月夜見
   tea time 〜Moonlight scenery
 


 陽光ますます目映くなりて、木緑の陰も色濃き初夏の頃合い。空の蒼も海の青に負けまいと、その密度を増しつつある、此処は地中海のとある王国の奥向きの…。

  「あ、こらっ! ルフィっ!」

 おおう。まだ前振りの途中だってのに。
(笑) 畏れ多くも王族の、それも現国王の直系の実子である"王子様"を掴まえてその名を呼び捨てに出来る人物というのは、世の常識やら何やらを考えるとまずはそうそう居ない筈なのだが。
「どこ行くのっ、待ちなさいっ!」
 すらりとした健康的なお脚々
おみあしが美しく映えるセミタイトのスカートに、細くてしかも5センチはあるヒールの高い細みの靴。それでも構わず駆け出して、
「や〜だよっ。」
 こちらは編み上げの平サンダルにあっさりしたスェットのズボンとTシャツという、何とも砕けまくった…なればこそ動きやすいこと この上もないお軽い服装の王子様を追いかけて、
「サンジくんっ、ゾロっ! 捕まえてっ!」
 行く手の通廊に、立ち話でもないがたまたま来合わせていたらしき二人の青年を見やって、そうと声を張ったのが、第二皇子の側近にして"佑筆"という古風な呼び名を持つ、若き書記官のナミさん。そして、
「うぉっとぉ。」
 その声へと素早く反応し、通廊の真ん中、両腕を広げて立ち塞がった金髪碧眼の青年は隋臣長のサンジといい、
「こぉら、ルフィ。ナミさん、手古摺らせてどうすんだ。」
 まるで前以ての打ち合わせでもしていたかのように、慣れた様子でその腕の中へ、ナイスキャッチした小柄な黒髪の少年へと、さっそくのお説教を食らわせたが、
「や〜だっ。離せって、サンジっ!」
 聞く耳持たないままに じたばたと暴れる坊やの側にも、そこはそれ、ある種の"慣れ"がある。ルフィの言うことなら何でも聞いてくれるお兄さんだが、今回ばかりはそう簡単には解放されないなと踏んだのだろう。そのまま爪先が床から浮くほどに抱え上げられそうになったタイミングへ、
「痛いっ! ここんトコ、引っ張ってるっ!」
 ひくりという弾かれたような抵抗をして見せてから、身を捩
よじって少しばかり高い声を上げた少年へ、
「…えっ?」
 不意を突かれてサンジの手が緩んだ。腕時計のベルトかカフスの角のような堅いものか何かが王子のどこかに当たっていたか、それともシャツから剥き出しになっている二の腕の柔らかいところを、抱えた拍子にちょこっとだけ摘まんでしまって挟まっているのかと、彼の悲鳴を鵜呑みにしての反応で。その隙をこそ狙って、抱え込んでいた相手の胸板を両手で"どんっ"と突き飛ばし、素早く離れつつ再び駆け出そうとしかかった少年であったのだが、
「こら。嘘をつくのは いただけんな。」
「…あっ。」
 しまったと思った時はもう遅い。隋臣長の後方に構えていたこちらは、もっと手ごわい緑髪翠眼の護衛官。その大きな手と長い腕の片方だけで、駆け出しかけていた坊やの上体をきっちりキャッチ。しかもそのまま、有無をも言わせぬ手際にて、頼もしい肩の上へ軽々と抱え上げ、
「それ以上暴れるんなら、尻を十遍ほど叩くがそれでも良いのか?」
 よく響く声がそんなことを言う。向かって来たものを受け止めて抱え上げた訳だから、丁度お尻が雅楽演奏の鼓の革のように肩の手前に来ているとあって、
「…う"。」
 途端に、坊やの抵抗がピタッと止まったのは言うまでもない。この護衛官殿がどれほどの力持ちかは王子もよくよく知っているし、そこまでのお仕置きをされるような"子供"ではないからこその羞恥心というものが、やっとこ涌いて来たらしい。それはそれは背の高いお兄さんの肩の上にて、手荷物扱いになっている王子様を眺めつつ、

  「う〜ん。容赦ねぇな、あいつ。」
  「サンジくんには間違っても出来ないお仕置きよね。」

 こらこら、あんたたち。傍観者になっててどうするか。
(笑)





