天上の海・掌中の星

     “寒い寒い寒い”


今年の冬至は12月の21日。
毎年大体クリスマスの直前辺りで、
一年の内 一番 昼が短いとされるが、
そこから以降の陽のある時間帯、伸びるのは夕方側ばっかりで、
明け方はまだまだどんどん遅くなる。
妙な言い方になっているが、早起きさんにはピンと来るかも。
ここから立春辺りまでは、朝はなかなか開けなくて、
早起きのお仕事をなさる方々には 殊更に寒さがきつくて大変な、
所謂“厳寒期”に入るわけで。

 “何を来月の話なんかしてんだよ。”

そんな話をしていたら鬼が笑うぞなんて、
いろいろと突っ込みどころ満載な言いようを胸の内にてこぼしつつ。
まだ薄手ではあるが、それでも襟元にストールを巻いていて。
それプラス、たかたか翔っているから体が温まってのことか、鼻をぐすぐす言わせつつ。
もうすっかりと陽も暮れたご町内、真っ暗な道を急ぎ足で進むのは、
今日は試験前の最後の部活があったの、堪能してからご帰宅中のルフィさん。
ああ、耳も寒いな、鼻も冷たいかも。
手袋はまだ早いってなんて言ってたけど、
登校中、駅の階段の手すりを掴んだら結構冷たくてギョッとした。
そういや女子がハンドクリームとか使い始めてて、
リップクリームまではいいけど色付きは没収とか言われて怒ってたな。
手がガサガサんなって割れたら痛いのは困るけど口はあんま構わねぇな。
時々薄皮が気になって食っちまうことがあるけど、
そんなしてるともっと荒れるぞって、メッて怒ってたのはサンジだったっけかな?

 …なんて、取り止めのないことをば ぐるぐると
 頭の中にて巡らせていたのは

自分の素早さで風が起きるすんでというほどの速足で、
でも駆け出しはしない歩きようにて道を急いでいるのは、
走り出すとそれが切っ掛けになって相手に牙を剥かれるかもと案じたから。
出来ることならやり過ごしたい。
怖いとか痛い想いするのはヤだとかいう前に、

 “だって面倒だからなぁ。”

何というのか、もうすっかりと手慣れてきたといいますか。
ふと間近に居たのへ気づいた“相手”の、
格というか、ランク、等級というかが何となく判るようになっており。
殺気が重すぎて身が凍ってしまうような、
そんな揮発性の高いのとかなら、隙を見せるまいと何かと覚悟もするところだが、

 “人間の子供相手に、様子伺いしてる程度じゃあなぁ。”

そんな小物には構わないのが無難。
夕暮れ時の冴えかえる寒さに気を取られる振りに紛れさせ、
ただただ家路を急ぐのみだと。
気づいちゃいるけど知らんぷりを決め込んで、
つるんとした夜気の迫る中、たったか急ぎ足でお家を目指しているわけで。

 “あー。急がねぇとゾロも待ってるかもだしな。”

寒かったらというリクエストをしたので、間違いなく今夜のメニューは大好物に違いなく。
だったら尚更、早く帰らにゃ、出来立てを食べ損ねっちまう…と。
ひたすらお気楽なことを思っている失礼っぷりが伝わってしまったか。

 《 きさま、逃げられると思うてか。》

風もないのに道なりに植えられた生垣の山茶花がざざんと波打ち、
冷たい夜気に鋭角な何かが躍り込む。
ハッとして立ち止まったルフィの鼻先、ひゅんっと通り抜けていった何かがあって。

「げっ。」

薄い氷のような、それでいて山茶花の枝がざっくりと抉られたところを見ると

 “おお、結構 実力あったんじゃん。”

実在するものを裂くことが出来るとは、侮っていてすまんすまんと、
その態度もまた十分 舐めてませんかという驚きよう。
大きめのお目々をますますと見張ってみせるルフィだったのを、どう解釈したものか。

 《 きさまの霊力、食らいつくしてくれるわ。》

天からのような、それでいてすぐ間近からのような声がして、
立ち止まったルフィのその身の周囲を巡るように、
不自然な風が起こったそのまま吹き抜け始める。
しまったな、これはと思いつつ、

 「…………、…vv」

襟元に巻いたストールへ顎先を埋めていたその口許が、
微妙に微妙にほころんだところを見ると。
そしてそして、
するりと持ち上げた両手のうち、片方の手首をもう片やの手で掴み締め、
何かの変身ポーズめいた所作をしかかったところを見ると。
何やら企んだのがありありしている坊ちゃんだったのだけれども。

 「ちょぉっと待ちな。」

伸ばした腕とそれを支える介添えの手と。
足元もやや開いて腰を決め、
結構決まったポーズを取って、さあ行くぞとなだれ込みかけたそんな間合いへ、
斜め上辺りから掛けられた声があり。

 え?、と

ルフィのみならず、襲い掛かりかけていた存在も、
何やら不意を突かれたらしい “なになになに?”という雰囲気の
大きな狼狽えようが伝わったかと思うまもなく。

  ひゅっ・か、と

薄暗がりごと引き裂くような剣戟が降りそそぎ、
あれまあと立ち尽くすルフィの肩から、
斜め掛けにしていたバッグを横取りする手が現れる。

「ほら、帰ぇるぞ。」
「ゾロ。」

ドリア食いたいって言ってたくせに、帰って来るのに何を手古摺ってやがるかな、と。
オーブンのスイッチ入れる手前で作業を止めて待ってたらしい主夫殿が、
そんな家庭的な段取りの途中とは思えぬ姿、
精霊刀を片手に引っ提げ、坊やを迎えに来たらしく。

「大方、また例の楯を出すつもりだったんだろが。」
「だってよ。寒いから早く帰りたかったし。」

寒いのはかなわないよな、だったらとっとと俺を呼べと。
いつも通りのやり取りを交わしつつ、
一刀両断して塵となって果てた妖異には目もくれず、
寒いからという名目で、
ぎゅうぎゅうとくっついてくる坊やを半ば引っ張り上げるようにして。
大急ぎで夕ご飯の待つお家へ帰る、
当人たちはこれでもほのぼの仲良しなつもりの、
史上最強、無敵な二人連れだったのでした。






    〜Fine〜   16.11.27.


 *いやぁ、急に寒くなってまいりましたね。
  だっていうのに野菜が高いので、まだまともな鍋物を食べてません。
  (おでんと煮込みうどんは冬でなくても作るのでノーカウント。)
  今年は大根も高いので、みぞれ鍋なんてとんでもない。
  野菜が苦手なお子さまには持って来いかもですが、
  やっぱり鍋と言ったら白菜たっぷりじゃないとねぇ。

  「何の話をしてやがるかな。」
  「まあまあ。ほらソロ、早くドリア焼いてくれvv」
  「おうさ。」

  ご馳走さまです♪

ご感想はこちら めるふぉvv

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