天上の海・掌中の星

     “特別な日なのに”



吹き付ける寒風は、強さもあってのこと、それ自体が針を含んだ凶器のような代物で。
素肌に受けたなら僅かな水分にまといつき、そのまま凍りつくに違いなかろうほど凶悪だ。
木々の隙間を縫って吹く北風と、
大地など跡形もなく塗りつぶされてのうずたかく降り積もった雪に
足の運びと痩躯をくぎ付けにされつつも、
半分は意地があっての強行軍、その足は一刻だって止まることはない。
辺りはまだ夜ではないので暗くはないが、重苦しい雪雲が垂れ込めていて鬱陶しいことこの上ない。
大体、この時期は此処の住人も慣れたもので外になんざまずは出ない。
下手を打てば凍死は間違いないからで、慣れた場所への道だって雪に埋もれていて目印もおぼつかぬ。
なので、外に出ずとも生活できるよう、食料や水など生活資材を蓄える知恵も持っているし、
小さな家庭は集落で集まって大きな屋敷で共同生活となるのもざら。
そういう地域と判っていたが、今日はどうしても会わなきゃならない。
というか、何でまた出かけているのだ今日に限ってと、
忌々しさからの舌打ちが出る。
膝どころか腿まで、所によっちゃあ腰まで埋まりつつ、
樹氷と化した木々の狭間をじりじりと進軍する。
疾風にあおられる前髪が邪魔で、細い眉寄せ首をぶるんと振って、
憤懣が重々蓄積しきった貌できっと空を見上げると、

 「あんのクソ爺〜〜っ、どーこ行きやがったぁ!!」

吹雪に負けじと怒声を張り上げた、金髪痩躯の天巌宮の跡取りだった。




一方、此処は清かな風の吹く楽園。
まるで絹の領布がたなびいているかのように、やさしく温かな風が吹き、
これで“冬”であり、此処の住人にしてみれば、冬の装備をしないと風邪をひくというのだから
どれほど生ぬるい場所かとため息がこぼれる。
いやいや、今はそれはどうでもいい。
障害物もさしてなく、これならすぐにも見つかろうと思ったところが、

 『え? こちらにはいらしてませんよ?』
 『そうですね、東の花畑では。』
 『いいえぇ、此処は朝から整備のお達しがあって関係者以外は。』
 『執務室の方は確かめられたのですか?』

行って来たから言ってんだと応じたら、
あらまあとおっとり笑われた。
悪気はなかろう、ほのぼのしたそれだったが、こちとら急ぎだイラッとした。
どうにもなんだか、この土地の空気は肌に合わない。
自分がそうまで殺伐としているからか、いやいやそんなことはない。
最近は随分とおっとりして来たぞ。
平和な生活に親しみすぎて、
太刀捌きがなまってないかの方が心配なくらいだ。
…まあ、結構頻繁に切ったはったしているから、それはないかとも思うけど。
それにしたってと、慇懃無礼にさえ感じられよう周囲のほのぼのモードが腹に据えかねる。

 「俺はこんなところでぼやぼやしてられねんだよ、ごろあっ
  とっとと出て来やがれ、くそアマがぁ!!」



そんなこんなと同じ頃合い、
こちらはなかなか溌剌とした日差しが照り付け、
白く乾いた砂浜を腕へコートやマフラーなどなど抱えたまま、
少年がとぼとぼと歩いている。
こうまで気候が違うとは思わなかったし、
これでも少なかった冬装備だが、到底着てなんかいられない。
波打ち際に点々と連なるは少年の残した足跡で、
片側全面に広がる海…に見えるが実は大きな湖へ、
ふうとため息つくと視線を投げ遣る。
実は金づちなので、水遊びはプールが限度。
海に見えるほどなこんなでかさの水たまりになぞ、
連れもないまま入れるものか…という判断力くらいはある。
それでなくとも様々な妖異に絡まれる身だけに、
こんないかにも自然環境の地、どんな精霊や魔獣が居るか見当もつかぬ。
しかもしかも、この領域は聖獣や魔獣が他より多く居る聖宮だ。
向こうは単なるちょっかい掛けかも知れないが、
お遊びで水の底まで引き込まれては洒落にならぬ。
帰れるものなら帰りたいし、それが出来ない身じゃあないが、
そうはいかない訪問なのであり、

 「クッソぉ〜。くれはの婆さん、どこだ〜〜〜っ!」
 「誰がババアだと、このクソガキ。」

そりゃあ間のいいタイミングで、そんな返事がし、そのままどかんと背中を蹴られた。
一応は加減してくれたらしかったが、陽に晒されまくりな白砂へと顔から倒れ込んだため、

 「熱っち〜〜〜〜っ!!!」

熱い熱いと飛び跳ねて大騒ぎをし、
波打ち際まで駆けてって顔をつけ、はあと息をついたのも束の間、
今度はでっかいランチュウみたいな魚妖が宙を泳いで(?)きたのにシャツの襟首を咥えられ、
ぽーいっと宙へ飛ばされ、そのまま何匹…何頭?かの間でキャッチボールもどきをされる始末。

 「だあ、やめろってば、こらっ。」
 「そんな楽しそうに言っても説得力がないよ、小僧。」

ひゃっひゃと笑っているのだから、確かに困ってはない様子だが、
そんなルフィを愉快そうに見上げたへそ出しスタイルの豪快な女医こと、
天炎宮の天使長、ドクターくれはへ、

 「いやホントに、こんなしてる場合じゃないんだって。
  くれはの婆ちゃん、チョッパー知らねぇか?」

このお人にお婆さん呼ばわりして通るのは、天地天界どこにもいない。
但し、この腕白小僧を除いての、ルフィ坊やが尋ねれば、

 「ああ、あの子ならとっくにあんたんちに降りてってるが。」
 「ええ〜〜〜?」

何でも誕生日の宴を開いてくれるんだろう?
毎年仲間外れにされているのが詰まらないと、
東の天雨宮の小娘が天巌宮のゼフと何やらこそこそしていたがと
そこまで聞いたところで、
用意が出来るまでチョッパーと遊んでてくれと言われただけなルフィには
あとの二人がどうなっているかまでは判らない。
特別なケーキに要りようなバニラエッセンスが樽ごと空になっていて、
倉庫の鍵はサンジの祖父にして北の天使長のゼフが持ってるという事情も、
虹色綿あめに使う七色の甘かずらは東の天使長が管理しているので、
それを採取する許可を貰いに行って迷子になってる誰かさんだということも。
そのまま くれはに連れられて戻った自分チで、
とうに準備が整っていたご馳走とナミに着飾らせられてたチョッパーと合流。
通辞伝信にて

 【何迷子になってんだすっとこどっこい】と怒鳴られ、

嵌めやがったなと半分怒りつつ二人が戻って来るまであと数分。
嬉しそうにはしゃぐ小さなトナカイさんを前にしたらば、
揶揄われた格好のゾロもサンジもしょうがないかと柳眉を下げよう。
何はともあれ、


   
Happy Birthday,Tony Tony Chopper!!







    〜Fine〜   18.12.25.


 *ああああ、一日遅刻した〜〜〜〜。ごめんねチョッパー。
  この日だけはクリスマスに負けるかと頑張ってたのにぃ。
  小さな船医さん、ワノクニでは大変だろうなぁ。
  またぞろ怪我人だらけになろうし、もしかして武器のメインは刃物な気がするぞ。
  頑張れ〜、キミは麦わら海賊団の良心だvv

ご感想はこちらvv めるふぉvv

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