傍目八目   “蜜月まで何マイル?”より
 


 穏やかな日和の中、小さなキャラベルは進む。大海原をゆったりと。視界を埋めつくすは様々な青。天穹の頂点から始まる、空の軽やかな青のグラデーション。それを受け止める水平線から力強く始まるのは、海の藍と降りそそぐ陽射しとがうねりながら織り成す、奥行き深い色味の羅紗の絨毯。
「…見飽きないのは分かるけどさ。」
 どこまでも続く広い広い海と空という単調な風景は、口で言うほど"同んなじ"ではないと、そこは航海士だから良く良く分かってはいるのだが、
「見飽きないのかしらね。」
「…ナミさん、途中をすっ飛ばしてませんか?」
 風を通すためにとドアを開け放っていたキッチンの戸口から出て来つつ、デッキに佇んでいた美しき航海士嬢の訝
おかしな言いように苦笑混じりの声を掛けたのは、銀のトレイを片手に掲げた、金髪のシェフ殿だ。淡いピンクのVネックの長袖カットソーに、チョコブラウンの相変わらずのミニスカート。不安定な船上だというのにヒールの高いサンダルをはいているせいで、撓やかな御々脚おみあしもまたすこぶる魅惑の、細身ながらもバランスの取れたプロポーションの輪郭を、余すところなく強調している いで立ちであり、成程、始終こういう恰好でいられては、
「ビタミンたっぷりのホットレモネードです、どうぞvv」
 ほのかに湯気の立ちのぼる、柄の部分だけ金具が嵌ったホット用の細長いグラスを差し出したシェフ殿の眸がきらきらと、生気たっぷりに弾けているのも、何となく…判らないではないような。それでなくたって人並み以上の美貌と鋭利な才気、溌剌とした所作と抜かりない処世術のetc.を兼ね備えた、若いに似ず行き届いたご婦人だ。
「あら、ありがと。サンジくん。」
 グラスを受け取りながら"にぃ〜っこり"笑って会釈を向けて、この…やはり結構なランクの美丈夫を軽くあしらう強腰がまた、
"ううう、簡単に落ちないところが堪んないんだよなぁ〜vv"
 はいはい、判ったってば。
(笑)
「…ところで、どっちの話です? さっきのは。」
 そうそういつも目も当てられないほど蕩けてばかりいる訳でもない。風向きを考えつつ、黒スーツの内ポケットから取り出した煙草に慣れた手つきで火を点けながら、サンジが何げに短く訊いたのへ、
「どっちも、よ。」
 こちらも手短な返事を返すナミである。さりげなくツーカーなのは、彼ら自身同士が通じ合っているからか、それとも話題になっている"対象"に限った関心や理解、把握の深さが同じくらいだからなのか。しかもなお心憎いのは、そんな自分たちだという事へ耽らない、クールな割り切りまでが同じだということ。いちいち感じ入らないドライさもまた、理知的で小粋である。…話を戻そう。
「いくら千変万化な海と空だからっていったって、ああも何時間と眺めていられるもんじゃないでしょうに、飽きっぽいルフィが放っておけば一日中でもああやってるのも。そんなルフィの、呼ばなきゃ振り向かないだろうすげない背中を、やっぱり放っておいたらいつまでだってああやって眺めてる誰かさんも。」
 グラスの中、蜂蜜をまとわせた柑橘系の愛らしい香りの立ちのぼる、温かくて甘酸っぱい飲み物へ、細い吐息を吹きかけながら肩をすくめたナミに、サンジも口許へ小さな苦笑を浮かべて見せた。
「眺めてますかね、あのむっつりマリモ。」
「眺めているわよ。たとえ眸は瞑っていても、全身全霊でね。」
 午前中に日課の鍛練を済ませた日は、午後を甲板での昼寝に費やすのがやはり日課の剣豪殿だが、その場所は大概、我らが船長さんの姿がよく見える場所と決まっている。ルフィの気が変わって羊頭に居ない時もあるのへも、やはりさりげなく いちいち合わせて、微妙に姿が見える位置、気配が分かる場所に居るようにしている彼であり、
『いっそ微笑ましくも健気なことよね』
と、やわらかく微笑したのが新入りの考古学者嬢だったが、それはともかく。ここからだと、柵に凭れている大きな背中と手枕に組まれた両腕、そこに載っている緑の短髪…という後ろ姿しか見えないが、
「傍に居る時ほど無自覚なのが何だか可笑しいのよね。」
 そう言ってくすくすと、きれいな笑みを見せたナミに、
「無自覚…ですかね。」
 サンジが"おやや?"と小首を傾げた。それへと、
「相手を好きだってことへじゃなくって。」
 ナミは立てた人差し指を"ちっちっちっ☆"と、小さなワイパーのように器用に左右へ振って見せる。
「人前でのいちゃつきを"やってない"って思ってるってところよ。」
「…ああ、そっちですか。」
 この船における彼らのホットな関係・間柄は、もはやクルー全員に知らぬ者はないほど明らかだというのに。今更何を照れてか、それともひけらかすものではないと、今更そんな慎ましい心掛けを守りたいのか。日頃そんなにべたべたと引っついていようとする様子はない。今此処から見えている光景のように、それなりの距離を置き、てんでにばらばら、好きに過ごしている二人なのだが、そこはそれ。こっちだって節穴ではないし、彼ら以上に察しも良くて。よくよく注意して見ていると…色々々と見えたり拾えたりもするというもの。

