Moonlight scenery
   "defend? guard? protect?"
 

 

          



"守る"と言っても色々とあって、約束や誓いを守るとか、規則を守るとか言い出すともっともっと枝葉も広がってしまうのだが、防衛・防御という方向へと絞ってみても、結構、その種類は色々とある。


    ・defend…危害を加えられそうな状況下で、抵抗したりして防御すること。
          (スポーツや戦闘なんかでの"ディフェンス"がコレ。)
    ・guard…見張りや番をしながら、守備の万全を期すること。
          (ガードマン、ガーディアンはコレ。)
    ・protect…危害に近づかないように保護・防御すること。
          (紫外線防止のプロテクト、なんてのはコレ)
    ・shield…隠すことによって庇い保護すること。
    ・preserve…損害や危害、腐敗などを前以て想定して保護すること。


 よって…というのも何ではあるが、そもそも"護衛
ガードマン"というのは"専守防衛"が基本であり、襲撃をかけて来た賊を叩き伏せて捕らえるのではなく、身を呈してでも護衛対象を守る、言わば"人間楯"に徹するのが本道である。無論、そのような物騒な事態に陥ること自体を防ぐための前以ての調査や下準備も当然必要であり、体力や膂力もあるに越したことはないけれど。絶対に取っ組み合いに有利なまでの腕っ節が不可欠かというと、そうでもなく。鋭敏な反応反射と的確な判断力と、それから…何があっても護衛対象を守り通すぞという揺るがぬ信念とがあれば、それでもう"立派なガーディアン"であるといえよう。




  ………でも、物事には"ケース バイ ケース"ってものがあるから。


  「ルフィ。メリーを番犬にするってのは諦めた方が良いんでないかい?」


  ――― お久し振りです、こんにちはvv 例によってあの王国のお話です。







            ◇



 温暖乾燥気候で知られている地中海地方は、冬場が唯一の"雨季"であり、四月が近づき、春爛漫な暖かさがやってくれば、そのまま晴れやかな気候へと委譲する。晴天が多く、からりと乾いて過ごしやすいここいらの気候は、だが、引っ繰り返せば"水に縁の薄い土地だ"ということにもなり、結果、穀類に向かずオリーブだの柑橘類だのに限るとばかりに作物にも制限がかかるところだが、我らが王国には豊かな地下水脈という強い味方がいるがため、いざとなったら自給自足が可能なほどに農作物にも恵まれており。国民すべてがのほほんと穏やかに笑って暮らせる国という、ユートピアみたいな目標を結構無難に守れている、今時のご時勢にあっては"奇跡に満ちた夢の国"だそうでして。

  「だってのに、
   その王宮には凄腕の"護衛官"が必要ってのは、
   考えようによっては重々皮肉な話だがな。」

 人も羨む幸せは、時に"やっかみ"を買いかねない。平和安穏な豊かな国を目がけて、何の理由もなく侵攻して来るような、一昔前の蛮族のような国はさすがにないが。表立っては何の遺恨もない筈の、その懐ろの隅っこに…実は裏世界での駆け引きでの惨敗なんていう"引っ掛かり"だとかがあったとしたら? そういう"食い合い"の関係は全くなくたって、牛耳ってやったらさぞかし美味しい蜜が吸えそうだとばかり、美しい花はただそれだけで狙われやすい。提携、同盟、あわよくば属国化。虎視眈々と狙っている手合いやら、果ては…その切っ掛け、下準備として"恩"を売るための火種を放り込みたがっている物騒な輩までがいるやも知れず、

  「気にしだしたら際限
キリがないんだがな。」

 後ろ暗いことなんざありませんと、いつだって毅然と胸張っていられる厚顔な国王陛下やら、どんな土壇場にあっても"楽しくやりましょうや"と昂然と顔を上げて披露する、強かな笑みのそれはよく似合う皇太子殿下は放っておいといても大丈夫として。
おいおい そんな彼らがそれは楽しそうなお顔でもって、テラスから見下ろしているのが、王宮の奥のプラーベートエリア。"翡翠の宮"の緑豊かな庭園の取っ掛かり。青空の下に広々と開けた中庭の、目映いほどに明るい若緑が煌めく芝の上であり、

