月下星群 〜孤高の昴・異聞

  天上の海・掌中の星 〜春颯風炎



 公園や学校の校庭の、満開の桜の華やかなご挨拶で幕を開けた新年度も、何とか軌道に乗っかって。その桜の梢にも柔らかな若葉がたわわとまといつき、青みを増した空の下、ツツジの花が鮮やかに咲き始める陽気の中。新しいクラスメイトたちや担任の先生、部活の新入生などにも一通り馴染んで来るそんな頃合いに、すぐさまやって来るのが"ゴールデン・ウィーク"である。この呼び名はそもそも、この連休時期に新作映画の配給をしたその宣伝にと付けられたものなのだそうで。
「でもなあ。すぐにDVDで出回るからな、最近の映画はさ。」
 そうですね。あと、ケーブルテレビや衛星放送でもすぐに放映されますしね。そうなると…よほどの話題作とかでない限りは、高いお金払ってまでわざわざ観には行かないですよね。日本の映画料金はそれでなくともかなり高い。単に諸外国より物価が高いから…というだけで片付けてはいけないくらいに高い。昨今とみに人気の、クオリティの高い遊園地やアミューズメントパークの入園料ととっつかっつなのは、やはり どうかと。大画面で見る迫力や臨場感という点にしても、洋画やアニメーションの活劇ものなんかはともかく、邦画は…ビデオで十分というものが最近多くないかい? もうちょっと頑張ってほしいかなと。
「アクションものでも観に行かねぇだろ、お前は。」
「えへへ♪ だって途中で寝ちまうんだもん。」
 あの心地いい暖かな暗闇、ざわざわとしたどこか散漫な人の気配の満ちた、妙に落ち着ける空間に居ると、どんなに大迫力の音響効果が揺さぶろうと関係なく、始まって10分と経たないうちに爆睡してしまう坊やだそうで。
「でも、何で知ってんだ? それ。」
 連れの彼との外出は自然・天然の戸外が多いせいもあって、映画を観に行くかどうかなんて会話は、今まで俎上にさえ上ったことはない。大きな瞳をくりくりさせて、
「俺の頭ん中、読んだんか?」
と小首をかしげる少年へ、
「前にも言ったろうが。俺はそういうのが苦手だし、割と得意な方のサンジでも、お前の考えてることは読めないんだって。」
 舗道の端、柵のように連なっているガードレールの上という不安定なところを、心持ち両手を左右に開いて、平均台上のようにバランスを取りながら器用に歩いていた小柄な坊やを、だが、
「危ないから止めな、ルフィ。」
 ひょいっと。両脇に大振りの手を差し入れて、軽々と抱え降ろしたのがゾロという青年で、
「なんだよ、平気なのに。」
 運動神経はこれでも自慢なのにサと、無理から降ろされてぷうと膨れた少年の方はルフィという。眸の大きな童顔で、そんな子供じみた顔をするとますます幼く見える、丸ぁるいお顔に笑いかけ、
「お前の運動能力は知ってるがな。それを見て、何だ簡単そうじゃないかって、小さい子が真似したらどうすんだ。」
「…あ・そうか。」
 さすがに大人だなぁ、正義の精霊は言うことが違うよなぁと、本人には他意なぞなかろうが…どうも引っ掛かる言いようをするルフィに苦笑を返し、再び、のんびりとした歩調で歩き始めるゾロである。
「あ、待てよぅ。」
 気の早い初夏を思わせるような爽やかな陽気の昼下がり、どこへか出掛けて来たらしき二人連れが辿るは、我が家までの帰り道。連れの青年の前を、時々後ろ向きに歩いたりしていたかと思えば、何かに注意を取られて遅れてしまい、呼ばれてぱたぱたと追いかけたり。なかなかにお元気な少年の方はルフィといって、この春に中学3年生となったばかり。小柄で童顔、手足も細く、ちょっと見には小学生に間違えられかねないくらい愛らしい彼だが、これでも柔道の中学生大会では県代表に何度も選ばれている、その筋では名の知れた豪傑でもあるのだとか。
