月夜見
 puppy's tail 〜その27
 

  “わ〜い、わ〜いvv”

 

  まだ時々はネ、お外、さむいの。
  でもでも、おサンポはネ、大好きなのvv
  マキちゃんでしょ? ちゃーりーでしょ?
  キヨシでしょ? ドンゴンでしょ?
  セナにハルトに、ヒルマにセイジュロ。
  ビャクヤとレンジはネ、時々こわいの。
  でも、カイのママにはあまえるから、こらぁ〜っなの =3






            ◇



 ………えらく趣味に走っとるご町内ですが、それはともかく。
(笑) ロロノアさんチの小さな王子様・海(カイ)くんは、もうすぐ2歳の男の子。真っ黒な髪は柔らかい猫っ毛で、黒みがうるうる潤んで滲み出して来そうなそりゃあ大きな眸と、羽二重もちのように きめの細かなふわふわの肌をしている、とびっきり愛らしい赤ちゃんで。実は不思議な精霊の末裔だから、色々なところが少しずつ、普通の赤ちゃんとは違ってます。生んでくれた“お母さん”が男の子だってことからしてまず違うし、ミルクもね、おっぱいから貰ってた訳じゃあなくて。そぉっと抱っこしてもらって、生気を直じかに ふわって分けてもらってたんだけど、
「半分寝ながら抱っこして、なかなか光り出さないんで声かけたら、また寝てたってことが結構あったもんな。」
「う〜〜〜。///////
 カイくんの方は夜泣きもあんまりしない子だったけど、小さなルフィママは一旦寝付くとなかなか起きられない人なので、夜の授乳は結構ばたばたしたそだもんで。
(苦笑)
「けど、ホンっト。見てて気持ちいいくらいの熟睡っぷりだもんな。」
 階下の子供部屋の、カイくんの小さなベッドをそぉっと覗き込みつつ、小さく小さく絞られた枕灯に照らされた愛らしいお顔を飽かず見守るご夫婦であり。そんな二人の視線の先では、奥方に瓜二つでちょこっと縮尺デフォルメされた面差しの幼子が、見ている側まで吸い込まれそうなほどの熟睡モードで、その表情を緩ませており。
「寝相が悪いってことはないんだけど、随分と動きながら寝てるよね。」
 くびれたところのないふかふかな腕や脚が、時折“やいやい”と振り回される。起きたのかと息を詰めたほどの大きな動きだったが、
「ああ、それは昼間の体験を頭の中で整理しているからですよ。」
 すぐ傍らにいたツタさんが、微笑ましげに笑いつつ、そうと事もなげに話してくれた。パン○ースだったかのCMでも紹介されておりますが、赤ちゃんもある程度まで育って自在に動き回れるようになると、脳だってやっぱり発達して来ているものだから、大人と同様、昼間見聞きした情報を頭の中で寝てる間に整理するようになる。人の五感というのは良く出来ており、例えばラウンジでのパーティー会場など、漫然としたざわめきが満ちた中でも、特定の人の話だけを聞き分けることが出来る。すぐお隣りに同じくらいの声量で話している人がいても、自分の話し相手の声の方を…そうそう強く意識せずとも優先的に拾える。脳が無意識下の働きとして、耳から一緒くたに流れ込んで来た“音情報”の中から“どの声を必要としているか”という選別と判断をしているからで。