  「…ルフィ〜〜〜、
   まずは"お座り"とか"待て"から教えた方が良いんじゃねぇのか?」
  「え〜〜〜、なんで? ………どあっ☆」

 結構育って大きくなった、真っ白な毛の塊にタックルをかけられて、傍らの茂みに体がめり込んでしまい、身動き取れなくなったところを目がけて、
「こ、こら、やめろって。メリー〜〜〜。」
 昨冬のクリスマスプレゼントだったものが…たったの半年ほどにて随分と大きく育ったオールド・イングリッシュ・シープドッグにすっかりと懐かれてしまい、顔と言わず首条と言わず、ぺろぺろとなめ回されて、
「擽ったいよう〜〜〜っ。」
 きゃははvvと笑いながら悲鳴を上げているところの、それはそれは無邪気な第二王子に限っては。山のような護衛をつけたって構わないと、王宮関係者の皆が間違いなく思っているほどの過保護振り。まとまりは悪いがつややかな真っ黒な髪に、真ん丸なお顔には大きな瞳とやわやわな頬、ぷくりと柔らかな唇に愛らしい小鼻が鎭座ましまし、伸びやかな肢体をしたそれは愛らしくもお元気な王子様。そういった見目の愛らしさのみならず、性格もご陽気で屈託なく、それを発揮して見せての外交の場での活躍も目覚ましく。親御さんの手前味噌な贔屓目なんぞをわざわざ持って来なくとも、国民の皆様たちからも"王室のお日様"と呼ばれているほどのアイドル的な存在であり。成程、山ほどの護衛もそりゃあ必要だろうよなと誰もが思うところだというのに、現状は…。
「ゾロ、ゾロっ! 助けてくれよう!」
「何でだよ。」
 傍らの離宮風白亜の四阿
あずまやの柱に凭れたまんまで、
「楽しそうじゃねぇか。」
 ちょいと意地悪な口利きをする、青年護衛官がたった一人しかついてはいない。勿論のこと、王宮自体の警備は元より、式典だの外遊だのという場に立つにあたっては、王宮直属の近衛連隊の皆様方が警護についてくださるけれど。普段の日常の中においての彼専属の護衛担当官はというと、まだ年若き男性がたった一人でついているだけ。屈強精悍ではあるが、天を貫くほどの巨漢でもない。これみよがしに恐持てのする猛者でもない。緑の髪に耳には棒ピアスを下げた、一見"洒落者"ではあるけれど、その存在感を日頃はきっちりと消しているがため、至って地味な印象の。ロロノア=ゾロというまだ二十代の青年が、ルフィ専属のたった一人の護衛官であり、

  「メリー、いい加減にしてやんな。」

 そんな彼が苦笑混じりに声をかければ、大きなモップ犬が"わふっ"と良いお返事をして青年の傍らへと戻ってゆくから。大物さん同士で仲の良いことと、
「む〜〜〜。」
 ちょいと膨れながら身を起こしたルフィであったが。そんな彼の背後から、

