不機嫌なお日様  “蜜月まで何マイル?”より

 

 濃密な青をたっぷりと染ませた空には、元気の良い太陽と白い雲。眼前には大きな海が爽やかに広がり、吹きつけて来る潮風の中、BGMは何とも心騒がす潮騒の調べ。

「ねえ。」
「ん? なんだい?」
「今日の“若造”くん、かっこいい。」
「そう言う“若子”も可愛いよ。」
「そんな…/////。」
「オレはもう君を離さないよ。」
「あ、あ、“若造”くん、いけないわ。こんなところで、そんなこと。」
「大丈夫だよ。見ているのは太陽だけさ。」
「あ、あ、あ、あ、…。」



 
「だぁ〜〜〜〜〜っっ! 鬱陶しいぞ、こらぁっ!(怒っ!)




 ………ご安心下さい。
 ここは間違いなく『波の随に 〜ONE PIECE小説サイト』でございます。
(笑)



            ◇



「いちゃつくんなら、どっか他所行ってやれ、他所っ!」
「ひぃえぇぇいぃぃ〜〜〜〜っ!」×2

 磯の岩場に座って二人の世界を満喫していたどこぞの若いカップルを、凄まじいまでの場慣れした怒号で震え上がらせ、あっと言う間に追っ払ってしまったのは、いつものダークスーツもびしっと決めたその上へ、細めのサングラスがいつぞやの“Mr.プリンス”風の、戦うコックこと魅惑のシェフ殿・Mr.サンジである。
「…凄げぇ。一発で追っ払っちまった。」
 人気のない静かな入江だとか、見通しの良くなかろう岩場の陰だとか。こちとら、そういうところじゃないと停泊させられない身の船であるがゆえ。時たま、こういう場面に出くわしたり、闇に紛れたのが災いして、こっちの存在に気づかれないまま、どんどん話が進んだりということが、本当の本当のたまにはある。そもそも、ある程度の深さがあるところでないと錨は降ろせないから、砂浜や浅瀬の岩場には着けられないのだし、その上に“公の港”には停泊出来ない事情持ち。よって本来なら、健全なる一般人のラブラブカップルなぞとは共通点なんてある筈がなくって、どこであれ、かち合うことなく、お互いに縁のないまま一生を送れる筈なのだが、そこが夏の海の摩訶不思議。
こらこら リゾートビーチのカップルという奴は、トロピカルなバカンス気分の開放感に判断力がマヒしてしまう傾向があり、ついでに言うと…彼女に良いとこ見せたいだとか、ヒロイン気分に浸りたいだとかいう“ドリーム”も大きに芽生えるため、その行動は当社比73%ほど大胆なものになる。その結果、危険だったり辿り着くのがややこしかったりするような“何でこんなトコに?”という場所にも、二人の世界を求めて結構潜り込むものならしい。そのため、ボートで遊泳禁止の沖に出ていちゃいちゃとか、怪しげな洞窟の奥まで入り込んでベタベタだとか、そうゆう“ふしだら”をやらかしてくれる大胆な冒険心と、海軍からの公開手配をされている賞金首を抱えた“海賊船”としての行動の、これは外せないだろうという基本としての用心深い着岸地選びと。双方ともに“ここなら人目につかないだろう”という点で事情が見事にシンクロし、ダブルブッキングとなってしまうのだ。
「…ったくよっ! 何もこんな陰気な場所でいちゃつくこたぁねぇだろが。」
 いきなりどやしつけてカップルを追い払ったシェフ殿は、握り拳も力強く鼻息荒く悪態をつき続けている。明るい陽射しさえもを恨めしげに睨み上げての罵声は、少々芝居がかってもいたが、
「…どしたんだ? サンジの奴。」
 こしょこしょと傍らの連れに訊かれたのはウソップで、
「ああ、ナミに振られたんだと。一緒に町やビーチを歩きませんかって誘ったんだが、この島は交易が盛んで買い物の島としても有名だからな。流行の服や宝飾品が格安で売られてるから、ナミはそっちへすっ飛んでっちまったんだ。」
 そうと答えてやってから、
「で。お前はなんでまた、俺らと一緒にいるんだ、ルフィ。」
 上陸のためにと、GM号から降ろしたボートの2往路目に乗り合わせたのは以上の3人。何だか凄く珍しい組み合わせなんでないかい? これって。訊かれたルフィはキョトンとして、
「んん? 一緒しちゃまずかったか?」
「いや、そんなこたねぇけどな。」
 今回の寄港は、はっきり言ってナミのバーゲン目的が主。食料も備品にも特に補給せねばならないものもなく、また、大きなショッピングモールがあることと、マリンスポーツ目当ての観光客が多いビーチがあるということくらいしか目玉はない土地だ。何かしら遺跡だの歴史関係の遺物でもあれば一応はさらってみるロビンも、今回は上陸しないで読書に没頭していたし、チョッパーも暑い土地は苦手だからと(しかも泳げないしね)、やはり船に居残っている。それでも何かしらの見物があるやも知れないからと、いつもの如く保護者殿にさんざんねだっていた船長殿だったのを昨日辺り見かけたよな気がするのだが。どうやらこちらも剣豪殿には振られたらしくて、
“詰まんねぇ島だって不貞腐れてたサンジがついて来たのは、はっきり言ってお前が一緒だからだしな。”
 ややこしい“彼と彼ら”の間柄を、なんとなくながら把握しているウソップが、だが、どうして剣豪は居残っているのにこの船長殿が降りて来たのかは、とうとう把握出来ないでいる様子。
「さて、ボートも隠したし。街まで出向くとするか。」
「おうっ!」
 妙にハイテンションなのがお揃いの二人へ、冒険話が得意な割には何かと慎重なウソップは、それこそ妙な不吉を覚え、
“こりゃあ早めに別行動取るに限るな。”
 内心でそんな決意を早々と固めたのだった。…相変わらず、堅実だねぇ。
(笑)