 お久し振りの某王宮でも、王子様の御生誕記念日をお祝いする催しを控えての準備で、あちこちの部署が毎日バタバタと慌ただしい。
「あら、でも。今日のこれは"それ"用じゃないのよ?」
「だろうな。今頃"仮縫い"してるようじゃあ間に合わない。」
「っていうか、これは採寸だぞ、お前。」
 テラスに向いた大きな窓からそれは爽やかな風がそよぎ込む明るい居間にて、さっき王子が逃げ出したせいで中断された作業が再開されている。護衛官のゾロには"仮縫い"も"採寸"も似たようなものらしいが、隋臣長のサンジさんが突っ込みを入れたように…当然のことながら全然違っていて。数名の女官たちがそれぞれの手にメジャーを構えていて、ナミは読み上げられる数値を記録中というこの構図に、
「採寸なんて、こないだもしたのにサ。」
 それをまだ覚えている御本人におかれましては、じっとしていることを強要されつつ、メジャーで体中のあちこちをグルグル巻きにされるのが、くすぐったいやら窮屈やら退屈やらで不服らしい。だが、
「あんた自分が幾つだか分かってないのね。」
 女官たちのお仕事を見守りながら、ナミさんはなかなか辛辣に言い返す。
「成長期なんだもの、下手すりゃ一晩でだって背が伸びちゃうお年頃なのよ?」
 白い人差し指をピッと立て、
「17歳だなんて信じられないくらいにおチビさんだったのがやっと伸び始めたのよ? 喜ばしいことなんだって解釈して、甘んじてお受けなさい。」
「うう"…。」
 一言一言がなかなか過激なお姉様であることよ。それへと付け足されたのが、
「お誕生日用のお衣装だって、着付ける時に最終チェックするんだし。」
「え? そうなのか?」
 途端に、見るからにイヤだなぁという顔をする王子様だ。一方で、
「そか。それで春の"帯刀式"の衣装も、着るのにあんなに時間が掛かってたんだな。」
 あんな土壇場ぎりぎりだったのに、改めてあちこち補修してたりして、何だか変だなと思ってたんだが何だそうだったのかと、こちらは護衛官殿の感慨深げな一言で。
「お前…。」
 対外的な政情やら、先進の武装ツールやら、何やかやと結構詳しい男であるのに、こんなに身近な王室の式典だの風習だのに関しては…王子に負けないくらい、実は物知らずだった彼へ、
「………いい機会だから、そういうことは覚えておいてくれよな。」
 金髪の隋臣長が、嫌みも皮肉もない心からのお願いをしたのは言うまでもないことであった。







            ◇



 春先の式典裏話からこっち、ちょいと間が空きましたこのお話。地中海に飛び出した小さな半島とその周辺の島々を領土とし、砂漠のご近所であるがため、乾燥温暖、雨の少ない気候の土地なれど、水脈と土壌に恵まれているので自給自足に足りるだけの農業も盛ん。昨今の"観光が主体"という経済基盤も実は実は、そういうしっかりした土台の上に立っていてのものという、小さくてお気楽だけれどなかなか頼もしい王国が舞台。冒頭の騒動にても述べましたように、五月生まれの第二王子のお誕生日が間近いとあって、只今、官民双方が催しの準備や何やに大忙しの真っ最中。太陽の王子との異名を持つ、明るく愛らしいルフィ王子は、国民の間でもそりゃあ人気が高くていらっしゃり。この春先には大人の仲間入りである"帯刀式"を迎えられ、外交大使としてのお仕事も増え、日に日に頼もしさを増しつつあられると、そんなお褒めのお言葉をあちらこちらで供されている今日この頃であらせられるのではあるが…。