"人は見かけによらないって言うが。"
 ゾロ自身もそれがどんなものかというのは知らずにいたが、先の春休みに試合の様子を初めて観戦し、体の重心バランスやタイミングを見極める能力に長けた、いかに勘の鋭い子であるのかを実感したばかり。
"けどなぁ…。"
 直に接するご本人はといえば。先程軽々と抱えた折、きゃははvvと軽やかな声を上げ、それは楽しそうにはしゃいで見せた、ごくごく普通の無邪気な子供にすぎないのだが。つやのある黒髪に陽光が乗り、軽やかな動きに合わせて絹の光沢を走らせる。白地に青の格子柄のシャツとTシャツの重ね着に、七分丈のGパンとスニーカーという軽快な服装のよく似合う、それは伸びやかな肢体に はちきれんばかりの元気を詰め込んだ、学校でもご町内でも人気者な明るい坊や。そして、
"………。"
 その気さくな気立ての奥に、ちょっとした秘密を抱えてもいた彼だが、そのお話はもうちょっと後で。………一方、
「なあなあ、ゾロ。」
 たいそう背が高く、頼もしい体躯をした連れの青年の方は、名前をゾロといって、ルフィ坊やの只今現在の臨時保護者だ。微妙にお揃いを狙ってか、こちらは黒いTシャツの上に白地に青のストライプのシャツ。紺色のワークパンツをはいている脚も随分と長くて、そのストライドに合わせようと、時々駆け足になるルフィであるほど。
"…放っとけよ。"
 あ、ごめんごめん。
(笑) ちょいと膨むくれた小さな連れを苦笑混じりに見下ろすお顔は、何とも精悍で男臭い。鋭く冴えた目許に口角のはっきりした口許。軽い仕草に合わせて耳元で三連の棒ピアスが金色に煌めき、短く刈られた髪は日本人にはちょいと見ない緑色…と来て、さぞや喧嘩っ早い"やんちゃ系"のお兄さんかと思われがちだが、さにあらん。着痩せして見えるからそれほどごつい印象はないのだが、よくよく見れば…Tシャツの下、胸板や肩の厚さの何と頼もしいことか。ピアスの下がった耳朶からおとがい、首条にかけて。ほのかに陽射けの残る浅黒い肌が張りついた、それはそれは引き締まったラインが滑り込む先の上半身の雄々しさは、どこかしら肉惑的な夏場のTシャツ姿にて、ご近所の皆様には重々と知れ渡っているほどというから…良いのか、破邪様。
"こらこら。"
(笑)
 ああ、すいません。お二人を扱うのは久し振りなもので、つい。ここまでの描写だけならば、ちょいと目を引く容姿はともかく、こちらもやはり"ごく普通の青年"という雰囲気なのだが、実を言えば…彼にもちょっとした秘密があって。逞しいまでの筋肉の束が隆と張って躍動する胸板や二の腕、強靭なまでに引き締まった背条、腰という、それはそれは屈強な肢体も、正確な話、実体は無い。およそこの人間界の住人たちとは全く異なる素養にて構成された存在の彼は、此処より高次元世界に籍を置く"破邪"という精霊だ。数多(あまた)存在する様々な次元世界のその中で、唯一、物質優先で構成されている人世界。全ての存在世界の"正"と"負"のバランスが保たれるための大切な"接点"でもあるこの地上世界を監視し、その…主に"負"への偏りや歪みを、場合によっては精霊刀を用いての"成敗"という形を選んででも修正する。それが任務の高等精霊であり、そして…。