   「ほら、こないだだって…。」



            ◇



「だから、俺の勝手だろうって言ってんだ。」
 あれは何を論じ合っていた時だったか。………いや、論じるなんて大仰なものでもなかったような。そもそも船の運営に関しては、進路についてはナミの、食料の管理についてはサンジの管轄…という風に割り当てが決まっていて、そういったことへの"議論"が日頃成されることはないのが基本。何しろこの海賊団の船長様は、クルーたちに采配においての色々様々な指示を出せる知恵者でもなければ、出すまでもないと全てにおいて通じているよな切れ者でもない。自分が集めた優秀な仲間たちに専門分野を任せ切って、自分は呑気にのうのうと過ごす、お気楽"人騒がせ"船長なのだからして…というのは、それこそ今更な話だからともかくも。
「別に誰がどうしてようと勝手だろうがよ。そういう船じゃあなかったか? 此処はよ。」
 けっ…とでも言いたげな横柄さで、ふいっとそっぽを向いた男臭い横顔。余裕の手枕に、長い足を前方へと投げ出しての横臥という、相も変わらぬ行儀の悪い格好で主甲板に寝そべっている偉丈夫のこの態度へ、
「あのね。普段から馬の合わないサンジくんとだって、いざって時には呼吸を合わせられるあんたでしょう?」
 ナミは険しく寄せた眉を片方、ひくりと立てつつ言葉を重ねた。
「何もにっこにこで懐
なつけとまでは言ってない。彼女は凄腕だから助けだって要らないのかもしれない。でもね…。」
 新しく加わったどこか謎めいた女考古学者へ、ただ一人そっぽを向き続けているのがこの石頭。あまり他人の素性や何やに関心を寄せない、無頓着な性分な筈が、他の面子たちが皆して何となく溶け込みかけてもいる今となっても尚、わざとらしく顔を背け、知らんぷりを続けている。ただの無関心よりよほど関心があるのだろうという見方も出来んではないが、棘々しいには違いなく、
「よっぽど目に余らねぇ範囲内でなら、自分のやりたいようにやってていい。それがこの船の不文律じゃねぇのか?」
 船長が一人一人口説き落として集めた人材たちは、個性が過ぎるほどに突出している面々ばかり。はっきり言って、親友だの仲間だのと、日頃から厚き友情の下にスクラム組んでいるつもりもない。だのに、不思議といざという時には馬が合う。すばらしきコンビネーションを見せ、立ちはだかる敵の大群をあっさり突き崩し薙ぎ倒してしまえる。それぞれが一線級の人物たちだからか、それとも、皆してルフィのためにを一番に優先しているところが共通しているからか、恐らくはその両方が上手いことかみ合うのだろう。そしてそんな間のよさも、ある意味、素晴らしき"阿吽の呼吸"というやつなのだろうが、
「それぞれに勝手気ままにしてて良い筈だ。違うか?」
「でも…彼女に関してはルフィも認めてたでしょ? 悪い奴じゃあないって。」
「ただこの船に乗ってても構わんと、そういう意味での話だろうが。」
 何しろ前歴が前歴だ。すぐ直前までその身を置いていた"誇りと命を懸けた戦い"の中で、自分たちの大切な仲間であった果敢で一途な王女。彼女と彼女が愛する王国を苦しめ続けた側の、それも幹部格にいた女なのだ、その問題の新参者は。自分たちだって凄まじい苦闘を繰り広げたばかり。利己的で卑怯なやり口に臓腑
はらわたが煮え繰り返ったし、あまりの周到さには臍ほぞを咬みもした。最後の詰めのぎりぎりまで相手に先手を余裕で握られていた苦闘であり、頑固で粘り強い、負けず嫌いの船長さんが…特異体質なのはさておいて、岩をも通すその信念で見事粉砕したがために得られた勝利。それなのに。こんなすぐさまの直後に、そんな敵方の、一番の悪党の間近にいた参謀格の女と、一体どうして胸を開いて腹を割っての仲間になれようか。
「………。」
 むすっと結ばれた口角が、意志の強そうな…厳然としたまま動かなさそうな彼の胸中をそのままに映している。義憤とやらには縁がないと口先で言い、いつだって斜に構えているその割に、実は一番義に厚く、物事の道理はおいといても卑劣な弱い者苛めは捨て置けず、ついつい きっちり水を差す"お人良し"。そんな彼のことだから、尚のこと、わだかまりもなかなか解けずにいるのに違いない。ロビン嬢が見せた…あっさり身を翻した鮮やかなまでの"切り替え"へ、どうしても信用が置けないというところだろうか。
「ああもう分かったわよ。いつまでもそうやってヘソを曲げてりゃ良いんだわ。」
 そもそも執り成すつもりまではなかった。彼の言うように、自分たちは必要最低限の"団結"しか持たない間柄の集まりだ。敢
えて"共通項"を探すなら、船長さんの魅力(魔力?)に魅入られた"同じ穴の狢むじな"たちというところか。よって、ルフィには一も二もなく協力するし、その決定に従いもするが、横のつながりはほぼ皆無な者たちばかり。あくまでもそれぞれの野望やら目標やらに向かうためにこの船に乗っているのであって、勝手気まま、仲良くしなきゃあいけない義理や義務はない。そう。ゾロの言うことに対して異論はない。ただ、つい…所謂"売り言葉に買い言葉"というやつで、言い負かされるのが癪で言葉を連ねてしまったが、今回ばかりはさすがに理詰めで言い負かす事の出来る事象ではなかったようだ。肩をすくめて"好きにしなさい"とこちらもそっぽを向きかけたところが、
「………っ。」
 そのタイミングへ反発するかのように。横になっていたごつい体がむくっと起き上がった。
「な、なによ。文句あるっての?」
 とうとうプツンと切れた…と、そういう間合い。身を起こしただけでなく、片膝ついて起き上がるその勢いも颯爽と、がっちりとした良い体つきが立ち上がりながらこちらへと向かって来たのでぎょっとした。日頃から機関銃のような勢いで、鋭く容赦なくきつい言いようを彼へも降りそそいでいるナミなのは、心のどこか、彼が自分よりもか弱い対象へは手を挙げないという確信あってのことでもある。小狡くも付け込んでと言うのでなく、そういう男気を見込んでいればこそのこの態度。だがだが、今回ばかりはもしかして。彼の逆鱗をつついてしまったのかも?
"ルフィの名前を出したのが不味かったかな。良いわよ、殴りたきゃ殴んなさいよ。あたしだってグランドラインで海賊船に乗ってるんだって自覚はあるんですからね。多少は覚悟だって括ってる。口八丁でダメな場合だってあるかもしんないって。殴られてあげるわよ、でも覚えてらっしゃい、貸したお金の利子、3倍にしちゃうんだからね。"
 まるでお念仏のように胸の裡にて一気にまくし立て、自分の勇気を何とか鼓舞したナミだったが、

