月夜見
 puppy's tail 〜その22
 

  “アンヨは上手?”
      
〜海カイくんのスクスク成長記こらこら


 

 赤ちゃんの体型というのはおよそ三頭身なため、頭の比重がかなり大きくて。それがために、ただでさえ慣れのない“立っち”や“アンヨ”は、そう簡単に会得出来るというものでもなく。それでなくたって発育には 例外なく“個人差”というものもあるのだから、周囲の大人たちは決して焦ったり急かしたりしないで、おおらかな長い目で見守ってあげるのが一番なのだそうな。

  「ほ〜ら、海
カイくん。ママ、こっちだよvv

 這い這いなら結構早く移動出来ようになってたロロノアさんチのカイくんは、次の新たな段階である“立っち”や“アンヨ”もなかなか上手にこなせるレベルまで至っており。一時は“這い這い”の方が楽しいからと思ってだろうか、なかなか“立っち”に魅力を感じてくれないのへ、大人たちを少々危ぶませたものの。すっくと立ち上がって歩き始めると、途端に周囲が やんやと沸いてはしゃぐのが自分でも楽しいのだろうか。この頃では自分から進んで“よいちょっvv”と、初歩の掴まり立ちから始まって、這い這いからの立っちや、今や“座ってるトコから立っち”なんていう高度なことも出来るようになり、リビングやお昼寝ルーム、庭先でのお散歩を悠々と堪能している毎日でもある。
「もうちょっとだよ〜vv
 最初のうちは、とぽりとぽりと進む その一歩ごとに体を左右にゆらゆら傾けていた覚束ないところがあったのに。今では前へ前へ ほてほてと、しっかり続けて歩けるようになり。お人形がカタコト撥ねる“弾み車”を押して、いつまでも進めたりも出来るようになった。お部屋の中での伝い歩きなんて お茶の子で、
「はい、到着〜vv
「きゃうvv
 時々はネ、此処までおいでと言いつつ、最初に立ってた“そこ”から少しずつ下がってくという“ズル”をするママやパパなのへ、そんなの狡いって“ぎゃぁあぁ〜んん!”なんて大泣きして、クッションのボールとかを手当たり次第に投げまくる怪獣馬力で愚図っちゃうこともあったんだけど。今は てことこ沢山進めるようになったからね。どんなに後ずさりしたってちゃんと追っかけて行けるもんねと、鬼ごっこでもしているかのように むしろキャッキャvvと喜んでしまうほど。膝立ち姿勢で受け止めたカイくんごと、大きなクッションへと倒れ込んで、
「よく出来ました〜〜〜vv
 きゅううと懐ろへ抱っこした愛しい子。やわらかくて小さな温もりと甘い匂いと。それからそれから、お日様みたいな満開の笑顔と。ああホント、子供って宝物だよなって実感しちゃう。嬉しくて堪らなくって、こちらの笑顔も尽きなくて。そんなママの笑顔につられて、
「きゃ〜いvv
 弾けるように坊やがまた笑って、もうもうキリがないくらいに幸せが一杯vv そんなほかほかなリビングへ、
「奥様、旦那様がお帰りですよ?」
 スリッパを軽やかに鳴らしてツタさんがやって来て、
「あれれ。」
 お耳のいいママもカイくんも、車の音に気がつかなかったらしく。急がなくっちゃと、ちょっぴり慌てて…そこは小柄でも男の子なルフィママ。カイくんをひょいっと抱っこしたままで立ち上がり、玄関口に駆けつける。パパは時々お隣りの町のアステチッククラブまでお勤めに出ていて、曜日によっては早く帰っても来るのだけれど、
「今日は夕方までじゃなかったっけ?」
 だから車の音にも気がつかなかったんだもんと、お帰りなさいより先についつい言い訳しちゃった可愛い奥方へ、
「予約を入れてた会員さんが、急用で来られなくなったんでな。」
 こちらもまた、別段咎めだてもせずに応じてから、ぱぱ、ぱぱと手を伸ばして来る小さな王子様を余裕の頼もしい腕の中へと受け取る、ワークパンツにトレーナーとブルゾン姿の旦那様。お勤めだったからと、いつも下げている棒ピアスがないお耳を、小さな手が“む〜っ”と引っ張るのへ、
「痛い痛い。カイ、降参だ。」
 クスクスと笑いながら“参った”なんて調子を合わせてる可愛い人だが、そんな二人を眺めながら後ろ向き歩きでリビングまで戻りかかってた奥方が、
「あ…っ☆」
 自分で自分のスリッパの踵のあそびを踏みつけてか、後ろへとつんのめって倒れかかったのへ、
「おっと。」
 それは素早く、且つ なめらかに伸びたもう片方の腕を細腰へと添わせるようにして、難無く受け止め、支えてしまえる頼もしい人でもあって。
「大丈夫か?」
 ほんの少ぉし体を傾けてナイスキャッチし、怪我はなかろうけれどビックリしたんじゃないかと案じたパパと、ハッとしたまま見つめ合ってしまったママだったのだけれど。
「やぃちょーぷ?」
 そんなパパのお口の真似をするカイくんの言い回しに、ぷふっと吹き出し、そのまま“きゃははvv”と笑ってしまう。こちらも相変わらずに、天真爛漫なママみたいです。