            ◇


 リゾートと一口に言っても色々あって、保養系のファミリー向け観光地もあれば、グループでワイワイするのが楽しいマリンスポーツのメッカや、ロマンティックな気分に浸れる、恋人同士向けの風光明媚なものと、多種多様。このご当地はどうやら複合タイプであるらしく、小さな子供も同伴の家族連れも見かけるし、老夫婦の落ち着いたカップルも少なくはない。だが、やはり主流は若い恋人同士の男女というところだろうか。海水浴にと波打ち際ではしゃぐ二人やら、砂浜で身を横たえて何かしら語り合う二人だとか、海岸線に沿った遊歩道を肘から搦め合って手をつないで歩く暑苦しい二人だとか、とにかくもうもう、etc.…。
「…ルフィ。」
 デッキテラスにパラソルつきのテーブルを並べた、いかにもトロピカルなオープンカフェ。その一角に座を占めて“むむう”とむくれている船長殿へ、華やかに盛られたトロピカルフルーツ満載のパフェを運んで来てやり、
「どした。あ〜んなカップルが羨ましいのか?」
 向かい合うように席に着くサンジからの指摘へ、
「うう“…。」
 ルフィは少々言葉に詰まる。どっちを向いても“熱愛中ですvv”という幟
のぼりのようなオーラを立ち上らせているような二人連ればかり…な気がするのは、こちらが“そうではない”僻ひがみから来る考え過ぎなのだろうか。
「別に羨ましくはないけどさ。」
 誤魔化すように殊更勢いよくぱくぱくと、生クリームを頬張って見せる彼だったが、ふと、細長いスプーンが宙でぴたっと止まって、
「たださ、何であんな甘えっこしてるとこ、人に見られても平気なんだろ。」
 素直な疑問をぶつけて来た。すりすりと胸元へ寄って来る彼女を、彼氏の方でも抱き寄せながら、この暑いのにぴっとりとくっつき合っているカップルが、丁度真横のビーチの端にいる。互いの耳元に口を寄せてはしきりと内緒話に興じていて、いかにもなラブラブぶりだ。
「クソマリモなんかは照れて嫌がりそうだもんな。」
 その辺りへはすぐさま合点の行くサンジは、愉快そうにくつくつと笑い、きれいな手を伸ばして来ると、口許についてた生クリームを指先で拭ってやる。それをそのまま口の前へと運んでやると、こちらも慣れたものでパクッと素直に咥え込むルフィだったりする。
「ま。ああいう奴らは、周りなんか目に入ってないか、若しくは見せびらかしたいんだろうさ。」
「見せびらかす?」
「そ。大した美男美女でもないのに限って“私たち、とっても幸せなのよ、見て見て”ってな。そういう自己顕示欲が強いんだよ。」
 したり顔でさらっと言ってのけたお兄さんだったが…果たして彼は気がついているのだろうか。まともな解釈を持って来れば、仲の良い兄弟風な自分たちが、だがだが、場所が場所なだけに………。
「やっぱりそうなのよ。あれって恋人同士よ、きっと。」
「そっかな。観光に来た外地からのお客と案内役の子だって。」
「あら、それじゃあどうして、都会から来た風のお兄さんの方がさっきから何かと世話焼いてる訳?」
「そうよそうよ。きっと此処で見初めてナンパしたのよ。避暑地の恋ってやつvv」
「うう、あんなかっこいいお兄さんなのに?」
「だからこそ絵になって素敵なんじゃないの。それに麦ワラ帽子の子も、なかなか可愛いわよ?」
「うんうんvv」
 そんな風にこしょこしょと囁き合いながらの、これもまたどこか都会から来ているものらしいお嬢さんたちからの、邪推という名の熱い観察眼に自分たちもまた晒されているということに…気づいてなかろうな、恐らくは。
(笑) 判る人には判っちゃうんだねぇvvこらこら 脱線はともかく。
「う〜ん。」
「どうしたよ。」
 口許をひん曲げて唸って見せるルフィに気づいて、上着のポケットから煙草を掴み出しながら声をかけると、
「うん。だったら尚更、ゾロはこういうトコでは一緒にいてくれないんだろなって思って。」
「………。」
 これまたすぐさまピンと来たらしいサンジであり、相変わらずですのね、船長の解釈の仕方。
(笑) さてさて、ここで判りやすい例題をお一つ。

