“すたんぷ、てんてんvv”
お日様ニコニコ、いいお天気だと暖かいよねvv
あのね、五月になったらね?
“ごーるでんいーく”っていうのが来るんだって。
え? う? ういく? ういーく?
ごるでん・ういーくってゆーの?
ふ〜ん。
でもでも、そんなの知りませんですのな。
だってカイんチでは、もっと凄いので大忙しなんだから。
もうすぐママの…う〜ふふ〜vv
◇
この冬があまりに長かった極寒の冬だったからか、誰にとっても 待って待って待ち望まれた春は…なかなかに意地悪で。桜は順調に咲いたけど、その後がまた、一気に…とは続かなかったりし。亀の歩みかと思われるような案配にてゆっくりゆっくりの進行ぶりで。不意に物凄い寒の戻りなんてお茶目を交えつつという、フェイントまで見せて下さって。
“それでつい、気がつかなかったのかな。”
低速にての到来を進めていた春は、ゆっくりながらも確実に、周囲の風景を塗り替えてもいて。桜の緋白が去った後、息の長い沈丁花や木蓮、山吹や桃の花が可憐にも心和ませてくれている隙に、いつの間にやら…周囲の緑もその発色をそれは生き生きと弾ませており。五月に入ればここいらでも、初夏のような気候になろうから。
“腕白さんたちには待ってましたのシーズン到来ってトコだろな。”
まだちょっと、半袖には早いから。袖は長いがTシャツにカーディガンの重ね着という軽快ないで立ちの旦那様が、大きな背中をリビングの方へと向けて、独り、濡れ縁に腰掛けていると、
――― がささっ、と。
眺めていた庭先の縁の方。少し前に刈ったはずの茂みが早くもそろそろ不揃いになりかかってる、背の低いサツキの茂みの株の境目から。さほど飛び込むような勢いはないままながら、道なき道から突っ込んで来たには違いない、小振りの“乱入者”が姿を現す。お鼻がつんと尖ったキツネ型のお顔に、頭の上寄りに立った中折れの耳。小さめの足の先が強調される、白地の上へ茶や焦げ茶が乗っかった、ふかふかの毛並みは相変わらずに品よく整い、時折吹く風になびいている様の何とも愛らしいことか。そんな彼を見やったご亭主が、
「お帰り。」
自然とほころぶ口許目許を隠しもしないで。よく響いて心地の良いお声を掛けてくれると、あのね? もうもう体が勝手に動く。おいでおいでとも come on! とも言われてないのにね。すぐ傍にまで寄ってって、体中の毛並みをわしわしって大きな手で撫でてほしくなる。柔らかいバネの利いた四肢を軽やかに跳ねさせて、まだ萌え始めるには間のある芝の上、ててててて…って素早く駆け寄って。最後の一歩で、大好きなゾロのお膝へ前足を揃えて乗っけて“ただいまっ”の わふっ!
『あのねあのね。坂の上の木村さんチのコイノボリ、一匹増えてたの〜vv』
「ニシキギの葉っぱもついてるな。そっか、外回り一周して来たのか。」
『赤いのだったから女の子が生まれたんだね。』
「あまり落ち葉をくっつけなくなったのは、そんだけ緑が増えたからかな。」
『息子さんご夫婦、GWにはその子も連れて遊びに来るのかな。』
「なかなかって言いながらも、ずんと暖かくなって来たからなぁ。」
『そだよね。だから、連れて来るよね。』
………あんまり咬み合ってない会話ですが(笑)、ままそれはしょうがない。よ〜しよ〜し、いい子だと。お耳の間、おでこを大きな手のひらで撫で撫でしてもらい、きゅう〜んvvとお鼻の奥からの甘え声を絞り出した、シェットランドシープドッグの“るうちゃん”こと、ルフィ奥様だったけれど、
『???』
ふと。視線だけでは足りないか、小さな頭を振ってまでして、周囲をキョロキョロと見回し始める。
「どした?」
背後のお庭に、ゾロの肩の向こうのリビングに。視線を投げるが…あれれぇ? 居ない? でもでも、
“匂いはするのになぁ。”
うん。お家には居るみたい。でも、あれれ? お台所の方からの匂いだってのは珍しいな。あ、いやいや。洗面所の方かな? 何だかちょこまか行ったり来たりをしてたみたいで、残像みたいにあちこちに真新しい匂いがいっぱいついてる。でもね、あのね。何か変だなって思った一番の理由はね?
