Moonlight scenery stray puppy?
    〜船長BD記念作品DLFです、お持ちくださいvv
 

 

 そこに広がる風景の印象は、一言で言えば"パノラマ"というところであろうか。比較にと持ち出すなら、例えば…頂上をと見上げれば背後に引っ繰り返りそうな高さのビルばかりが居並ぶ、淡灰色にくすんだ都会の街。頭上に仰ぎ見る空も、小さく小さく限られたものになり、縦に深い箱の底にでも居るような印象を受けるだろうけれど。ここでは建物たちの背丈も低く、その分、空は誰にも均等に間近にしかも広々と望めて。ほぼ360度の四方八方へと明るい視界が開けているのが当たり前。空気がいいから、すっからかんに快晴の生きのいい空は眩しいほどに真っ青なままで望めるため、躍動的な空気が満ちた、文字通り開放的な絶景が楽しめる。しかもこの国は、政治的な機関の役所や事務局が集まる首都部であっても、おおらかにして暢気な空気は此処いらとさして変わらない。自業自得、もとえ、自給自足で
おいおい十分に国中の食料を補える第一次産業を継続させつつ、近年は観光でも潤沢に潤っているお暢気な王国。砂漠の端っこに位置しながらのこのご陽気な繁栄を、奇跡だの何だのと驚嘆されることもあるけれど、
『欲をかかず、そして…重々"用心深く"していただけの話だのにな』
 日頃は豪快な笑い方の似合う若々しい国王陛下が、悪戯っぽいお顔で…こっそりと自慢げに仰有る、そんな国。


  ――― お久し振りですね、例の王国のお話です。o(^o^)o










 昼下がりと呼ぶにはもう夕刻に間近い時間帯だのに、初夏の明るい陽射しがどこまでも広がる青空のそこここに目映く満ちていて。ややまったりと温かな風の中、足元から地面へと張りつくそれぞれの陰の色も、躍動的に濃いままだ。道標代わりのような大きな大きなパームツリーが十数mごとに植えられた、いかにも南国風の石敷きの乾いた舗道に沿って、片側には古いアスファルトの国道が続き、反対側には…やはり少々古い型の家並みの、それぞれの前庭にあたる、目に優しい緑の芝生を萌えさせているグリーンベルトが延々と続いている。通る車の影もない、それは静かな鄙びた町角。淡色の生麻のジャケットに地味なシャツ、作業着のようなワークパンツという恰好のお兄さんと、その連れらしき…こちらはTシャツに短パン姿の伸びやかな肢体をした少年が、ほてほてとのんびりとした歩調で歩みを運んでいた。さして目立ちもしない二人連れだったのだが、

  「まぁ〜ったく。」
  「………ごめんなさい。」

 ここまで離れればもう良かろうと判断したらしき間合いにて。つと立ち止まりながら早速のように溜息混じりの叱責っぽい一言を放られて、腕白坊主がその首を小さな肩の間に竦めて見せた。これが他の侍従から授かったお言葉ならば、馬耳東風と聞き流すか、知らないもんと振り切るところなのに。今日ばかりはさすがに反省しているらしくて、肅々
しゅくしゅくと受け止めていらっしゃるご様子。そんな彼の真っ黒な髪を擽って、時折吹きすぎてく さやさやとした風に潮の香を感じつつ、
"…ったくよ。"
 隋臣長様はシャツの胸ポケットから煙草のパッケージを摘まみ出すと、慣れた手つきでトントンと上辺を指先で叩いて、先が飛び出して来た白いフィルターの紙巻きを1本引っ張り出す。長い指が綺麗な白い両手が緩く握り込まれて風よけを形作り、その覆いの中にて。唇の先に咥えた煙草の先へとライターで火を点ける彼の、顎先まで降りている長さの金の前髪の陰、切れ長の眸が伏せられるのを、
「………。」
 黙ったまんま、こそりと見上げた小柄な坊や。上下に1枚ずつだけというあまりに簡素な御召し物の、こんな身軽なお姿だが、実は実はこの国の執政権を持つ王族の和子様であり。それも半端な家柄ではない。主筋の本家の、王位継承権の順位が一桁の範疇内にいる、バリバリの"皇子様"であらせられる身分のお方。王宮の太陽とか、この国のお陽様なんて呼ばれて国民の皆様からも可愛がられていらっしゃる、モンキィ=D=ルフィ第2王子殿下であらせられるのだ、控えおろう。
こらこら その国土面積も国民の総数も、規模としては小さな国だが、それでもちゃんと国連にも加盟している国であり、歴史だってかなり古い。その始まりの頃から続く王室がずっとずっと執政権を担って来ているものの、あまり独裁色はなく。絶対権力者というよりも、リーダーというのか親方というのか、対外的な駆け引きや調停を特に専門に扱う一族の方々という感が強く、国民にしても傅かしづくというよりも頼りアテにしているといったところ。殊に今世の王様とその和子様たちは、歴史上に名を残すだろうほどの名君とそのお子様方として、国民たちからの絶大なる人気や支持を集めており。敏腕にて太っ腹な国王様は、激動の時代と呼ばれている当代の世界の流れをそれは的確に把握しており、大戦後の東西勢力の対立に際してもこの国を巻き込まさせずに難無く乗り切った結果の現在の有り様をして、今時の名将とはかくあるべきなどとドキュメント番組の取材が時折やって来るほど。
『豪放磊落に見せといて、裏でこそこそってのも結構やってるんだがな。』
 そんな陰口を堂々とご本人の前で言い放って一緒に笑ってしまう、こちらも頼もしき皇太子殿下なぞは、まだ十代の頃から既に、親善大使という名目であちこちの諸外国を"留学"や"視察"で渡り歩いて、表も裏も様々に…深く浅くの伝手を作りまくり、情報時代の最先端層を自負している巨頭たちでさえ、その手のひらの上で文字通り掌握しているという恐ろしさ。そんな…見かけのおおらかさに誤魔化されてると地獄を見そうな恐ろしいお二方が、

