蜜月まで何マイル? "うとうと"

  *久々の"ぐりぐり"シリーズですvv いつも通りのDLFといたしますねvv


 この冬島海域に入ってからこっち、ここいら辺り一帯の気候を支配する寒気の中心部、台風並みの低気圧とやらの猛襲に遭ってしまったGM号であり。その凄まじき威力には、さしものお元気なクルーたちも…極寒の土地生まれのチョッパーを唯一の例外としての全員が、心身ともにきゅううっと、その肩幅を縮めるようにして過ごしていた。こんな気象だったからという幸いがあったとすれば、通過するだけで精一杯という苛酷な環境であったがため、他の海賊船やら海軍の船団やらとはまるきり出食わさなかった…ということくらいであろうか。帆を叩き、甲板に連日のように吹きつけた北風は、まるで質量を持った何かのように当たると顔や肌にも痛くって。波は荒く立っては小さな船を揺さぶり、時折降りしきる雪は…突然大きな氷の粒の"雹
ひょう"に様変わりしては、陽気に雪遊びをしていた幼子たちをキャビンへと後戻りさせた。

  「………ふにゃん。」

 そんなそんな、極寒地獄
コキュートスのような海だったけれど。明けない夜はないように、来ない明日はないように、数日間の大荒れを乗り越えてのち、空はあっけらかんと青く晴れ渡り、燦々と陽光降りそそぐ上天気を連れて来たから、クルーたちの喜びもひとしおで。気温はまだまだ低かったけれど、
『少なくとも低気圧の圏内からは抜けたから、冬型の嵐はこれで終しまいよ。』
 このまま一気に…という訳には行かないけれど、ちょっぴり寒い日と行ったり来たりしながら少しずつ暖かくなると思うわと、お天気のことなら計器に頼らずともお任せ、の航海士嬢が晴れやかなお顔で太鼓判を押してくれたので、


    『じゃあじゃあ、それじゃあ、キャビンのお外で遊んでもいいのか?』
    『ええ。久々のお洗濯だって出来るわvv
    『久々の日光浴もね。』
    『そうそう、久々の菜園いじりも出来ますよね。』
    『俺はそれよか、久々のベッドマットの虫干しがしてぇよ。』
    『俺は、俺は、えっとえっと…。』


 皆のように"久々の…"がすぐさま思いつけなかった船長さんだって、暖かな晴天を待ち遠しく思っていたには違いなく。そしてそして、今は ちゃぁ〜んと、彼なりの"久々の…"を堪能中。皆が晴れた晴れたとはしゃいでいた間も、ただ一人何ら変わらず"ぐうぐう"と居眠りを敢行していた剣豪さんの、広くて深くてゆったりとした懐ろへともぐり込み、風も緩
やわくなった ぽかぽかの上甲板に出ての"陽なたぼっこ"に いそしんでいるところ。気温的にはまだそんなまでの暖かさではないらしいのだが、
『陽に当たるのはいいことだよ? 骨を作るビタミンDはお陽様に当たると活性化するのだし、何といっても新陳代謝や体のリズムの微調整のためには、自然な時計でもあるお陽様に当たるっていうのが一番効果があるからね。』
 こんな風な説明の後、風邪を拾わないようにコートだのズボンだのをきっちり着込んだ上で、毛布にくるまってなら構わないぞという、船医さんからの"許可"が降りたので。風に冷えない完全防寒態勢を整えて、久々の金色のお陽様に全身でご挨拶している船長さんなのである。

  「にゃ〜〜〜vv お陽様が当たって ぬくといなぁ、ゾロ?」

 ほんの昨日までは…どんよりと重たげな曇天の中、少しでも肌を晒していると切りつけるような寒風に鋭く叩かれて、それはそれは痛い目に遭っていたのに。それを思えばこの久々の晴天は、まるで天国のような変わりよう。空が青くて明るいだけでも随分と気分が浮き立つし、風もさらさらと柔らかく、遮るもののない天空から降りしきる陽の光のまた、目映くて優しいこと。誇大な言いようではなく、じっとしたまま陽射しに当たっていると、そこからじんわりと暖かくなるから、これはやっぱり本格的に"冬の世界よ、さようなら"であるらしく。

  "…ふにvv"

 そんな天然のヒーターさんの恩恵も勿論ありがたいが、ぱふんと ふかふかな頬をくっつけている頼もしい胸板さんもまた、小さな船長さんにとっては最高の"暖房"さん。こちらさんもまた、よほどの寒さでもなければ羽織らない、膝下まであろうかという長いダウンのコートを着込んでいるが、今はその胸元の辺りだけを少しほど はだけていて。丁度、大きめのコートの内側へ、懐ろに抱えた船長さんをもぐり込ませているような格好になっている。よって、ルフィの頬に触れているのは…いつものシャツ越しのゾロの温みであり、

