天上の海・掌中の星

    “そんなに急いで…”


暖冬と言われて始まった割には、
天気図に誰かの指紋みたいな目の細かい等圧線をもたらした
いわゆる“爆弾低気圧”だの、
太平洋から湿気補給しまくり“南岸低気圧”だのが大暴れして、
豪雪やら地吹雪やらが東北や北海道を悩ませまくった 先の冬だったのだが、
ほんの一ヶ月ちょっとしか経ってはないというに、
もはや世間は春爛漫。
ともすれば、春さえも通り過ぎ、
一気に初夏のような陽気まで
お目見えしていたほどだった、
ここのところだったりし。そして、

 「…む〜ん。」

普段なら、特に用向きがないときは
そこいらへ放り出してるスマホを手にし、
リビングのソファーで
鹿爪らしくも眉をひそめているルフィさんだったりし。
今は春休みの真っただ中。
なので在宅中なのへも問題はなく、
暇を持て余してのこと、
何かゲームでも攻略中かと思いきや、
彼がその手の中の液晶画面の中に見やっていたのは
始まったばかりの今月のカレンダー。

 「どした? 何か予定か?」

籍を置いている柔道部の練習日が
何かしら都合の悪い先約と重なっているとか…と、
そろそろ片づけてしまいたい冬物の厚手のリネン類、
いいお天気なのでとまとめて洗ったらしい、
坊やの守護こと、破邪殿が、
坊や本人が楽勝で
もぐれそうな大きさの籐の籠を
腹あたりに押しつけるよな構えで
抱えた格好のまま、
通りかかったついでのように
声をかけたところが、

 「今年はあんまり
  花見が出来なかったなぁって。」
 「おいおい。」

口元尖らせ そうと言い、いかにもやるせなさそうに
はぁあなんてな溜息をつくものだから、
たかが花見にオーバーなと、言いかかった文言を
とっさにぐっとこらえたゾロだったりもし。
保護者様のそんな心情を知ってか知らずか、
不平たらたらな坊ちゃんが言うことにゃ。

 「だってよぉ。
  今年はどこの桜も
  あっと言う間に満開になっちまったしさ。」

今年の桜は確かに早かった。
というか、まだ三月中だったにも関わらず、
初夏を思わせるような陽気が早々と訪れた日もあったため、
当然、まだ開花前だった桜が、
早く早くという
周囲からの期待に応えるかのように咲いた
…という順番だったような気がするのだが、

 「のんびり咲いたって
  印象だったのへ油断したんかなぁ。
  クラスの皆ととか、
  部活の皆ととかって考えてるうちに、
  あっちでもこっちでも
  満開になっちゃったからよ。」

要するに、ルフィとしては
公園だったり河原だったり
彼の知る限りの名所の桜を
どれもこれも観尽くしてこその
春満喫となる勘定であるらしく。
なのに、今年は、

 「大川の河原で
  土手の並木を観ながらの
  お花見を一回しかやってねぇもんな。」

 「まあ、そうなるな。」

確かルフィの親友、
ウソップくんのお誕生日のお祝いもかねて、
ご近所の同い年の仲良したちで集まってたようであり。
持ち寄るお弁当や
ちょっとしたスナックものというの、
作って持たせた数日前だったのを思い出す。

 “そっか、あれから急に
  あちこちのが風で吹き飛ばされ出して。”

気温の急上昇とそれから、
今時分には珍しくもないが、突風が頻繁に吹いたりもしたものだから、
まだ4月に入って一桁の日かずだというに、
目立つ桜は随分と早めに
盛りを過ぎてしまった感が否めない。
そして、例年は確かに
あっちこっちからのお誘いもありの、
最低でも3、4件は
回っているというか参加している坊やであったの思い出し、
それと比較すれば詰まらないなぁと感じたらしいと、
お祭り騒ぎの好きな子だという言わずもがなな気性も思い出してのこと、

 「…しゃあねぇな。」

やれやれと吐息をついた、
天聖界でも割と難しいことへの融通が利くランクに所属のお兄さん、

 「天界の桜はまだ盛りだろうから、
  それを観ながらの宴ってのはどうだ。」

 「わvv それって
  いつか観に行ったあの大桜か?」
いつぞやの春に、ちょっとした山みたいな“背景レベル”の途轍もない大きさの桜を観に行ったことがあり。
あの時のかと念を押したルフィ坊ちゃん。
勿論、そこに抜かりはねぇぞとばかり、
ゾロの方でも男臭いお顔へ頼もしいまでの笑みを浮かべると、

 「ああ。コック野郎にも話つけてやるから、安心してな。」

わぁいとお顔を輝かせる坊やの
まとまりの悪い髪を一撫でしてやり、さて、まずは仕事を片づけるベと
庭へ出てゆく大きな背中をわくわく見送り、

 “だって、ゾロとは花見してねぇもんな。”

それはつまらぬと、他でもないそこのところへ不満を感じて
ぶうたれていたルフィさんだったなんてこと、
はてさて、気がついてるはずはないだろうゾロさんだったのも、
まま、らしいっちゃらしいお話で。

見事な大桜のお花見会、楽しく盛り上がればいいですねと、
窓辺近くの梢から飛び立った小鳥が短く笑った春でした。



     〜Fine〜  15.04.07.



  *初夏みたいに汗ばむ陽気だったり、
   そうかと思えば、寒の戻りかいきなり冷えたり。
   なかなかに落ち着かぬ4月ですね。
   風邪が治まったら今度は花粉で、
   鼻水に苦しめられております。
   ああ、花見に行きそびれてるよなぁ。

ご感想はこちら*めるふぉvv

**bbs-p.gif


戻る