蜜月まで何マイル?“秋午睡”
 



夏島海域の真夏なんていう、
信じられない灼熱地獄を通過することだけは何とか免れたものの、
それでも、海上で過ごす夏は存外と苛酷でうざったい。
どんなにしっかりと踏破のための計画を立てていたって、
周囲の環境に気ままに翻弄されたら絶対に敵
かないっこないし、
どこへも逃げ出せないところは砂漠と変わりなく。

    「何と言っても暑いのが堪らないわよね。」
    「そうね、そういう時だけは冬島海域が恋しいわよね。」
    「つか、そういう“航路計画”をプランニングするよな商売が、
     先々では持て囃されそうだよな。」
    「あら、それって良いじゃない。」
    「普及させるには、そうね。
     まずはこの“グランドライン”を
     ログポースに縛られないで自在に航行出来るようにしないとね。」

今の俺らには縁のなさげな、実のない話をさもそれらしくも繰り広げ、
ワクワクしながら聞いていたルフィやチョッパーを
素知らぬ顔のままで ナミやロビンがからかってやがる。
そか、それがまずは大変だ、うんうん…なんて、
まだ真に受けてるウソップには罪はないが、
せめてお前くらいは、
ルフィやチョッパーよりかは、世間とか何とか色々知ってそうなお前くらいは。
何とかフォローする側へ落ち着いてねぇかと思ったが、
あいつ、自分がホラ吹くだけじゃなく、乗せられやすいトコがあっからな。
皆してわいわいと騒いでる声も、潮風に紛れて後方へと運ばれてゆくのが大半となり。
波にゆるく揉まれている船ごと、大きな“揺りかご”になってるみたいで、
頬をなぶる心地良い風に、陽盛りの熱を冷まされながら、
身に馴染んだ振動にゆったりとあやされながら、
意識がゆっくりと眠りの水底へ沈んでく………。





            ◇



 暦の上でも海域の種類でも“秋”に突入した、陽気の良い昼下がり。気象に詳しくて勘もいい航海士さんと、風や気配に敏感な船医さんの言うには、海流も風も良好ならば、雲の流れも穏やかで気圧も安定中だそうで。我らが小さなキャラベルは、風の後押しを受けながら波を切っての航行中で。船体がゆったりと上下しながら軽快に進む船足もすこぶる良好で、そんな振動が何とも心地が良いものだから。

  「ぞ〜ろ…って。まーた寝てやがる。」

 お茶の時間を過ごしてから、パタパタとお元気に上甲板へと上がって来た麦ワラ帽子の船長さん。せっかく面白い話をナミから聞いて来たのに、それを一刻も早く聞かせてやろうと思ったのに。肝心の…緑頭のオーディエンスがこれでは“せっかく”も何もあったもんじゃない。
“…んだよ。”
 間近によれば寝息も聞こえ、深い呼吸をすうすうと、規則正しく繰り返しているのが判る。板張りの床に直に胡座をかいての、今日は“腕組み・首前方倒し Ver.”で寝ている彼、で。雄々しいほどの筋肉の張りようがありありと判る太い腕を、これでも弛緩させた上で交差させて乗っけているのだろう頼もしき胸板が、深い呼吸に合わせて…ゆぅ〜っくりと持ち上がって、ゆぅ〜っくりと下がるのが。それもまた、何かしら特別な運動みたいな大きな動きに見えて。
「………。」
 それはそれは健やかで、いっそ野放図なまでのおおらかさで。そりゃあ無防備にくうくうと寝入ってる。暢気さでは負けてないつもりの船長さんだったが、寝てる間に何か面白いことが起こってたらって思ったら勿体なくってさ。ここまでの寝まくりには到底付き合えない。
“それに…ゾロは宵っぱだかんな。”
 夜中に寝足りてなくての昼寝だってことは、仲間内にはもはや…こっそりとながらも明白なこと。だからルフィも“仕方がないなあ”と構えて、あまりムキにはならない…時もたまにはあるらしく。
「………。」
 無心な表情を見せている横顔は、少しばかり俯いているからか、目許に陰が落ちててあんまり“安らか”そうではないけれど。頬の縁に伏せられた瞼のラインが実は結構“せくしぃ”なんだってこととか、案外と繊細な線を見せる鼻梁の稜線とか、きっちり合わさった口許の深みのある男臭さとか、普段はこうまでじっとは見られないからって、ついつい見とれちまうしよ。おとがいの下から胸元は鎖骨の合わさる窪みまで、喉元の引き締まったところのよーく灼けてる鹿とかの革みたいな肌は、触りたくてうずうずするよな光沢に汗が冷えてて、こっからもなかなか視線が離せないし。がっつり筋肉が盛り上がってる肩や二の腕も、グッて力を入れてっと痛いくらいカチコチだけれど、寝てる時くらいは少しくらい…柔らかいかもしんなくて。

  「………………。/////////

 あ、しまった。カッコいいなんて思っちまったぜ、呑んだくれで寝んだくれのゾロのくせに、ただ寝てるだけなのに胸糞が悪いったらっ。//////// ……………でもさ、でもさ、あんな?あんな? こうやって無表情でいるゾロの横顔を、まじまじと見られるのは、他でもない、この時だけなんだよな。起きてる時のゾロは油断がないっつか、視線を投げれば…研ぎ澄まされた反射がどうあっても働くらしくって、いつだってきっちりと視線がかち合う。何だ、何か用か?って、そんな顔になったり眸が動いたりする。寝てる時でもなきゃ、こっち向いてない顔なんてなかなか見られない訳で………。

  ――― あれれぇ? それってさ、もしかして………。////////

 ゾロの馬鹿やろ、俺んコト、うかーっとかボケーっとしてて目ぇ離せねぇ奴だって思ってるってコトかな。そりゃあ…最近でも時たまは、相変わらず、羊の上から海に落ちてるし? そうなっちまう一番の要因、ついつい場所をわきまえずに昼寝っちまうし? あと、大切にしてるって言う割に、この帽子だって結構落としまくってるけどよ。良いか? 俺がそんな油断しまくりなんはな、半分くらいはお前にも責任があんだぞ? ゾロ。こんな暢気そうな顔で堂々とぐうぐう寝てやがって、お前はよ。そんくせ…ちゃんと、真っ先に助けてくれんじゃんかよ。帽子を飛ばしても、俺より早くに立ち上がって行動起こしてくれんじゃんかよ。だからついつい…油断しちまうんだぞ? 判ってんのか、おい。頬っぺ、ぐりぐりの刑だぞ?