  「形無しだな、飼い主。」

 煽るような、からかうような。くつくつと楽しそうなお声が掛けられた。ちょこっと甘い響きの、伸びやかな良く通る声。振り向く前から相手が分かって、
「うっさいな。大体、普段からメリーに触らせてくれなかったのって、サンジなんじゃないか。」
 ちゃんと躾けは出来るのか?とか、遊ぶのに夢中になっちまうに決まってるとか、何だかんだ言って遠ざけてよ。
「その間に、ゾロの方がメリーんコト、手なづけちまったんだぞ?」
 ぶくうと膨れた王子様に、だが、さして畏れげな様子も見せず、
「おや、そりゃあ悪かったな。」
 茂みから千切れた細かい葉っぱまみれになっている、浅い水色の春向きのカーディガン。それを払ってくれる白い手が、絶妙な強さなのがくすぐったい。痛くない程度の、けれどしっかりとはたき落とせるだけの力を入れた叩き方であり、
"…なんかサvv"
 まるで実の兄とか母親とかのように。すっかり"身内"という意識で接してくれてる彼なのが、時々、途轍もなく嬉しくなる。間近になった、線の細い端正な面差し。少しうつむいて伏し目がちになった目許から、白い頬の縁へ睫毛の陰が落ちていて、これも細い鼻梁の稜線を境に、額からなめらかに降りる長い金色の前髪が、せっかくのお顔を半分隠しており。
"………。"
 ずっと昔の小さい頃から変わらないままな髪形でいる彼だが、どんどんと大人びてゆく彼の横顔は、どうしてだろうか、ふとした拍子に目に入ると随分と寂しげに見えなくもなくて。

  「…なあ、サンジ。」

 ふと。神妙な声になり、何かしら話しかけようとしたその時だった。


   「…っ! ルフィ、サンジっ、その場に伏せろっっ!!」


 芯が太くて力のある。それはよく響いて説得力に満ちた声が、質量を伴っているかの如くに どんと放たれて、
「えっ!」
「…っっ!!」
 僅
わずかに。あまりに唐突だったその声に叩かれて、身動きが停まってしまったルフィを懐ろへと抱え込み、撓やかな痩躯が茂みの陰へと身を伏せる。芝生の外れ、陽気に暖められた赤褐色のレンガのテラコッタの上。多少は加減をして、背中にクッション代わりに回された腕の上へと倒されたその上へ、華やかないい香りの温みが伏せて来て、
"あ…。"
 あっと言う間の手際のいい守られ方にくるみ込まれながら、こんな緊迫感がたまに襲いくる身だということをまたもや思い知らされてしまう。王宮のこんなにも奥まったところでというのは滅多にないことだが、それでも…間違いなく"命のやり取り"が展開される修羅場であり、しかも、

  「…んぅっ!!」

 すぐ間近にて小さな声が上がったのへ、ひくりと身が強ばった。どこかから何かを壊すような音もしてたけど、それって…まさか?
「…サンジ?」
 ぎゅうと抱き締められているから状況が何にも分からない。一番間近にいるのに、顔も体も全然見えない。周囲が一気に騒然とし、少し離れたところにて野太い声が上がって、それへと向かって一杯の足音が駆けてゆき。
「サンジ、サンジ、だいじょぶか?」
 必死で呼びかければ、
「大丈夫だよ。」
 常と変わらない声が返っては来たけれど。その身はひくりとも動かない。騒然とする雰囲気に包まれて待つ中、ばたばたザカザカと周囲を跳ね回る足音の中から やっと傍らへ駆けつけてくれた一対があって、楯代わりになってくれていたお兄さんの肩に手をかけ、ぐいと引っ張り起こしてくれた。視野の中に光があふれて、けれど…何でだろうか、さっきまでの暖かさを感じない。そんなルフィのすぐ傍ら、
「大丈夫か?」
 ゾロがそうと訊きながら、既に…身を起こさせたサンジの二の腕にネクタイをぎゅうぎゅうと縛りつけており、
「………っ。」
 明るい色合いのシャツの袖には、滲み出す鮮血による牡丹の花が痛々しくも咲き始めていて、思わずルフィが息を呑んだ。
「サン…。」
「大丈夫だって。」
 皆まで言わさず、上からかぶせるように声を重ねて来たのは、向かい合ってた怪我人ご本人であり、そのお顔を…顎まで長く伸ばされた金色の前髪がぱさりと隠していて、
「見た目が派手なだけだ。大したことはねぇ。」
 無事だった方の腕を伸ばしてくると、ぽふぽふと髪を撫でてくれたけれど、