  『やっぱりだ。兄ちゃんたち、人間じゃあないんだろ。』

 本来ならば。意識して存在を見せていない限り、そう簡単には見顕
みあらわすことなぞ出来ない筈の彼とその相棒を、それはあっさりと感じ取ったのが、このルフィ坊やなのである。途轍もない能力を持った子供。それがため、得体の知れない邪妖たちに狙われ続けるという、怖くて辛い、苦しい思いをし続けていて。それでも挫けなかった強い子供。寂しい魂を自分には追い払えないと言った優しい子供。そんな彼が背負っていた苛酷な運命も知らず、ひょんなタイミングにて出会った二人。天聖世界でも唯一孤高な魂であった緑髪翠眼の破邪は、幼いとけない彼の真新まっさらな魂の温かさにするすると抵抗なく惹き寄せられて…気がつけば。時折"誰へ"のものだか曖昧な苦笑を片頬に浮かべつつも、その大きな手を必ず差し伸べられるほど、いつも傍らにいる"今"に至っているのである。
「なあってば、ゾ〜ロ。」
 そんなゾロのシャツの裾を、少し遅れかけた後方からルフィの小さな手が"くいくい"と引いて。
「なあ、何で知ってたんだ?」
 先程の映画の話へ話題を戻せば、破邪精霊さんは事もなげに応じて見せた。
「ウソップが言ってたんだよ。先週から公開のスパイものの映画が凄い面白そうなんだけど、ルフィは誘っても寝てしまうからって。」
「あやや。」
 映画をわざわざロードショーで見る理由のもう一つは、大好きな人と同じ感動を分かち合いたいから。何もラブラブな恋人だけとは限らない。気の合う友達、感性が同じ親友。一緒に楽しく過ごしたい人。同じものに同時に接して得た感動という体感は、その時も楽しいし、後々の共通の話題にもなるから、だから一緒に観に行きたい。そここそが"エンターティメント"たる由縁なんだから、ホント、邦画関係者の皆様には頑張っていただきたいです。
"くどいぞ。"
 だってサ。
(笑) こっちは良いから、話に戻って下さいませ。
「ウソップにって、どこでそんな話、したんだ?」
「昨日の夕方前頃だったかな。買い物に出た先の、そうそう"蓑屋"で逢ってな。連休はルフィと出掛けないのかって聞いたらそんな話をしてくれたんだよ。」
 蓑屋というのは商店街の真ん中にある精肉店だ。昨日はカレーと出来合いのコロッケというメニューだったので、ルフィにも"ああ"と得心はいったらしいが、
「あいつめ。」
 ちょこっと眉を顰めて、一丁前に舌打ちをして見せるものだから。
「どうしたよ。」
「だってさ、最近付き合い悪いんだ、あいつ。部活も早々と引退して、さっさと帰っちゃうしサ。それを誤魔化そうとして、そんな話をしたんだ、きっと。」
 何と言ったって一番の仲良しさんだ。考えてることも結構"お見通し"であるらしく、
「あいつ、凄んげぇ可愛い彼女がいるんだけどさ、何でもその子がかなりランクが上の、遠いトコにある高校を志望してるんだって話でさ。だから、受験勉強で忙しい合間を縫ってってノリで、プラネタリウムだとか水族館だとか、あんまり遠出でない範囲でのデートを頑張ってるんだって。」
 ま・そんな事情じゃあ しょうがないけどさと、ルフィとしても理解はしているらしくって。そして、
「…受験かぁ。」
 ゾロとしては別なフレーズに関心が向いた。
「お前はどうするんだ?」
「んん? 何が?」
 きょろんと。大きな瞳で見上げて来る坊やに、
「だから、受験だよ。どこを受けるのか、決めてるんだろうな。」
 何たって彼もまた中学3年生。そろそろ進路に向けての受験勉強とやらも始めねばならない時期ではなかろうか。それを思って訊いてみれば、
「うん。とっくに。」
 にかっと笑って見せて、
「市内のV高校。エースも通ってた学校だぞ。」
 いやにあっさり答えるが、
「レベルとか、問題ないのか?」
「さあどうかな。連休が明けたら進路指導があるからさ、そこで先生に聞いてよ。」
「…ちょっと待て。」
 何か順番がおかしくないかと、ゾロが眉間にしわを寄せる。どんなランクの学校かを知らないような口ぶりだったのが引っ掛かった。
「そういえば、お前。学校をこっちから選べるほどに成績よかったか?」
 彼の家はなかなかの奔放主義一家で、一等航海士の父上も日頃から"好きなことを選べばいい"としか言ってない。この春にやっと、8カ月振りという帰還を果たしたその父上は、だが。
『そうか、お前ももう3年生なのか。』
 それは でかしたっと陽気に笑って、けれどそれ以上のことは訊かなかったような。そのまま次の長期航海へとあっさり出てった御仁だったが、
"だからっつって、放ったらかしって訳じゃねぇんだよな、これが。"
 このシリーズでは書かなかったが
(…苦笑)、実は一度、秋口にルフィが屋根から落ちた騒ぎがあって。そこはそれ、破邪さんがついていたから全く大事はなかったのだが、その話をうっかりとカナダへ留学中のエース兄が父御に伝えたものだから。
『悪い。大丈夫だ、ピンピンしてるっていう結果を言う前に電話を切られた。』
 エースからの予告連絡が入ったその日のうち、どういうコネでどういうルートを辿ったのやら、地球の裏側から…本来ならば飛行機を使っても、乗り継ぎやら何やで片道35時間はかかる筈のところを、しかも急を聞いたのはどうやら洋上だったらしいのに、
"あれをどうやって半日で帰ってこれるかな。"
 大丈夫か、大事ないか、従兄
いとこのお前がついていながら何をしとるか…っと、国外どころか県内にでもいたかのような勢いで駆け戻って来たから物凄い。結局、無事だと分かって、そのままあっさり"職場"へ戻ったそうだが…ミステリアスなのは何も息子だけではない一家らしい。おいおい それはともかく。

