我らが愛船は、相変わらずにだだ暑い“夏島海域”を航海中で、
良い天気が続くのと髪や頬を撫でる潮風が気持ちいいのは良かったのだけれど、
やっぱり物事には限度というものがあって。
――― 他の海域での“夏”ならいざ知らず、
常夏海域の“夏”は只者ではなかったのである。
何者をも射通すかように強い陽光が照りつける、
日陰の少ない甲板の昼間の灼熱地獄ぶりはとんでもなく。
あの、自分の体に雪が降り積もっても気持ち良さげに眠ってたと聞く剣豪さんでさえ、
昼間は甲板から撤退するほどの灼熱で。
海の上ということで、湿気が多くて不快指数が上がるかと思ったが、
それさえ凌ぐ照りようで、毎日のようにスコールが降るのがせめてもの救いなくらい。
ウチのクルーたちは寒さより暑さに弱いらしく、
殊に船長と船医の消耗ぶりはなかなかのものだった。
何せ、彼らは“暑けりゃ海に飛び込みゃ良い”という訳には行かない。
淡水化装置があるので、多少潮臭くなっても、シャワーにそうそう困る訳でなし。
サメが出ようが海王類が出ようが、
怯えるどころか“晩ご飯にしちゃる”と言い出すほどの豪傑なのだが、
その手前の問題として。
彼らは“悪魔の実の能力者”なので悠長に水に浸かっていられない身なので、
涼むどころか“沈んで上がって来れない“というもっと涼しい話になりかねず。
甲板にタライを出しての水浴びも、
あっと言う間に“良い湯加減”の行水になってしまうので功を奏さず。
已なく、屋根の下の風通しをよくして、あまり動かずに過ごすしかなくなる。
回りは全部水なのに、まるで“砂漠”の生活のようね…とは航海士嬢のお言葉で。
砂漠なら、まだ良い。
陽が落ちればあっと言う間に気温が下がるから、ここぞとばかりに行動を起こせる。
海水温はなかなか下がりにくいので、
夜になったらなったで蒸し暑い熱帯夜が待ち受けているだけの話であり、
海も凍るほどの極寒地獄と十分に対抗出来る凶悪さだった。
*………これは余談だが、
夜行性の凶暴な動物がそれほど脅威だとは思えない“人外魔境”揃いだった彼らが、
アラバスタの砂漠横断の際、夜はキャンプ張って寝てたのが、
今更ながらちょこっと不思議。
そりゃあまあ、1日中行動するのは体力保持を考えると無茶な話かもしれないが、
それだったら昼間休んで夜中に移動すりゃ良かったのにね。
さすがは“グランドライン”で、太陽でしか方向を測れなかったのかなぁ?
この航路で唯一“絶対”のログポースには逆らえないから、
そんな地獄の航海でも避ける訳には行かなくて。
何もしなくとも削られてゆく体力の消耗との戦いと、
時々自棄気味に殴り込んで来る下級海賊との八つ当たり的な戦闘とに日を費やし、
自分たちは何とか頑健で丈夫だが、
日に日にくったりしてゆく“かあいらしい組”のお子さんたちへの心配に、
お兄ちゃんズが眉を顰め、心傷めていたその矢先。
――― こっち、こっち。
その“かあいらしい組”の一人がね、
脱げない毛皮に籠もる熱へくったりしていた筈が、
何かに招かれるように船内をひょろひょろと徘徊しだし。
唐突に始まったそんな怪しい行動に、
とうとうどこかが切れたか溶けたかと危ぶんだ大人たちを尻目に、
もう一人の…ゴムも熱には弱いのか、やっぱりくったりしていた船長さんを呼び立てて。二人して、この暑いのに身を寄せ合って、何かを熱心に覗き込んでいたので、
一体どうしたのだろうかとね、大人たちが様子を伺いに寄って行ったら、
――― ♪♪♪〜♪
航海士さんの大切なミカンの鉢の陰あたり。
小さな小さなそれだったけど、涼しげな虫の鳴き声がしていたの。
耳の良い船医さんが気がついて、それでと探してから船長さんを呼んだって訳。
そこはやっぱり“船医さん”なだけに、
船長さんの夏バテぶりが気になっていたんですってよ。
食欲は全然落ちてなかったのにね。(苦笑)
“コオロギかしら”
“そんな感じですね”
“いつの間に紛れ込んでいたのかしらね”
“土の中に卵を産むから、それで夏を越したんじゃないのかな”
“あの暑さの中をねぇ”
“風流だなぁ”
“………お前でもそんな言葉を知ってたんだな”
“あっ。失敬だな、その言い方。”
気がつけば、陽が落ちた後は随分と涼しい風が吹くようになった。
あまりの暑さに出食わすことが稀だった海賊にも、
一昨日あたりから遭遇しやすくなってるみたい。
夏島海域からは まだちょっと出られないにせよ、
季節はそろそろそのバトンを次へと渡したがっているらしい模様。
残暑お見舞い申し上げます。
〜Fine〜 04.8.23.
*あまりに更新してないので突貫で。(苦笑)
連日相変わらず暑いですね。
でも、さすがに晩は涼しいので、
ついついオリンピック中継を見ては寝過ごしたりしている
自堕落な日々を送っております。(こらこら)
学生さんは夏休みもあと1週間ですね。
宿題のラストスパート、頑張ってくださいませね?
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