だから、後からそのパーティーの話を聞かれても、隣りにいた人の会話なんて覚えてない。あなたはお友達との会話しか覚えていない訳ですが………実は実は。そっちの会話だって ちゃんと脳へは取り込まれているそうで。意識してのことじゃあないから気がつかないでいるけれど、催眠術で自我を朦朧とさせてからなら聞き出せたりもするらしい。私たちはその目や耳、鼻、肌などで、途轍もない量の情報を、のべつ幕なし、知らず知らず収集しており、それらは、夜中、体が眠りについてから、こっそりと整頓されているのだそうで。頭の中で展開されるその“脳内整理”の断片がたまに自意識へとはみ出せば、大人の場合は“夢”という形になる訳ですが、赤ちゃんの場合は蓄積が無いところへのお初な体験が多いので、その小さな体にはたいそう大きな経験や刺激。処理するのも大変極まりないだろうなということは、想像するのも容易い話で。乳児期の“夜泣き”も、そういう、昼間得た刺激を取り込み切れなくてのストレスといいますか、今現在、何かが不満とか不快だからと泣いてる訳ではない場合もありますので、ご家族はどうかご理解くださいませです。それがも少し育つと、勢い余って体まで“わきわき・よいよい♪”と、単なる“寝返り”以上、誰かにあやされているかのようなほど手足を動かすことも多く、こういう時期に入ったら、ベッドの中には縫いぐるみや何かをごちゃごちゃ置かない方がいいでしょう。
「………もーりんさん、余談、長すぎ。」
 すまん、すまん。
(苦笑) 愛しい我が子の、お元気で健やかな寝姿は、いつまで見ていても飽き足らないが、
「さぁさ、旦那様も奥様も。お部屋でお休みなさいませ。」
「そうだな。あとはツタさんが付いててくれるし。」
 瞼も重たげで心なしか目許も“…とろん”と浮いてる奥方だと気づき、頼もしいご亭主が苦笑混じりにその腕へ抱っこしてやり、カイくんとツタさんへ“また明日ねvv”と会釈を残して二階の寝室へ。明かりを壁沿いの鴨居あたりに埋め込まれた間接照明だけへと落とした寝室は、ベッドやサイドボード、ちょっぴり古い型の猫脚の卓などの輪郭を、黄昏色のぼんやりした明るさの中へと浮かび上がらせていて。そんなお部屋の中央奥。バルコニーへと出られる大窓の、対面になる壁の小窓の下に、ゆったりと据えられた大きなベッドへ歩み寄り、小さな宝物をその真ん中へそぉっと降ろしてやれば。
「にゃ〜〜〜っvv ///////
 撓やかな腕が下から伸びて、ゆっくりと身を起こしがてら離れかかったご亭主の首へするりと巻きつく。
「あ・こら、ルフィ。」
 俺は今から風呂入って来るんだって。ダ〜メvv 抱っこが先vv 振りほどけない訳じゃあなかろうに、仄かに温かな眠気の熱をまとった細い腕での就縛が、甘くて愛しくて振り切れない。小さな顎を壊さないようそっと、武骨な指先へ掬い上げ、身を屈めて柔らかにキス。もっともっととせがむように、離れかかればしゃにむに追って来る、子供のそれのような薄い舌の感触が、ゾロの頭の芯までもを蕩
とろかせるのは容易いことで。


