蜜月まで何マイル? "朱に交われば…"
 

 
 次の投宿地として彼らが辿り着いたのは、小さな島だがそれなりの港と町があって、物品の流通の方もそれなりに盛んな土地であるらしく、
『前のリゾート地みたいな無人島も楽しかったけど、補給にはこういうところの方がやっぱり便利よね。』
 狩りも探検もお任せあれ…とばかり、どんな土地にでも対応出来る、なかなかに生活力の逞しい顔触れではあるのだけれど。人の行き来や交易の発達した島の方が、何でも揃って勝手が良いのは事実。それに、情報だって集めやすいとあって、
『今日は久々に宿に泊まりましょうvv
 さほどのこと、海軍だの警察だのが しゃかりきになっている空気ではないと読んだナミさん、豪気にもそんなことを言い出した。初日を一応の補給に充てたが、今回はそれほどあれこれ逼迫していた訳でもなかったので"お仕事"はあっさり終了。だがだが、肝心な"ログ"が溜まるのに2日かかってしまう島であるらしい。
『皆それぞれ、こういう場所でなきゃ出来ないことってのもあるんでしょうしね。』
 船は港から少しばかり離れた岩場に隠して係留してあり、何かあったならすぐにも駆けつけて出港出来る。問題はあるまいという事で、今回は"1泊2日の自由行動"という、なかなか長い自由時間を割り振られたクルーたちであったのだが、

  『あ、俺、ガラムマサラの材料が切れてたから専門店に行かないと。』
  『俺は…怪獣イカ焼きそばが出た時のまじない用に、お札を買っておかないとな。』
  『おおお、俺は、えとえっと、傷薬の材料にグリセリンとイモリの黒焼きを…。』

 それぞれに得意分野としているところの、専門知識の必要な物品の管理を担当している男衆たちは、素人には何だかよく分からない品物が要りようだとかで、さっさと街へ消えてってしまい、
「皆、薄情だよな〜。」
 宿屋の前にてポツンと一人取り残された船長さん。いつもの相棒でこちらもやはり…特に買い出しを割り振られていない限り暇な身である筈な剣豪さんは、今回久々に愛刀を刀鍛治へ研ぎに出すんだと言って朝から出掛けたまま、まだ帰って来ない。………もしかして町外れ辺りで遭難しかかっているのかも知れないが
(笑)、そんなに広い島ではないので、
"明日になっても帰って来なきゃあ、チョッパーが探しに行くだろうさ。"
 …って、それって何か順番がおかしい対処に聞こえますが。
(笑) それはともかく、
「む〜ん。」
 見事なまでの"置いてけぼり"とあって、ちょいと不満そうなお顔になったルフィだったものの、麦ワラ帽子を"ぐいっ"とかぶり直すと、
「ま・いっか。」
 彼らのような特別な目的がある身ではないのは事実。気ままなお散歩と洒落込みますかと、少しばかり擦り切れた石畳の坂道をお元気に歩き始める。そして、

