月夜見
 puppy's tail 〜その30
 

  パパのお誕生日


    ほんのちょっと前までは、あのね?
    お出かけのときにお洋服をもういっこ着るの、
    む〜む〜してヤだったお。
    でもねでもね? なんかね?
    きのう? おとっとい?
    いつからかな、
    お家でもお服着ないと さむさむだったりするの。
    ワンワンになったらヘーキなんだけどね。
    でもね? お家にいるときはね?
    ママやパパやツタさんに抱っこしてほしいから、
    そゆ時はワンコでいちゃメぇなの。
    ねえねえ、どっちが いっと思ぉ?





            ◇



 箱根のお山も金紅や紅蓮の錦をまとって、日に日に秋の深まりを目で感じることが出来るよな、そりゃあ綺麗な装いを始めてる。
「緑が残ってるところは松かな?」
「そうですね、杉とか竹も、秋に色が変わる木じゃありませんよね。」
 確か昨年も、同じ山を指さして同じことを訊いてなかったかなと、ソファーに座って新聞を読んでたゾロが思った視線の先では。リビングの大きな窓の外、短い濡れ縁のところで、金色がかった秋の陽に飴がけされてる景色を見ながら、ツタさんの手作り“お芋のスィーツ”を摘まみながら。大好きなお母さんと一緒にのほほんとした会話を交わすルフィのお膝では海
(カイ)くんが、裏ごししたポテトで作られたスィートポテトを、小さな手でやわやわと握り潰しもってお口へと運んでいるところ。せっかく綺麗に作ってくれたものだのに、そんなしたらいけないよ。食べるもので遊ぶなんて以っての外…と、最初のうちはただの手づかみ以上の狼藉へ、パパが結構叱っていたのだけれど。
『構いませんよvv
 当のツタさんがあんまりキツく叱らないで下さいなと割って入って下さった。赤ちゃん本人は、例えば“遊んで”はいても“もてあそんで”はいないんですよ。掴み切れなくて潰してしまうとか、やーらかいのが好きだから一番のはどれかなって確かめてるとか、そういう場合もあるんです。
『それに、まだ言葉がさほど通じないのに、懇々とお説教で諭してもねぇ。』
 ルフィママからも苦言をいただき、それからは…よほど目に余ることまで しでかさない限りは叱ることはなくなったゾロパパで、
『…なんか、俺ばっか悪者になってないか?』
 ちょっぴり拗ねかけてたところへは、
『ぱ〜ぱ?』
 ぱたぱたぱた…っと王子様ご本人が駆けてって、大きな背中に へちょりとくっつき、んん?と振り返って来た精悍なお顔へ、かっこりこと小首を傾げつつ“遊ぼ?”とモーションをかけて下さって。それで何とか一件落着したのだとか。
『他愛ないって、ああいうのを言うんだよね?』
 ゾロの音がしそうなほどの笑顔っての、俺 初めて見たもんと、屈託なく言ったルフィにも、さしたる罪はなかったのだけど、
『奥様…。』
 ツタさんがこっそりと、無邪気なママのお口をカボチャのカップケーキで塞いだのは、言うまでもなかったりしましたが。
(笑)
「まーま、おーも むいむい。」
「ん〜? お芋もう良いの?」
 小さなお指についてたポテト。もうたくさん堪能しましたからとお手々を上げて来たのを、そっと掴まえ、おおきめの欠片は…ちょぉっとお行儀が悪かったがお口でこそぐようにして取ってやってから、あとはツタさんがおしぼりで拭いてやり、綺麗になりましたと点検してもらってから…リビングに上がって来て、とたとた・とたたた…、軽快な速足にてパパの居るソファーまで。
「ぱーぱvv」
 何してるですかと、大きく広げられた新聞の衝立
ついたてをぎゅうっと掴んで引っ張るので、
“ラテ欄は諦めてもらおうか。”
 一番外側の一枚だけを緩めてやれば。下から“びりり…っ”と、小さなお手々での狼藉が始まったけれど、音にハッとして縁側に居た二人が振り向いたのも一瞬のこと、
「ああ、1枚だけだね。」
「そうみたいですね。」
 やって良いこと悪いこと。いきなりたくさんは無理だから、少しずつ覚えていきましょうねと、新米のパパとママも一緒にね、お勉強中の親子であり。
「こらぁ〜、破ったらダメだろうが〜。」
 カイくんの小さなお手々に残ったのは、その手からちょこっとだけはみ出した薄灰色の新聞紙の切れっ端。んん〜?と見降ろすパパのお顔と、その紙とを何度か見比べてた坊や。しばらくしてから“はい”とパパへ差し出す王子様であり。
「そだな。ポイしないとな。」
 端っこを摘まめば手を開くので、するりと取り上げ、手近なごみ箱へ捨て、大きく開いたモミジみたいな手のひらを、何倍も大きなパパの手の上、わざわざ載せてやり、
「ビリビリは、メだぞ?」
 まだ無表情に近いパパのお顔。神妙に見上げて、あのね? うんと頷けば“よ〜し”と抱っこ。にんまりと笑ってくれるのへ、長い腕での高い高いのスリルも相俟って、小さなカイくん、キャッキャと大はしゃぎして見せるから。

