天上の海・掌中の星

     “そういや梅雨だったっけ”



なんか最近、ワイドショー観てっと、記者会見が多いんで飽きちゃったな、
今はやりのスイーツとか、話題になってるリズムネタの芸人とか、
そういう話ってのは ちいとも扱われてねぇんだな、と。
リビングのソファーの上、
足元ごと上げての膝を立てての半跏の姿勢という
行儀がいいんだか悪いんだかな座り方をしていたルフィが
憮然としたままリモコンを放り出すと食傷気味な声を出す。

 「ワイドショーってのはこういうもんだろが。」

平日の昼間、坊ちゃんが高校に行ってる間の留守を守る破邪様としては、
芸能人の熱愛や不倫にも 男女関係がこじれた末の殺人事件にも関心は向かぬが、
それこそ腕白坊やが口にしたイマドキのスイーツのネタとか扱ってねぇかと
料理のコーナーだけチラ見することはあるようで。

 “まあ、こいつがこういうのを目にするのって、
  試験前とか夏休み春休みくらいのもんだしな。”

そして、さすがにテレビ局の方でも多少の配慮はするものか、
そういう時期にはペット特集だのご当地グルメだの、
ちょっとほのぼのしたお子様向けの特集を組み、
それで尺が縮んだ分、あまりにもえげつないネタはぶち込まぬ。
日頃からも部活がない時は出来るだけ早く帰ってくる
この歳で珍しい“伝書バト”状態のルフィさんだが、
まま、その点への言及は今更で。

 『ゾロが退屈してねぇかって思うから早く帰ってくるんだ』と

一縷の照れもないまま胸張って言い切る彼なので。
そして、その実、ご本人が早く傍に居たくなるからだなんて付け足しもしかねぬので、
訊いた側が面食らうか照れるかするだけ…なのも相変わらずなのだけど。(ひゅーひゅーvv)

 “…っ

ツッコんでも無駄だと触れないが、
意味なく上から冷やかされるのは承服しかねるか。
場外へぎろりと大妖を射殺すときの眼差しを送って来てから。

 「それにしてもお前、ここんとこは毎日早くねぇか?」

新学期のドタバタはさすがに落ち着いたろうし、GWのワクワクももはや遠く。
部への新しい顔ぶれへもお互いに馴染んだ頃だろうし、

 「中間テストも終わったし、交流戦とか練習試合もないから暇なんだよな。」

だから、授業終わったらそのまま帰って来てんだと、
にししとやたらご機嫌さんに笑うルフィなのへ。
本気で機嫌がいいらしい良い笑顔なのへと見とれて目許が和んだのもいっとき、

 「…いや待て待て、確かこの時期といや、
  インターハイとかいうのへの予選とかなかったか?」

おやつだぞと運んできた、白が基調の皿を
このお兄さんには微妙に珍しいかもな構図、
どこぞのカフェのギャルソンよろしく、
優雅に水平に保ちつつローテーブルへことりとおいてから、
そこんところがなんか違和感あるんだがと、一応聞いてみたところ、

 「おう。予選はあるぞ。」
 「じゃあ練習もあるんじゃねぇのか?」

このルフィさん、決して怠惰な無精者とかじゃあなくて。
気に入りなものへは全力でかかる現金な努力家でもあり、
部活で所属している柔道は朝練から放課後の乱取りまで、
他の部員がお助けと音を上げるほど頑張るはずで。
ふっかふかのシフォンケーキ、
生クリームたっぷり、
マンゴーソースとビワのコンフィチュール添え、という、
なかなかに華やかな逸品1ホールへ。
何処から挑んでやろうかと迷いフォークをしたのも一瞬、
結局はセオリーにのっとって
右側から30度ほど切り取ってあぐりと頬張る豪快さよ。
最初の一口をそうやって堪能してから、

 「練習はあるけどよ、
  俺はどっちかってゆ―とさっさと帰れってゆわれてんだな、これが。」

 「???」

かつては主将を引き受けないことを何でだと不思議がられ、
引き受けるための対戦なんていうややこしい構えまで取られたほどに、
部からも定住、もとえ、常駐していてほしがられてなかったかと
そんな鞘当てのそもそもの火種でもある存在、
ややこしい言い方は止せと、再びこっちを睨んで来た破邪様が怪訝そうに眉をしかめたのへ、

 「だから。
  他の部への助っ人に駆り出されたらまずいってことで。」
 「…おや。」

高校総体は7月の末から8月に催される、高校生たちの一大スポーツイベントで、
それへと出場できるのは、競技にもよるが都道府県1つにつき1校のみ。
(競技人口の多い北海道や東京などから2校選出となる例外スポーツもある)

 「ちゃんと半年以上在籍してることとか、きっちり決まりごとがあるはずなんだけどな。
  それでも部員数が足りないとことか、普段から顔出してるサッカー部とか、
  強かった3年がごそっと抜けたレスリング部とかから、
  どこまで本気かこっちでも出てくれよって声がかかっててさ。」

大きめに切り分けちゃああんぐりと開けた口へとねじ込んだケーキ、
まぐ・もぎゅ、美味しそうに堪能しつつ、

 「それへつられて試合に出た俺が
  予選を通過したらばややこしいことになるからって。」

他に獲られまいと見込まれているのだか、
それとも浅慮なところを間接的に案じられているのだか。
そういう事情から、
万が一にも声をかけられないよう、
とっとと帰宅しろと尻を叩かれているほどなのだとか。

 「俺だってそんくらいの分別はあるぞっての。」

失敬なとぷんすか怒りつつ、
でもでもそれとこれとは別物か、

 「うめ〜vv これ、お代わりあんのか?」

余程美味しかったらしく、年頃のお嬢さんならカットされた一切れでも我慢するもの、
お代わりなどと訊く方も訊く方なら、

 「ビワとマンゴーが スイカとアンデスメロンVer.になるが構わんか?」

 「おう!」

あるんだから世話がない。(笑)
そろそろ梅雨らしい空模様になりそうな曇天を帰ってきたことへも気がつかぬまま、
2ホール目のケーキの登場に、わあと拍手を送る平和な二人だったの、
窓の外をついっと駆け抜けたツバメがくすすと微笑ったようですvv






    〜Fine〜  16.06.13.


 *このシリーズのゾロさんは、
  サンジさんに追いつけ追い越せでどんどん料理上手になってますが、
  時々、これでいいのかなぁと考えなくもない…ま・いっか。

ご感想はこちら めるふぉvv

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