天上の海・掌中の星

    “師走の空の下”


リビングのソファーに足元ごと乗っかって
スマホでメールを確認していたルフィがやや肩を落として見せたので、

 「どした?」

たまたま居合わせたサンジが声を掛けると、
む〜んというどこか不平の滲んだ、
でもしょうがないかという諦めも伺えるようなお顔を上げて見せ、

 「うん。ウソップとQ街で待ち合わせして買い物って言ってたんだけど、
  店が忙しいから出かけられないって。」

 「店?」

そうと頷いたルフィが言うには、
ウソップくんのお家は
駅前の商店街からはやや離れた立地ながら、
それでもご贔屓の多い総菜屋さんだそうで。
最近はイートインとかいう試食用のスペースも店内に設けたものだから、
随分とにぎわっているらしく。

 「この時期はさ、大掃除だ何だで忙しいおうちが多いんで、
  日頃以上にお客さんが多いんだって。」

あと、お節料理に使える黒豆とか煮物とかも準備を始めるとかで、
店自体も忙しさが半端なくなるらしくてと。
事情は通じていたらしく、納得はしているルフィさんだったようで。

 「何だ、感心じゃないか、家の手伝いか。」
 「冬休みだし、
  アルバイトみたいなもんだってウソップは言ってたけどな。」

こうまで押し迫ったせいか部活もなくなり、
途端に暇な冬休みと相なったらしく。
それでという計画がおじゃんになったのが残念だったらしい。
とはいえ、

 『暇なんなら窓くらい磨け。』

世間様の主婦ほど律儀なわけではないけれど、
それでも清潔にしとくに越したことはなかろと手をつけている家事の延長、
掃除もきっちりこなす破邪さんから、
そっち系の仕事を云いつけられるのはちょっと面倒だなと感じる辺りが
やはりわんぱく盛りの男の子だということか。

 “そうなんだよな、
  そういうところはずぼらだろうと俺も思ってたんだが。”

聖封さんにも意外だったらしいが、
きっとそこのところも育ての親御が躾けたものか、
整理整頓も割と苦も無くこなすお人だったりするものだから、
こちらのお宅は、彼が同居を始めて以来、とっ散らかってたためしがないとか。
まま、それは余談だから置くとして。

 “…置くのか。”

会話は素通しで聞こえておいでらしいキッチンで、
名前こそ上がってなかったが、きっちりと話題の主だった破邪様が
朝食の洗い物を片づけつつ、凛々しい眉を上げかかっていらしたけれど。(笑)

 「そういや俺はバイトってしたことがないなぁ。」

今更みたいにルフィが呟き、
でもでもと自分でも思いつくものがあったのか、
口許がほころぶ辺りが正直なもんだと、
これはサンジの内心での独り言。

 “そういや、柔道部の主将の座を蹴りまくってるのだって。”

用がないなら家に早く帰りたい、用もないのに出かける気もしないと
この年頃の子にしては、
しかも賑やかな騒ぎも好きな性分の子にしては珍しいことよ…となる
立派な出不精っぷりなのは、

 “どっかの馬鹿野郎と
  出来るだけ一緒にいたいからだって言ってなかったか。”

ああいうのって立派な惚気というのだと、
そこのところはまだ判ってはなかったらしい、
まだ中学生だったルフィなのを思い出し。
今時に言えば砂を吐かされまくりだったなぁなんて、
微笑ましい…というより しょっぱそうなお顔しか出来なんだ当時をも
思い出してしまった聖封様。
何だかなぁという考えこみのお顔になりつつある坊やなのへと吐息をつくと、