  「大体さ、着るものなんて
   そうそういつもいつも仰々しいのでなくたって良いじゃんかさ。」

 やっとやっと うんざりものの"採寸"が終わり、
『ほらほら、やっぱり。腕の長さと身長と、しっかり伸びてるじゃないのよ。』
 ナミが記録された一覧を見せてきっちりと言ってのけたため、ぐうの音も出なかったルフィ王子はそのまま"ぷぷい"と膨れている。自分のお部屋の居間の大きなソファーに、飛び込むように突っ伏して、半ば寝転がるような自堕落な格好で収まっている第二王子様を前に、
「だから…前にも言っただろうが。」
 こちらは、肩幅くらいに足を開いて、両手は腰の後ろに重ねてのビシッとした直立姿勢。そんな基本体勢にて大きな窓の側に立ったまま、緑の髪の護衛官殿は…お説教にしては少々砕けた言い方で、言葉を紡いだ。
「国の顔とか代表とかな王族のお方々はな、国の歴史や豊かさを外国へ示すため、儀礼的な場では、伝統に則ったものとか、華美で豪華な装束を身につける必要があるんだよ。」
「じゃあさ、じゃあさ。」
 むくっと起き上がり、
「ゾロは? いつだって同んなじその服じゃんか。」
 言いながら"びしっ"と真っ直ぐ、迷いもないままこちらへと指差して下さる王子様だ。人を指差すのはお行儀が悪いことなのだが、まま、臣下に対してのもの。これは諌
いさめても詮無いかと…苦笑で見逃しつつ、
「同んなじじゃないさ。ちゃんと毎日着替えてるぞ、失敬な。」
 王族の方に面と向かって"失敬な"と言っちゃうところが物凄い…じゃなくって。
(笑) シンプルに見えて結構上質の木綿で誂えられた水色の半袖シャツに、限りなく黒に近い濃紺のズボン。ネクタイは持ち場や階級によって違うのだが、彼のそれは濃緑のストライプで王家の紋章入り。モンキィ=D=ルフィ皇子に唯一就いている"近衛の特別護衛官"という立場を表すそれである。かっちりとした肩や広い背中、隆と張った肉置きししおきが頼もしいまでの胸板。安定感があるのに長くて軽快、いざという時にはたいそう俊敏に動く、バネの利いた脚などなど。バランスが取れていればこそ着痩せして見える引き締まったその肢体を、さりげなく包んだそのまま…それはそれは地味に仕立ててしまうこの衣装。王宮仕えの男衆たち全員の基本スタイルでもあり、早い話が"制服"で。見た目のデザインはそりゃあ同じだけれど、ちゃんとスペアのそれを毎日着替えているから清潔だぞという言い方をしたゾロであり。そしてそして、

