天上の海・掌中の星 “秋寂霜降”
 

 
 秋の国体は十月末の1週間ほど。陸上競技や各種の球技、それから、柔道や空手、合気道に薙刀といった武道まで。様々なスポーツを様々な年齢層が競う全国大会である。毎年開催地が持ち回りで入れ替わり、今年の開催地は静岡県。


 柔道は少年・青年・成人の部のそれぞれで、各階級別にトーナメントにての立ち合い試合が執り行われていて。少年の部の東京代表チームは残念ながら団体戦では初戦で敗退。だがだが、個人戦初日に登場した"軽量級"の代表くんは、切れの良い試合ぶりで快進撃。同い年の選手たちでありながら、もう既に全国レベルで名の知れた手練れの猛者たちを次々に…軽やかに投げ飛ばし、鮮やかに叩き伏せ。あっと言う間に決勝戦まで辿り着いていたから、これは近来稀に見るほどの大番狂わせで。


    『一体どこの道場の子だ? ○○館の子か? ××道場か?』
    『いえ、それが。普通の公立中学校の柔道部の子なんですよ。』
    『連盟のコンピューターで照会してみましたが、特に目立った戦歴もありませんし。』
    『全くの無名でここまで勝ち上がったのか? KくんやZくんを薙ぎ倒して?』
    『はい。それも、文句なしの一本勝ちが3試合。団体戦でも1勝しておりますから、勝数は…合わせ勝ちも含めて5戦5勝です。』


 これはまた、なんという逸物が埋もれていたことかと。柔道関係者である大人たちの慌てること慌てること。少年の部の軽量級…という中でも飛び切り小柄なその男の子は、中学3年生のルフィといって。さして挑発的でもなく、あくまでも元気一杯に。立ち合いの一つ一つをそれは楽しげにクリアして来た、ある意味で掴みどころのない、それはそれは強かそうな代表選手であった。そして、


  【少年の部、軽量級、決勝戦を執り行います。】


 場内放送がそうと告げ、場内は歓声に包まれる。応援団を率いて来た有力株の代表選手たちを、ことごとく蹴たぐり、投げ飛ばした小さな小さな無名の少年。そんなドラマチックな展開に、


    「ルフィく〜ん!」
    「行けぇ〜〜〜っ!」
    「頑張れ〜〜っ!」


 たった一日で"にわかファン"がたくさんついてしまった模様。大歓声に後押しされて、試合場に登場し、
「えへへぇ♪」
 真横に倒した人差し指で、鼻の下、ぐいっと擦ってから。観客席をちらっと見回したルフィ本人のお目当ては…というと、

  "…あ、いたっvv"

 アリーナ風の一階席の庇みたいに張り出した二階スタンド席の一番奥。その大きな手には隠れてしまいそうなハンディカムビデオを操作中の、上背のある頼もしいお兄さん。こっちからの視線に気づいたか、録画中の液晶モニター画面から目線を上げて、わずかほど口許をほころばせたから、
「…っ♪」
 それを見ただけでもう、元気百倍っ! 引率して来て下さった、都代表チームのコーチが"そら行け"と肩を叩いてくれて、
「両者、前へっ。」
 青々とした畳の上へ、ルフィは意気揚々と進み出た。色々な意味から とんでもない展開となった"少年の部"軽量級の決勝戦が、その波乱に決着をつけるべく、
「始めっ!」
 いよいよ、その幕を切って落とされたのである。