  「…まあ、ルフィはね。
   何となればその身ひとつで"プレゼント"に出来る訳だから。」

 赤いシャツに包まれた小さな背中が、てくてくと歩み去るのを宿の二階の窓から見送って、ナミが肩をすくめて見せた。
「あたしたちは そうはいかないもの。」
 やれやれという口調な割に、だが、その表情は何となく楽しげ。お祭りや宴会が大好きなのは、彼らが"海賊"だからと言うよりも、彼らが彼らだからという順番な気がするくらいに、何かにつけて大騒ぎの場を設けたがる陽気なクルーさんたちで。今回の一泊二日という長いめの"上陸&滞在"は、実は実は秋の半ばにお誕生日を迎える、とあるクルーをお祝いするための下準備に充てられたもの。
「まあ、幸いにして懐ろは温かだったから助かっているけれど。」
 こちらにしてみれば渡りに船、あちらにしてみれば…ここで逢ったが百年目。(…Morlin.さん、微妙に間違ってます。)適当な格の海賊船
モーガニアにかち合って平らげて、例の"ファイトマネー"を巻き上げ、もとえ…頂戴したばかりなので、珍しくも資金には余裕があって。クルーたちは"補給物品の他のお買い物"に、残りの滞在時間を使っている模様。サンジは当然"宴会料理用"の豪華特別食材を買い足しに。刀の提げ緒を頑丈な特殊素材で編んでいたウソップは"根付け用"の石を探しに行ったらしく、チョッパーは毎年改良を加えている傷薬と一緒に渡す、伸縮性が高くて丈夫な包帯1箱を買いに。ロビンは逸品として有名な辛口のお酒を既に用意していて、ナミはというと、
『借金の半分を相殺なんてのは、サービスのし過ぎだしなぁ。…う〜んとね。』
 なかなか恐ろしいことを言っていたが、結局は…今回の刀鍛治へかかった費用を"必要経費"で落としてあげると、彼女にしてはかなり思い切ったことを準備しているらしい。
「大事にされているのね、彼。」
 ルームサービスの紅茶を味わっている考古学者嬢の微笑ましげな一言へ、
「別に。あいつだからって特別に気を遣ってる訳じゃないわよ。」
 いつだって強気な航海士さんが、肩をすくめて"くすすvv"と笑う。
「あたしたち自身がパーッと騒ぎたいから、そのお題目ってトコかしら。」
 そのためのダシよ ダシと、明るく笑う彼女だが、それでもね。プレゼントを考えるのは楽しいし、その人のプロフィールの始まりの日を祝おうと思うのって、やっぱり…少なからず"特別な人"だからすることだろうし。
"可愛らしいこと。"
 誰の何がとは敢えて言わず。ロビンお姉様、薄く笑って、明るい陽射しの降りそそぐ窓の外へと視線を投げたのだった。






            ◇



「ふわ〜〜〜っ。」
 てくてくと歩いて歩いて。お散歩中のルフィは、町外れの公園に到着していた。ここいらは"秋島海域"であるらしく、航海中も涼やかで透明感のある天候気候がずっと続いていたのだが。この島はそんな気候の中の、これまた丁度"秋本番"だったようで。公園の遊歩道沿いに植えられた樹木が、それは鮮やかな紅や黄色に色づいているではないか。青く澄み切った空の色にも いや映えて、見事なまでに綺麗な景色だ。
「凄げぇな〜〜〜。」
 星みたいな、小さな手みたいな形の葉っぱや、丸いの長いの大きいの。色んな形、様々な色の葉っぱが、梢を枝々を艶やかに飾っている様は何とも圧巻だった。
「枯れてる訳じゃないしな。」
 ちょいっと触ってみた葉はどれも瑞々しくも柔らかいから、水が足りなくての変色じゃあなさそうだとあって。
「こんな色の葉っぱなんて珍し〜。」
 レンガの道を歩きながら、右に左に、展示会場みたいに並んだ木々を物珍しそうに眺めやっていたルフィの声を、
「そんな筈なかろうが。」
 タイミングよく拾ったのは、
「おお、ゾロ。」
 腰の腹巻きの脇へと差したるは、それぞれに銘のある無類上等たる3本の和刀。緑の髪に鋭い眼光、肩も腕も隆と逞しく、背中も胸板も広くて頼もしい、それはそれは屈強そうな体躯をした我らが剣豪さんではあ〜りませんか。

