天上の海・掌中の星

     “誕生日だからさ、あのな…”


リビングのテレビ画面では
金ラメのスーツを着こなすイケメンのお兄さんが3人ほど、
たくさんのギャラリーに囲まれた舞台で、シャキーンと伸ばした指先もシャープに、
ビートの利いた曲に合わせてキレのいいダンスをご披露しており。

 “そういやそういう日だなぁ、”

スーパーでも売り場が賑やかだったなと、
大きめのボウルにはった水から1つ1つ取り出しては、
天聖界産の大振りの栗の実の鬼皮を包丁片手に剥いておれば。

「……。」

やはりテレビを観つつ、
でもでも意識は斜め隣に坐している破邪のお兄さんへと据えたまま、
何か言いたげなルフィさんが
何かしらもぞもぞしておいでなのが、ゾロには痛いほど感じられていて。
言いたいことがあるならば、スパンといってくるのが日頃の彼なのに。
叱られそうなことなのか、いやいやそんな気配じゃあない。
でもなんか タイミングがあることなようで、
こっちが作業中なのへ気を遣ってか、
今は言い出せないというよな微妙な空気をまとっており。

 “なんだろな。”

包丁を手にしているという危ない作業中だからと躊躇しているのか、
だったら手早く片付けようと。
てきぱきと刃先を操って、
ちょっと見にはミカンほどもありそうな、
規格外も甚だしい大振りの栗たちを、
半分は栗ごはん用、残りは甘く煮てきんとんに入れようと段取りしつつ、
きれいにくりんと剥き終えれば。
包丁をボウルを敷いてた新聞紙の上へ置いたのを見透かして、
もぞもぞしていたルフィが、
そのもぞもぞの源を 座ってた背後から掴み出しつつそれっと差し出す。

「これ、プレゼント!」
「お?」

陸上のバトンパスもかくやという勢い、
ついつい反射的に出した手のうえへ
パシッと渡されたのは平たい箱を包装したもので。

「?」
「うん。」

俺にか?と目顔で問えば、うんと短く頷かれ。
包みを開けると、中から出てきたのは一丁のハサミ。
なかなかに重みのある代物で名のある鍛治による逸品らしく、
同包されてあったしおりのようなものには「左手用」と書かれている。
貰っていいのかとかどうとか訊こうと口を開けかけたゾロに先んじて、

「ゾロ、普通にハサミ使ってるから全然気付かなかなかったけど、
 左利きの人って普通のハサミだと使いにくくて切れないんだってな。」

ルフィが一気にまくしたて始めた。
えっとえっとを息継ぎみたいに挟みつつ、

「たまたま店行ったら売っててだな、
 トクシュなモノで高いかと思ったら安くてだな、
 そんならいいかなと思って買ってきた。」

ちょっぴり言い訳めいた“コトの次第”を言ってのけたものだから、

「ありがとう、使わせてもらう。」

ついのこととて、目許が和みそうになりつつも、
こちらも素直に受け取ることにしたゾロで。
まくし立てる様に話したのはたぶん照れ隠し、わざわざ買いに行ってくれたのだろう。
ホッとしたのが見るからに分かったのがまた愛しくて、
こちらの表情だってついつい緩むってもんで。
グル眉野郎が居なくてよかった。
ああ、そうか。そういうのも警戒して隙を狙ってたルフィかも知れないな。
正直不自由はしていないのだが、俺の為に買ってきてくれたのが嬉しい。
この後、左右どちらのハサミでも遜色なく使えるのを披露して見せれば、
キラッキラの瞳になって「すげぇ!」の連発をしつつ、
「器用なバルタン星人」の称号をもらったゾロで。

 ……こっちは微妙だったそうな。




  
HAPPY BIRTHDAY!  ZORO!




    〜Fine〜   16.11.10.


 *いちもんじさんから、可愛らしいお話をいただき、
  ちょっとほど中割を足して書き下ろさせていただきましたvv
  ゾロが左利きかどうか、そうとも違うとも公式にはないので…とのこと。
  そんな “些細なこと”を あの大雑把なルフィさんが気付いてたのが
  くすぐったい贈り物みたいなものだということでvv

ご感想はこちら めるふぉvv

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