  「………。」

 向かい合ってたそのままに、ルフィは そぉっと手を伸ばし、サンジの顔から髪を払った。宝石みたいな水色の瞳。今そうであるように、いつだって優しく細められていて、ルフィのこと、いつも見守ってくれている大好きな眸。

  "…狡いよな。"

 何にも言わないで、何にも言わせない。からかったり ふざけたりもする時と打って変わって、それは真摯に優しい色合いになって。こっちの言葉まで堰き止めてしまう、不思議な瞳。

  「………。」

 警備関係者たちが出入りを始めて、ざわざわと慌ただしくなってしまった中庭の一角にて。難を逃れた王子様は、だが、何となく…痛みをこらえているかのようなお顔をして見せたのであった。

















          




 王宮内には医療棟もある。主に王族の方々や重臣たちの負った怪我疾病の治療のためにある施設であり、入院病棟もあって、手隙な時には一般国民の入院を受け入れることもある。その病棟のとある個室に押し込められて、
「オーバーなんだって、こんな程度で。」
 さっそく不満そうな声を上げた金髪碧眼の隋臣長様へ、がっつりと体格のいい病院長さんがくすくすと笑って見せる。
「何を言っても聞けないよ。サンジだって、自分の作った料理にベタな評価や口出しは許さないんだろ? それと一緒だ。」
「チョッパー〜〜〜。」
 ちょいと威嚇的に目許を眇めるサンジだが、そんなの全然効かないもんねと、知らん顔を決めているこの青年は、王宮付きの医師でトニー・トニー=チョッパーといい、主には第二王子の健康管理を専門に管理している若いお医者様。そのつながりで、ルフィ付きの執務官の皆様の手当ても担当していらっしゃり、
「傷が塞がるまでサンジを出しちゃダメだって、他でもないルフィから言われてるんだもの。」
 こればっかりは守らなきゃねと、しゃあしゃあと言ってのけ、
「言っとくけど、無断で脱走なんかしたら容赦しないからね。」
「………はい。」
 ギロリと凄むと ちょっと怖い、実はカラーテの有段者だったりする。絶対に大人しくしてるんだよと言い置いて、やっとこ病室から出て行った主治医様に溜息をこぼし、明るい室内をぐるりと見回すと、
"はぁ〜あ。"
 やるせない溜息をもう一度こぼした隋臣長様だ。王宮奥向きの昼下がりの中庭で起こった、突発的な襲撃事件。庭師に化けて潜入していた狙撃手が、王族の中でも最も幼くて無防備な第二王子を狙っての狙撃を敢行したもので。きな臭い気配に素早く気づいたゾロが、だが、距離があったがため、
『…ちっ!』
 ルフィの身は間近にいたサンジに託し、ライフルを構えていた犯人目がけて装備していたナイフを投擲、ギリギリですんでのところへ間に合って、照準は大きく外させられたものの、相手も意地があってか最初の一撃を放っており、随分と逸れたそれがサンジの二の腕を掠めたというのが事の顛末である。
『悪かったな、俺の仕事だってのに。』
『まあ、こういうのは しゃあねぇさ。』
 いざという時、犯人確保ではなく護衛対象をこそを守るのが任務だと、ゾロにしたところで重々判っているのだけれど、

  『こうまでお元気な坊主の行動を、
   たった一人でフォローしろと言われてもなぁ。』

 もう外交大使の職務も立派にこなすほどの存在になって来たのだから、ちょっとは落ち着いてくれりゃあ良いもんを。ちょぉ〜っと目ぇ離すとすぐに、どこぞの隠れ家だの屋根の上だのへ飛んでってしまうんだからなぁ…と。サンジとしてもその辺りは、それこそ重々承知なこと。だって言うのに、本人が"鬱陶しいからそんなの要らねぇ"と言って聞かないまま、現在に至っているのであって。
"ああまで多くの目に晒されてた中だったんだ。今日のはイレギュラーも良いトコだかんな。"
 日頃があまりにお呑気な王室、たまにはこういうことがあった方が引き締まるのかもななんて、物騒なことを思っていると、