  「そういう意味じゃないっ!」

 王子が焦れたように少しばかり声を張った。
「ゾロはさ、皆と同じデザインの制服を着なきゃいけないって立場じゃないだろ? だから、サンジやナミが好きな恰好してるみたいに、色んな服を着てても良いんだろ?」
 だというのに、お仕着せの地味な服装をばかり、ずっとずっと着続けている彼だと言いたいルフィであるらしく。………でもねぇ。
「…あのな。俺は護衛官なんだぞ?」
「うん。」
 こくんと頷く王子様へ、ゾロはご説明を申し上げる。
「隋臣長や佑筆殿はある意味で"人を使う側"の人間だ。言ってみりゃ王族の方々や大臣に準ずる立場にあるのだから、あいつらもまた、それなりの格を示すきちんとした気品やら"特別"な何やらをまとってなきゃあいかんのだ。だが、俺はそうじゃないからな。」
「何が?」
「護衛官ってのは…時と場合にもよるが"目立たない"のが最優先されるんだよ。」
 時と場合というのは、例えば大掛かりな式典や公式の場など。そういう場面では、警護の人間がついているんだぞと、これみよがしに強調した方が犯罪抑止力になる。だがだが、普段の生活の中にまでそんな緊張感を持ち込むのも何なので、平生は極力"トーンダウン"させた護衛にパターンを変えるのが、要人護衛の常套マニュアル。よって、
「目立たないでいるためにも、この恰好でいるのが一番無難なんだ。」
 ましてや。彼は対外的にはちょいとややこしい立場にある。ある意味で王室に刃を向けたほどの大罪を犯した科
とがにて、某国の警察に捕らえられ、その途中で脱走したことになっている身。故に、必要以上に目立ってはいかんのだが…。
「うう"…。」
 説明の内容はともかく、さっきからずっと"気をつけ"姿勢でいる彼なのも気になるルフィであり、
「何だよ、今日は。そんな堅苦しい立ち方してさ。」
 いつもだったら、もう少しリラックスして話相手になっててくれるのに。慣れ親しんでる間柄だからというだけでなく、そういう態度でいても十分余裕で護衛のお仕事をこなせるゾロだから。ソファーの真向かいとまではいかなくとも、同じように腰を下ろして、こちらのお話を穏やかに聞いてくれてる彼なのに。
「何か…式典の取材とか入ってるのか?」
 それで"一応の体面"とやらを考えて、護衛官らしく立っている彼だろうかと訊けば、
「いいや。」
 姿勢はマニュアル通りだが、態度というか口利きというかは、いつもと同じざっかけのなさというアンバランスさよ。
(笑) それでもルフィには十分に"他人行儀で落ち着けない"らしく、
「…何だよう、何かのお仕置きなんか?」
 今朝の採寸脱走事件のことで、サンジがゾロに何か言ったんか?と、
「あれは俺が悪いんだ。サンジと一緒に外で待ってたゾロが叱られるのは訝
おかしいじゃないか。」
 それとも自分へのお仕置きかと。ちょっとばかり語勢を弱めて もごもごと、そんなことまで言い出すものだから。
「あのな…。」
 いつもは…唐突に脱走劇を繰り広げてくれた先程のように、それはそれはお元気で、時々やんちゃの延長から我儘を言いもする彼ではあるが、そうそう無体なことを押しつけはしない、聞き分けの良い王子様。それが…家臣に過ぎない相手へちょいと殊勝な言いようをするものだから、何だか可愛らしくて擽
くすぐったくて。
「これはある意味"予行演習"なんだよ。」
 仕方がないかなと、こちらから口を割る。ただこれだけのことでこんなに神妙になるのなら、当日まで通してやろうかと ちろっと思ったのは伏せておき、
おいおい
「式典の時に、俺も警護の列へ居並ぶ予定になっているからな。だってのに、いつもの調子でお前が声をかけたり目線を向けたりしちゃあ、中継のカメラがその先をって追いかねない。」
 しかも、今でさえ"様子が訝しい"と思って不安がったほどに、彼のこういう型通りの態度はこの王子様には不慣れな代物。
「ここみたく気張らない王宮では、表向きの儀礼の場と日頃とに色々とギャップがあるのは仕方がないが、今度の生誕祭はお前が主役の式典なんだからな。」
 粗相があっては困ろうからと、こんなリハーサルを構えてみた彼であるらしい。だがだが、
「………いくら何でも、そんなお馬鹿はしないよう。」
 まだ数日ほど日があるのにと、むいと下唇を突き出していかにも不満だという顔になる。確かに、沢山の来賓を招いての一大式典が予定されていて、不調法がないように様々な準備をしなければならないというのは判らないでもないのだが、こうまであれこれ、不自由を強いられる不自然な格好で祝われても、
「こんなのって、何だか嬉しくないよう。」
 眉を下げてしょぼしょぼと、いかにも不満だと実に素直な見解を述べる王子様。小さな肩をがっくしと落としたルフィに、こちらも小首を傾けつつの小さな小さな苦笑をこぼして、
「…まあな。国事の一環なんて仰々しいものにされちゃあな。」
 ゾロは堅苦しかった姿勢を解くと、王子が腰掛けているソファーへと歩み寄る。
「………。」
 気配に気づいて顔を上げたルフィが、こちらへと伸ばして来た腕を受け止めるように、下からすくい上げて。そのまま掻い込むように抱き上げながら、彼との位置を入れ替えるように腰掛けて、王子様はお膝の上へ。いかにも物慣れた、流れるような一連の動作が、いかに日頃から王子様を甘やかしている彼であるのかの動かしがたい証明だと、ご本人たちは判っているやらいないやら。
「…うう"。」
 くすんとお鼻を鳴らしながら、すりすりと擦り寄る小さな子供。大きくて深色、その光彩が滲み出してきそうな琥珀の瞳に、柔らかな頬に甘い芳香が匂い立つ髪。幼
いとけない不器用さが愛らしい小さな手に、幅の薄い肩や胸板もささやかで頼りなく。先程からの子供っぽい言動といい、
"これで17とはな。"
 いくら風にも当てぬ温室育ちだとはいえ、限度があるよなと苦笑い。だというのに、たかがお誕生日のお祝いさえも、国の威信を反映させた国家事業にされてしまう。こんなに無邪気で天真爛漫な坊やには、そんな派手々々しい肩書きなぞ確かに窮屈なばかりのお荷物に違いない。
「…ま、式典だけは我慢しな。」
 ぽんぽんと、小さな背中を軽く叩いてやり、
「そんな大きな催しにして一括しなけりゃ混乱が起こっちまうくらいに、お前のこと、祝いたいって人が多すぎるんだよ。」
 柔らかく低めた声で、そっと囁いてやる。
「来賓だけじゃない。国民たちにしてもそうだ。一人一人と会ってたら来年のお誕生日が来ちまうほど、そりゃあ沢山の人たちが大きくなったお前の姿を見たいんだ。だから、式典が中継されるのだし、パレードがあったりするんだ。」
「…うん。」
 大好きな広い胸の深い懐ろに取り込まれて、少しは機嫌も落ち着き出したらしく、
「あのな、皆がお祝いしてくれるんだっていうのは判ってる。」
 王子様は拙い口調でそんな言葉を紡ぎ始める。
「でもな、こんなこと言ったら…それこそいけないんだろけどな。俺、ゾロとかサンジとかナミとかさ、周りの人たちにだけ、こそってお祝いして貰うので十分なのにな。」
 王子の側からも大好きな人たち。跪
ひざまづいたり平伏したりして、お顔さえ見えない、そんな形で闇雲に敬われるのではなくて、

