
差出人の欄を読み上げれば、

 「何? あの美魔女様からかっ?!」

そちらもたまたま降臨していた聖封様が、
何か作ってやるべぇと足を運んだばかりのキッチンから
それは勢いよく飛び出してきており。

 “まあ、確かに美人ではあったが。”

彼が日頃の足場にしている天の世界にだって、
目が眩むほど華麗だったり、
玲瓏透徹な物静かなタイプだったり、
どこかべたりとした色香が強くて何とも妖冶だったりと、
人ならぬ身ならではの特化された美姫が山程いるというに。
そういったお姉さま方と日々顔を合わせていても飽き足りないか、
うわぁあっという素っ頓狂な声上げて飛び出して来たお仲間へ。
どこまで女好きなんだ こやつはと、
こちらは乾いた洗濯物をソファーに広げて畳んでいた破邪殿が、
やれやれと呆れかえっていたのだが、

 「…わ、こりゃ凄げぇvv」

やや無器用にも、ガムテープを適当なところからべりべりと引き千切って
開封に挑んでたルフィがこぼした一声は、
さすがに保護者様の注意をより強く引いたようで。
何だ何だと、リビングとダイニングの境のようになっている
カウンター状の仕切りの部分まで、
わざわざ立ってって歩みを運んだほどで。

 「ほら見ろよ、ゾロ。エビとか貝とかいっぱい入ってっぞ?」
 「おや。」

防水と保冷のためだろう、発泡スチロールの内張りがされた箱の中には、
白身魚の切り身とアラ、随分と大きなはさみ持ちのエビや、
やや平たくて真っ黒な貝などが結構な量を詰められてあり。
他にも、レトルトパックになったスープや、
生ハムだろう豚の腿肉の塊、ぷりんぷりんのソーセージにチーズ各種も同封されてる気前の良さで。

 「パエリアかブイヤベースってところかな。」

エビはオマールエビ、貝はムール貝らしく、
他にも…こちらはサービスか、タラバガニやホタテも入っているわ、
じゃがいもやトマトに玉ねぎ、香草にサフラン、ニンニクも入っているわで。
これはもう、南フランスの海鮮料理の代表しかなかろうと、
今度は食材への感心でほくほくとした笑顔になっておいでの、
相変わらず色々と判りやすいシェフ殿。
そういった贈り物の中に封入されてあったのが1通の封筒で、
おりょと気づいたそのままルフィが取り出し開封すれば、

 「えっとぉ、
  そちらでは 22日が “夫婦の日”とかいうイベントデーらしいと聞く。
  そのようなものには関心もないのだが、
  提携先の海産物商社がこのような特別な詰め合わせを扱っておったので送ることにした。
  たんと食べて 来たるべき冬の寒さに備えよ…だって。」

最愛のルフィへという〆は、
ままわざわざ読まなくてもいいだろと省略して顔を上げれば、
夫婦の日?と、こちらに居合わせた大人二人がお顔を見合わせていたものだから、

 「11月22日っていうのが、いいふうふって読めるからっていう
  日本でだけ通用する語呂合わせだ。」

さすがは日本在住の坊やだからか、
それとも 今年はうまいこと連休になっていたんで、
日頃よりワイドショーなぞを観る機会があって知ってたか。
珍しくも教える側となり、そうと説明して差し上げて、

 「ばあちゃんはあんな派手な見栄えだけど、正真正銘日本の生まれだからな。」

だから、語呂合わせというお遊びへも、
ゾロやサンジよりよっぽど通じておいでだと言いたいらしい。
そんなルフィの言へ、

 「…そういや瀬戸内のどっかの神社の巫女だったとかどうとか。」
 「最愛の孫からも “あんな派手な”って言われとるぞ。」

余計なところへ感心してしまい、
サンジにぎろりと睨まれたのはともかく、
ルフィ本人までも “あ…”と焦らせている辺り、
やっぱり不器用な破邪様で。(笑)

 「よっしゃあ、じゃあ今日の晩餐はブイヤベースとスパイシーフライドチキンだ。」
 「やたっvv」

俺が居合わせたのも女神さまからのお導きとか何とか、
微妙に理屈がおかしいことを言い残し。
届いたばかりの海鮮一式を抱えて、キッチンへと戻っていったサンジを見送って。
今日は布団カバーやシーツも、冬仕様のを引っ張り出したついでに洗ったか、
二人暮しにしては多い方な洗濯物の整理に戻ったゾロの、
黙々とした作業の手際、自分もリビングセットのソファーの1つへ腰を下ろし、
眺めることにしたらしいルフィさん。
以前に自分で整理していると胸を張った箪笥があまりにごちゃまぜだったのを見、
刀の鍛錬の一環、精神修養の一部として、
身の回りの整理も一通りはこなしているゾロとしては、
あああ、此処も俺が手ぇつけた方がましなんだろなと、
その日の内に判断したところからこっち。
あくまでも、武道関係の手際という力づよさが際立つそれながら、
それはてきぱきとお片づけをする彼であり、
それを傍から見てるだけなルフィでもあり。

 『ゾロが仕舞うと何でパンツが引き出し1つで収まるんだ?』
 『収まってなかった方が不思議だっての。』

タオルの類が 手拭いレベルで堅いというか
ぴしぃっと引き締まってるのはちょっと難かも知れないが。
清潔なあれこれがきちんと整頓されてて使い勝手がいいというの、
ずぼらなルフィ少年も身をもって知ったここ数年であったようで。