            ◇



 見た目が中学生くらいという小さなママは、中身も負けじと とっても無邪気な人なので。パパさんやツタさんに構われるのも大好きだけれど、今はカイくんのことを構うのが一番好きなんだとかで。ただ、
「マ〜マ? どーお?」
 モミジみたいな小さな手を伏せて、リビングの大きな窓にぺちゃりとくっついてる坊やに気がついて。ラフな恰好へと着替えて来たゾロパパが“おやおや”と傍まで寄ってひょいと抱えてやる。
「ママはお散歩。ちょっと待ってな。」
「ぶ〜。」
 何でも…ツツジの垣根の向こうから、野良の“お友達”が呼びに来たのだそうで。すぐに戻るからと、メタモルフォーゼして飛び出してったばかり。いつものお散歩になら、ウェスティになったカイくんも一緒に連れてってくれるのに、今日はお急ぎの御用だったらしくって。お昼寝用のお部屋で素早くシェルティの“るう”くんに変身して、そのまま飛び出して行っちゃった。それがちょっと詰まんないからって、
「う〜う〜、む〜。ちゃーちゃっ。」
 お口を尖んがらがせてるカイくんです。小さなルフィママの秘密。大っきな眸にふかふか小鼻、よく笑うお口に、ぽさぽさとまとまりは悪いけれど つやつやの真っ黒な髪。そんなお顔を、ゾロパパのお胸のところに“ぱふん”って丁度よく埋められるくらいに小柄で、一応は男の子としての力持ちだけども、腕も脚もひょろっとしていて華奢な、そんな“男の子”なのにカイくんを生んでくれたお母さんでね? しかもしかも、もっと不思議なことには…シェットランド・シープドッグっていう小さなワンちゃんへと変身出来ちゃう魔法が使えるの。そいでもってカイくんも、ウェストハイランド・テリアっていう真っ白なテリアに変身出来るんだけれどもね。これはこのお家の人の間でだけの内緒。…あ、ほら。
「………お。」
 がささって茂みが揺れて、飛び出して来たのは白っぽい焦げ茶の毛玉。ふかふかの毛並みをお尻尾にはたはた なびかせて。お胸にはアスコットタイみたいに膨らませた真っ白な毛並みがとっても綺麗な、小さめのコリーみたいなシェルティくんが帰って来ました。
「お帰りなさいませ。」
 早速にもツタさんが、窓を開けてすぐのところへお膝をついて座り込み、あんよを拭いてあげて。お家の中へと上がって来ると“いつもありがとうねvv”とツタさんのお膝にお鼻を擦りつけて甘える仕草も可愛い、小さな小さなシェルティくん。パパに抱っこされたままでこちらへ小さなお手々を伸ばして来るカイくんへも、声を出さない“あんっvv”というお愛想のワンワンをしてくれてから、ぱたたっと奥へ駆けてゆき………。