   ――― で。


   【少年の部、軽量級。優勝はモンキィ=D=ルフィくんです。】
おいおい


 これではあんまりにも早送りのし過ぎですね。試合の様子のところまで場面を巻き戻しましょう。(それもどうかと…。/笑)観客たちの大歓声に包まれた試合場は、だが、当事者である選手には…落ち着いてさえいれば、さほど大きなプレッシャーにはならないとかで。こうまで大きな大会には初めての出場であるにもかかわらず、ルフィもまた雰囲気に呑まれてはいなかった。それよりも、
『ひゃあ〜〜。』
 相手はやはり、この階級、この年齢層で既に全国へ名を馳せていた中学生チャンピオンだそうで。柔道部員ではあれど、あまりそういった事情には詳しくないルフィにしてみれば、
『こいつホントに俺と同い年なんだろか。』
 階級が同じなんだから体重はさほど変わらない筈だが、それにしたって…なかなか不貞々々しい面構えをした少年であり。坊主頭に鋭い眼光。手足の大きな、胸板の分厚い、いかにも"武道者"という雰囲気を孕んだ恐持てのする手合い。大きな大会にも慣れているらしく、落ち着き払った態度がなかなか決まっていて、
『…へへぇ?』
 これは手ごわそうな相手だなと肌合いから感じ取ったルフィも、わくわくと盛り上がっていた高揚感を何とか静めて、相手の所作へと集中する。
『…っ。』
 見た目だけだと、何だか随分と年の離れた小さい子との対峙なようで。これでは相手が気の毒かもしれないなと、液晶画面のズームアップを見やっていたゾロの口許に苦笑が浮かぶ。だが、さすがに…そんな些細な要素などをいちいち意に介すような人物でもない様子であり、ボクサーのような軽快なフットワークを見せながらも、じっとルフィの挙動を追い続ける鋭い目線には冷静な落ち着き。
"ありゃあ場数を相当に踏んでるぞ。"
 ゾロもまた、少年柔道界には全然詳しくないのだけれど、それでも一見してそれと分かる強豪。場慣れしている事から来る余裕が根底に据わった、一片の隙もない集中を感じさせる相手だ。一瞬の攻防で決まる柔道、この"集中"ほど大切な要素はなく、
"さて、どう出るかな?"
 ここまで5勝。そのうちの3つが一瞬で決めた"一本勝ち"だったルフィであり、団体戦は昨日だったとはいえ、それでも続けざまの試合を4つこなしている。一本勝ちの試合なら さほど体力の浪費はないように思われるかもしれないが、鋭く濃密な集中を一気に解き放つ訳だから、精神的な消耗の度合いは持久戦とあまり変わらない。とはいえ、
『♪♪♪』
 あくまでも楽しそうな表情を隠し切れずにいるルフィ坊やであり、彼なりのモチベーションにて対手を見据えていたその姿が、だが、
『…っ!』
 ふっという…正に一瞬のこと。誰も予期してはいなかったろう間合いのその刹那、ルフィの小さな体が相手の陰へと突っ込んでいた。対手の足の間の絶妙な深みへ、抜けない楔
くさびを打ち込むように、鋭く1歩を踏み入って。同時に体も斜ハスにしてすべり込ませ、両手で掴み取った前襟をぐいっと自分へ引き付けながら………っ!

   ――― わあぁっっ…! と。

 歓声が上がって、広い競技場館内の空気が"ぅわんっ"と膨らむ。あまりに素早い展開に、あまり"柔道"という競技を見慣れてはいないクチの観客たちには、何がどうなったのか、肉眼で詳細までは把握出来なかったに違いない。小さな体で相手を背負って、だが、そこを支点に投げたのではなく、横手へ引き倒した"内股"という技による一本勝ち。青々とした畳の上へ、尻から落ちた相手までがキョトンとしていたのへ、にひゃっと笑って見せて、
「お前、強いなぁ。隙が見つかんないから、半分くらいは力任せになっちまったぞ。」
 立てよと、小さな手を差し伸べる。何がどうなったのかが理解出来なくて呆気に取られていたものが、やっと我に返ったらしく。ああ…と頷いた相手の少年が、屈託のないルフィの笑顔に釣り込まれてか。ちょっとだけ困ったような、だが、こちらも晴れ晴れとした笑顔を見せて。白熱の決勝戦は、実に爽やかに終わりを告げた。