  「こっから一番近いんだ、そこ。」
  「………。」

 進学先をそこだと選んだ理由とやらを拝聴し、ちょいと押し黙った保護者に向かい。
「"またそういう基準で物を考えるだろが、この坊ちゃんはよ"って言いたそうな顔だぞ、ゾロ。」
 どこか愉快そうに言うルフィへ、
「判ってんなら改めんかい。」
 こちらは…自慢の石頭であるところの額の端に、いかにもな血管浮きマークを張りつけてしまうゾロである。口許も心なしか引き吊っているから、
「もしかして怒ってんのか?」
「…別に。」
 はぁ〜っと溜息を一つつき、
「まああのエースが通ってたって言うのなら、まあまあのレベルの学校なんだろうし。」
 どこかおおらかな気性の彼だったが、交換留学生に選ばれたくらいだ、少なからず"優等生"でもある筈だし。校風が乱れてたりしたら剣呑だが、この近所だっていうのならそんな話は一向に聞かないから、まま大丈夫だろうと…おいおい。坊やの方の学力の心配はしないんかい。
(笑) 結局は彼もまた父御同様、坊やを甘やかす"同じ穴の狢むじな"であるようで。
「どうだろな。だってエースもさ、早く帰ってこれる学校って選び方してたもん。」
「…ほほう。」
 当時はルフィに構い倒していた兄だったと聞くから。そうか、3人もいるのか、狢。
(笑) ゾロの"ほほう"もそんな意味合いの返事だったらしいのだが、
"ま、進路指導の時に訊けば良いことか。"
 丸きり事情が判らない今、此処でとやかく言っても始まらないかと、そういう構え方をする豪気な精霊。というのが、
「だってさ、俺、遠い学校はヤだったんだもん。」
「ほほう。」
 どこか生返事を返す精霊さんの、広い背中に"えいやっ"と、持ち前のバネを生かして飛びついて。

  「ゾロとずっと沢山一緒に居たいんだもん。」
  「………。」

 ただ甘えん坊だから、こんなことを言っている彼ではないと知っている。ゾロのこと、大好きで大切な精霊さんだと笑顔で言ってのけ、だから怪我をするなと、いつもいつも口を酸っぱくして叱ってくれる可愛い子。春の初め、ここいらでは"名所"として有名な公園にてお花見をしながら、
『綺麗だなぁ〜』
 奥行き深く咲き誇ってた、緋色練白、それは艶やかだった桜花の並木の梢を見上げて。うっとり のほのほ、そんな風に感嘆したその後で、
『綺麗だなって思ったってこと、聞いてくれる人がいるからサ。今年の桜はもっともっと嬉しい』
 そんなような…何だか切なくなるよなことを、照れながら言っていた小さな坊や。いつぞやの、凶悪な大邪妖との真剣勝負の只中にても。全身総毛立つようなほどに絶対絶命の修羅場に放り込まれて、それでも"ゾロのことが大好きだ"と、ただそれだけを。幼
いとけない声で精一杯に囁いてくれた愛しい子。

  "………。"

 だが、だ。
「あのな、ルフィ。」
「んん?」
 ちゃんと背後へ腕を回して、足を抱えるようにして。広い背中へおんぶしてやりながら、ゾロはゆっくりと歩き出しつつ、
「ちょいとキザな言いようになるが、お前はお前がやりたいものを目指しな。」
「だからさ…。」
 今の自分にはゾロと一緒が一番の望みだと、繰り返しかけた坊やの声を遮って、
「忘れたのか?」
 破邪精霊は言葉を重ねた。