  ……………………………………… あとは 大人だけのお時間ですのでvv








            ◇



 桜も終わって、今はツツジに山吹、もう少ししたらハリエンジュの白い花が、元気よく茂り始めた若い青葉に拮抗するかのような勢いで、一斉に咲いて綺麗な頃合い。ニセアカシアともいうこの樹のお花は、棚を作って軒から下がる白や緋、淡い紫の花房を楽しむ“藤”のお花と形がよく似ていて。ツタさんに“なんで?”と訊いたら 同じマメ科だからなんだって………と、嬉しそうに話してくれたルフィや、ふかふかの蒸しパンケーキをパパの大きな手から食べさせてもらって、お座りしていた歩行器のお椅子をゆさゆさと揺らしもって“ご機嫌さんですvv”と体で表現していたカイくんに見送られ。週に3日というペースへ戻ったお勤めへと出たパパさんが、スポーツジムでのお仕事を終えて、お昼下がりに戻って来れば、
『お二人でしたら“るうちゃんと”お散歩に出てられますよ?』
 一応の出勤着であるスーツをハンガーへと掛けて下さりながらのツタさんのお言葉。この頃では慣れたもので、人型の時はベビーカートを押しつつ三人で出掛けるのだが、メタモルフォーゼしての“お散歩”へは彼ら二人だけで出掛けているらしく。
『それでなくとも、私では到底ご一緒出来ませんし。』
 ころころころ…♪と、それは楽しげに笑ったツタさんがちょっぴり高齢だから、ではなく。たとえ、元気溌剌、好奇心も旺盛、小回りだって利くぞな小学生くらいの坊やであっても、
“ずっとずっと追跡するってのは無理な話だろうからな。”
 他所様のお家のサザンカや錦木の生け垣の裾へと潜り込んで穴を日に日に広げるわ、いくら小型犬だとはいえ、猫でもないのにブロック塀の上をたかたかと平均台みたいに何mも渡ってゆくわ。季節的空き家になってるお屋敷に入り込んで、芝生の上を傍若無人なまでに我が物顔で駆け回るわ。さすがに生け垣破りは洒落にならないのでゾロが謝りに向かったが、
『ああ、構いませんよう。』
 じゃれつかれて掻き毟
むしられて粉々にされる訳でなし、小さい子なんだ、これ以上大きくはされなかろう。それよりも、飼い主さんに止められてワンちゃんがお庭に遊びに来なくなる方が寂しいから、どうか叱らないでやって下さいと、気のいい老夫婦から逆にお願いされたほど。
“とはいえ…。”
 そちらのお宅さんにしたって、目に余るほどの暴れっぷりはさすがに歓迎してはいなかろうし、どこのお宅でもそんな寛大なご意見を下さるとは限らない。まま、普通のワンちゃんじゃあない彼らだからね、そこのところの“見分け・嗅ぎ分け”はなかなか絶妙にこなしているらしいのだけれど、
“ルフィはともかく、カイの方が…なぁ。”
 ウェスティになっている間は、お母さんの るうにべったりの筈が。このところは別々に前後して家へ戻って来ることもあり、
『お友達も増えたしねぇvv
 結構 家にいるお父さんなのに、そんなこと聞いてませんってな言いようをペロッとされる今日この頃。だって、教えといて…ゾロどうするの? 通り道にあるお家だったら、ご挨拶とかするの? ウチの子といつも遊んでくれててありがとうとか?
“………。”
 言われてみれば、それはあり得ない話だけれど、でもな? 曲がりなりにも“カイのお父さん”なのに。自分だけ知らないことがあるってのは、何か…仲間外れっぽいというか、寂しいというか、やるせないじゃあないですか。
“そればかりじゃあなくって。///////
 ああ、はいはい。迷子になっていたり、行きずりの大きな犬から苛められてたりしたらと思うと、気が気じゃないんですよね? お父さん。という訳で、いいお天気なのでと初夏向けのいで立ち、濃紺のTシャツの上へ青いストライプの裾出しオーバーシャツを重ね着て、ボトムは木綿のワークパンツ、足元はコンバースという、いかにも軽快なお散歩スタイルで町中を歩くことにした若きお父さん。短く刈られた髪が降りそそぐ陽光につやを出して光り、幅のある頼もしい肩に木洩れ陽が斑
まだらな模様の影を落とす。元は剣道の全日本チャンピオンで、今現在もスポーツジムでの指導の傍ら、自分の身体のビルドアップも怠らない偉丈夫であり、冗談抜きに角材程度では殴られ負けしない鋼のような胸板や腹筋を保持し続けてる、驚異のフリーターにして、ご町内の頼れる用心棒侍。
“…褒められてるようには聞こえんぞ。”
 カイくんたちがなかなか見つからないからって、こっちへ当たらないように。
(苦笑)
「………お?」
 さすがは歴史ある保養地・別荘地で、どのお宅にも大なり小なりお庭があって。造作や風情、景色はそれぞれに様々だけれども、厳重に鉄の柵で囲っているお屋敷は案外と少ない。これも今時の防犯知識の伝播の賜物で、下手に柵や塀で外からの人目を遮ることは、空き巣や泥棒に仕事をさせやすくするだけなのだそうで。斜め格子の竹矢来、サツキやアジサイの茂みで縁取られたお家などは、この時期、瑞々しい新緑に覆われる。そんな茂みの裾から…ごそごそと這い出て来たのは小さな毛玉。お鼻が出て来て、次には小さなお手々。お顔がじわじわと押し出されて来て、円らな瞳…がある筈の目許はぎゅうと瞑られていて、お耳も心なしか寝ているかしら。