 「よぉし、じゃあお前には次のクエストを授けよう。」

微妙に仰々しい言い方になって
ジャケットの懐から取り出したのは、一枚のメモ。

 「わvv なんかRPGみたいだなvv」

何だか新しいお遊びのように思えたのだろ、
はしゃぎ気味になったところへ渡されたのは商店街でのお買い物のメモで。

 「お節料理とかいうのはマリモ頭に任すとして、
  年越しの宴にって料理は準備してやらにゃあならんだろうからな。」

 「わvv ホントか?」

天世界では暦そのものが季節主体なので、
四季の節目の風渡しの儀は厳粛に守られもするが、
年またぎの行事や習わしというのは特にない。
そこでとこちらへ、降臨なさる気満々ならしく、
それへの準備をしておけというメモだったらしいのだが、

 「…このスモモ12号の乳っていうのは何だ?」

箇条書きの中の1つへキョトンとするルフィなのへ、

 「ああそれは、天界のウチの牛舎で飼ってる牛の乳だ。」

平然と応じてから、
チョッパーを呼べば昇れる身だろうがと
そこはもう事情も通じ合ってるところ、
特に難しかなかろと笑って見せて、

 「それほど気性は荒くないから、ウチの牛飼いに言って絞らせてもらえ。」
 「…サンジんちって裕福な家なんだか牧歌的なんだかよく判らねぇな。」

メモから視線は外さぬまま、
感心してか呆れたか、単調な声を出したルフィだったのへ、

 「〜〜〜。」

苦笑がこぼれてしょうがなくなった破邪様だったのはここだけの内証である。
…天候に響くかもだから喧嘩しないでね。師走の空の下で。







おまけ◇

テレビ中継で映し出されていたのは、
スキー場にはやっとという感のある、随分とまとまった雪が降りしきる画面であり。

「あ、雪だ。いいなぁ。」

毎年降ってうんざりだという地域の人には悪いけど、
それでもやっぱりワクワクするよなと、
ルフィにはお楽しみの光景でしかないらしく。

「ここいらでもたまに積もるだろうが。」
「でも雪合戦とか出来るほどじゃないしなぁ。」

残念だと一丁前に眉を下げての憂い顔。

「小学校の時の体育の先生がさ、学生時代にハンドボールだかやってた人で。
 そいでか、冬んなると雪合戦ごっこってのをいつもやってたんだな。」

雪が降ってない年は玉入れの球を使って、
勿論、ダウンジャケットとかコートとか着込んで、頭には子供用のヘルメット。
ドッジボールのより少し狭いコートを書いて、
両端に旗を立てて、相手のそれを先に引っこ抜いた方が勝ちっていう、
結構本格的なゲームでさ。

 「けど、玉入れの玉ってのは結構いたくないか?」
 「思い切りぶつければな。」

だから、そっちにもルールがあって
顔とか頭は 基本狙ったらダメだったし、

 「旗を目がけて相手の陣地に突っ込んだ子は、
  ずっと同じことを言い続けなきゃならなくてさ。」

その間だけは雪弾が当たってもノーカウントとなったらしく、

 「同じこと?」

何だそりゃと首を傾げたサンジだったのへ、
ご本人も忘れたか、それでも えっとうんとと頑張って思い出そうとしたルフィさん。
ややあってポンと手を叩くと

 「わかちこ・わかちこって。」
 「??? 何だそりゃ?」

お後がよろしいようで。






  〜Fine〜  15.12.28.


 *どこのゆってぃだ。
  …じゃあなくて。
  カバディ・カバディ…と間違えたルフィさんだったらしく、
  それにしたって雪合戦とは関係ないルールですな。
  勿論のこと、ハンドボールにはもっと関係ありません。
  (アラサー以上じゃないと判らないネタだなぁ)

  クリスマス前には書き上げたかったのにこの体たらくです、
  チョッパーのBD話とか待っててくれた方、すいません。
  一般の主婦の皆様が忙しくなったしわ寄せがこっちへ来たものか、
  10月11月の割とのんびりペースが嘘みたいに
  内職のでっかい段ボール箱が連日運び込まれております師走です。
  10月並みという暖かさだったり、それが平年並みへ急降下したり、
  落ち着きのない気候で、体調管理も大変ですが、
  子供たちがお元気に駆け回れるのは何よりかもしれませんね。

ご感想はこちら めるふぉvv

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