“なんで出て来ないんだろ。”
自惚れて言うんじゃあないけれど、ルフィ奥様と旦那様のゾロとの一粒種、大切な坊やの海カイくんは、とっても腕白なのと同じほど、とっても甘えん坊さんだからね。特にわんこになって てけてけ駆け回って遊ぶのが好きだから、ママがお出掛けなんていうと“自分もわんこになる〜”とか、それがダメでも“せめてついてく〜”とか、所謂“後追い”を必ずするのにね。それを引き留めとくのがこの頃のパパのお仕事となりつつもあるのに、今日は何でかな、やっと帰って来たのに飛び出しても来ないの。いつもだったら“ママお帰り〜〜〜っvv”て、そのままごつんこしかねない勢いで駆けて来るのにね。
『…カイは何処にいるの?』
お顔を上げて“うう?”って小首を傾げて見せたけれど、
「どした? もう一周して来るのか?」
ああもうっ、話が通じてないったらって。妙にほのぼの、いい笑顔のゾロパパの手へ、ついつい八つ当たり気味に あぐあぐと噛みついてたら、
「あ〜。マーマ、お帰い〜vv」
今日は急ぎの御用があってのお出掛けだったので、カイくんまでメタモルフォーゼしてはいなくって。クマさんのお耳つきフードをお背せなへ降ろした、キャラメル色のフリースのパーカーと、緋色のスムースジャージのタートルシャツ。ボトムは、まだちょっと寒かったのでと、分厚いのじゃあないけど淡いカフェオレ色のコーデュロイの長ズボン。何とも愛らしいいで立ちで現れたカイくん。寸の詰まったあんよをとてちて、床を叩くよに前へ前へって繰り出して。濡れ縁のところ、パパにじゃれてた“るうくん”の姿のママへと駆け寄った。
『どしてた? いい子してた?』
パパには“あうっ”としか聞こえないものが、カイくんには微妙にそうではないらしくって。
「うっ。いーこ。カイ、いー子してた♪」
『そか。偉いぞvv』
シェルティくんのお尻尾が揺れて、ちゃんと通じてるのが、さすがは母子で凄いやら…パパにはちょびっと羨ましいやら。………とはいえ、大人げないことを言ってる場合でもありませんで。時間稼ぎは もうしなくても良いらしいのでと、るうちゃんの手足を拭ってやって。さあお上がりと居間へ抱え上げてやる。そのままお風呂場へ“ととと…”と進みかかった小さなシェルティくんだったけれど、
「? どした? ルフィ。」
不意に立ち止まったのへと、こちらも縁側から立ち上がったご亭主が声をかければ、
『ん〜〜〜。』
尖ったお鼻、すぐ傍らにいたカイくんのお手々へとくっつけてみる、ママるうだったりし、
『何だろな。覚えがある匂いがするんだけれど。』
「にょ〜い?」
「尿意ィ〜?」
何だか妙な問答になっているのへ、キッチンからやって来たツタさんがついつい吹き出しそうになり、
「旦那様、違いますって。」
小さなカイくんが、そんな専門的な言い回しをするはずもなく、そこは訂正をして下さる。
「カイくんは、においって。匂い?って言ったんですよう。」
「あ…あ、そかそか、匂いな。////////」
変だと思った、そうか匂いか〜。自分の聞き間違いへの照れ臭さから、何度も言い直し。ついでにカイくんとるうくん、双方を一気に抱えて、
「さぁさ、お風呂に入ろう。それからご飯だからな。」
今年はいつまでも寒いよな、カイも勝手に靴下脱いだりしないほどだもんな、なんて。傍目には“いつまで照れ隠ししてんだか”という体を装いながら、でも実は…。
“危なかったですねぇ。”
ちゃんと台所の食器用の洗剤と、それからハンドソープで洗って差し上げましたのにね。それでもカイくんの小さなお手々から、匂いをしっかり嗅ぎ取ってしまわれた奥様だったらしいなと、ツタさんまでもがお胸を撫で下ろしたのはね?