「カ・イ。」
 やぁっと見つけたぞ、この子はもう…と、たちまち相好を崩したお父さんが傍らへとしゃがみ込めば。匂いが届いたか、匍匐前進にて窮屈な筒からゆっくりと押し出され中です状態だったウェスティのカイくん、純白の毛並みに覆われたお顔を上げて“あん・ひゃんっvv”と愛らしいお声でご挨拶。お帰りお帰りお父さんとでも言いたいのかな? 小さな体が微妙に小刻みに揺れているのは、お尻がまだ茂みの向こうなので見えないが、小さなお尻尾が千切れんばかりに振られてるからに違いなく。よ〜しよしと胴へと手を滑り込ませて、茂みから そろりと引き抜いてやれば、愛想のいいまま、あんひゃんひゃんvvとご機嫌さんに吠え立てては、抱えあげてもらって間近になったパパの鋭角的なお顔へと、遠慮なくぺろぺろとキッスの雨を降らせるお調子者。
「わ、判った。判ったって。」
 屈んだまんまでよしよしと毛並みを撫でてやり、
「マ…るうは どうしたよ。」
 危ない危ない、ママじゃあないだろと。誰かに聞かれて怪しまれぬよう、素早く言い直したゾロだったものの。こ〜んながっつり雄々しいお兄さんが、顔の高さまで抱え上げた仔犬に向かって真摯に話しかけてる時点で、既に怪しいっちゃ怪しいんですがね? お父さん。
(笑) こちらさんもそう思ってなのか、背後から駆けて来た軽快な足音にゾロが気づいたのとほぼ同時。早駆け足の最後の一歩をジャンプで稼いで、広々と狙いやすい背中を目がめてのタックルを仕掛ける、お茶目なシェルティくんが遅ればせながらのご登場。こちらも小さな体躯なので、力自慢の旦那様にはさしたる負担にもならないものの、
「るふぃ〜〜〜。」
 ビックリするだろうがよと肩越しに振り返れば、
「あんおんっvv
 器用にも背中におぶさったまんまのシェルティくん。当然のことながら何か言える訳もないながら、無言のままなのに“にゃは〜〜〜vv”っとお眸々が笑ってるあたり。
“………傍から見てる分には笑える光景に違いなかろうな。”
 いやいや、計算されたコントさながらな呼吸の合いようへ、よくもまあ此処まで仕込みましたねと感心されるんじゃないですかね。日光○軍団みたいだとか言って。
(笑) 冗談はともかく。るうちゃんが大好きな旦那様へ、そんなご無体をしたのにはちゃんと理由がありまして。のしかかってる前脚でパタパタと背中を叩き、次にはお鼻を“くんきゅん”と背中へ擦りつけ。アンヨを降ろすと前へと回って、カイくんを抱えているゾロの腕、シャツを軽く咬んで引っ張って見せる るうだとあって、
「そうだな。判ってる。」
 抱き上げていた坊やを降ろす。この恰好の時、お外ではあんまり抱き上げないことというのが、ルフィと交わしたお約束。以前に“見失いはしないか”と心配し、抱き上げたままでのお散歩をしようとしたゾロへ、俺たちのお鼻を信用しないの?と叱られてからのことであり、首輪の迷子札が落ちてないかを双方確かめてから、カイを降ろし、るうの背中と頭を撫でてやって。さて、お家へ帰ろうかと回れ右。パパのお顔を見上げながら、ぴょこぴょこと跳ねるように歩くカイくんの姿や動作の可愛さと、爽やかな緑風にさらさらな毛並みをなぶらせながら、優雅にたかたか歩いて見せるシェルティくんと。自慢のお子たちを両手に花と揃えてのお散歩となったものの。
“カイが居なかった頃は、ルフィの方こそこんな歩き方をしていたもんだがな。”
 ねえねえ広っぱまで走ろうよ、お家に帰ったらおやつかな? そんなこんなを話しかけてるみたいにして。今のカイくんよろしく、ぴょこぴょこと後ろ向きになりもしつつ落ち着きなく歩いていたもんだのにね。今や“お母さん”としての貫禄が出てか、お澄まししたままお行儀よく歩いている るうであり。
「あんっ。」
 カイに向かって短く鋭く吠えたのは、前を見て歩かないと危ないとでも言ったのか。するとたちまち、純白の丸ぁるい毛玉のようなシェルティくんが跳ねるのをやめて、は〜いと大人しく歩き始める。
“大したもんだよなぁ…。”
 例えば、行動範囲が広がって来たカイが、一人ちょろちょろ駆けてって、姿が見えないところまで離れてしまっても。動じもしないで冷静に匂いを追えたり。人の姿でいる時だって、何にか機嫌がこじれて“ふぎゃ〜〜〜っ”と叫ぶような勢いで泣き出しても、さして慌てずひょいっと抱き上げて静かな声で話しかけて、辛抱強く宥めてしまえる。
“俺だったら、熱か何かかって思い込んで、救急車とか呼びかねないのにな。”
 母親ってのはやっぱ凄いよなぁと、すぐ傍ら、今は白地の上へ茶の毛色を乗っけたふさふさした毛並みの奥方を見下ろしたゾロだったが、

