天上の海・掌中の星

     “聖なる降誕祭ではあれど”




  どうせクリスチャンはいないのだしと、
  当家では数年前からそういう順番の催し日であり。


師走に入る直前から、急に大寒波が押し寄せて、
北国でも例年にはなかったほど早い積雪を記録。
このところは暖冬傾向で始まってたものが、
今年はその冒頭が物凄くフライングした冬だった。
鼻の頭や耳朶がじんじんするほど寒くって、
頬は突っ張り、吐息は真っ白。
ダウンやマフラーや手套を慌てて出したほどだったけれど、
クリスマスを直前にした数日は、不意にその寒波も和らいで。
陽が落ちるのが早くなった宵、
ご近所の家々が門や前庭に飾っておいでのイルミネーション、
のんびり眺めて帰ってこられる余裕が出来たほど。

 「本多さんチは今年も凄いなぁ。」
 「おお、サンタがお辞儀してたぞvv」

暖色のLEDライトを使ったモチーフのサンタが、
ゆっくりとお辞儀をする工夫がされていたご近所のお庭、
買い物帰りに門扉から覗いて
“わあ凄い”と歓声を上げかけたらしいちびっ子たちが帰って来たようで。
何の、当家だって飾りつけはなかなかのもの。
お外に向けては玄関のリースくらいだが、
リビングにはお子様たちより背が高い緑のツリーをでんと置き、
星やらねじ巻き飴みたいなステッキやら、
天使の人形にサテンのリボン、
ピカピカのグラスボールに教会を模した小さなおウチ、
金銀のモールなどなどが飾られていて。
それらの間を縫うように巡らされた豆粒みたいなライトがちかちかと点滅中。
壁やカーテンレールには、
カラフルな紙テープをリボンに見立てたループ飾りが
女の子のネックレスみたいに二重三重にされて下がっており。
お外で待ち合わせた小さな坊やが、当家の坊ちゃんに手を引かれて入って来て、
“わぁあvv”と、それは素直に大きく目を見開いて驚いておいで。

「凄いな、キラキラだぞvv 天巌宮にもこんな木はないぞvv」
「そだな。雪の季節はこういうのが一本は欲しいよな。」

彼らの住まいでもある天聖世界の北の宮は、
冬の豪雪や厳寒をつかさどってもいるので、
わざわざ構えずともクリスマスらしい風景が見渡せて。
そんな中にこういうのが一本紛れてたら退屈しねぇわなと、
次の当主様でもある金髪のシェフ殿が
ギャルソン風のエプロン姿でキッチンから合いの手を出せば、

「あの頑固な爺さんが許すのかよ、それ。」

堅物筆頭、宮の名のまんまの現当主を思い浮かべたらしい破邪様が呆れたが、

「何の、母上がねだれば案外ちょろいぞ?」
「ああ、それはなぁ。」

魔物封じの人柱にされていた、永の呪縛から解き放たれてもどって来た美しい母御。
そんな彼女を娘とするぜフ様は、存外甘いぞと苦笑するサンジへ、

「じゃあ、それを飾りつけるときはオレも呼んでくれ♪」

ルフィがマフラーをもだもだと解きつつ、そんなリクエストをはしゃぎもって口にする。
本来は足を運ぶのももってのほかの“人間”だが
唯一、生きたままで遊びに来ていいと許諾されている“英雄”さんだからで、

「そうさな、ルフィもねだれば誰も断らねぇぞ。」
「言えてるな。」

サーモンとサワークリームのカナッペに、
赤く茹で上がったエビをトッピングした、アボカドと生ハムの前菜風。
カリカリに焼いたスライスバゲットには
星形に飾り切りしたニンジンが可愛いポテトサラダを添えて。
ベーコンやコーンにトマトとルッコラ、いろいろ乗っかったお手製ピザに、
大きなエビフライにサクサクのヘレカツ。
でっかいヒラメのスパイシーな唐揚げに、
忘れちゃいけません、骨つき鶏ももの照り焼きもあり。
イチゴやオレンジ、リンゴにメロンにマスカットなどなどのフルーツを投じた
真っ赤なサワーパンチのガラス鉢もキラキラと華やぐテーブルへ、

「さあ、真ん中開けろよ。」
「わあvv」
「ひゃぁあvv」

最後に堂々と登場したのが
生クリームでデコレーションされた、大きな純白のケーキ様。
薔薇やらなみなみやら、巧みなデコレーションこそしてあるし、
フルーツもアクセントにと載っているが、肝心なオーナメントというかプレートはなく。
そこへとルフィが取り出したのが、

「じゃじゃ〜んvv」

ハガキくらいはありそうな、チョコレート製のプレートだ。
作ろうと思えばサンジにだって作れるものだが、
わざわざクリスマスケーキだらけのケーキ屋さんで発注したのが
悪戯っぽくていいと、ルフィが言い張って特注したもので。
アンゼリカやアラザンで華麗に飾られており、

「包んでくれたおねいさんが、
 これはおまけですってバースデイのろうそくとサンタの人形つけてくれてサ。」

サンタの方がおまけってのが、ウチらしくていいなって、
何か笑えたと、一緒に受け取りに入った小さなトナカイさんとお顔を見合わせる。
いつぞやの夏祭りの時のよに、
一晩だけのおまじない、人の子に見えるようにという術を掛けてもらったチョッパーも、
商店街の賑わいを、時々お口をぱかりと開きつつ観て来れて。
ガラガラっていうくじ引きも回してきたぞ、
アイスクリームとシャンパンってゆうのが当たったぞと、
キッチンに置いてきた小箱とこじゃれたボトルを振り返る。

「さあ、それじゃあさっそく始めるか。」
「おお♪」

世間様はキリストさまの生まれた日であるクリスマスに沸く日だが、
当家のこの日はちょっと違う。
小さなトナカイさんの誕生日を祝って。

  
HAPPY BIRTHDAY! TO TONY TONY CHOPPER!





    〜Fine〜   17.12.25.


 *この日だけは間に合わないと負けた気がしたので、突貫ですが頑張りました。
  おめでとう、チョッパーvv

ご感想はこちら めるふぉvv

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