  「あれでちゃんと覚えてくれるんだろか。」
  「焦ることはないですよ。」

 新聞破るくらいはね。それをお口へ運んじゃうと問題ですが、破るだけならまだ仕方がない。毎日新しい情報を知らせてくれる、とっても大切な紙だということの前に。乱暴したらカイくんの力でも破れるんだってことから、まずは覚えなきゃなんですからねと。ツタさん、余裕でにっこりしてる。
「段々とね、覚えていった末に、古いのだったら破って良いんだとか、窓拭きに重宝するとか、そういうお便利な知恵へと発展すれば良いんですよ。」
「それって俺も、つい最近覚えたよ?」
 幾つになっても覚えることって減らないんだよねぇと、妙に感慨深くなってる奥様に、可愛らしいこととツタさんも“くすすvv”と笑ってる。ソファーでは小さな王子様、お庭に出よう、ワンコになって落ち葉のお山に飛び込もうって、秋ならではのお遊びへパパをしきりと誘ってる坊やだったりし。そしてそして、そんな穏やかな団欒の空気の中、

  「………あ。」

 キッチンからの香ばしい匂いがそりゃあ魅惑的にあふれて来てる。タイマーセットしてオーブンにご招待しておいた、大きな大きなローストチキンが、香草と一緒にいよいよジューシィなお歌を唄い始めたらしくって。10日前にはカボチャのパイと羊を焼いた。ジャムをたっぷり載せたクッキーと、淡雪みたいなクリームでお化粧したシフォンケーキも美味しかった。そしてそして今日はね? パパの大好きなお酒のおつまみに向いている、大人のお料理がたくさん並ぶ予定なの。
「俺にはどっちも御馳走だけどな。」
 お肉が大好きなママが嬉しそうに笑ってて、ツタさんと二人でキッチンへと立ってゆく。今日は十一月の十一日で、パパのお誕生日だからねvv ハロウィンみたいにお菓子は焼かなかったけど、大きなお肉とお魚と、ちょこっと辛い辛いの塩辛に、ジャーキーみたいなイカの乾いたの。ギンナンとアサリの酒蒸しは、カイくんも大好きで、でも、今夜はパパのお皿からもらっちゃメェだぞってママから言われちったの、なんで?
「ぱーぱ。おんもvv
 よしよし判った。でも、ワンコになるのは無しだぞと、お外に出るためクロゼットを開けるパパだけど。きっと何分かしたらママが呼ばれる。あのクマさんのフードがついてた上着はどうした? え〜? あれってゾロがどっかやったんでしょ? まだお洗濯してないし、俺もこの何日か見かけないよぉ。しょうがないパパ、自分が車に置きっ放しにしたくせして覚えてなくて。二人の足元ではカイくんが。ハンガーから落ちたお洋服がいっぱい、落ち葉の代わりにお山になってるところへ。キャッキャとはしゃいでトンネルの穴を掘っていたりして。もう少しして、ツタさんが“あらあらまあまあ”って仲裁に来てくれるまで。相変わらずのご夫婦と坊や、どの方も同じくらいに無邪気なまんま、深まりゆく秋の中にて、飛びっきりの温ったかいひとときを、それとも知らずにご堪能中の模様でございます。




  〜Fine〜


  *困った時の甘甘ぱぴぃ♪
(こらこら)
   彼らのいちゃいちゃが恋しい季節と相なりましたということで。
   こんなんであの武骨な剣豪さんのBD企画が始まってしまう、
   相変わらずしょうがないサイトでございます。

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