  "温ったかいし………いい匂いだよなぁvv"

 その身のみならず気持ちまで、とろりん・うっとり蕩けそうになりながら、特等席にて十二分に温もっている船長さん。柔らかな頬をふにふにと擦り寄せている、胸板や肩などの頼もしき肉置き
ししおきの感触はもとより、くっついてる肌へとじんわり伝わってくる まろやかな温みと、くっつき損ねてる隙間にふんわり満ちてる匂いがとにかく大好き。

  ――― そんなに年だって離れてはいないのにな。

 どうしてだかゾロからは、いかにも男臭い、頼もしい匂いがする。ゾロはお菓子を食べずにお酒をたくさん飲むから、こういう大人みたいな匂いになるのかなぁ。あ、でも、サンジもお酒は結構飲むのにな。サンジからは、微妙に甘い匂いがするもんな。甘いものばっかを食べてるから、俺はいつまでもそんな匂いになれないのかな。

  「…ルフィ? 寝ちまうならキャビンに帰るぞ?」

 人は眠ると熱がぐんぐんと放出されてしまうので、寒いところにいては覿面
てきめん風邪を拾いやすくなる。陽なたぼっこならともかくも、眠るのならばキャビンへ戻れとチョッパーとも約束しており、うとうととゆっくりとしたお船を漕ぎ出したルフィに気づいて、ゾロが小さな声をかけたが、

  「ん〜〜〜、寝てないもん。」

 うにゃむにゃと覚束無い声が返ってくる。そうと言う割に、ぱさぽさと指通りのいい黒髪を乗っけた小さな頭は、夢うつつであることを示して、ゆらゆらと頼りなく揺れているものだから、

  「………。」

 間近になった稚
いとけないお顔をちらりと覗き込み。しょうのない奴だなと渋く笑って、薄い肩を懐ろのもっと奥へと抱き寄せる。その肩をくるみ込むのに片腕で足りるほど小さな身体。自分の大きな片手で易々と掴めてしまう頭。ゴムの身体でなかったならば、やはり片手でへし折れてしまうだろう、細っこい腕に脚。夜ごと、海の底に一番近い船倉にて、甘えかかるその身を褥しとねに組み伏せる時にもふと思うこと。こんなにささやかな少年なのに。しっかり鍛えてはいても そもそもの素養が小さくて、いつまでも子供のような小柄な存在。…なのに、どうしてだか。修羅場にあっては誰よりも大きな、途轍もない男になれる、それはそれは不思議な少年。


  『俺は海賊王になる男だっ!』


 こんな大言を誰の前でも臆面もなく高らかに言い放つほどの、それは恐るべき性根を持つくらいなのだから。その程度の不思議なんて、いくらだってお手の物な彼であり。最初から判っていた筈なのになと苦く笑って、甘やかに降りそそぐ久々の陽光を眩しげに見上げる剣豪殿である。








            ◇



「別にあんな風に窮屈な想いをして人前で くっつき合わなくても。」
 夜になって部屋に帰れば、もっと水入らずで暖かいんだろうにと、呆れたように呟いたシェフ殿の声へ応じて、
「これまでの寒い間だって、あんな"ぬくぬく"思う存分堪能してたんでしょうにね。」
 航海士さんも肩をすくめて見せる。そんな二人の呆れようへ、
「何でも理由にして"くっついて"いたいだけなんじゃないの?」
 くすくすと笑ったロビンさんであり、
「…でしょうよね。」
 そんな可愛い彼らだから、ああまで公然といちゃつかれても鬱陶しくは見えないんだろうなと。船首方向の目の先の、ほこほこ暖かな光景へとついつい眸を細めたナミさんだったが、
「温かくなればなったで、今度は何をしでかすあいつらなのかに、注意しなきゃあならないのよね。」
 他の船だって現れようし、そうなれば…喧嘩だって売られるだろう、襲撃だって受けるだろう。そうなる前のちょっとした息抜き、命のお洗濯。暖まってるご本人たちのみならず、それを見守る皆様も心持ちまでもをほこほこと暖めて、今日も幸せな船長さんたちなのでしたvv







  〜Fine〜  04.1.28.


  *今日は何だか久し振りの上天気でして、
   寒いのは引かなくても、随分と気持ちが違って来まして、
   ついつい久々の"ぐりぐり"を書いてみたくなりました。
   いやあ、寒きゃあ良いってもんじゃないんですね、ラブラブって。
(苦笑)


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