            ◇



「静岡って言ったら、富士山にお茶にミカンに…えとえっと。ワサビ漬とマグロ漁と、あ・そうそう、忘れちゃいけない『ちびまる子ちゃん』だ。」
 おいおい、いつから『ちびまる子ちゃん』が静岡の名産品になったんだい。
(笑)
「あとは…サッカー王国なんだよな。」
 まあ、東京在住の あんまりお勉強が好きではない中学生の知識ではこんなものかと。代表の皆で宿泊していた宿坊みたいな旅館ではなく、保護者であるゾロが滞在していた小じゃれたホテルの方へと遊びに来ていたルフィは、
『あ、でもお茶菓子は同じじゃんか。』
 大きな窓からの眺めも見事な、明るくて小綺麗な和室に据えられた座卓の中央、蓋のついた塗り椀にあった地元名産のお饅頭に素早く手を伸ばして、さっそく ぱくついて見せている。表彰式でいただいた大きなトロフィーを手に記念撮影をしたデジカメ画像を、ついさっき ルフィの携帯から海外の父上と兄上へメールで送ったばかり。携帯でも画像は撮れるのだが、綺麗なのが良いという父上直々のお達しがあったらしく。それで…デジカメでわざわざきちんと撮影したという訳で。簡素ながらも小ざっぱりとした室内を見回して、
「やっぱ個室の方が静かで落ち着くよな。」
 ルフィ坊やはそんな一丁前な言いようをする。人見知りするタイプではないので、あちこちの中学や道場から"東京都代表"が集められた少年の部チームの中、一番最初に 引率の先生からも皆からも名前を覚えられた"お天道様坊や"なのも相変わらずで。宿舎の広間でご飯も寝るのも皆と一緒くた。そんな扱いになって わいわい騒ぐのも、修学旅行みたいで楽しいけれど。
"………。"
 やっぱり何だか…物足りないというか。ふとした拍子、傍らにいないとあらためて感じては、それを薄ら寒く感じてしまうというか。何となく落ち着けなかった坊やだったらしくって。その対象である御仁はというと、
「今日、来たのか? ゾロ。」
「まあな。」
 座卓の向こうで、いつもと変わらない しれっとしたお顔なのが、何だか憎たらしかったり。
"そりゃさ、大人のゾロには大した変化じゃあないんだろけどさ。"
 でも。ルフィにしてみれば、この青年と会うのは実は3日振りなのだ。柔道部門・少年の部は昨日が初日だったのだが、その前日の早朝から"調整のため"ということでこちらに来ていた彼らであり。先の冬にスキー教室を兼ねた修学旅行で3泊4日、ルフィが家から離れる"外泊旅行"をしたことがあるにはあったが、それを除けば初めての離れ離れ。
"それに、スキーん時はサ…。"
 実は実は。真ん中の晩に、何だか心細くなっちゃって。ゾロのこと、スキー場まで"呼んで"しまったルフィだった。ホームシックというよりも、あんまり静かであんまり寂しい夜だったもんだから。大好きな精霊さんと一緒にいたいなって思ってのことだったのだけれど。真
まことの名前を呼ぶまでもなく、
『ゾロ…。』
 ただ、そうと呼んだだけで。降り積もった雪にあらゆる物音が吸い込まれたような、静かな静かな夜陰の中、ふわりと現れてくれた優しいゾロ。
『どうした? 眠れないのか?』
 ロッジ風のホテルの、グループ別で割り当てられてたお部屋からこっそり抜け出して。ロビーから出られるようになっていた中庭のポーチのところ。月光に照らされた雪が眩しいくらい真っ白だったそんな中。学校指定のダウンジャケットにくるまって、白い息を吐きながら待ってたルフィを、現れるとすぐにも ふんわりと抱っこしてくれた大柄な精霊さんは。家から持って来たらしい大きなダウンのコートに、小さなルフィをくるんでくれて、奥行き深い懐ろに抱え込んでくれながら、
『何なら、家まで戻るか? 明日の朝、こっちに戻っていれば良いんだろう?』
 そんな過保護なことを言って、寂しがってた筈の坊やを ひとしきり笑わせてくれたっけ。