  「こんなトコで迷子になっとったんか?」
  「なんで"迷子"って決めつけるかな、お前はよ。」

 鋭角的な目許をぐぐんと眇め、なお一層の怖い顔になった彼で。泣く子も黙るどころじゃあない。一端の大人や荒くれ海賊でも、この眸に遭った日にゃあ…びくんと射竦められ、その場でそのまま硬直してしまうほどに迫力のある御面相。だがだが、
「そんな筈ないってのはどういう意味だ?」
 呑気な船長さんには利いちゃあいない。ついでに話も聞いてはいなかったらしき言いようへ、
「…お前。」
 ううと唸ったものの、それこそ今更な話だと。こっちの諦めもなかなか早くて、
「ここいらの樹木は落葉樹っていってな。秋になると葉っぱが落ちる。その前に、葉の色が緑から赤や黄色に変わるんだよ。」
 簡単なところを説明してやる。もちっと具体的に解説するならば、朝晩の寒暖の差が大きくなる"そろそろ寒くなるよ"という合図とともに、枝にくっついてる部分の管が断たれてしまう。根からの養分や水を断たれることで葉の葉緑素が死んでしまい、それでまだ枯れてもないのに緑でいられなくなって赤や黄色になってしまう訳ですね。それからやがて水気もなくなり、冬の弱い陽射しを沢山受け止められるようにと葉が落ちてしまう。陽射しが弱いからこそ沢山の葉っぱで受け止めりゃ良いのにとか思いがちですが、そうすると樹木の周囲が木陰になって気温が下がってしまうからよろしくない。季節によって移り変わる、日光と温度、双方のバランスを、葉を落とすことで上手に利用する、なかなか効率のいい仕組みなんですね。そこまでの説明をしたゾロではなかったのだが、
「ほえ〜〜〜、そうなんだ。」
 何しろルフィの生まれ故郷は年中暖かな島だったそうで。雪も見たことがないと言っていたほどだから、常緑の亜熱帯植物にしか縁がなかったか、それとも木々の色の移り変わりに、本人、全く気がついてはいなかったか。カブトムシに詳しいくらいだから、微妙なとこですが…関心のあるもの以外は"すこ〜ん"と見えてない人ですしねぇ。
(笑)
"どっちでも らしいっちゃらしい話だが。"
 苦笑混じりに大きな手でがりがりと頭を掻いて、
「それより。こんな外れで何してんだ? お前。」
 初めて来た見知らぬ町の、思いがけない場所で出会うこと自体には…もっと途轍もない騒ぎと共に有ることだって稀ではない船長さんだ、特に奇異なことではないが、
おいおい
「食いもの屋も何もないだろうによ。」
 閑静な緑地公園は、冴えた空気の中へと射し入る、秋の透明な陽射しが満ちているだけという、ただただ静かな空間で。物見高くて騒動が大好きという、にぎやかな気性・嗜好の彼には、ちょっとばかり不似合いな場所だと感じたゾロだったのだが、
「失敬な奴だな。」
 お元気船長、頬をぷくりと膨らませた。
「俺だってたまには物思いに臥せったりするんだよ。」
「…ほほお。」
 臥せったりしてどうすんだかと、思いはしたが面白いので訂正は加えてやらず、
こらこら
「ま、確かにこの眺めはなかなかの絶景だが。」
 頭上に周囲に高く低く、茂みや梢を彩って奥行き深く広がる紅葉の綾錦を、彼もまたぐるりと見回した。日頃からも…日の出・日の入り、凪に嵐にと、海という雄大な自然を間近に生活している彼らではあるけれど。いかんせん、相手がデカすぎて、しかもそれに乗っかっているせいか、眺める対象ではない。
"いくら"千差万別"日々顔が違うとはいっても、見る分には飽きたというのも有るしな。"
 あはは、ただの青い海だろがって感じでですか? まま、そっちがどうのこうのと言うよりも。陸の風景には時に飢えてる彼らだから、こういう仕立ての景色には、受ける感慨もまた別で。感じ入るところへの刺激とやらも格別大きいのかもしれない。
「…綺麗だよな。」
「ああ。」
 茂みの輪郭を紅紫に萌えさせたドウダンツツジに、紅に染まったナナカマド。ところどころにまだ緑の残るカエデの樹の上で織り出されている、色彩変化のグラディエーションもなかなか味わい深い。玻璃のようにピンと澄んだ空気の中だから、尚のこと。鮮やかさがくっきりと映えたそのまま、裸の胸に迫りもするのだろうなと、

  「………。」

 そんな風に感じている部分とは別なところが、反射で きりと引き絞られていて。風流よりもそっちに過敏な、そんな性分の自分に苦笑するゾロの傍ら、
「ちっと勿体ないかな、こんな場所じゃあ。」
 ぼそっと。そんな言いようをする辺り、船長さんも気づいているらしい。木々の陰から自分たちを見据えている浅ましい目と、そこに滲んだ下種
げすな欲望丸出しの"殺気"の気配に。
「しゃあないだろうさ。周りに人気がないのを ありがたいと思おうや。」
 目の保養をさせてもらったのに身勝手な言いようかもしれないが、とばっちりで怪我人を出したり騒ぎが大きくなったりする方が剣呑だ。研ぎ上がったばかりの愛刀たちのバランスを見る機会がこうも早く転がり込んで来るとはなと、
"…別に嬉しかないけどな。"
 心からの憂鬱を滲ませて溜息が洩れたゾロとは違い、
「隠れてねぇで、どっからでも掛かって来いやっ。」
 船長さんの方は大いに やる気満々であるらしい。しんと静まり返った静謐の中、音もなく吹き抜けた風の気配にやや遅れて、梢がざわざわと揺らいだ音が、少しずつ高まりながら近づく波濤のように聞こえた二人である。






