天上の海・掌中の星

     “そういう日でも あるそうな”


二月は一番の厳寒期とあって、
衣紋(着物)を更に着込む “衣更着(きさらぎ)”という呼び方がある一方で、
日かずの少なさからあっという間に過ぎ去るのを指して、
逃げ月ともいうそうで。
さあ凍えろとばかり 獅子のように激しくやって来て、
終盤では 春の気配に追い立てられ、
ウサギのように一目散に去ってゆくからだとか。

 「今年は特に極端だったよなぁ。」

暖冬になるぞという気象予報士さんたちの予言(違)は結構あたっていて、
暖冬どころか初夏並み、25度を超す夏日になったほどの日もあった師走だったりもし、
一月二月だというに、
“冬アイス”どころじゃあない
暑いからこそのソフトクリームが売れまくった日もあった程だったけれど。
そんな前倒しを均すための寒さの戻りようも半端じゃあなくて。

 「そっかぁ? 数字でいやぁ、平年並みになっただけって日もあったろうよ。」
 「そ・ん・で・も。」

落差が大きかったから、
とんでもねく寒く感じた日が多かったって話をだなと。
揚げ足を取るようなお言葉が挟まれたのへ、
打てば響くで反駁を返しかかったルフィの鼻先、
そちらもいい間合いで“ほれ”と差し出されたのが、
焼きたてスフレタイプのチーズケーキ、ココットカップインだったりしたもんだから、

 「わvv 食っていいのか、サンジvv」
 「受け取った奴に今更お預けもなかろ。」

正確に言やぁ、それ言って聞くような奴じゃなかろ、かもなと、
デザートフォークを差し出しつつ苦笑つきで頷いてやり。
パンと合掌していっただきま〜すとちゃんと言ってから
わくわくフォークを差し入れる坊ちゃんの
嬉しそうな様子をこそ まんざらでもなさげなお顔で見守っておれば、

 「うんまっ! あ、そうだ、サンジって三月の初めが誕生日なんだってな。」
 「ん? ああ、まぁな。」

思わぬ不意打ちに おやと、青い切れ長な目が丸くなりかかる。
期末テストへのお勉強があってと
部活もないまま早く帰って来ていた坊ちゃんに留守番を任せ、
主夫である破邪様は 近所のスーパーまでお買い物にお出掛け中。
勉強しろと口うるさく言うつもりはないながら、
季節の変わり目というこんな頃合いは、特に地付きの妖異が落ち着かぬので、
一応の用心にとお守役に呼びつけた聖封さんが、気を利かせておやつを提供してやったところ
こんな話題に至ったわけで。

 「何で知ってんだ?」

この坊やへはわざわざ言った覚えはないがと、
怪訝そうな顔をして口許へ咥えた紙巻へと火をつけるのへ、

 「チョッパーが言ってた。
  当主様のおじじ様がそりゃあ豪華なご馳走作ってお屋敷じゅうでお祝いになるって。」

 「…そっか。」

あんのお喋りがとちらっと思ったが、
まだ幼い聖獣だ、自慢のついでに語ったのだろと気を取り直しておれば、

 「お母様が戻ってからは、サンジも頑張って毎年ケーキ焼いてるって。」
 「ぶはぉっ!」

思わぬツッコミというか、意外なフレーズが襲いかかり、
不意打ちにもほどがあったか激しく咳き込む天聖界の貴公子様だったりし。

 「な…っ。//////////」
 「母ちゃんに褒めてもらいてぇのか?」

誰から訊いたと問い詰めかかったサンジの出鼻を挫いたのは、
案外と可愛いなぁとでも付け足すことで揶揄する…というよりも
嬉しいのはいいことだとする天真爛漫な笑顔だったので。

 「…そんなんじゃねぇよ。」

こういうところが、大きいんだかガキなんだかだよな こいつはよと、
鼻白みつつも、気を取り直し、

 「あのな、いいか?
  誕生日ってのは、生まれてくれてありがとうな日なのと同時、
  母ちゃんが頑張ってくれた日でもあるんだ。」

 「う…。」

周りが本人を祝うのとは別に、その本人は誰へ感謝しなきゃいかんかといや、

 「そりゃあ頑張って、下手すりゃ一日がかりで痛い思いをした母ちゃんへ
  ありがとうって言わにゃあな。」

小さく笑ってから、ああと顔を上げると、

 「今は傍に居ない母ちゃんでも、ありがとうくらいは思えるだろう?」

この坊やも、この子へ余計な告げ口をしたトナカイさんも、
母親とは縁が薄い身。
自分へ母を返してくれた恩のあるこちらの坊やには特に、
つれなくする気なぞさらさらない貴公子様、

 「まだ早い話だが、
  お前の誕生日にゃあ、そりゃあでっかいケーキを焼いてやっからよ。」

 「うんっっ!」

ほれ、今はそれを食っちまって、とっとと試験勉強に精出しなと、
目許を和ませた美形のコックさんだったそうでございます。

ちょっと早いけど

  
Happy Birthday!  To Sanji!



    〜Fine〜  16.02.29.


 *今時の若いお嬢さんは知らない人かもですが、
  映画評論家の淀川長治さんが
  誕生日というのはお母さんがそれは頑張ってあなたを生んでくれた日なので、
  お母さんにこそ感謝する日なんですよと言ってたそうで。
  (私はそれをさだまさしさんのエッセイで知ったのですが。)
  ウチのサンジさんは微妙に、つい最近まではルフィさんと同じ身の上でしたので、
  今は逢えない母というのへの想いも理解しておいでで、
  こういう言い方をしたようです。

  …で、原作の方のサンジさんも大変みたいですね。
  出番がなかったかと思いきや、
  今シリーズはサンジさんのお話になりそうですねvv

ご感想はこちら めるふぉvv

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