   「………っ。」

 ああもう殴られるっという間合いに踏み込んで来られると、さすがに反射が働いて思わず身を縮め、ぎゅうっと目を瞑ってしまった。いくら怖いもの知らずだと言っても、相手が相手。人外に片足引っかけてる化け物なのだ。体中をずたずたに切り裂かれていてもニヤリと笑って戦い続けるような、トン単位の重しを振り回せるような、人の皮こそかぶっているが中身は人間外の存在なのだ。(そこまで言う。)ひいっと身を縮めたその傍ら、男臭い温みが肌へと触れそうなまでに接近したのとほぼ同時、
「うおっとぉっ。」
 そんな声が真上でして、今にも触れそうだった気配の持ち主の腕が、自分の体を"そこ"からぐいっと押しのけている。
「…きゃっ。」
 不意打ちだったことと体が強ばっていたことから、バランスを崩してたたらを踏みかけたが、
「よお、ゾロ。」
「何をしとるか、お前はよ。」
 そんなやり取りにハッとする。反射的に顔を上げたのと、転びかけていた自分の腕を、
「どした、ナミ。」
 雄々しい剣豪さんの腕の中に"お姫様抱っこ"の変形バージョン、脚を相手の肩に引っかけた斜め加減にてナイスキャッチされている船長さんが、そんなお呑気な声をかけつつ…こちらの腕を掴んで引き留めてくれている。どうやら、言い争う二人の頭上、メインマストの見張り台から、いきなり降って来た船長さんであったらしく、
「そんなカカトの高い靴ばっか履いてるからコケるんだぞ?」
 気をつけろよなと言わんばかりの声で、そんな的外れなことを言う彼へ、