 イギリスはペットを大切にする国で、さほどの申請手続きも必要ないまま、犬も地下鉄やバスに乗車出来るそうである。で、地下鉄乗り場までのエスカレーターにはこういう注意書があるそうで。

  『エスカレーターに乗る時は、犬は抱えて下さい』

 それを見た田舎から出て来た青年が、大慌てで犬を探した。曰く、犬がいないとエスカレーターには乗れないから。…順番が逆だっての。(出展が判る方、今回は多いんじゃないかと思うのですが…。)

  ………どもども、失礼をば致しました。お話の方へお戻り下さいませ。


 いや別に、必ずしもそうしなくちゃいけないという訳ではないんだがなと、ある意味“突っ込み”も兼ねて、咄嗟に言ってやりかかったサンジだったが、だが。
「…そうだな。あの朴念仁じゃあ、無理だろうな。」
 タバコに手を伸ばすのはやめにして、アイスコーヒーのそそがれたグラスの中、クラッシュアイスに突き立てられたストローを摘まむとくるくると回し、小さく笑ってテーブルに頬杖をつく。
「だろう? それにサ、恥ずかしいのを誤魔化すために怒ったりするんだぜ、ゾロってば。」
「そりゃあサイテーだな。」
「うん。サイテーだ。」
 同感の意を得て気が大きくなったのか、むむうといきり立って唇を尖らせると、パフェの真ん中に盛ってあったアイスクリームを一匙パクリ。ぷりぷりと怒っているその顔が、だのに何とも可愛らしいもんだと、サンジは眸を細めて小さく笑うばかり。
“話題が彼奴のことだってのは気に入らねぇが、ま・いっか。”
 出来るだけ逆らわず、言いたいだけ言わせてやって。愚痴を聞いてやるというのも、案外と…特別に心許した相手にしか出来ないことだと思えば楽しいかもなと思ったシェフ殿である。本来なら聞くに耐えない罵詈雑言やら呪いの言葉やらも飛び出しかねずで、うんざりものな筈なのだが、さしてボキャブラリィが豊富なルフィではないので、実際、大した悪態も聞かれず、子供が拗ねているような案配なのがなかなか可愛らしいもの。ぷっくりとむくれて、
「なあ、そう思うだろ?」
などと他愛のない見解を持ちかけてくるのを、
「ああ、そうだな。困った奴だよな。」
 逆らわないまま肯定してやり同調すれば、何だか特別な仲間意識が芽生えてくるような気もするし。
“ちょーっと空しい気もするけど。まま、たまにはな。”
 せっかくの“役得”だと割り切って、保護者代理を満喫することにしたサンジである。