  ――― あまりに可愛いから目の中に入れておかないと心配だ

 なんて言い合って、父子の間で取り合ってしまうほど大切にしているのが、この第2王子様なのであるが。それがなんでまた、こんな…そこいらの一般市民の方々だって、このくらいのお年頃ならもうちょっとは洒落っ気のある格好でいようものを、寝間着の代用みたいな恰好で。しかもしかも王宮内でもないところに、それらしきお連れも連れず、隋臣長様と二人きりという、セオリー外しまくりな情況でいるのかというと、
「いい加減、分別ってもんを持てよな。ただの散歩じゃあ不満だったのか?」
「うっと…。」
「財布も持たず、手帳も持たずで。しかもお前、携帯電話も持ってなかろう。」
「それはもともとサンジやナミが持たせてくれないんじゃないか。」
「王宮にいるのが原則のお前には必要ないからだ。」
 紫煙を吐き出しながらあっさりすっぱり言い返されて、小さな王子様が"ふみみ"とまたまた項垂れる。躾け担当という訳でもないのだが、何か問題や騒動を起こせば必ず説教を担当するのはこの金髪の美丈夫であり、内心では国王陛下や皇太子殿下に勝るとも劣らぬノリで、大概の腕白は大目に見ようという態勢でいたい彼なのに、
"あんまり面白くはない立場だわな、実際。"
 とはいえ、奔放が過ぎるのは本人のタメにならないというのもまた、よくよく理解出来ることであり。彼ほどの立場にいるなら尚のこと、我儘で高慢な、鼻持ちならない人間にならないようにと、誰かがきっちり締めるところは締めなければならず、それでというこの役回り。小さい頃から傍らにずっといた関係もあって、お互いに気性も知り尽くしているし、ある意味で気の置けない間柄だからこそ遠慮なく叱ったり意見したりも出来る。そして、ここが一番大きなポイントなのだが、

  「………黙って出て来てごめんなさい。」

 どんなに拗ねての"おいた"でも、ご本人こそがそれはたいそう怒っていたが故のことであったとしても。サンジが出てくると自分の非を認めてすぐさま謝るという、見様によっては随分と…贔屓というのか特別視されている隋臣長様でもあったりするから、
『叱り飛ばしても嫌われないんだから、そりゃあ当然の役回りだよな。』
 お父様やお兄様からは、やっかみ半分に"教育係"と見なされている彼でもあったりするのである。………どっちにしたって、なんか可愛い王族の皆様であることよ。
(笑)

  "笑い事ではありませんて。"

 あやや、聞こえてましたか。やけにいつまでも渋面でいる彼なのは、無事に見つかったことで感じた安堵の想いがまだ完全に全部浮かび上がり切れていないほど、それはそれは…心底心配した彼だったからに他ならない。こうまで軽装でいたルフィだったのは、お洋服を持っていないからではなく、実はお昼寝の真っ最中という時間帯に、こっそりと王宮から脱走した彼だったから。目立たない恰好をしなきゃと一番身軽な恰好になり、中庭の隅にいつの間にか設けていたらしき抜け道から、まんまと王宮の外へ出て行った彼は、近間で遊んでいた子供たちの輪の中に混ざってさんざん楽しく時間を過ごし、その中の一人に誘われて親戚の叔父さんの操る小型のトラックに便乗し、ついでに配達のお仕事を手伝ったそうで。お遊びの延長という感じにて楽しい午後を過ごした…までは良かったが、配達も済んで"やれやれご苦労様だったね"と、ご家族の皆さんと一緒に冷やしたマンゴーや瓜のおやつを頂いて。じゃあおウチまで送って行くよと言われて、