  「たっだいま〜〜〜vv

 ぱたぱたた…っとにぎやかな足音と共に、フリースのカーディガンを羽織ったスエット姿で“ママ”に戻ってお元気に再登場っ。お廊下を横向きにつつーってすべって来て、ブレーキかけてというご登場は、実はパパにはあんまり評判がよくないんだけれども。
「カイが真似したらどうすんだ。」
「大丈夫だようvv
 カイはきっと運動神経も良いだろから、失敗してコケちゃうって心配は要らないってと。とんちんかんなコト、持ち出しては旦那様の口許に苦笑を誘っちゃう、可愛いママ。ええ、はい。ゾロパパとしては、そんなお行儀の悪いことを、しかも分別がつくより小さいうちから覚えさせちゃいけないって言いたかったんですのにね。
(笑)
「…で。このご本はいつからDVDデッキで再生出来るようになったのかな?」
「あ…。」
 15cm四方くらいの小さめの絵本をひょいと差し出され、またやられたかと、ルフィママ、眉毛をひょこりと下げてしまう。
「でも、あれ? ちゃんとラップ芯の鍵かけてたよう。」
「え? そうなのか?」
 二人が見やった先にあったのは、大きなテレビの下に据わった、ガラス扉の嵌まったテレビ台。中にはDVD用のとVHS用のビデオデッキが、上下の段にそれぞれ入っており、ゾロパパが持っていた絵本は、DVDデッキの挿入口に突っ込んであったもの。好奇心旺盛で、しかもしかも伝い歩きが出来るようになり、上方向へも行動範囲がぐんと広がったその上、手が空いて何でも触れるようになったカイくん。そのお陰様で、
“引き出し開けまくりの、本や雑誌を引っ張り出しまくりだったもんね。”
 這い這いでは届かなかった高さの棚にも“よいちょ”と届くようになり、しかも、時々手を離しての“あんよ”が出来るほどに安定感がついたもんだから。手が触れる限りのもの、手元へと引っ張り出すのが楽しくてしようがないらしくって。しかもその上、大人の真似っこも大好きで。ママやパパが、テレビの下のガラスの扉の向こうに入ってる、四角な箱に平たいものを入れて、それからテレビを見てるのが、どうしても真似したいらしく。押せば バネでぱかりと開くガラス扉を開けまくるのを、何とか出来ないかと考えて考えて。テレビで紹介されていたのに感心し、さっそく真似したのが…ラップ芯の筒に切り込みを入れて、左右二枚の下辺に一緒に噛ませ、ストッパーにするという生活の知恵。
「外れてて開いてたぞ?」
 そして…DVDデッキのディスク挿入口に、ミッフィーの絵本が突っ込まれていたと。
「ミッフィーのDVDだったら、こっちの棚にあるのにねぇ。」
「ルフィ…。」
 そういう“ボケ”を返さんでよろしいと。相変わらずに融通の利かない、お堅いところの残るゾロが“おいおい”と目許を眇めて見せて。
「ま〜ま、まー。」
 盛んにママへと手を伸ばしているカイくんを、揺すり上げるようにしてお膝へ抱え直した。
「きっとカイくんが、俺たちがどうやって開けてるかを見てて覚えたんだよ。」
「そうかな…。」
「そうだってば。」
 だって、今日はまだビデオも何も観てないし。全然触ってないんだから、だったら“閉め忘れ”もない訳でしょ? 言われて“そーか”と旦那様も納得。
「そっかー。カイはそんなことまで学習しちゃったのか。」
 なんて賢い子供なんだろうかと、ふわふわな髪にお鼻の先を突っ込みつつ、自慢の坊やをきゅううと愛おしげに抱き寄せてしまうお父さん。途端に、
「きゃいっvv
 擽ったかったのか、じたじたと寸の足りない手足を振り回す仕草が、またまた可愛いカイくんでvv

  ――― でもね、あのその。

 差し出がましいようですが。ということは、またまた対策を考えなくっちゃいけない訳で。ましてや、問題の絵本片手に“いい子いい子vv”と褒めてちゃいかんでしょうがと。これは、見物していた傍観者の独り言。…Σ(0o0)をくっつけて“突っ込み”とも言うんですが。
(笑) 相変わらずに幸せいっぱいなご家族には、すぐにと間近い冬の到来にも暖ったかいままに過ごせそうな予感さえして。


  ――― 今年は雪降るかな?
       どうだろな。
       カイにはお初の冬でしょう?
       ??? あ、そか。ウェスティでの。
       そvv きっと、凄いはしゃぐと思う♪
       だろうな〜。
       何なに? 感慨深そうに。
       寒いから帰って来なさいと、取っ捕まえるのが大変だろうなと。
       あははははvv そっか。俺が相手の時も大変だったのにvv
       笑いごっちゃねぇってばよ。


 頑張ってね、ゾロ。おいおい、協力してくれないのか? だってサ、俺もきっと一緒に逃げ回る側だもん。カイくんと一緒に、いつの間にやら奥方までもを懐ろの中へと抱っこした旦那様。困ったお顔をすると喜んで見せることもある悪戯っ子な奥方へ、わざとに眉を下げて見せ、これが彼なりのお惚気なのかも。何とも可愛らしいご夫婦ですことと、わざとにちょっとだけスリッパを鳴らして、綺麗に剥いたおリンゴを運んで来たツタさんで。皆してやさしい、そんなご一家には、きっとやっぱり幸せな冬がやって来るのでしょうねというところで。秋のロロノアさんチの近況をお届け致しましたですvv




  〜Fine〜  04.11.6.〜11.27.


  *ゾロ誕用に書き始めた筈なんですが、
   どういう訳だか詰まったまんまで放ってました。
   このシリーズには
   拙ない描写ながら“カイくんの成長”というのが出て来ますため、
   あんまり後回しに出来ないので、
   てぇいっと慌てて書き足しもんだから、
   …ますます“BDもの”ではなくなった次第です。
(苦笑)
   最近、時間が合えば
   NHKの『すくすく赤ちゃん』とかも観ている筆者ですが、
   なんか変だなぁというところがあってもどうかご容赦を。(へこへこ…)

ご感想はコチラへvv**


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