天上の海・掌中の星

     “そういう日 〜にゃんこの日篇”


部活だけだった学校からの帰り道。
JRの駅前の商店街を通って
街道筋から外れる格好で、住宅街へと入ってしばらく歩んだ辺り。
月極駐車場の金網フェンスが終わって、それを引き継ぐように現れる、
本多さんチのご隠居が丹精している山茶花の生け垣の足元に、
鮮赤色の花びらが散って敷き詰められたようになっている中、
ぽあぽあした柔らからかそうな毛並みの仔猫がいた。
日当たりもいいし、今日は極寒続きだった二月にしてはなかなか気温も高く、
なので日向ぼっこだというのなら特に不審はない構図だが、
その仔猫自体がある意味で異質なのが問題で。

 「キャラメル色のメインクーン、だもんなぁ。」

野良に絶対いないとは言わないし、雑種ならありかも知れぬ。
とはいえ、その毛並みはすこぶるつきに綺麗で綿毛のごとくふわっふわ。
このところの雨や雪が続いた気候をかんがみるに、
こんなにも幼い仔猫がその毛並みをもつれさせもせずのきれいなまま、
やや段差があったところからぴょいと飛び降り、
したたたっと駆けてくるほどに、元気元気で健やかに過ごせるはずもなく。
よく似ていることから
近年話題の“ノルウェージャンフォレストキャット”と混同されることがある、
アメリカ産の長毛種の猫。
広いアメリカの特に冬の寒さが厳しいニューイングランドで飼われているうちに淘汰され、
こういう種となったためで。
そんな生活環境が似ているからこその類似と思われ、
ちなみに見分け方は、耳の先に飾り毛のある方がメインクーンだそうな。(あと鼻筋のカーブ)
アメリカといや、一世を風靡した“アメショ”ことアメリカンショートヘアとされがちだが、
それは日本で先に人気を博したからのこと。
こちらのかわい子ちゃんも
原種は欧州から渡って来た子でのちに進化したという点ではその起源にさほど違いはない。
大人になると世界一大きいと言われている猫種だが、
仔猫のうちはそんなの想像がつかぬほどに小さく、
しかも長毛種ならではな特徴からそれはふわふかな毛並みが愛らしい。

「小さいうちはそんな大きくなるとは知らなんだといや、
 ミドリガメとかカイマンワニだよな。」
「……。(#)」

あ、怒ったか?と伝わったのは、その大きめの耳がひくりと震えたから。
耳が大きくピンと立っており、また胸元の綿毛もそういうブラウスを想起させ、
手足の先が白い子が多いところなぞ、
どこもかしこもまだまだ寸足らずな幼子なのに、
手套込みでフォーマルな衣装を隙なく着こなしているようにも見えるから尚可愛い。
そんなチビ助へ、身をかがめて駆けてくるのを待ってやれば、
にあんと鈴を転がすような声で鳴き、
最後の一歩を大きめに見越したそのまま、ルフィの懐へ飛びついて来た。

 「おおう。」

抱き着いたなり、まだまだ短い四肢を引っかけてぴょいぴょいと跳ねるよに昇って来たのを、
身軽だなぁと感心しつつルフィがそろりと立ち上がったのと、

 「…っ。」

上り詰めたかどうかという間合い、仔猫だったものが何かの気配にサッと反応し、
その身の寸が一瞬で伸びた。
目にも留まらなんだ素早さで青年の姿へ変わっていて、
自分より小さくなった少年を懐に庇ったまま、
厚絹の導師服の背に負う太刀を、数十センチほど抜いて盾にする対処は鮮やかだし手慣れたもので。
言わずもがな、背後からの殺気への対応であり、
がきぃんと金属同士が激しくかみ合ったよな音が鳴り響いたものの、

 「ゾロ、キュウゾウがいなかったら俺が斬られてたんか、それ。」

今日は買い食いの寄り道してねぇぞと、
もう一方の腕に掻い込まれたまま、もごもごと不平をこぼす坊ちゃんの言いようへか、
いやいやそんな風に見事に庇ってしまった、
珍しい遠方からの客人の練達ぶりへの不満からだろう。
日頃からも武骨で恐持てなご面相を、何割か増しでしかめたまま、
金髪痩躯な青年の背を袈裟懸けに切ろうとした太刀を引っ込める。

 「精霊刀が斬るのは妖しだけだ。」
 「うん。それはそうなんだけどな。」

その解説をキュウゾウがするのはどうかと、と。
彼やゾロに比べりゃあまだまだ幼いが故、胴回りが細っこい自分と
そこだけはあまり変わらない相手の痩躯にへばりついたままのルフィさん。
彼ら“異界”の存在との付き合いも長いのだ、そのくらいは知っているし、
何よりそれで斬られかかった標的本人が、
お前は案じるな、こやつもお前を斬ろうとはしてないしなんて、

 「庇われるよな説明繰り出されてもなぁ♪」

異界の気配を感じてか、その探査のエキスパートである聖封ことサンジまでが通りへと現れる。
危急と嗅ぎ取って次界跳躍で飛んできたか、
いやさ、これを“危急”と解釈したのは間違いなく破邪さんのほうなんだろうなと、