   「………。」

 一瞬言葉を無くしたナミは、だが、ぱくぱくと何度か口を開けたものの…呆れ返って何も言う気が起こらないまま、
「馬鹿っ!」
 何でも良いから怒鳴りたくって、一番適切な一言を一喝し、
「…へ?」
 キョトンとしたルフィが手を離した隙に、そのままキャビンへと踵を返した。
"何なのよ、何なのよ、あの二人はっ! 人のこと、目一杯に馬鹿にしてっ!"
 思えば、自分がついついムキになり声高になったほどの口喧嘩も、あの石頭剣豪にはスズメのさえずりでしかなかったのだ。そんなものより大切な…船長がいきなり落下して来た一大事の方へあっさりと注意が移ったほどに。
"ルフィなら、ゴムゴムでいつだって大丈夫な筈でしょうがっ。"
 落ちる・ぶつかる・挟まれる・殴られる・のしかかられる。この手の衝撃は全部吸収する体をしているし、高いところや遠いところからの移動にしても、ちゃんと反動を計算している彼なのに。過保護に腕を差し伸べる必要なんてない筈だ。天辺まで怒りが充満した様相で、肩をいからせ、足音も勇ましく、その場を去りかけたナミのその耳へ、

  「何やってたんだ、お前。手ぇ塞がってたのか?」

   ―――― はい?

  「ししし♪
   だってよ、チョッパーもおやつも大事だからな。
   どっちからも手が離せなかったんだよん。」

 そんな会話が飛び込んでくる。そぉっと肩越しに見やれば、丁度甲板へと降ろされたばかりのルフィの全身が見えて。懐ろへ抱えていたのは…右手にチョッパーの手(勿論本人つき)、そして、さっきナミの腕を掴みとめた左手には、今日のおやつである焼きたて玉子サブレの入った紙袋。きっとゾロに受け止められた瞬間だけ、横向きになった腹の上にでも素早く乗せたものと思われる。
"………。"
 だからつまり。剣豪は手を延べなくては危ない落下だったと、そこまできっちり把握して手を出したと。そういうことだったらしくて。


