天上の海・掌中の星

    “世間様は ともかく”


会話なんかでは省略されがちながら、
正式には“聖”という冠がつくのはキリスト教の行事だからだけれど。
大切な人との愛を確かめ合う、
神聖だったり心温まる日だったりなのも正解だけれど。

 チョコレートという小道具があるのも、
 慎み深い女性の背中を押して
 “勇気を出して告白してみなよvv”としているのも、
 日本だけの話なんだそうで。

日本では、その昔、
ただ通りを男女が並んで歩くだけでも
大胆だとかはしたないなんて言われていた時代があったから。
そんなことに縛られることはないよ、
恋い焦がれる人があるのなら、
好きですと、その想いを振り絞ってごらんという
誘い文句も効果があったのだろけれど。

 もはや時代は変わったか

今や世の女性たちは、
“告白なんていつでも出来るから”と、
何もこの日を勝負の日にしなくともと さほど重視しなくなり。
恒例のように華やかに催される、デパートの特設会場へ通うのは、
珍しい限定チョコがお目見えするのをお目当てに、
マイチョコや友チョコを吟味するため、なんだとか。



  “…の、はずなんだろうになぁ。”

最寄りの駅から降り立って、
いつもの我が家までの道を辿りつつ、
何だかなぁと微妙なお顔でいたルフィさん。
それでも、今朝も出て来たそのまんまの自宅へ到着すると、
安堵からだろ 渋面もゆるむ。
スチール製の門扉をキィと開け、
短いポーチをたったかと玄関まで駆け寄って、

 「たっだいま〜。」

それはお元気な声を掛ければ、
おーというお返事が奥から聞こえ。
やや乱暴な力づく、
かかと同士を擦り合わせるよにしてスニーカーを脱ぐと、
その声 目指して廊下を急げば、

 「早かったな。
  弁当持ってったから、夕方になるかと思ったが。」

だったら昼ご飯は要らないかな、
でもまあ、寄り道しないで駆け戻って来れば、
多少は腹ふさぎも要るだろなと。
そこいらの呼吸もおサスガの主夫殿、
天聖界きっての凄腕“破邪”こと、
ゾロというガタイのいいお兄さんが、
少し大きめのオーブントースターへ、
ハーブの利いたソーセージ入りのホットドッグを
数本ほど一遍にセットしておいで。
一緒に挟むカレー味のキャベツ炒めは常にストックしているし、
パンも各種、ハムソーセージの類も以下同文なので、
どんな突発性食欲魔神の帰還でも“どんと来い”という頼もしさ
……なのは ともかく。(笑)

 「うん、俺も何でだろって思ったけどサ。」

この時期と言えば 三年生の受験が本格化するので、
教師の皆様もサポート優先となる関係からか、
どうかすると在校生の授業のほうも、
実力テストなぞ挟んで短縮になったりするもので。

 「土曜の部活なんて、普通中止だもんな。」

他の月ならともかくも、
寒稽古があるとか公式戦が近い種目ならともかくも。
柔道部で それって何でだろと、
部活は嫌いじゃなかったが、
それでも“何で?”と不審に感じたルフィさん。
準備運動に始まって、ストレッチや受け身の練習、
乱取りまでという一通りをこなしつつ、

 何とな〜く、
 今日の招集って何のためなのかに気がついたのが

 「一年だけならともかく、
  二年まで気もそぞろだったりすんだもんな、判るって。」

やれやれと一丁前に、
肩をすくめて見せたそのまま、
キッチンのテーブルへ とさりと置いた手提げタイプの紙袋には、
赤やピンク、白地にハートのドットが舞い散るものや、
有名ブランドのロゴつきなどなど、
それは可愛らしいラッピングをされた小箱がドサドサと入っており。

 “……あ、そっか。”

実をいや、ゾロもどこか他人事でいたようで。
現物(それも結構大漁)を見て、
ああそうだっけと今日が何の日かを思い出してたり。

 「最近はあんまり男子へ渡す人はいないって、
  テレビでもネットでも さんざん言われてたのにな。」

告白にこの日を選ぶのは何か重いとか、
一種のお祭り、女の子同士で騒ぐほうが楽しいとか、
女性のタレントだのコメンテーターだのが口々に言ってたし、
チョコ売り場でインタビューされた女性らも、
明るく笑ってそんな風に言ってたしで。
今時は そんななんだなぁって、
ふ〜んってノリで他人事みたく思っていたもんだから。
当日が土曜日だってことさえ、
だからどうするんだろ とさえ思わずにいたらば、

 「早い目の昼休憩になるわ、
  午後の練習は自主トレ扱いだなんて言われるわ。」

招集かけた主将殿が意味深に咳払いし、
じゃあ解散と言った途端、
皆して最高潮にそわそわし出すわ、
いつもは弁当持参組が、
コンビニまで弁当買って来るわなんてって道場や部室から出て行くわだったそうで。

 「どうやら、
  女子部の部長と示し合わせて練習日にしたらしくてよ。」

そこはやっぱり、経験値の浅いお年頃だけに
実は純情な顔触れのほうが多いのが現状だったってことだろか。
自主トレなんなら、しかも何だか浮足立ってる周囲なようだしということで、
お弁当こそ平らげたが、そのまま帰ろうと決めたルフィへも。
まるで そんな行動を読んでいたものか、
芸能人への出待ちのようにしてあちこちで待ち受けていての、
これ食べてvvと差し出されたのを拒むのも何だと受け取ったのが
この成果…であるらしく。

  ……で。

  お祭り少年によくあるタイプで、
  まだまだ恋愛には関心も薄く、
  食いしん坊なことまでも ようよう知られてもいる彼なので。
  恐らくは…本命視している子でさえ、
  おやつに食べてという格好で渡したんだろうに。

妙に感慨深いというか物言いたげなお顔でいるのへ、

 「?? どした?」

訊きはしたけど、それと同時にチンと小気味のいい音がしたものだから。
返事も待たずにオーブンの方へと向かったゾロだったの、
それも何でだろうか、やや“むう”と見送ったルフィさん。
相変わらずに大きな背中を見やっていたが、

 「いいか、これって全部義理チョコだかんなっ。」

 「……………………おや。」

それと、ゾロやサンジへっていうのも混じってるしと、
自分へのブツへの言い訳というより、
そっちが腹立たしいと聞こえなくもないよな言い方をし。
ちょっと顎を引くと上目遣いになって“判ったか?”と見上げて来るお顔こそ、

 “…おいおい、それは狡くないか。/////////”

精霊刀という大太刀振らせれば、どんな大妖でもナマスに刻める、
そんな凄腕、天下無敵の剣豪さんだのに。
どんな本命チョコより心騒がす代物だったのは、
どうか此処だけの秘密ということでvv<





     〜Fine〜  15.02.14.



   *そういや、男性の側から女性に贈る“逆チョコ”なんてのもあったけれど、
    あれって一体どうなったんでしょうねぇ。




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