            ◇



「だ・か・ら。つい反射的に体が動いて、浚っちまったんだってんだよ。」
「ついって言って、いつもいつものことじゃんかよっ。」
 向かい合っての喧々囂々
けんけんごうごう。思いきり喧嘩腰で怒鳴り合っているのは、やっぱり…船長さんと剣豪さん、つまりは"味方同士"だったりするから、これいかに。周囲には彼らを狙った刺客たちの屍しかばね(いや、一人も死んでまではいませんが)累々という状態のその真ん中にて、楽勝で勝ったらしき二人が…何へだか いきなりの大喧嘩になだれ込んでいて。
"…う〜ん。"
 あんまり喧しいものだからそれに叩き起こされる格好で意識が戻ったものの、相手の途轍もない腕っ節との格差を我が身で思い知ったが故に…身を起こすことも出来ぬままな刺客さんたちが、
"どっか他所へ行ってやってくんないかな…。"
 そんなことを思っていたりするのだが。
(笑) 一体何に、こうまでの口喧嘩をおっ始めた彼らなのかと言えば、

  『行くぜっ!』
  『おうっ!』

 自分たちを取り囲んでいた良からぬ気配へ、背中合わせに身構えた二人の腕自慢。真剣本気の心意気を示すバンダナさえ巻かぬまま、
『3本全部は要らないか。』
 左右両手の和刀をかざし、右に左にざくざくと、峰打ちでも意識が遠のくほどの鋭い剣撃を隙なく繰り出して見せた剣豪さんと。
『さあ来い、どんどん来いっ!』
 まるで体を動かして競うゲームでも楽しむかのように、突っ込んで来る手合いをひょひょいと楽勝で躱したり、はたまた岩をも砕くほどの張弾力を込めた拳が、とんでもない方向・間合いから突っ込んで来る、超人的な攻撃をかます少年と。懸賞金の額に比してまだまだ若々しい二人を見て"なんだガキじゃねぇか"と安く踏んだ連中が、真っ青になるのにそうそう時間は要らなくて。ついでに言えば逃げ出す間も与えなかったものだから、全員をその場に叩き伏せる形で活劇の方は割とあっさり鳧がついたものの、

  『…ゾロ。』
  『何だよ。』
  『最後の一太刀は、お前、俺を庇っただろう。』
  『…うっ☆』

 それは仲良く、コンビネーションも素晴らしく。鮮やかに戦い続けていた彼らであったのだが。返す刀の切っ先をどう進めるか、いかに無駄なく剣を走らせるか。連綿と斬り続けるその間合いが途轍もなく長くても全然平気という、ともすれば化け物じみた持久力を伴った…水をも漏らさぬ段取りを瞬時に繰り出せる見事な太刀筋が、相手の陣営の逃げ足をあっさりと封じたまでは良かったが。その延長にいた輩を叩き伏せたところが、そいつらはルフィへと掴み掛かっていた連中だったから…話は ややこしくねじれてしまったらしい。
『俺は庇ってもらうためにゾロを仲間にした訳じゃねぇっ!』
 いつもいつも、耳にタコが出来るほどに言われていること。自分の喧嘩に手を出されると、かっち〜んと来る性分であるらしく。それがコンビネーションの上でのことだとか、歯ごたえが有りそうな"剣の使い手"相手ならともかくも、今回の場合は何でもないチンピラ風情。なのに助けられた、ということは、そんな手合いに手古摺ってたと思われた…という解釈につながって。それが妙にムッとしたルフィであるらしい。
「いつもいつも、余計に手ぇ出してっ。」
 むんと胸を張っての大抗議は、見様によっては…ちょっと子供っぽい駄々捏ねにも聞こえて。こんだけの襲撃者たちを平らげた存在へ"子供みたいだ"と感じてしまう感覚もどうかと思うが、それはともかく、

