天上の海・掌中の星

    “夏の晩は特別だから♪”


何か御用でもあったのか、それともただ遊びに来ただけか、
お盆の前後に催される大川の花火に合わせ、
土地の鎮守の神社の境内、夜店の出る祭りでにぎわう様子を、
チョッパーがこそりと覗いてた。
天界でも風渡しの儀式をはじめ、折々に華やかな祭りがあるらしいのだが、
形式を重んじるよな荘厳なそれではない、
民たちのそれであっても 明るい中で繰り広げられるものが多く、
こんな夜更けてにぎやかな、しかも幼い子供らが駆け回っていて咎められないお祭りというのは
そうそう飛び込んだことがないらしい。

『そりゃあまあなあ。
 暗がりの薄暗さってどさくさをまとって紛れ込むのとは微妙に違うし、
 正体がばれちまったら、少なからずパニックになって騒がれっだろうし。』

いくら小さな聖獣さんでも、そのあたりへの心得はある、
というか、そういうのを身に着けていないと
地上なんて異世界へのお使いには来られないというものらしく、

 『へぇえ、チョッパーってそんなまで賢いのか。』
 『おうよ、俺の身内だぜ?』

何でサンジが偉そうに、ついでに嬉しそうに胸を張ったのかは
判らずじまいのルフィだったそうだけど。(笑)

 “…む〜ん。”

賢いにしては相変わらずの不器用さ、
顔の方を隠して体は出てるぞという身の隠しようで鳥居にしがみつき、
関心ありありの態度でいるくせに、
ルフィが一緒にいた友達数人へ“トイレに行ってくる”と誤魔化して場を離れ、
気配を消す…なんて殊勝なことはせぬまま後ろから近づけば、

 「ちょーっぱー♪」
 「うひゃあ!」

それは判りやすくも 飛び上がるほど、
人の子供に驚かされてる聖獣さんだったりして。
さすがに、こうもあっさりと見抜かれてしかも名指しと来たものだから、
トナカイさんにも相手はすんなり判ったらしく、

 「な、ななな、何だよっ。驚かすなよなっ。ルフィ!」
 「そっちこそ何だよ、混ざりに来ればいいのによ。」

俺もいるんだ他人行儀だなぁと思ったらしいルフィだったのへ、
あまりに意外なお言いようだったか、
ほんの刹那、大きな双眸を見開いてから、だがだが はぁあと判りやすい溜息を一つ。

 「俺は、存在感がありすぎる聖獣だから、
  霊感の弱い人にもたまに見えやすかったりするんだよ。
  そんな身で混ざるわけにはいかないんだ。」

他愛ない精霊なら紛れ込めもするけど
それじゃあそれで人垣からの単なる覗き見と変らねくて詰まんないんだろうしと、
何やらもごもご続けたところまで、ちゃんと聞いていたものか、

 「そか、一緒に騒げねぇのか。
  それだと確かに詰まんないよな。」

誰に着せてもらったそれなやら、一応は男性用の着付けの浴衣を腕まくり、
まだまだ子供っぽい造作の手をあごに持ってきて、鹿爪らしい顔になって考え込んでから、

 「なあなあサンジ、チョッパーの見栄えを誤魔化す術とかないんか?」
 「あるぞ、短い間でいいんなら。」
 「わ…っ☆」

そちらさんたちもこの場に合わせたか、
濃い色の浴衣をそれぞれにまとった、破邪様と聖封様二人が
いつの間にやら小さいの二人の背後に来合わせており。
ゾロの方は大方ルフィの不審な動きに気付いてのことだろうし、
サンジの方はその先にいたチョッパーにも気づいての気の回しよう、
二人のお子様らの前へと駆けつけたその上で、

 「今晩だけでいいのなら、
  周囲から人の子供と同様にしか思えないよう暗示の封印をかけとけばいい。」

本人の姿や存在の質から変えようという転変となると何かと面倒だが、
そんな程度でいいならちょちょいのちょいだと あっさり言われ、

 「そかvv よかったな、チョッパーvv」

我がことのように喜ぶルフィであったことへもやや照れたらしかったトナカイさんだが、

 「しょ、しょうがないなぁ。
  そんなに一緒に遊びたいなら合わせてやるよぉ。////////」

精一杯の見栄張りだろう、
ルフィがねだるならしょうがないという言い回しをし。
そんなツンデレぶりを見せるところがまた可愛くて。(笑)
ひょいと屈みこんだサンジが
境内に植えられていたアオイフヨウの葉を一枚摘まみ、
それをやや神妙なトナカイさんのお顔の前で2、3度振れば、
金色の光の粒が舞い、

 「…よく判らないけど、これでかかってるのか?」
 「お前はもともと霊感が強いし、今の成り行きを見ていたからなぁ。」

そこまでは自分の柄じゃあない話運びへ仏頂面のままだったゾロが、
こらえきれずに思わず苦笑したようなことを聞くルフィだったが、

 「何だこんなとこにいたんか、ルフィ。」
 「あ、ゾロさんだ、こんばんわ。」

待たせていたお友達が声でも聞いたか寄って来ていて、

 「あれ? そっちの小さい子は誰だ?」
 「ルフィの従弟か?」
 「親戚 案外と多いもんな。」

可愛いなぁとお顔をほころばせるところを見ると、
ルフィの足元の陰へうひゃあと隠れたチョッパー、無事に人の子だと解釈されているようで。

 「おう。
  サンジの弟分でチョッパーっていうんだ。仲良くしてやってくれな。」

参道沿いに並ぶ夜店のアセチレンランプの眩さと、
そろそろ屋並みの輪郭も夜空に紛れそうな夜陰とが織りなす、
微妙にまだらな宵の口。
他の顔ぶれは、
タンクトップだのTシャツだのへ短パンやイージーパンツを合わせた普段着で、
周囲もそんな格好の子や浴衣の子が入り混じり、
何だかいろんな時代と異次元のとば口みたいに見えなくもなくて。

 “…わあvv”

いいよな、サンジも術を掛けてくれたし、俺も混ざっていいんだよなと、
戸惑いに困惑していた聖獣さんの幼いお顔がふわっと嬉しそうな喜色へ塗り替わる。

 「さあ、遊ぼう遊ぼう。」

綿あめがいいか? ヨーヨー釣りも面白いぞ?
カードが使えねぇ店ばっかかもしれねぇから、
軍資金も用意は万端だしよと、
後半は こしょりと囁いたルフィともども、
にぎやかな人の波の中へと紛れていった腕白たちで。
昼の内の酷暑とはまた別の、
雑踏ならではな、されどどこか寂しい感もある宵の人いきれが
ざわざわと流れる境内の賑わいへ、

 「平和なもんだな。」
 「ああ。」

もしかして内実は大変な人だって紛れているのかもしれないが、
それでも連れと笑いさざめき合えるだけの幸いを手持ちに、
集う人らの朗らかさには、
戦いに明け暮れる精霊さんたちもついつい口許をほころばせ、
そんな戦鬼たちの和みようへ、
頭上からはお月様が 静かに静かに微笑んでいらっしゃった。




  〜Fine〜  15.08.14.


 *今年の夏はどうかしてますね。
  九州の方では豪雨の連続で、関西は夜昼問わない酷暑だし。
  東も記録的な暑さだそうで、北海道まで大荒れだとか。
  夏が暑いと冬は極寒だっていうしねぇ…。
  皆様どうかお元気で。

ご感想はこちら*めるふぉvv

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