  ――― コンコン、と。

 扉をノックする堅い音が響いた。
「どうぞ。」
 別に"面会謝絶"とまでは言われていないし、まさかにあの騒動の直後にまたまた素性の怪しい輩を潜入させるほど、お間抜けな警備陣営でもあるまい。暇だったので丁度いいと、入ってくださいなという声を返せば、
「…サンジ。」
「おや。」
 彼には珍しいくらいにそろりと大人しく。丁寧にドアを開いて入って来たのは、他でもない…さっき庇ったルフィその人で。やはりそろぉ〜っとドアを閉じ、窓辺近くに据えられたベッドの傍らまで歩みを運ぶ。
「怪我は?」
「大したことはないって言っただろうが。」
 さっきまで着ていたシャツは脱いでおり、入院患者用のお仕着せに着替えさせられていて。負傷した二の腕も広い袖口からは簡単に覗ける。掛け布の上へと出ていたその腕の、肘の近くまで。白い包帯が見えていたものだから、
「ふみ…。」
 大きな瞳がたちまち潤みそうになったのへ、
「だ〜〜〜っ、こんくらいで泣くなって。」
 ベッドの主が慌てて見せたりしてみたり。
(笑) どっちが気遣われているのやらという構図だが、ルフィだとて日頃だったならこのくらいでメソメソしはしない。ただ、
「だってよ、思い出したんだもんよ。」
 ベッドに横になっているサンジだったから、その顔の左側をいつも隠している長い前髪も横鬢の辺りまですっかり降りており、白いお顔が明るい陽の中にて全開になっている。その前髪をそっと梳いてやるルフィの覚束ない仕草にて、

  "…ああ、そっか。"

 隋臣長様の側でも思い出したことがありはしたけれど…。

  「ば〜か。」

 殊更に明るい声を出し、無事だった方の腕を伸ばしてくると、王子様の丸ぁるいおでこへ"デコピン"をお見舞い。
「あたたっ☆」
 たちまち、おでこを押さえながら"ふにゃん"と顔をしかめた可愛らしい様子へ苦笑を向けて、
「詰まんねぇことをいつまでも覚えてんじゃないっての。第一、俺が髪を伸ばしているのはファッションなんだからな。勘違いしてんじゃねぇよ。」
「え〜〜〜? 短いのが流行ってた時だって同じ頭だったじゃんか。」
「それは、だな。…ポリシーだ、俺の。」
 うんうんと鹿爪らしく頷いて見せる、優しいお兄さん。とっとと忘れな、いつまでも気にしてんじゃないと言いながら、実は一番、気にしないようにって気を回してくれている人。





            ◇



  「サンジくんの髪形?」

 唐突な質問へ、キョトンとしたナミさんは、今日の庭での騒ぎを今さっき聞いたばかり。春からが新年度である諸外国への色々なご挨拶の手紙の配送手配を、担当庁まで出向いて手掛けていたからで、自分がいなかった間に起きたという物騒な事件へ、お馬鹿な狙撃犯に蹴りを入れてやりたいとむずむずしていたところへの唐突な質問であり………そのお怒りの微熱までがふしゅんと沈んだ模様。

  「そっか。サンジくんが庇ったの。」

 そうなってしまった顛末はナミにも理解出来るし、その場に自分がいたならば、やはりそうしただろうとあっさりと判ること。厳重な警備をルフィが煙たがるのは、自由が利かない身になるのが嫌だからであるのと同時に、