  「剣の技を覚えるより簡単なことだろうがっ!」

 この一言には…さすがに、

  「………。」

 剣豪さんの眉間がムッと顰められたことがありありと判って、
"…ううっ★"
 ちょっと怯んで肩を窄
すぼめた船長さんだったりするから…そんなら言わなきゃ良いのにさ。(笑) そんな一瞬の機微の攻防で、だが、簡単に決着はつき、
「…ごめん、言い過ぎた。」
「おう。」
 おおう。珍しくも今回は、船長さんの自主申告による"判定負け"と相成った模様。喧嘩の"分け前"の横取りにムッとしたなんて発端自体が、そもそも大人げなかったのだし、手が遅かったから奪われたという順番だったのも、実は判っていたルフィであり、
"そんな詰まんねぇことへ、剣のこと、持ち出すのは筋違いだもんな。"
 ゾロがどれだけ真摯に向かい合っていることなのかは、それこそ重々承知。他のことでは思う存分に甘やかされていても、例えば…ゾロにとっての刀は道具ではなく相棒だということ、しっかり判っているルフィであり。事が"剣"や"剣術"に関わることへは判ったような口を利いてはいけないと、自分で自分を窘めることが出来るほど。
「ほら…。」
 喧嘩も内輪もめも 方
カタがついたからと、この公園から外へ出ようと体の向きを変えて促すゾロへ、
「…うん。」
 ちょっとだけ項垂れたまま、ルフィが草履の足を遅れて踏み出す。枯れた訳で色づいたのではない紅葉の、それでも早くに赤くなって落ちたらしき何枚か。足元でかさこそと乾いた音を立てるのを踏みしだき、
「………。」
 何となく意気消沈しているルフィであるのを背中に感じて。
"???"
 ゾロがつい、立ち止まって彼が傍らまで進んで来るのを待ち受ける。相変わらず足音をさせないゾロではあるが、そんな風に構えた気配は伝わって。顔を上げたルフィは自分が気遣われていることへ…さっきのように怒り出しはせず、どこか甘酸いような笑い方をして見せた。そして、

「つい庇うのも剣の延長なら仕方ないって、好きにすれば良いじゃんかってゾロに任せ切ることも。グダグダ言わずに黙って従えって強引に言うことも出来ないよな俺は、船長失格なのかな。」

 強くて雄々しくて、どんな時にも野望への覇気を忘れはしない、頼もしいゾロ。自分が最上級の資質を認めて仲間にした男であるだけに、時には…癪なことながらも、自分よりも冷静正確に物事を把握していると認めざるを得なくって。誰に何をどう評価されようと、知ったことかと笑い飛ばせるが、

「ああ、そうかもな。」

 あっさり言い切られると、
"…うう。"
 ちょっと以上に 堪
こたえもする。だが、ふしゅんと萎んで項垂れたその耳元へ、


  「だから。俺がついてんじゃねぇか。」


 低く響いて いかにも大人っぽい声がして。え…っと目を見張り、顔をそちらに向ければ。頬骨の少し立った、やっぱり男臭いお顔が、にんまり笑っていたりするから。

  「………しょってんのな。/////

 強くて雄々しくて、野望への覇気を忘れない、頼もしいゾロ。でもね、優しい稚気も持ち合わせてる、最近頓(とみ)に度量が大きくなりつつあるゾロでもあって。前からいろいろと背負いたがる背中だったけれど、自分も何かしらの形でそこに背負われているのかな。そんな風に思ったら、ちょっとだけ胸がちりって痛くなったから…。

    「先に死ぬなよ。」
    「何だそりゃ。」
    「良いから。お前が先に逝っちまったら、俺、独りになっちまうだろうが。」
    「独りって…。」
    「………。」
    「わぁーったよ。キャプテン。」
    「よしっ。」

 やっと にっかりわらったお日様。何だかお腹が空いて来たから宿へ戻ろうと、ゾロの大きな手を引いて、今度は先に立って歩き出す。
"………。"
 幾つもの約束、何度も繰り返す誓い。だがこればっかりはどうなるものやらと、自分の野望へは強気な剣豪も、だったら矛盾する筈の方向のことだのにも関わらず、
"守れねぇことかも知れんよな。"
 そう思ってはついつい苦笑してしまう。相棒冥利に尽きる立場を噛みしめた、ゾロさんだったりするのである。





   〜Fine〜  03.11.11.〜11.16.


   *何だか取り留めのないお話になってしまいましたね。
    どの辺が"お誕生日"作品かも曖昧だし…。(うう。)
    やはし突貫でかかるとロクなことはないということでしょうか。
(苦笑)
    性懲りもなく同じネタで喧嘩してる二人ですが、
    見込んだものが"腕っ節"や"度胸"という、
    お互いに張り合えるものでもあるのだと、
    ちゃんと認識し合ってないのかも知れない点が、
    そもそもの問題なのかもしれない…。
う〜んう〜ん


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