            ◇


「そこまで人の話を聞いてなかった訳よね、あいつってば。」
 …いや、そこじゃないでしょう、その例え話のポイントは。
(笑) このあたしをそういう風に二の次扱いするのよ、あいつってばと、プリプリと方向違いな怒り方をしているナミへと、
「そりゃあ失礼ってもんですよね、あいつら。」
 判っていながらきちんと受け止めてボケてあげてから、
「そういえば。」
 何を思い出したか、サンジはくすくすと笑って、
「ロビンちゃんのことなら、ルフィも気になっていたのか、ちょろっとゾロに意見してたみたいですよ。」
 そんな風に言い出した。それへと、
「…もしかして、昨日のおやつ時のあれ?」
 ナミは柔らかな仕草で小首を傾げて見せる。いかにも少女らしいそんな所作を見せた彼女を眩しげに見やりつつ、
「ええ。ああ、見てらしたんですか?」
 きれいな指先、短くなった煙草を、ポケット灰皿でもみ消して収納。これでマナーは一応守っているところの優良スモーカーである。いや、それはともかくだ。
(笑) サンジの側は慣れたものだからかほのぼのとした表情でいるが、
「あれって…あれでも意見してたのかしらね、ルフィの側は。」
「そうじゃないんすかね。」
 ナミとしてはそっちも何となく癇に障っているらしい。わざとに"ずずず…"と音を立てて、温かなレモネードを一口すする。思い出すのは、やはり…今彼らがいるのと同じ上甲板。昼下がりのおやつ時にサンジが運んでやったのは、モーヴのムースも秋の彩り、フランボアーズ
(ラズベリー)のムースが1ホール。昨日は少々、夕食の支度に手がかかっていたので、いつものように彼らの傍らには居着かずにとっととキッチンへ戻ったサンジだったが、それで人目がないと油断したのか、微妙な向かい合い方をしていた彼らだったのだ。
『だからさ、やっぱ、少しは"きょーちょーせー"ってのも必要なんじゃないのかなってさ。』
『お前の口からそういう単語が出ようとは思わなかったなぁ。』
『なんだよぅ。俺はキャプテンだぞ?』
『そりゃあ分かってるけどな。…あ、ちっと待て。』
『んん?』
 茶器とケーキを真ん中に、胡座をかいて向かい合ってた二人。ゾロの武骨な手が伸ばされて、ルフィの小さめな顎を捉
とらまえるとそのまま、親指の腹で口の傍を拭ってやっていた。ムースの表面に塗られてあったさらさらの蜂蜜のようなジャムが、口角に集中してべっとりとついていたらしく。ぬぐった指を自分の唇に当て、無造作にペロリと舐めた彼の仕草が何とも…ワイルドなまでに男っぽかったのに微妙な色香もあったりしたもんだから。
『…? どした?』
『知らんっ。』
 真っ赤になってそっぽを向いたルフィだったのを、ナミは主甲板で、サンジはやっと手が空
いて休憩にと出ていたこのデッキで見ていたのである。
「何を話していたのかまでは、あたしには聞こえなかったけど。」
「俺だって、此処にいましたからね。ただまあ、ケーキを持ってった時に、そんなような話をルフィの方から振ってたとこだったんですよ。」
 そういった話の内容は、やっぱりこの際 問題ではなく、ルフィの側が時折両手を広げたり立てた人差し指を振って見せたりと、なかなか能弁に何かしら話しかけていたのを、ゾロの側はと言えば…ちゃんと聞いていたのかどうなのか。柔らかなケーキをフォークで適当な大きさに削っては、自分へと何事か説教していたらしい船長さんのお口へと、せっせと運んでやっていたことへ、ナミは呆れ、サンジは苦笑が絶えないでいるのである。
「あれって、ゾロとしては…聞く気のないお説教よりは楽しい、手遊び半分ってつもりでやってたんでしょうよ。」
 ナミの言いように、
「成程、だから"自覚はない"ってやつなんですね。」
 本人たちはそれが睦み合いだとは全く思っていないのだ。傍からどんなに愛情籠もったスキンシップや構い方に見えたとしても、だ。そして、
「そういうのを傍迷惑だって思うのは、こっちの勝手な言い分なのかしら。」
 結局のところは、こちらからも関心を寄せていればこそ拾える代物。見て見ぬ振りが出来ない訳ではないのだが、そこはそれ、彼らもまたお日様みたいな船長さんが大好きだし、そんな船長さんが幸せそうにしているのはこちらとしてもほわほわと嬉しい。それでついつい、何を楽しげにしているのだろうかと、何にはしゃいでいるのだろうかと、耳目が集まりもする。
「迷惑、なんですか?」
 質のいい柔らかな金の髪が、悪戯な潮風になぶられて散らかされている。甘い癖のある声が訊いたのよりも、端正な面差しがやさしく微笑んだのへ、ちょいとばかり気を取られたナミは、
「…さあ、どうかしら。」
 細い指先で自分の髪を押さえながら、何となく曖昧な声を返した。他人様の恋路にやきもきしている場合ではないような、そんな気分がちらりと胸を掠めたから。
"あんな判りやすい恋もあるってのにね。"
 尋常ではない筈なのに、すんなりと互いを一番大事な人と把握し、体が反応が、無意識に最善の対応を取るほどの二人。大好きな可愛いルフィを独占されるのが腹立たしいのだか、ややこしい恋である筈なのに破綻なくこなせている彼らが小憎らしいのか。ナミは時々、自分でもどっちだか判らなくなる。
"あんな大雑把な奴らがってトコがね。"
 そうして、そんな小癪な想いを抱かせてくれる男たちが、無論のこと、大好きな彼女でもあるのだが、
「ナミさん?」
 どうかしましたか? と、きれいな仕草で首を傾けて問うて来るシェフ殿へ、
「ん〜ん、何でもないのよ。」
 こちらも負けじと、惜しみなく全開の微笑みを返す。素直でない時ほどサービスがいいとは、ナミさんの屈折ぶりも大したもんであることよ。
"な〜にか言ったかしら。"
 あ、いえいえ。
(汗)大変ですよね、気苦労ばっかり多くて…と、お茶を濁して筆者は去るのであった。さらばだ、とうっ!



   〜 なし崩し的に Fine
こらこら 〜  02.11.20.〜11.23.


   *カウンター53000hit リクエスト
      浅葉みゆい様 『ナミからの視点で"自覚のないラブラブゾロル"』


   *ゾロ誕企画で燃え尽きたのでしょうか。
    ちょっと手間がかかってしまいましてすみません。
    自覚がないゾロルって、ウチでは結構難しいです。
    だって、バリバリ愛し合ってるバカップルですもの。(開き直ったな/笑)
    ナミさんもサンジさんも、
    ルフィの姉や兄という感慨で見守っているのでしょうね、きっと。


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