  『あ、こらっ! ルフィっ!』
  『好き嫌いしてんじゃねぇよ。』
  『とっとと部屋に戻んな。先生がお待ちだ。』

 態度もお顔も普段着のままに。素のままの自分を知っていて、そんな自分を好きだと構ってくれてる人たちとこそ、生まれて出会ったその奇跡と幸いを噛みしめたいと思う彼でもあるのだろう。
"そんなささやかなことが"贅沢"になっちまうんだものな。"
 決した間違ってはいないのに、普通一般とは逆さまな価値観がそれを我儘だと断じてしまうから妙なもの。こちらはたった一人の少年にすぎないが、それへと向けられる注視や期待は文字通りの国家単位だから仕方がない。それもまた王族に生まれたが故の、宿命…というには大仰ながら、義務や責務というものなのであろうかと、腕の中、小さな王子様の髪を大きな手で梳いてやりながら、翠眼の護衛官殿はその口許へうっすらと苦笑を滲ませて、
「そんなにしょげるな。」
 殊更にやわらかな声を、何かの呪文のように そぉっとかけてやる。
「式典が終わってからになるけどな。ウソップが主催しての、身内オンリーのお疲れ会ってのがあるんだと。」
「………え?」
 途端に。王子の小鼻が"ひくひくっ"と動き出し、幼いお顔が上を向く。ちょろっと、期待に向けて瞳がワクワクっと輝き出したのへ、
「隋臣長が何やらデザートを作ってくれるらしいし、佑筆殿は新作のDVD、ウソップは新しいゲームソフトを買い溜めてるんだと。」
「わ、わ、ホントか?」
 17歳の思春期真っ只中な青少年が、身内だけの内緒のパーティーにて…お酒や女の子関連でなく"そういう方面"へこうまでワクワクするのって、ある意味、考えものではなかろうかと、
"思ってても言うなよ。"
 はいはい、判ってますってば。そっちへ下手に誘導すると、隋臣長あたりが怒り狂いますものね。
(笑)
「わ〜、どんなデザートかなぁ♪」
 打って変わってそれは嬉しそうに、すっかりとご機嫌も直ったらしき王子様。ほこほこと笑う彼のこの無邪気さこそが、この国の象徴でもあるのかもなと、その"お日様"を気安くその腕にと抱えられる護衛官殿は、しみじみとその幸いを噛みしめるのであった。




   〜Fine〜  03.5.4.〜5.17.



   *こちらも久々の"moonlight-scenery"王子様ルフィでございます。
    年の初めにいきなり"サンル"づいたシリーズでしたが、
    今回は無難に"ゾロル"ベースで。(当たり前〜vv)
    こうやって並べると、ホンマにパラレルが増えましたねぇ。
    後はアレかな? それともあっちかな?


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