  「俺は、真
まことの名前を呼びゃあ、何処に居たってお前の傍まで飛べる。」

 精霊たちが生まれながらに持っている"真の名前"。その存在の意志の核をつかさどり、それを知られることは、その相手からの支配を受けることに通じ、転じて"絶対の忠誠"なぞを誓う時に告げたりもする、どうかすると命に等しいほどのエレメンツ。それをこの少年へ教えておいたゾロであり、

  《ロロノア=ゾロ。》

 心の中ででも。呼ばれればその存在の傍らへ、否も応もなく一直線で向かってしまう。ルフィが何処に居ようとも関係なく、だと。そんな付け足しの言葉に、

  「……………。」

 よほどのこと、感じ入ったのか。広い広い背中に頬をつけたまま、しばし黙りこくっていた少年だったが、

  「…ゾロ。」
  「んん?」
  「キ・ザ。」
  「…っ。/////

 だから、ちょいとキザな言いようになるって言ったろがよと、ちょっとばかり声を荒げながら言い返す精霊さんへ、
「あははvv
 耳が赤いぞ照れてやんのと、そのお耳の傍らへ柔らかな頬をくっつけて。首っ玉にきゅうぅとしがみついたルフィである。お顔を相手に見られない位置で良かったなと、両方が思った、まるで初夏みたいに眩しかった盛春の帰り道だった。





  aniaqua.gif おまけ aniaqua.gif


「たっだいまぁ〜vv」
 誰も待つ者はいない筈の家、鍵を開けて駆け込んだルフィは、だが、

  「…あれ?」

 ふんわりと漂う香ばしい匂いに、思わず三和土
たたきのところで立ち尽くす。誰かいる。しかも…?
「この匂いって?」
 空揚げとかば焼きと生野菜系のドレッシングの匂いだ。甘い匂いもするから、何かデザートもあるみたい。後に続いたゾロが、ぽんっと両肩に手を置いた、そのタイミングとほぼ同時、

  「お。帰って来たな。」
  「お帰りだぞ、ルフィ♪」

 奥向きへと延びる廊下の途中の刳り貫きの戸口。台所から上下に顔を出したのが、頬までかかる金髪も麗しい、聖封精霊のサンジと、その使い魔のチョッパーだったから、

  「な、なんで?」

 状況が今一つ分からなくて、ルフィはますますキョトンとする。だって、ゾロは出掛ける前にも何にも言ってなかったし。でも、今、ルフィみたいに驚いてはいないようだし。
「何でも何も。お前、今日は誕生日なんだろが。」
「だろが。」
 サンジの言いようの語尾だけ真似したチョッパーの声の後に、機械的に"こくり"と頷いて、
「だから、ゾロと一緒にJリーグ観に行ったんだけど…。」
 今日は月曜だけど子供の日で祭日で、そしてそしてルフィのお誕生日だったから。ルフィのご贔屓蹴球団のお昼の試合のチケットを…なんとゾロは初めての"アルバイト"をして買っておいてくれたのだ。試合はルフィが応援した方のチームの圧勝で、それで物凄く満足して帰って来たのに…。
「もちょっとで出来るからな。」
「そだぞ、手ぇ洗って来い。」
 にこにこと笑って、ひょいって顔を引っ込めた二人。
「………。」
「ルフィ? 手を洗って来なってよ。」
 背後に立ったまま、この流れにやはり不審そうに感じてはいないらしいゾロであり、

  「ゾロ。」
  「んん?」
  「さては、知ってたな?」
  「さてね。」



    誰が何と言ったって、今日は楽しい幸せな日。
    大切な君が生まれた日。
    こんなに好きだと、生きてる実感をボクにくれた、君が生まれた日。
    だからだからお祝いをしよう。
    今日までの幸いを祝って、明日からの希望を祈って。
    だからだから乾杯をしよう。
    出会えた幸せと一緒にいられる幸せと、
    手をつないで此処から歩き出せる幸せを祝って。

    誰が何と言ったって、今日は楽しい幸せな日。
    大切な君が生まれた日…。



  〜Fine〜  03.4.27.〜4.30.


  *ちょっと間が空いた"天上の海〜"です。
   こちらの二人も相変わらず。
   でもでも、そういえば
   このお話のルフィって確か受験生だよなと、思い出しまして。
   まま、何があろうと揺るがない彼であろうとは思いますが。
   (そして、ゾロが"勉強せんか"と尻叩くのね。/笑)

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