天上の海・掌中の星

     “衣替え あるある”


今年はいつにもまして随分と駆け足な春だったようで。
西と東での格差もあったが、
それでも花見があっという間に終わったし。
五月に入ればもはや夏かという勢い、
雨の日も結構挟まったとはいえ、
春の装いはほとんど出番がないまま半袖の季節と相成ってるし。

「夏並みだ、暑い〜って言ってたのが、
 次の日にはコート何処にやったっけってなるのは毎年のことだけどさ。」

コートが要るほどじゃないけど何か羽織りたいっていう、
春ならではな急転直下な日って今年はあんまり無かったような気がすると。
高校生になっても子供体温なままじゃあないかと思わせる、
お元気満々な坊ちゃんが 時計代わりのリビングのテレビを見つつそう言って、

「そういや、出しといたカーディガン、結局一度も着てねぇよな。」

教科書や英和辞書を入れたデイバッグと別口、
お弁当だけでそこらの女子のメインの手鞄並みに大きくなってるサブバッグへ
一応の飲み物、ステンレスの水筒を突っ込みつつ、
当家の主夫、兼 邪妖封滅のエキスパートな守護殿が、精悍なお顔でそういやぁと宙を仰ぐ。
それへ にひゃっと笑い、

「おお。寒いときゃあ ぐんと寒かったからな。」

冷えた日は朝から寒くて、カーディガンの重ね着どころじゃ間に合わぬと、
制服の上からコート羽織ったり、そこまで行かずとも厚手のパーカーを重ね着したり。
そういう日もあるにはあったので、
尚のこと、要るだろうからと出しといたのに、
防虫剤臭いのはいやだろうと洗いもしといたのに、

「まだ着てねぇよなぁ。」

子供部屋の鴨居のところ、ハンガーに掛けっぱなしで
もはやインテリアになりかかっとらんかという方向で暗に訊けば、

「梅雨に入っても着ねぇかもな。」

からりとしたお声でそんなお言いようが返って来て。
親の心子知らずとはこのことか。
まま、寒い思いをしないなら、
それどころか持ってったはいいが荷物になるようなら、
それも仕方なしかと吹っ切れようが、

「そうもすっぱり言われると、
 人の仕事を無にしやがってって気分になるのは、
 俺が親心をまだまだ未収得だからなのかなぁ。」

「なんの、坊主の前で憤懣発揮してねぇ辺りは合格だと思うぜ。」

今日も元気に学校へ向かったルフィさんを見送ってから、
中間考査終わったら弁当復活なんだなぁと、
早くもご訪問くださって
冷蔵庫に貼った6月の予定というプリントを眺めてござった金髪のシェフ殿へ、
ひゅんっと靴ベラ投げて来た相棒へ、
避けずにはっしと掴み取ってそれなりの感想を授けて差し上げる聖封様も大したもの。

「私の奉仕の心を踏みにじりおってぇと、てっぺん来たわけじゃあねぇんだろ?」
「そこまでは、さすがにな。」

まさかと肩をすくめ、遠慮が無くなったのはいいことだと大真面目に言い返す。
傍若無人、例外なく遠慮なしという態度は、
いかにも あの元気はつらつ小僧には相応しい腕白ぶりだと自分も思う破邪殿で。
ただ、

「しまった忘れ物した、持って来てくれないか…じゃあなく、
 ま・いっか、命にかかわる話じゃあなし何とかなるだろうなんて、
 以前 独りで飄々としていた感覚へ逆戻ったら問題だなぁとだな。」

「…俺は手前の過保護が加速してるのが問題だと思うぞ。」

そっかぁ、そっちの方向への案じが募ってたのかぁと。
朝刊からチラシを抜き取って、今日のお買い得はとメモし始める武骨な主夫殿へ、
俺が見守ってない間、
まさかとは思うが坊主の学校まで警戒エリアにして足を延ばしてなかろうなと、
相方の斜め上な進化へ
ついつい別口の杞憂を抱えてしまった聖封様だった衣替えの朝でございます。


  こういうの、破れ鍋に綴じ蓋っていうんですよね、ね? (笑)





    〜Fine〜   18.6.01


 *もーりんも今年はスプリングコート2回ほどしか着なかったし、
  そのどっちでも帰りは脱いでたような気がします。
  季節のお話、極端に短くってすいません。
  本誌はいよいよ“ワノクニ篇”突入なのでしょうか。
  四皇の一人が相手とはいえ、
  ビッグママ篇って何かすごく長かったなぁと。
  ミンク族のゾウに始まり、
  モモノスケの話とかサンジの実家とか、そりゃあ一杯詰め込まれてて。
  ワノクニも同じノリなのかと思うと、
  年寄りには記憶の限界への挑戦かも知れないと、今から戦戦兢兢です。

ご感想はこちら めるふぉvv

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