  「…っ、あんっ!」

 少し前をパパママ二人を先導するかのように歩いてたウェスティくん。不意に横手へ首を向けると、たたた…っと右手へと突っ込んでゆく。
「え?」
 もうお花は終わった沈丁花の垣根。その向こうには手入れのいいお庭が広がっており、当家の奥様が三色スミレの花壇へと手を入れ、小さな雑草を除いていらっしゃる。
「あらあら、カーくん。」
 遊びに来たの? 垣根から勝手に入り込んだ小さな不法侵入者へ、気さくなお声をかけて下さったのは、本山さんチの奥様で、
「マキちゃんはお家の中よ、ちょっと待っててね。」
 軽い動作でひょいと立ち上がって向かわれた先には、アルミサッシの大きな窓。その向こう側で早々とこちらの気配を察したらしき、甘い茶色の仔犬が忙
せわしくもお尻尾を降りつつ、ママが近づいて来るのをお待ちかね。くりくりと縮れた毛並みがチョコレートモンブランみたいなとルフィが言ってた、トイプードルのマキちゃんは、縫いぐるみのような愛らしさ。しかもしかも此処が重要で、

  『カイの一番最初のお友達だもんねvv

 サッシが開くのももどかしげに、ウッドテラスへと走り出て、そのまま自分と同じくらいの大きさの純白の毛玉くんが待ち構えるところまでまっしぐら。こんにちは、今日も元気ね、遊ぼう遊ぼう、絡まるみたいにくっつき合ってじゃれ合う二人の様子は、習いたてのワルツみたいでそりゃあ愛らしかったのにね。

  ――― おやや。

 るうくんがそろぉっと見上げた、高い高い頭上では。何とも複雑そうに…笑ってるんだか寂しそうなんだか、強いて言うならしょっぱそうなお顔をしたお父さんが、そんな二人を声もなく、じっと見つめていたそうで。

  “頼むからゾロ、沈丁花を毟
むしるのは、可哀想だから やめたげて。”

 手が口ほどに物を言ってたそうでございます。
(笑) 男の子でこれでは、女の子が生まれていたらどうなっていたかですよね、お母さん。
“まったくだよね。”
 うんうんと、シェルティくんが妙に感慨深げに頷いて見せてから。黙ったまんまでぴょいと前脚を上げて立ち上がり、ご亭主の羽織ってたオーバーシャツの裾を咥えて引っ張った。此処まで近所へ戻ってくれば、カイは一人で帰って来られるから。先に帰っていましょうよという合図。通じてるはずなのにね、視線は合わせたが表情が動かないお父さんへ、シャツを咬んだままちょいとばかり鼻の頭へシワを寄せて見せれば、
「…ああ、判った判った。」
 さすがによく効く“本気で怒るよ”の合図。
(笑) ようやくのこと、ゆっくりと歩き始めた二人だが、
“子煩悩もいいけど、今からこれじゃあね。”
 カイを大事にしてくれるのは自分も嬉しいが、この調子ではむしろゾロが心配なルフィとしましては、

  “………やっぱりもう一人くらいは、兄弟を作ったげた方がいいのかな?”

 おやおやvv カイのためというよりもパパのためにと、そんなことを思っているらしきお母さん。なかなか意味深なモノローグをお胸の奥へと一旦仕舞って、こちらへも小さく愛想笑いを向けてくれる優しいご亭主へ、ただただ甘い瞳を向けてる奥方だったのでございました。







  〜Fine〜  05.5.11.〜5.12.


  *カウンター175,000hit リクエスト
     Koro様 『puppy's tailで、カイくん、お父さんにお友達を紹介する』


  *微妙に“紹介する”ではなかったですが、
   子煩悩なパパの反応はいかがでしたでしょうか?
(笑)
   ゾロってサンジさんほどには“子供好き”じゃないと思うのですが、
   (サンジさんも女の子限定でしたかね?)
   自分の子、しかもルフィに瓜二つともなれば、
   これはもうもう、誰にもやらんと構える筈で。
   ホント、カイくんが女の子だったらどうなってたか。
(苦笑)
   次はくいなちゃん風のきりりとした女の子だったら、
   それはそれで面白いかも知れませんね。
   毛並みも麗しいアフガンとかで、
   両親ともどもやっぱり甘やかそうとするんだけれど、
   逆に“そこへ座って下さい”としょっちゅう説教されてたりしてな。
(苦笑)

ご感想はコチラへvv**


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