 “でも、何でか俺がやると 進歩ない結果にしかならないんだけどな。”

部屋の掃除も途中までで時間が足りなくなるしな、
集中力が足りないのかな。
柔道の試合とかだと、相手の動きが端々まで見えるし、
踏み込んできたらば こう展開するか、それとも誘いか?なんて
いちいち考える間もなく体が動いてるから、
やっぱ計画性には縁がないのかもなぁなんて。
タオルの端っこピシッと揃えて、そのままピンとひいては畳んでゆく
いつもの 文字通りに“折り目正しい”手際を(ルフィくん、それちょっと違う)眺めていたが、

 「? どした?」

早く終わって遊んでほしいのかな、
ウソップから借りて来たとかいう 空中滑空しながら的を叩いてくあのゲームは
直接飛び回って“こっちだろ・こう”とか
伝えられないのが歯がゆくなるんで苦手なんだがなぁと。
こちらはこちらで、傍らでいい子で待ってるルフィなのに 気づいて居ての、
何してほしいのかなどうしたいのかなと、
素知らぬ顔のまま、実は探っていたりしたところ、

 「うん。料理も整理も上手だし、不思議体験も判ってるし、
  ゾロだったらばあちゃんも文句言わねぇと思うなぁ。」

 「は?」

何だそれ、
何で俺が あの高飛車オンナのお眼鏡に適うとかどうとか審査されんだよと。
言葉少ななルフィの言いようへ、ここまで把握出来てしまえる対応力をもってしても
話半分しか理解できなんだらしい破邪様。
切れ長の三白眼をやや眇め、
もっと判りやすく言い直してくんねぇか?と
たったの一語で訊き返せば、

 「だから、俺の嫁さんにだ。」
 「へ?」

俺、大きくなったらスポーツ関係でそれなりに稼ぐしよ。
オリンピックに出るの目指して企業の選手になるもよし、
指導する側んなって体育系のガッコにコーチとして勤める手もあるし、

 「何なら “拝み屋”とか “祓い屋”とかっていう
  いかにもな裏かぎょーと 二足のゾーリはいてもいいし。」

 「それも言うなら“二足のわらじ”だ。」

ここんとこ、ガッコでの選択武道ってのが義務化されてて、
柔道の専門家ってのは引っ張りだこらしいし…と
話がどんどん進みかかってたルフィだったのへ。
訂正というツッコミを入れることで何とか引き戻し、

 「嫁さんてのは何だ。」
 「だってやっぱり、
  俺の方は外へ働きに出てないと、
  世間様から怪しまれっかもしれねーじゃんか。」

嫁さんって言い方が気に入らねぇなら、
俺が嫁ってことで、ゾロは “主夫”がいっか?
けどなぁ、シャンクスはあんまりそういうの気にしねぇけど、
ばあちゃんは結構古いしきたりみたいなのも
と、とう、とうとぶ…大事にしたがる方だしよ。
俺は男なんだから、
どんなに可愛くとも 式服には羽織袴をちゃんと着ないとって。
凛々しい姿の方が ばあちゃんもときめくしぃvvとかゆっててよ、と。

 「……おいおい。」

ゾロは歳とらないから、
そうだな俺が三十くらいになったら何とか釣り合うのかな、とか。
ゾロは黒紋付き着て、俺は白紋付きとか着たら
夫婦みたいにならんかなとか。
どんどん どんどん、
途轍もない未来予想図を繰り広げてくれるルフィくん。
もしかして普段からも時々こんなことをば考えていたものか、
汲めども汲めどもというノリで、
妄想もどきなプランが出てくるばかりなものだから、

 「…そこの、カウンターの陰で腹抱えて転げてる奴

隠れてねぇで出てきやがれ、
丁度腹立ってきたところだから、腹いせに刀の錆にしてくれる、と。
恥ずかしさからの赤みも滲んでなくはないお顔に
眉間のしわがこれまたアンバランスなまま、
判りやすい照れ隠しだろう暴言を放った破邪様、見た目年齢二十代後半さんへ、

 「おうよ、受けて立ってやろうじゃねぇか。この花嫁候補さんよvv」

笑いすぎて真顔が保てねぇぞ、このクソ野郎と。
まだ口許が引きつったままならしい、
それでもすっくと立ち上がって姿を見せた、
こちらも 見た目年齢二十代後半くらいかなと思われる、
金髪痩躯の聖封さんが受けて立つ。

 「何だよ、仲よくしろよぉ。」

寄ると触ると喧嘩ばっかなんだからなお前ら、と。
当事者でありながら話が見えていないというか、
何が問題発言だったかの自覚がないというかの坊ちゃんが、
はぁぁと溜息ついてしまった、晩秋の昼下がりだったそうでございます。





  〜Fine〜  15.11.25.


 *夫婦の日ネタ、螺旋の新婚CP以外で書けないかと思ったら、
  こんなんなってしまいまして。(苦笑)
  ルフィ坊ちゃん、とんでもない野望を抱えてたらしいです。
  叶うといいねvv (う〜ん)

ご感想はこちら めるふぉvv

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