蜜月まで何マイル? "Sweetest Whisper"
 

 
 航海はそれなりに順調で、ちょっとした冒険があったりなかったり、ルフィが余計なことをして要らない騒ぎに巻き込まれたりと、相変わらずのにぎやかな毎日で。そんな日々の狭間にいつものように新しい島へと到着し、大きな港町のある交易の盛んそうな賑やかな土地だったので、やはり毎度お馴染みの"補給物資"目当ての買い出しにと、グループに分かれて降り立った面々だったのだが、
「………ん?」
 ふと。チョッパーやゾロと連れ立って歩いていたルフィが立ち止まった。擦り切れかかった古い古い石畳の上、大小の木箱を台に商品を並べ、幌布で簡単な屋根を張ったというような、簡単な作りの露店が幾つも居並ぶ、なかなか活気のある市場の端っこの辺り。麦ワラ帽子を載せた頭をくりくりと回して周囲を見回す彼だったので、
「どしたんだ?」
 若いトナカイの姿をしているチョッパーが、周囲の人に聞こえぬようにと気遣いつつ、鼻面を寄せて こそりと訊くと、
「うん。今、サンジの声が聞こえたような。」
「え? そだったか?」
 でもでも、そんなまで近くに居るんだったらまずは自分が気がつく筈なんだがと、チョッパーまでもが立派な角を振り回すようにしてキョロキョロと周囲を見回して見せる。まずは匂いに対して ずば抜けた嗅覚が反応するだろうし、声自体にだって人間よりも鋭敏な聴覚がきっちり拾っている筈で。
「聞こえないぞ。それに、匂いもしないし。」
 あっさりと"オレが気がつかないんなら気のせいだよ"というよな言いようをされたものだから。
「何だよ、俺の方がサンジとは付き合いが長いんだからサ。チョッパーでは分かんない一瞬の声とか拾えたりもすんだって。」
「何をーっ。草食動物の逃げ足を支えてる敏感な感応力を舐めんなよーっ!」
 むっかりしたらしきチョッパーの抗議に、
「そんな漢字ばっかり並べられてもルフィには通じてないぞ。」
 ゾロが けろりとしたお声で注釈を入れたのへ、
「えとえっと…鹿とかトナカイとかはな、敵が襲い掛かってくるのへ敏感なんだよっ。自慢の脚を発揮するためにも、匂いや音っていう情報は素早くキャッチ出来るんだ。」
 きっちり言い直すところが、なかなか律義。
(笑) それへと、
「それ言ったら俺だって。サンジの声とか匂いとかは、逃すとそのままおやつまで逃しちまう時があるから、きっちり拾えるんだっ!」
 そんなケースがあるんですか?
「焼きたてじゃないと美味くないスフレとかいうケーキとか、アイスクリームみたいな その場で食わんとなくなる系統の場合だよ。」
 ああ、成程。細かい解説を下さりながら、妙なことで懸命になって揉めている連れたちへ呆れたような顔になったゾロだったが、
"…まあ、いっか。"
 泡を食って制
めるほどでもないかと、状況を見切る。通る人々は皆、自分たちの御用で忙しそうで、トナカイが人間の言葉で喋っての口喧嘩をしているのにさえ無関心。たまに"おや"と顔を上げて見せる子供がいるものの、傍らにいる母親などに"これっ、目を合わせちゃいけませんっ"なんて言われて、無理から腕を引かれて離れてく。どうやら インチキ臭い見世物や芸だとか思われているらしい。尋常でない筈なことさえ、どうにかすれば有り得ることと把握され、あっさり無視されちゃうとは…此処って よほど色んな人が出入りする市場なんでしょうねぇ。………で、
"………。"
 雄々しい両の腕を組んで傍らの壁に凭れ、二人の熱っぽい口論を何ということもなく…制めもせぬままに、ただ眺めていたゾロさんはといえば、

  "聞こえたからって どうだってんだ。"

 ………ちょいと違った方向で"面白くない話題だよな"と、精悍なお顔の眉間のしわを深めていたりするのである。
(笑)





            ◇



 結局は"聞こえた、聞こえない"の水掛け論で、全然埒が明かなくて。どっちも引かず、むむうと膨れた二人を連れ帰った愛船にて、
『うん? そんな場所には行ってねぇぞ?』
と、既に戻っていたサンジご本人が答えてくれたため、ということは…という理屈から、チョッパーに軍配が上がったものの。
「でも、サンジくんに似た声ってよく聞くわよね。」
 よほどお気に召したるお洋服が仕入れられたのか、テーブルについて日誌を広げていたナミが ふふんと楽しそうな笑い方をし、
「海軍とか、あ・そうそう、ドラムの兵士たちの中なんかにも、似た声の人がいたってビビが言ってたわよ?」
 羽根ペンをくるくると宙にて回せば、外海に出るまではと、羊頭をした舵を取っていたウソップまでもが調子に乗って、
「そうそう。モブになると、どっかからとか、一応ちゃんとしたセリフとかで、サンジに似た声がよく聞こえるんだよな。」
 モブというのは群衆シーンという意味で…うわぁ〜、微妙な"アニメ"ネタで すいませんです。
(笑)
「そうかぁ?」
 そんなによくある声なんかなぁと、ご本人としてはどこか複雑そう。
「俺はあんまり聞いたことないけどな。」
 ナミさんからまで上がった意外なお言葉に"ありふれたもの"みたいな言われようだと思ったか。メリー号で一番の伊達男さん、泡立て器で掻き回していた生クリームをちょいと持ち上げて角の立ち具合を見つつ、そんな風に呟いたのだが、
「ああ、それは…だって。」
 ちょうど読み終えたらしい分厚い本を ぱふたんと閉じたロビンがにっこり笑った。
「本人の声は自分の喉や耳の奥に反響した音と混ざって聞こえるのよ。だから、外の空気中を伝わる音でしか聞けない私たちとは、微妙に違った波長のが聞こえるらしいの。」
「へぇ〜〜〜、そうなんだ。」
 この世界、スカイピアには"ダイヤル"がありましたし、あの電伝虫にも"録音機能"があったらしいから、確かめる方法はあると思いますぜ、皆さん♪
「滅多に口開けない奴だから聞き覚えがないって声ならいざ知らず、こんだけ喋りまくる奴なのに聞き間違えるよな似た声が多いとはな。」
 紛らわしいこったとウソップが茶化せば、
「何をぉー、お前に"喋り"のことで腐されると何か無性に腹立つんだよなぁっ!」
 ぶんっと勢いをつけて生クリームはボウルへ振り落とした後の泡立て器を頭上に振り上げ、これで叩かれるとクセになるぞと、何だか訳の分からないことを言いながら狙撃手さんを追い立てるコック氏であり。
「ああもうっ。暴れるんなら外に出てちょうだいっ!」
 埃が立つでしょうがっとナミが眉を顰め、ルフィが大口開けて笑い、チョッパーはその背中に隠れてオロオロし、と。やっぱり相変わらずの皆様だったのだが。