  "………。"

 インチキ臭いストリートミュージシャンみたいに、突飛な緑色にした髪を短く刈った髪形してるのに、男臭い風貌の、それはそれはカッコいいゾロ。冬の碇星みたいに冴え冴えとして淡い虹彩の瞳を据えた切れ上がった鋭い目許に、何か企んでるみたいな不敵な笑い方がよく似合う口許。頬骨の少し立った大人びた面差しは野性味たっぷりで、しかもまた、それがよく映える頼もしい体躯をしてもいる。丸首のトレーナーに薄手のブルゾンを重ねた恰好だから、今は少し着痩せして見えるけど。それ以上は着込んでいないのに、胸板は分厚いし、二の腕は丸太みたいに逞しいし。鋼の棒でも呑んだような、背条が真っ直ぐ立った広い背中は、ルフィを2、3人は おぶえそうなほど。

  "…そだよな。頼もしいのが"売り"なんだもんな、ゾロは。"

 売りってのは何ですかね。
(笑) ルフィに対してだって、日頃は愛想が悪いが…それでも。大好きで大切で、いつも傍らにいてほしいゾロ。大好きな精霊。………そう。実は実は、四次元よりも上の別の次元世界からやって来たゾロ。人間ではない彼だから、瞬間移動が出来るゾロ。東京のベッドタウンからこの静岡の会場まで、ほんの瞬く間に行き来が出来るゾロ。そういう"時空移動"じゃない方法…軽々と抱えて空を飛ぶとかしてなら、ルフィのことだって連れてけるからって、ちょっとそこまでの行き来のように言っちゃえるゾロ。だからね、ホントはこんな風にホテルに泊まるって必要もないんだけれど、電車に乗って此処まで来て、会場には入り口から入って、観客席に立ってデジカメを操作して。ちゃんと"人ならこうする"という経緯を辿っての行動で、その足跡を残して観戦してくれたゾロなのが何だか嬉しい。そういう手順の元、応援に来てくれた"お家の人"がいた…という痕跡をわざわざ作ってくれたゾロ。彼には煩わしいほどに手間暇かかったろうと思えば、尚のこと嬉しいルフィであって。
"…ま・いっか。"
 愛想も可愛げもないのへも、まま、そこが渋くてカッコいいんだし、と。いつもの納得を持って来る。
「今日、帰っちゃうのか?」
 ルフィの晴れ姿となる試合は今日で終しまいだが、明日も少年の部の試合は続く。学校もあるので、そうそう長居は出来ないが、今日が軽量級と中量級とで、明日は重量級と無差別級なので。そっちの応援をして、まだ続くお兄さんやお姉さんの試合は見ないまま、東京へと帰ることとなっている。
「………。」
 ちょこっと。窺うような、帰るんだったらつまんないなと言いたげな訊き方になったのが届いたか、
「いや。」
 ゾロは小さくかぶりを振り、
「明日一緒に帰ろうや。」
 ちゃんとこっちを向いて、そう言ってくれた。
「ホントだったら昨日から来るつもりだった。けど、向こうでちょっと"仕事"が持ち上がってな。」
 え? と。ルフィのお口が真ん丸に開いたのへ、
「大した奴じゃあなかったさ。」
 心配しなさんなと くつくつ笑う。それで昨日は間に合わなくて、今朝方の朝一番の電車で来たんだよと、事もなげに言う。
「俺はお前の傍らに居なくちゃいけない身だ。忘れたか?」
 単なる居候や家族じゃあない。邪妖に憑かれやすいルフィ坊やの身を守りたいからと、自らの意志で、彼には"異次元"であるこの世界に腰を据えているゾロ。その生来の素養から、破邪という名の…邪妖を倒すという使命を帯びてはいるけれど。用向きがある時だけ来ればいいのに、そうはせず、四六時中この坊やの傍らにいたいからと、地上に降りて来た精霊。だから。ルフィの傍らこそが彼の居場所であり、ルフィの安穏と幸せを守ることだけが、今現在の彼の使命になりつつある。………ってことは、破邪のお仕事は片手間のバイトなんだね、ゾロさんてば。
"そりゃ言い過ぎだぜ。"
 笑って言うんじゃないってば。
(笑) という訳で、
"えと…。/////"
 それこそ 事もなげに。ルフィの傍らに居なきゃいけないと言ってのけるゾロ。この1年の間には、彼らの上にも色々なことがあって。それらを1つ1つ、一緒に乗り越えて来た身であるがため、義務だとか何だとかいう代物ではなく、彼の心からの想いだと分かっているルフィであり。だからこそ…頬がぽうと熱くなる。
「………。」
 こちらも本当は必要のない手荷物を詰めた小振りなボストンバッグへ、ルフィの携帯電話へとデジカメを接続したコードや何やを収め直しているゾロの様子を眺めつつ、ふと、