  『あ………。』

 そうなんですよ、奥様。この坊ちゃん、実は自分の家、つまりは王宮の所在地の名称を知らなかったんですね。だって、日頃の生活の中では必要ない知識ですし、むしろ…そこここでやたらと口にしてはいけないものでもあるのかも。どの辺りだいと問われても、町の街路も番地もあまり詳しくはなくて。どうしよう〜〜〜と真っ青になってしまった彼を見て、
『…この子ってば、もしかして。』
と気づいて下さった奥方様が、こちらもまた それこそ真っ青になりかかりつつもご連絡下さり。王宮は王宮で"王子がいないっ"と大混乱に陥りかけてた中から、お出迎えのサンジさんが大急ぎでわざわざやって来たという顛末でございまして。

  "ま、出合い頭というか、巡り合わせというか。"

 ある意味で間が悪かったというか、成り行きに流されてのことらしいのは、ご連絡下さった叔父様のご説明を聞いて納得がいった。こんな遠出になろうとはルフィ本人も意図しなかったことなのだろうし、連絡先を記した手帳だの財布だのなんてものはもともと持ち慣れぬものなだけに、外出するなら持って行けと今頃言っても遅すぎる。

  "オマケに…。"

 彼専属の頼もしき護衛官殿が月例会議で昨日から不在だった。王族につく近衛たちのみの会議であったがために、機密が漏れぬようという警戒から一旦集まった会場からは離れられない身とされ、帰りたくとも帰れなかった彼だから仕方がなくて。
"それで退屈に思っての"脱走ごっこ"だったのかも知れんのだしな。"
 たった1日の不在でですか。周囲からの脅威への警戒ってだけじゃなく、守ってる対象自体からも、文字通り目が離せないゾロさんだったんですね。
(う〜ん、う〜ん) 王宮の警備全般を担う部署もあるにはあるのだが、外部からの警戒は十分行き届かせていたものの"内部からの脱走"にまでは、目が…というか意識が向こう筈もなく。様々な事情が悪い方へばかり噛み合ってのこの結果が招かれたらしいと、情況がやっと飲み込めたところで、さて。

  「何かあったらどうしたよ。」

 見つけたら叱るとか、当分はおやつ抜きだと思いつくよな、そんな余裕もないくらいに、王宮内は上を下への大騒ぎとなっていた。国民同士にての諍いや犯罪件数は驚くほどに少ない、至ってお暢気で平和な国ではあるけれど。観光を財源にしている手前、外国から入って来る人々の数も半端ではなく。豊かな国、穏やかな国情という点を勝手に当て込んでの、誘拐やテロ行為の標的にだってされかねない。それなりの警備や危機管理も徹底させてはいるものの、選りにも選って護衛される対象が勝手なことをすれば、どんな完全警備だとて物の役に立たなくなるのは自明の理であり、

  「………。」

 とはいっても。しょぼぼんと、小さな肩を落っことして思い切りしょげている様子を見ていると、何だか…可哀想にもなってきた。山ほどの人たちに肝が冷える想いをさせた、そんな自分の立場というものを重々理解させて、反省させねばならないのではあるけれど。せっかく…退屈で寂しかったことを埋めて余るくらいに、楽しく過ごせたのだろうにとも思うとね。そこへとただただ杓子定規に"お説教"という冷ややかな水をぶっかけるばかりなのも、何だか…芸がないというか大人げないというかだし。怪我もなく無事で良かったって、自分なんかそれだけで十分なくらいなんだしね。

  "………う〜ん。"

 あ〜う〜えっと、と。頭上に目をやり、何事か算段してから………こそりと溜息。
"クソマリモが極力傍らから離れないようにって方向での、今後の対処法ってのを思案するって提案でもして。"
 今回、責任者だったり担当部署だったりして泡を食った方面の方々には、それで納得させりゃあ良いかと、事態収拾への青写真を頭の中にて素早く立ち上げて。

  「…ほら。」

 小さな肩にふんわりと、温かいものが掛けられて。え?とお顔を上げると同時に、自分の上体をすっぽりと包み込んだ大きなジャケットから香り立つ、香料の甘い匂いに気がついて、
"…あやや。////////"
 大好きな匂いに思わずルフィの頬が赤くなる。サンジの匂い。甘えてまとわりついたり、眠くなっておんぶされたりした時に、いつも感じてたやさしい匂い。つい先だっても…テロリストの凶弾から庇われた時に、懐ろへぎゅうって抱っこされて間近になった匂いだったけど、
"あの時はそれどころじゃなかったし。"
 それを思い出して、やっぱり"しょぼぼん"と肩が落ちる。大・大・大好きな人なのにね。気がついたら迷惑ばっかり掛けている。何でも知ってて、センスも良くて。俳優さんみたいに綺麗で、スタイルもシュッて決まってて。社交術にも長けていて、頭も切れる彼だから、本人が望めばそれ相応な地位のポストに幾らでも就
けたことだろうに。現実には…といえば、我儘で悪戯ばかりやらかす子供のお目付役なんかやっている。