「にぁん。」
「おお、クロも一緒か。」

足元へスリスリと身を寄せて甘える、漆黒のやはり仔猫に気が付いて、
ルフィが楽ししそうに声を弾ませ、
そちらもまた、短い四肢を駆使してちょんちょんと登って来るのへ
制服にライトダウンを重ね着た姿の坊ちゃんが
くすぐったいとはしゃいだことで、何とはなく場の空気も緊張感は緩めたが、

 「…で?」
 「そうだそうだ、M区から二人だけで来たんか?」

仔猫たち、いや実は大妖狩りでもあるこの二人は、
常はM区在住のとある人間の家で飼われていて、
そことここは結構な距離がある。
こちらの破邪聖封コンビと違い、そうそう次界跳躍なぞという荒業は使わない彼らであり、
なのに何でこんな遠出を?と、
やっと少し弛んだ腕での拘束の中から、屈託ない声でルフィが問えば、

 「こちらに妖の気配があった。」
 「そっか?」

相変わらず語数が少ない金髪痩躯の大妖狩りさん。
ぼそぼそっという応じへ、
けったクソ悪いとしかめっ面のままな誰かさんを見やったルフィが、
その視線をサンジへ向け直し。
小首を傾げてのその視線へ、

「気が付かなんだというか、そうまで性急に対処せねばならぬ級のか?」

邪妖感知は自分が担当でもあって。
だが、心当たりはねぇなと、彼までもが眉をしかめる。
寡黙なお兄さんから“いい子いい子”と頭を撫でられるのをくすぐったいと笑いつつも、
話の流れにはちゃんと付いてっている

「あ、そうか。もしかして地霊関係か?」
「…。(頷)」

こっちの二人は原則、異界からの乱入者を仕留めるのがお役目だからなぁ。
なので、地つきのそういうのへはちょっと感度落としてるんだと、
そういうのに狙われてる張本人様が庇うような言い方をする。

「まあ、そういう順番だな。」

それを食ってしまって影響が出たというなら、こっち生まれの悪霊にも処断を下すが、
縁のない邪妖には進んで手を上げはしない。
其れもまた次界を満たす霊力や何やの均衡を崩すことになりかねないからで。
サンジがそういうこったと同意し、
ルフィの肩の上で大人しくしている仔猫がパチパチと瞬いたのは“ふ〜ん”という相槌か。

「けど、昼間は大変なんじゃあなかったか?」

陽の力の源である日輪が出ている間は、月から生じる生気で動く彼らには行動もきついはずで、
それもあって昼のうちは仔猫の姿でいるのだと聞いたのに。
異妖の気配があったにせよ、こんな遠くまでわざわざ出向くなんてと、
柔道坊やがこちらからも案じるような顔になったところ、

《それだがな。
  坊ちゃんの生気、霊力が無尽蔵なので、こうやって傍におるだけで充填されるのだよ。》

不思議なお声でそうと告げつつ、仔猫がルフィの頬へスリスリと頬擦りする。
所作のかわいさといい、姿自体もいかにも幼い仔猫なわりに、
そんな風に説く口調は大人のそれだが、
本体は二階屋の民家ほどもある大きい存在と知っているので、違和感はなく。
物知りなのも道理と、素直に納得し、

「そかーそれでオレ、やたら食われそうになるんだな。」

邪妖とか異妖とか、得体の知れないものに縁があるというだけでも尋常でないこと。
霊体が見えて、しかも手を掛けられよう立場だなんて、
震え上がった挙句、なかなか本物には辿り着けない霊媒師を探そうとか焦る手の話だというに、
参ったことだよなぁと苦笑をこぼしてそれだけというよな顔でいる。
きっと、筆舌に尽くしがたいあれやこれやを乗り越えてのことだろと
来訪者側の邪妖狩りの二人も思いはするが、それにしたって豪気な少年であり。

「そこいらの小者には食えぬ。」
「え?」

相変わらず、懐の中から離してくれないお兄さんが、そんな言いようをする。
見上げれば紅色の瞳がやや尖っていて、
日頃も冴えた印象の人だが、今はますますと切れるような空気をまとっており。

「腹ぁ壊すっていう意味だよ。」
「何だよそれ〜。」

サンジが苦笑をこぼしつつ告げた言へ、失敬だとぷんすこ怒るルフィ。
だがだが、そんな彼らを眺めやる、緑頭の破邪にだけは、双剣使いの真意も判っていて、

 “食うた腹の内から食われ返されて、特殊能力だけ吸われかねんかもだしな。”

そんな美味しい話を振ったら、ますますと喜んで敵の奇襲を待ちかねない困った和子。
頼むから今そうやっているように大人しく守られててくれと、
今ばかりは嫉妬も悋気も置いといて、そんな風に思った破邪様だったらしいです。




    〜Fine〜   18.2.22.


 *猫の日と来て、おサムライ様部屋のお客様と共に。
  中身のない突貫作品ですみません。
  何のこっちゃで混乱なさった方、“とある真夏のサプライズ♪”を参照してくださると幸いです。
  あと、“昨夜はハロインだったので”とか、“彼らの事情♪”とか…。
  封滅対象が微妙にずれている二組なので、
  こういう食い違いもあるようです。
  でも、ルフィちゃんへの
  かわいい子、尊いvvという把握は一緒。(笑)

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