  「がっちり守られてる身では、偉そうなことを言っても説得力がない。」

 ゾロがぽつりと言った一言へ、ナミがにんまりと笑って見せる。
「随分とすっきり整理されたわね。」
 まさかあなたから教授された文言なのかしらと続けたのへ、
「よせやい。俺がこんな風なキザな物言いをするかよ。」
 第一、護衛する人間が言うこっちゃねぇよと、ゾロがその雄々しい肩をすくめて見せたのも全くもっての道理であって。ナミは"あははvv"と軽やかに笑ってから、
「あんな坊やなのにね、ちゃんと大人になってくんだな。」
 しみじみと呟いて………。

  「あ、そうそう。サンジくんの話だったわよね。」
  「お前、もしかして物忘れの出る年齢か?」

 ………ゾロさん、殴られるからあんまり迂闊なことは言わないように。
(笑)







            ◇



「…ごめんな、サンジ。」
「んん?」
「ホントは俺、知ってる。メリーに余りかまけさせるなってのは、エースと侍従長のおっちゃんが言ってたんだろ?」
「………。」
「遊ぶのに夢中んなって勉強とか疎かにしかねないからって。それ聞いて、さも自分が勝手に言い出したみたいにしてサ。」
「ば〜か。俺だって同じことを思ったからだよ。」
 底が浅かったのがバレちまってたとはな。そんな言い方をして、あ〜あだ、なんて、残念そうな声を出す臍曲がり。そんな態度を見せながら、さりげなく髪を掻き上げる振りに紛れさせ、左側の額の隅を隠そうとする隋臣長様であり、

  "………ほら、やっぱり。"

 そこには…小さな小さな傷痕がある。二人ともがまだまだ小さかった頃に作った傷。王妃様がご逝去なさり、ややあって、ルフィがサンジの傍らから離れなくなり。そんな頃に作ってしまった痛々しい傷。掻っ攫ってでも行こうとしたのか、いきなり襲い掛かって来た暴漢が邪魔だと払い飛ばした小さなお兄さんの、それはそれは端正なお顔につけられた傷に、小さな王子様は我が事みたいにいつまでも泣いて泣いて。笑顔がなかなか戻らなくて。それでとお兄さんが思いついたのが、髪を伸ばして見えなくすること。少しくらいの風にもめくれ上がらないほどに、そう簡単にお顔が覗けないようにと、周囲の大人たちから"鬱陶しくないか?"などと言われながらも頑張って押し通した髪形であり、

  "俺が怖がるからじゃなくて…。"

 いつまでも気に病むのではなかろうかと、それを心配しての配慮だと。そんなことくらい、ルフィの側だってとっくに気がついてたのにね。いつだって優しいサンジ。判りにくい遠回しが好きで、最近 頓
とみにひねくれ者で。でもね、俺には通用しないんだからねと、唇を咬みしめてベッドの傍らから離れようとしない頑固者。

  「い〜か? 傷が塞がるまでは煙草もお酒も厳禁なんだからな。」
  「酒は消毒になんだぞ?」
  「う・そ。ゾロが言ってたもん。
   血行がよくなりすぎて傷口が腫れ上がって、
   塞がるのに時間が掛かったり、大きな跡になって残っちまうぞって。」
  「クソォ、怪我のエキスパートだもんな、あいつ。」
  「だからだからっ。絶対に我儘聞いてやんないもんね。」

 ムキになって小さな拳を握った坊やに、いつぞやの泣き顔を思い出し、だが。今の彼の双眸の、何とも強い意志の輝きに。頼もしいような…寂しいような、複雑な心境を覚えた隋臣長様であったりする。


  「判ったから、お前はメリーの躾けを頑張りな。」
  「うう…そっちはゾロに任せるから良い。」




  〜Fine〜  04.3.29.〜3.30.


  *あうう、ウソップのお誕生日前に何をやっとるのだろうか、私は。
(笑)
   最近、サンルもどきを書いてないなと、妙に書きたくなりまして。
   ウチの主旨を忘れた訳ではないのですが、
   まま、久々ですんで大目に見て下さいませです。

ご感想は こちらへvv**

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