「なんだよ、ゾロ。なに怒ってんだよ。」
「怒ってなんかいねぇよ。」
 穏やかな海に錨を降ろしたゴーイングメリー号。夕食も済んだところで"ではでは"と、陽が落ちればすぐにも眠くなる船長さんと、いつでも"瞬眠"出来る相棒の剣豪さん。自分たちのお部屋へ一足先に向かったものの、何だかずっと黙りこくったままなゾロだと気がついた船長さん、これはもしかして"何かに怒っている"不機嫌な彼なのではと、今頃になって察知したらしく。それにしては…お帽子を壁のタグに引っ掛けると、いつものように先にベッドに腰掛けてたゾロのお膝に、真向かいから"よいしょっ"とそれは無造作によじ登る。何をやっても揺るがない、頑丈で頼もしいお兄さんゆえ、このくらいの傍若無人はいつものこと。ゾロの側でもこのくらいのご無体は"おでこコツンvv"くらいの甘えと同等とでも把握しているらしくって、特に…現時点の不機嫌に加味されるということはなかったらしく。細っこい背中を大きな手で支えてやりつつ、
「そんな気になる声なんだな。」
 極めて短い訊き方をすれば、
「? ん〜…って言うか。」
 こちらも、何を訊かれているのかはすぐに通じる、察しの良さよ。…それでも、何に不機嫌なゾロなのかまでは判ってないのね。
う〜んう〜ん
「サンジの声って、そのまま"食べるもの"とか"寒いだろうが"って気ィ遣ってくれる温ったかい声って感じに直結してるからな。」
 伸びやかでちょっとだけ癖のある、気取っても はしゃいでも、気張っても気負っても、その張りには強かな芯があって、どうしても耳に留まってしまう、そんな声。なのに…静かに低められると、甘く響くやわらかなそれになる不思議な声。
「…ふ〜ん。」
 そんなもんかねと、相変わらず口許をへの字に曲げている剣豪さんへ、

  「ゾロの声は また違うんだよな。」

 ルフィがにっこり笑って付け足した。こんなにも間近の真正面から、瞬
まじろぎもせずという、堂々とした言いようであり、
「…?」
 んん?と眉を寄せたご本人へ、にぱりと笑って見せながら、
「喧嘩腰ん時でも、どっか"しょうがねぇなぁ"って甘さが混じってる声だしさ。」
「う…っ。」
 照れからか、それとも自分では気づいてはいなかったか。たじろいだお顔を追うように、ずいっと身を伸ばして来た不埒な坊や、


  「二人だけん時はサ、少し掠れさした低い声んなるだろ?
   あれって耳元で聞いたらサ、凄げぇドキドキするんだけど。」
  「そ…そうか?」


 だって恋人の声じゃあないですか。何か聞き逃せないって言ってた誰かさんのお声とは、当然のことながら別格な筈ですってばvv にゃーっvvと はしゃぎながら頼もしい懐ろへ顔を伏せてくる小さな船長さんの温もりに、こらこら擽ったいだろうがと返すお声は、もういつもの"甘やかしVer."のソフトな代物。自分を差し置いて面白くねぇとか何だとか、色々と焼き餅めいたことにぶつかりつつも、結局は…何だっていちゃつく理由になってしまうだけという観のある、いつまでも甘いまんまなお二人であるようです。さあさ、夜も遅くなるから、おやすみなさいvv



  〜Fine〜  04.1.4.〜1.5.


  *カウンター 113,000hit リクエスト
    エータ様
     『それぞれの声について 論を云々する彼ら』


  *私も実は声優さんフリークなもんで、
   情報バラエティもののVTRのナレーションとかに
   中井和哉さんが出てると妙に落ち着けませんし、
   某『Debuya』も、田中真弓さん目当てに観てたりしますし。
   (あ、でも『クイズ・ヘキサゴン』は観てないなぁ。)
   洋画の吹き替えものに平田広明さんが"これでもかっ"と出ているのには
   ホトホト困った時期もありましたし。(だって『ER』って展開が早すぎ/笑)
   …大谷育江さんも『ガッシュベル』とか あちこち出てますよね。
   (でも、子供の声はいまだに川田妙子さんが一番好きですvv

  *アニメ世界の声優さんたちには、時代ごとの顔みたいな人がいたりして、
   それで"年代"がバレちゃったりもするのですが。
   立派な"おばさん年代"の私が
   "おおっこれはvv"と懐かしさに感動したのは、
     あの『銀河英雄伝説』だったのは言うまでもないことでございました。


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