天上の海・掌中の星

     “初夏の風景”



初夏といや“眼に青葉”と読まれるくらいで新緑が主役。
とはいっても、その緑にいや映える、花々の顔見世もなかなかに華やかで。
シャクナゲに夾竹桃に、紫陽花に
バラやひなげし、
百合にカラーに、アガパンサスにトルコキキョウ。
え?こんなのがあるの?と驚かされるのは桜やバラに限った話じゃあなくて、
紫陽花の新種にもそりゃあ華やかなのがたんとある。
ダンスパーティーとか西安とか、
隅田の花火とか羽衣の舞いとか
紫陽花にも随分と華やかな種類のがあるそうで。
家事は得意だが庭いじりまではなかなか手が及ばない破邪さんだが、
風を回すことで季節が巡るのは地上も天界も同じなせいか、
季節の移り変わりを緑の濃さに感じもし。
ふと見やったこじんまりした庭先に、
次の季節の花なぞ見かけると、おやとついつい視線が奪われもするらしく。

 「朝顔とヒマワリが毎年ちょろちょろ咲くのは、
  俺が小学校の時に観察したやつの種が毎年こぼれちゃ育つからだぞ。」

 「そういうのはもはや“自生”の一種なんじゃね?」

ゾロもわざわざ手を掛けはしないが、そこはルフィさんも同じこと。
なのに、自分の手柄のようにエッヘンと胸を張るものだから、
ついつい破邪様なりのツッコミが入るのも致し方なく。

 「そうそう、手入れするといやぁさ。」

ゾロも浅からぬご縁のある黒須先生なぞ、
ご自宅で娘さんにせがまれて
バラのアーチなんてものを丹精していなさるらしいと、
いつだったか話してもらったと持ち出したところ、

 「ばらのあーち?」

まずは言葉からビジュアルが浮かばなんだか、雄々しい形の眉を寄せ、
ルフィが両腕を頭上に掲げてUの字型を作りつつ、
こんなゲートみたいなやつにバラが這わせてあるんだと説明したところ、

 「…あ、そんな微妙な顔してたって先生に言ってやろっか。」
 「俺を脅迫するとは良い根性が育ったよな、お前。」

その根性曲がりは グル眉野郎の影響か?
つか、脅迫だって思うほど今でもおっかないんだせんせいンこと♪
なんて、なかなか朗らかな(?)会話をしつつも、
まさかに本気で罵り合ってるわけじゃなし。
帆布製のエプロンまとってテキパキ手掛けていたお料理が仕上がったものか、
半分ほどは背中を向けつつの会話だった破邪殿が
やっとダイニングの方を向き切って
仕上がった大皿を次々とテーブルへと並べ、
それを見てリビング側からカウンターを挟んでの会話になってた坊ちゃんが、
わぁいとテーブルまでを歩み寄る。
グリーンアスパラを薄切り牛肉で巻いて焼き、
照り焼き風甘辛の煮汁でつけ焼きにした巻き焼きは
野菜が二の次になりがちなルフィさんに
何とかアスパラガスだけでも食べさせたくてと、
お隣の小野寺さんちの奥さんから教わった必殺の旨メニュー。
陽のあるうちちょっと気温が高かったので、
春雨と錦糸卵とハムにキュウリも細切りで形を揃えた甘酢の酢の物も添えて。
主菜のもう一皿には

 「あ、あゆの唐揚げだvv」
 「おうよ。チョッパーがくれはさんからの差し入れだって持ってきた。」

くれはさんというのは天界の南の宮を守護する天使長様の名前で、
ということは、天界の鮎であるらしく。

 「くれはさんも塩焼きが美味いんだがねぇって言ってたんだがな。」
 「え〜〜〜?」

唐揚げなら何とか美味いと食べてくれるルフィさんだが
塩焼きだと苦手であるらしく。
いかにも駄々っ子のお顔になっての“え〜〜〜?”が出るところは判りやすい。
一応はと用意した野菜もの、パリッと張りのあるレタスに、
切り口のエッジもくっきり、瑞々しいトマトときゅうりのサラダには、
サンジさん伝授のオーロラドレッシングがかかってて。

 「生野菜もちっとは食えよ?」
 「おーすvv」

庭に街にとあふれる緑や
朝の街路を縫うように巡る風にも季節を感じはするけれど。
まだまだ色気より食い気の坊ちゃんには
食べるものでの季節感の方が判りやすいのかもしれぬ。
そろそろタコやハモの季節でもあるなぁなんて、
実はサンジさんの受け売りを呟く破邪殿へ、
あ、だったら俺、たこ焼きが食いたいと
御馳走にぱくつきつつ早くも明日のメニューに胸躍らせるルフィであり。
世間様を騒がす色々な事故や事件も、
彼らにのみ縁の深い妖異のざわつきもどこ吹く風と、
今は平和にご馳走談議で頭がいっぱい、
共に在ることへの幸せもめいっぱい頬張ってる二人なようです。





 ◇おまけ◇


「そうなんだよな、
 そんなに魚が嫌いってんじゃねぇんだ。ただ小骨とかめんどいからよ」
【 みゃんにゃうみぃ】
「そかー。久蔵は骨は平気なんか。」
【 みゅう・まうvv】
「あ、今胸張ったな、こいつめ。
 勘兵衛さんも小骨は苦手で箸つけねって?
 あ、でも、確かお前もさんまの腹の苦いの苦手だったよな。」
【 みゅ…。】
「じゃあアユの塩焼き、久蔵も全部食えるのか?」
【 うにゅ〜〜。】
「やっぱりな。苦いとこは残すんだ。」
【 にゃうにゃう、まうにぃ。】
「だよなぁ、
 なんで大人はわざわざ不味いとこまで食って、
 それをえばるんだろな。」

仔猫と坊やの無邪気なおしゃべりに、
すぐ傍らで声をこらえて必死で吹き出すまいとしている大人が約一名。

 「…七郎次、我慢せずとも笑えばよかろう。」
 「〜〜〜〜。/////」








    〜Fine〜  16.05.22.


 *おまけが久々過ぎてわけ判らないかもですね、すいません。
  別のお部屋とのコラボ以来、
  時たま猫相手に電話してるルフィさんというウチ独自の設定です。
  ちなみにもーりんも、
  サンマのはらわたとかウニとかカニみそは何が美味いのか判りません。

ご感想はこちら めるふぉvv

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