  「そういや、もうすぐだよな。」

 ルフィがぽつりと呟いた。何かと省略して物を言うの坊やであるのはいつものこと。そして、いつもいつも傍らにいるゾロだから、それで通じることも結構多い方なれど、この一言はあまりにも漠然としていたものだから、却って該当しそうなものが多すぎて。
「? 何がだ?」
 訊くと。尻の後ろへ両の手を突いて、少々お行儀悪くも畳の上へと無造作に投げ出した脚。その先っぽで指を"わきわき"と握ったり開いたりしていたルフィが、
「だからさ…。」
 ちょいと言葉を濁してから………足を引き寄せ、
「んっっ。」
 畳から撥ね起きるみたいにして立ち上がる。それからそれから、
「???」
 真意が分からないままにキョトンとしているゾロの、胡座をかいて座っているすぐ傍らまで寄って、ひょこりとしゃがみ込み、

  「もうすぐはろいんだろ?」

 こそっと。此処には二人しかいないのに、相手の耳元へお口を寄せて小さな声で囁いた。そしてそして、

  「…あ、そうか。」

 そうだったなと。合点がいって相槌を打ちつつ、こちらさんも…何となく落ち着かない顔となるゾロだったりする。10月最後の晩には亡者が解き放たれるから、それを追い返すための夜通しの仮装祭りが催されるという、キリスト教の有名な行事。昨年のそのハロウィンの晩に、ささやかな行き違いと、それからそれから…ほんのり暖かな"進展"のあった彼らであって。


    『ゾロのこと、大好きだ。だから、此処にいて。』
    『…ああ、此処にいる。』
    『ホントだぞ?
     どっこも…お願いだから、どこにも行かないで。此処にいて。な?』
    『ああ、どこにも行かないさ。』


 パーティーの最中にやはり邪妖を退治しに出向くこととなって。そんな彼へ、自分も連れてけと言い出したルフィ。ただの見物なんかじゃない。ゾロがどんな大変なことをしているのかを見ておきたいと、他の人たちみたいに知らないままでいたくはないからと、そんなことを言い立てた坊やへ。心配なんか要らないからと、自分への気遣いは不要だと言う代わり、
『自分から魔の者の真ん前に出向こうってのか?』
 まるで…ルフィの傍らにいるのも義務のようなもんだというような、すげない言い方をしたゾロで。憂慮や心配、そんな想いをしかも自分へなんぞ。注いでくれなくても良いんだからと、そうと言いたかったらしいのだが、