          ***


 さて、その頃のゴーイングメリー号では。広い甲板の何故だか隅っこ。他には誰もいないというのに、わざわざ後甲板の大砲の陰というややこしい場所で、身を隠すようにして向かい合っている誰かさんたちがいる。
「ここは木の繊維に逆らわないで木目通りにすべらせるんだよ?」
「…そっか。」
「無理から刃を立てるとね、最悪な場合、そこからの筋ごと木が裂けたり、繊維が引き吊れて毛羽だったりもして、取り返しがつかなくなるんだ。」
「ああ、気ぃつける。」
 その大きな手にはあまりに小さくて頼りない木片を、切り出しナイフで少しずつ削って削って。ようやっと流線形のそれが水棲生物であるらしいと…魚か鯨かイルカのどれかだと判って来たのが、取り掛かり始めて2週間も経ってから。ここまで辿り着くのに幾つかは失敗しもしたし、人の目を避けていたせいもあってそんなにもの時間を要したのだが、
「なあ、ゾロ。」
「なんだ?」
 顔も上げずに声だけ返す剣豪殿へ、
「あのな、いくらルフィに隠したいからってもさ、そんなことする素振りが原因で喧嘩してちゃあ洒落になんないぞ?」
 物を贈るというのは求愛行為の基本である。どうやらヒトという生き物は、子が成せない同性同士へでも、同族意識や仲間意識以上の感情を持ち、保護欲や独占欲を持つらしく、この…たいそう恐持てのする雄々しい剣豪と、あの…小さいけれど中身は大きな破天荒船長とがそういう恋仲だというのへも、最初に気づいたばかりの頃はさすがに理解しがたくて少なくはない困惑もしたが、今ではすっかり“そういうものだ”と飲み込んでいる船医殿だ。
“だって何しろ海賊だもんな♪”
 おいおい。
(笑) ………話を戻そう。彼にはらしくもない怪我を幾つも指先に抱えて、しかも黙っているものだから。そこから…人知れずこっそりと、小さな木彫り細工を作っていたゾロに気がついたチョッパーは、あまりにも不器用で形が取れないでいる様子を見かねて、彫刻には向かない堅い材質を使っていることを指摘し、その方が良いというならどういう位置取りで彫ったら効率よく進められるかということを指導して来た。だが、そうしていてもう一つ気がついたのが、この作業を何故だかルフィには殊更隠したがっている彼で、そのせいで、あれほど…自分自身より優先して大切にしている筈のルフィをとうとう不機嫌にさせた模様。内緒のプレゼントにしたい剣豪であるらしいのだが、本末転倒になりはしないかと、そっちが心配になったチョッパーなのだ。
「喧嘩なんかしてないさ。」
「だって昨日から、何だかルフィ、拗ねてたぞ?」
「…まぁな。」
 さすがに気がついてはいたらしい。
「そんなの順番が訝
おかしいぞ? 出来たは良いが、渡す時にはゾロよりサンジと仲良しになってたらどうすんだ?」
 さして意味なく出した“例えば”だったのだが、
「…なんであんな野郎が出てくんだ?」
「あ、いや。ウソップでもナミでも良いけどもさ。」
 いきなり凄まれてあたふたと言い足す。そうだった。この剣士は、何につけ、ちゃんと自信がある割に、それでもあのシェフと比べられるのを極力嫌がるんだった。
“タイプが違うって判っているみたいだのにな。”
 それもまた不思議であるらしい船医殿なのだが、人が人を好きになる理由ってのはコロコロ変わるからねぇ。野生の生き物のように誰よりも強けりゃ良いってもんじゃあない。時には“弱々しいところを守ってあげたい”なんていうのが、それも“女性の側からの”欲求理由になることだってあるほどで、優しいから、良く気がつくからという要素は、一緒にいて心地いいという条件を十分に満たすのだ。そして、そういうものだと判っていればこそ…自分が不器用だという自覚もある剣豪にしてみれば、小器用で料理の腕は抜群という相手だからこその心配というのも生じるものなのだよ、チョッパー。ドキドキしながら言い直し、黙々とした作業に戻った剣豪殿の手元を見つつ、チョッパーには、だが、まだまだ疑問が一杯あるらしい。
“大体、ああまでも…ゾロのことが“好き好きvv”っていう欲求を示すホルモンだとかフェロモンだとかを、隠しようがないくらい発散させちゃうほどルフィに反応させてるくせに、何で安心してゆったり構えていられないんだろう。”
 ………おおう、そうなんですか。一心不乱に手元を見つめて彫り続ける男臭い顔へ、つぶらな瞳をじっとじっと振り向けたままのチョッパーは、このことを言ってやった方が良いのだろうか、だがだが、人と動物は違うんだよって、いつもいつもナミやサンジやロビンから言われているしなぁと、只今ちょこっと思案中なのであった。



  〜Fine〜  02.6.6.〜6.7.


  *カエルさまサイト『らぐする』8000hit突破おめでとう記念。
     「海でいちゃつくカップルにちょっぴり拗ねるルフィ」

  *えと、最近の作品の中にちょろちょろと出て来ますアイテム、
   いるかの形を彫り出したマスコットを
   剣豪殿が作ってた時期だったというオチになっておりますが、
   このマスコットが何なのか、判らない方は…いらっしゃるのかな?
   えと、いつぞやDLFとして発表しました船長BD企画作品の
   “おまけ編”に出て来たもので、
   これからもちょくちょく出てくることと思います。
   どぞ、よろしくでございます。

  *もう随分と長いお付き合いとなりますカエルさま。
   それは優しいお話を楽しませて下さったり、
   嬉しいご感想をお寄せ下さったり、
   この世界にまだ不慣れだった頃に随分助けていただいた
   心強い気持ちにさせて下さった、Morlin.の大切なお友達です。
   どうかこれからも仲よくして下さいませね?


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