  「………っ☆」
  「何しようとしてくれてっかな、船長さんよ。」

 自分よりかは堅そうな、そんな頬へと伸ばしかけてた人差し指を、船長さんのに較べりゃあ ずんと大ぶりの手が、相手の手ごと楽勝で捕まえており。
「あ〜、ゾロっ。さては“タヌキの嫁入り”してやがったなっ!」
「それも言うなら“狸寝入り”だ。」
 なんか随分と以前にも同じようなやり取りをしなかったか?と。筆者には“いやん”なことを思い出しつつ
(笑)、捕まえた手をぐいっと引いて、
「わわっ☆」
 実はすぐ目の前で“蹲踞
そんきょ”に良く似て非なるもの、立て膝しゃがみという行儀の悪いカッコでいた小さな船長のバランスを崩させると。背中へと腕を回し、倒れ込んで来た途中でくるんと総身を一回転させて。あっと言う間にも自分の懐ろへ、そりゃあ手際良くも取り込んでしまう剣豪さんであり。
「ふにゃ。」
 向かい合っていたものが、気がつけば…剣豪さんの深くて広い懐ろとお膝を“座椅子”代わり、抱えられていたりするもんだから。強引さに翻弄されたようで、船長さん、そこんところは意見せねばと思ったか、
「ゾロっ。」
 顔を上へと振り向けたれば、間近に待ち構えてたのは、
「んん?」
 ちょっぴりと男臭い。口許の端っこだけを持ち上げた、いやに余裕の笑みが待ち受けてたのが、
「う…。///////
 やっぱり翻弄されてるのが悔しいけれど、遊ばれてるって思うから“んきぃ〜〜〜っ”てなるけど、でもさ。クソ〜〜〜、何でそんなカッコいいんだよう。///////
「忙しい奴だな。真ん丸に膨れたり赤くなったりよ。」
「あ、赤くなんてなってねぇもんっ!」
「そか?」
「そだっ。」
 お返事こそ大威張りだが、相手のお膝に抱えられてるまんまでは、貫禄も威厳もあったものではなく。腕ごとの胴をまんま、余裕でぐるりとその腕に搦め捕られた格好でいること、ちっとも不自然に思ってはいない辺りが…何ともはや。

  ――― お前さ、頼むから
       思ってることがすぐに口から出ちまうの、何とか治せな。

      へ? 何だそりゃ?

 これだもの、天然ってのは参るよなと。キョトンとしている船長さんの素の表情を見下ろしながら、何とも言えない苦笑をこぼす剣豪さんであり。よ〜く陽に灼けているから目立たないものの、もしも彼がシェフ殿ほどに色白だったなら、隠しようのない赤にお顔や首条が染まっていたかもしれないくらいに、実は…此処へと上がって来てからのルフィの“独り言”がほとんど聞こえていたゾロとしては。近間に他のクルーたちがいなかったことが何とか救いかななんて、甘いことを思ってたりするんですが。

  “………あらあら。それで正解なんじゃなくって?”

 キッチンキャビンでは女性陣とシェフ殿とが、まだ少しは強い紫外線を避けての、静かなティータイムを延長中。………そですよね。こんなカッコで聞いたこと、口外するよなお姉様じゃあありませんよね?(クススvv





  〜Fine〜  05.9.18.


  *明日のオンリーイベントが羨ましいようと思いつつ、
   突発で書いてみました。
   アニメではCP9の正体が判明し、
   ロビンちゃんが負ってて追ってた謎というのか秘密というのか、
   それの糸口がちらりし始めたとこですが。
   ルフィたちを冷たく(クールに?)突き放そうと悲壮な顔しているところが、
   まだ28だもんな、青いなとか思ってしまってるおばさんです。
   つか、根が生真面目で実は慈悲深い人なんじゃないのかな?
   ホントは、愛したいし愛されたい。
   暖かな信頼に包まれたいし誰かを包んでもあげたい。
   何か負っててもいいじゃんかと笑うだろうルフィたちを
   危なっかしいと思う気持ちは判るけど、
   彼らの可能性を早く信頼してあげてもほしいです。

  *…と、一丁前に真面目な語りの後にナンですが。
   相変わらず“お昼寝もの”お任せサイトと化して来そうな勢いです。
(苦笑)
   油断のしまくりでのこととて、
   お腹を天へと晒し、弛緩しまくりで眠るのは人間だけなんですってね。
   (あと、人に飼われている動物とか。)
   野生の動物は、
   いつ何時、何が襲い掛かって来るかも判らない環境に身を置いているので、
   すぐにも動き出せるように、且つ、被害が少ないように、
   油断なく身を縮めていて、眠りも浅くているのだそうな。
   寝る間もビンビンと警戒し、過敏でいる訳ですから、
   そりゃあ熟睡なんてしちゃあいられまい。
   それを思えば、
   あのゾロが…昼間はよっぽどのことでもなければ起きないのは、
   他の面々を信用し切っているからなのかもですね。

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