    『大好きな相手から嫌われるってのが、一番堪
    こたえることに決まってんだろが、
     この唐変木がっ。』


 選りにも選って、言葉足らずなお前自身の言動で傷つけてどうすんだと、相棒の聖封さんに言われてハッとした。そして。ゾロから突き放されたと泣いていたルフィに、どんな修羅場でも平気な身が…グサグサと切り裂かれるような想いで一杯になった。怒ってこのまま何処かへ行っちゃわないでと、不安げに繰り返すルフィを前に、切なくて切なくて堪らず、されど気の利いた優しい言葉を何ひとつ知らない身を持て余し、

  『…あ。』

 その愛らしい口許へ、初めてそぉっと口づけた晩でもあって。

  「…えっと、だな。/////

 すぐ間近にまで寄っていた坊やの、やっぱり柔らかそうな口許が。すぐ目の前にしっとりと咲いている。その唇が、
「あのな、あのな。」
 甘い舌っ足らず声を紡ぎ出した。
「あのさ…もしかして、あの晩さ。ゾロ、初めて………ちう、してくれたんだよな?」
 ちう? ……………ああ、キスのことですね。
「でもさ、俺、酔っ払ってたからさ。あんまり覚えてなくってさ。」
 缶入りチューハイを間違えて呑んでしまい、ほろ酔い状態でいた"泣き上戸"だった困ったちゃん。

  「………で?」
  「だから、さ。/////

 ううう…と。キスを"ちう"なんて言い換えたくらいに恥ずかしいクセして、大きな琥珀の瞳は青年の視線を捉えて離さないまま。

  「………。」

 瞬きひとつしないのは、まるで…その奥深い底まで、相手の意識を引き摺り込もうとしているかのよう。そんな不埒な坊やからの"お誘い"に、

  「………。」

 しばし真顔で向き合っていた精霊さんだったものの。気がつけば…吸い寄せられるように顔が近づいていて。小さな顎、ひょいと下から支え上げると。

  「………。」

 柔らかな口唇にそっとそっと自分の唇を重ね合わせている。本当に触れ合っているのかさえ覚束無いほど頼りない感触と、けれど確かにそこにある温もりと甘い匂いと。小さな肩をいつの間にやら抱き締めていて、窮屈な格好で向かい合っているのがもどかしくなり、自分の片腕を枕にするように顔の横へと当てがってやりながら、その上へと…横ざまに身を倒させる。青い畳にパラリとかすかに、髪の先が当たった音がして。体重はかけないようにしながらも、その身で覆いかぶさって。小さな坊やの唇を好きなだけ、思う存分、食
んでしまったゾロだった。

  「………ふに。/////

 はっと気づいて身を起こせば。目許を真っ赤に染めたルフィが、どこか陶然としたままな視線を宙へと向けていて。………おいおい、お兄さん。まだこんな小さい子に、なんてことを。
(笑)
「ルフィ? …大丈夫か?」
 そぉっとそぉっと。さっきよりも もっともっと慎重に。ふにゃりと萎えた小さな肢体を腕の中へと抱え上げ、耳元で安否を問うと、
「はにゃ…、ゾロ?」
 ぽうと腑抜けたままのお顔をこちらへと向けて来て、

  "………うっ。/////"

 それがまた…微妙に艶めいて浮いたお顔だったものだから。精霊様のときめきは只事ではなかったご様子。何ともはや罪作りな坊やであることよと、相変わらずの二人を見やりつつ、出歯亀カメラもここいらで引くと致しましょう。…御馳走様でしたvv
(笑)




   〜Fine〜  03.10.31.〜11.6.

   *カウンター 108,000hit リクエスト
     Kinakoさん
      『天上の海〜 設定で、ゾロの温みへまとわりつくルフィ』


   *お待たせ致しましたです。
    いやはや、なかなか勘が戻らずで、ちょこっと悪戦苦闘致しました。
    せっかり いちゃいちゃ話が楽しい季節になったというのに、
    これではいか〜ん!
おいおい
    頑張って精進いたしますね? これからも、どか よろしくです。

back.gif