  "うう…。"

 何だか今日はね、とってもごめんなさいな気分なの、と。やっぱりしょげてしまった王子様。自分だけが一人ではしゃいでて、その間に"ルフィは何処に行ったんだ"ってサンジばっかり責められたのかもしんないと、そうまで思って…気が沈む。

  「……………。」

 ただうつむいて。浮かび上がって来ない王子様に、こちらもお付き合いよろしくも、

  「……………。」

 黙ったまんまで、紙巻き1本、いつもの長さまでをゆっくりと堪能して。短くなった吸い殻を携帯灰皿へぎゅぎゅうとねじ込むと、

  「こ・ら。」

 両手はズボンのポッケに入れたまま。軽く身を倒して、丸ぁるいおでこへこちらの額をコツンと当てる。余計な言動をして余計に叱られるのを回避しようという、要領を心得た小癪な"黙んまり"ではなくて。何をか深く思い込み、気落ちしての沈黙だと見分けがつくサンジだから。
「そんだけ反省すりゃあ十分だ。」
 もう良いぞと、少ぉしトーンを低めた柔らかな声で宥めてくれる。
「陛下やエース殿下が首を長くしてお待ちだしな。」
 だから。早くお家に帰ろうやと、呪文みたいに甘く囁く彼の、間近になった頬の温みが擽ったくて。
"…うう。////////"
 なんでだろう。サンジにはなんで何でも判るんだろう。これがゾロだったら、気が済むまで勝手に拗ねてろって放っとかれるのにサ。もう良いからって、ちゃんと反省したんだろ判ったからって。何にも言わないのになんで判るのかなぁ。
「……………。」
 やっぱり俯いたまんまな王子様だったが、その小さなお手々が………いつの間にか。お向かいのお兄さんの履いているズボンの、脇のところをきゅうと掴んで離さない。

  「何だ?」
  「…あの、な。」
  「うん。」
  「えっと、な。」
  「うん。」

 上目遣いにこっちを見やり、口許だけをもにゅもにゅと動かした坊や。

  「……………。」

 声は乗っかってなかったのにね。一瞬、キョトンとしてから、金髪の陰にて青い瞳が柔らかく細められ、綺麗な口許がくすんと微笑った。それからね………。







  「もっと小さい時にも、一度やらかしたよな、そういえば。」
  「? 何を?」
  「脱走というか、家出というか。」
  「…っ、覚えてたんか?」
  「そんな嬉しそうな声、出してんじゃねぇよ。」

 そうと言い返すこちらも、どこかしらにやにやと口許がほころんでおり。ルフィからは見えない、おんぶという態勢になってて良かったなと、坊やからの"おねだり"へ こっそり感謝していたりして。小さな坊やはお兄さんのジャケットを着せられていて。余った袖を何回も折り返したのに、肩幅からして合ってないせいだろう、まだ少しブカブカで。そのまま結構頼もしい背中に乗っかって、細く見えるけどしっかりした肩口にしがみつき、やっぱり甘い匂いがする金色の髪がさらさら風に揺れるのを、物凄い間近で見られる特等席にいる。

  「外で何して遊んだんだ?」
  「あのな、フリスビーってので遊んだ。」
  「ああ、フライング・ディスクな。」
  「うんvv アイサんチのコーギーって犬、
   どんなに遠くに投げても全部キャッチすんだぜ?」
  「へぇえ。」
  「なあなあ、ウチのメリーにも教えようよ。」
  「メリーにかぁ?」
  「無理かなぁ。」
  「それよりまずは"持って来い"が先だろよ。」
  「う〜〜〜ん、そっか。」

 重なって1つになった長い陰を、丁度追いかけるように東へと帰る。勿論のこと、途中のどこかで待っている車に最終的には乗り込むのだけれど、

  "もうちょっと、おんぶしてて欲しいな。"
  "少しほど、遠回りしようかね。"

 おやおや。これもまた"以心伝心"なんでしょうかしら。陰と同じく一つになったご希望通り、お迎えの方々をもう少しだけお待たせして、おんぶのお散歩をのんびりと堪能したお二方でございました。





  〜Fine〜  04.4.25.〜4.29.

  *お誕生日でこのシリーズのお話とくれば、
   どうしても…サンジさんとの甘えた話になってしまうというもので。
おいおい
   何と、またもやゾロさんが出て来ない話になってしまいましただ。
   ま・いっか。
   ゾロル記念日じゃなくてルフィのBD記念なんだし。
(…開き直ったな。)

ご感想などはこちらへvv**


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