『ちゅたさん、てんてん。』
いつもママと一緒が多いカイくんなのが、今日は珍しくもわんこにならぬままにお留守番という段取りになったらしいので。この機を逃すなと、パパさんとツタさんがルフィの居ぬ間に手掛けた“内緒”。白いTシャツへと家族の皆で、手型をぺたりとスタンプしていて。アクリル系の熱転写絵具なので、アイロンで仕上げたら洗っても落ちない模様になるからって、パパが皆へ提案した、これが今年のママへのお誕生日の贈り物。パパは新しい首輪とかボールとか買って来れるし、ツタさんは美味しい御馳走を作ってあげられるけれど、カイくんにはまだ何にも出来ないのが、そんなの詰まんないって言っててね。それでと考えてくれた、家族全員参加のサプライズ。勿論、小さなウェスティの姿の時のカイくんのフットマークだって、上をとこてこ歩いたまんま、てんてんてんって押してあります、抜かりなく。花びらを撒いたようなにぎやかなシャツになりましたが、ツタさんには…ちょこっとだけ、どうしたものかと考えてることもありまして。
“…もしかして奥様、ご自分の手型も押したいって。”
そうですよね、言い出すかも知れません。それで、まだ、アイロン仕上げが出来てなく。どうしたものでしょうかしらと、擽ったくも悩んでらっしゃる。庭先には、一昨日のお休みに旦那様がよいせと揚げた、こいのぼりのはためく陰が元気に泳ぐ。早く来てほしいような、もうちょっと待っててほしいような、そんな五月はもうすぐそこです。
HAPPY BIRTHDAY! TO LUFFY!!
〜Fine〜 06.4.25.〜4.27.
*今年も設置のお誕生日部屋でございます。
ががが、頑張って埋めたいなと思ってはおりますが、
個人的な願望は やはり、
他所様の“幸せルフィvv”ちゃんたちを、
いかにいっぱい頂いて来るかに かかっているような…。(おいおい)
*………で。
るうちゃんへのちょっとしたご質問をいただきましたので。
● よいこの質問BOX〜♪(こらこら)
『双方ともにわんこになってる時に、
すぐ傍に居ないカイくんを待てないまま、
大急ぎでルフィだけが人へと戻ったりしたら、
わんこのまんまなカイくんは、どうやって坊やへと戻るのでしょうか?』
「これは、ややこしいけどルフィがもう一回シェルティになって、カイの傍に寄って。
それから一緒に人へのメタモルフォゼをし直すしかないんだよな。」
「そだね。若葉マークの縦列駐車みたいなもんだなって、
前にサンジさんが言ってたけど、それってどういう意味だろ?」
「何度も切り返しっていうのをして、駐車位置まで持ってくからだろな。」
「切り返し?」
「…後で説明してやっから。」
『そうやってルフィが“人からわんこへ”って変身をする時、
傍らにいた わんこのカイくんが余波を浴びて、先に人へ戻っちゃったなんてな
思わぬ作用は起きないんでしょうか?』
「コントならそれもエンドレスギャクぽくて面白いかも知れないけれど、
そういうことは起きないね。」
「うん。逆もないしね。
自分で変身できない年頃の子供だからこその“一緒に”であって、
何も化学反応みたいな連動じゃあないんだよね。」
『以前、朝には必ずシェルティくんへと戻ってたルフィでしたよね?
赤ちゃんを身ごもるとそうじゃなくなるという言もありましたが、
その後もずっとそうなのですか?』
「そいや、今んとこはそのままだよね。」
初めてだから判んない〜っと、くふふvvと笑いつつ旦那様の首っ玉へとしがみつく。ご当人は単なる甘えか、ふざけてじゃれついてるだけなのかも知れないが。細っこい二の腕やわらかいところが、ふわっと首元へまといつく感触へ、
「〜〜〜〜〜。////////」
「? ゾロ? 顔、赤いぞ?」
おでこ同士をくっつけて、お熱かなぁ?と小首を傾げる奥方へ、
「…なんでもねぇって。///////」
ちょっぴりぎこちなくも誤魔化す辺り。ご亭主、感度はまだまだ良いままなんですねぇvv 奥方の愛らしさへいまだにドキドキしている辺り、倦怠期なんて何処のどなたのお話?ってですか?ってねvv
「やっぱ、アレじゃないのか? 子育て中の身だから、勝手のいい方に固定出来てるというか。」
………おうおう、話を戻すことで何とか誤魔化したですね?(笑) それはともかく。
「人の姿の方が便利だって事?」
「つか、数年で成犬になる わんこと人では成長速度が違うから、子育て中は人の姿が基本になるって、以前に言ってたろうが。」
「あれれぇ? そだったっけ?」
おいおい、しっかりしろ奥方。(苦笑) これも所謂“幸せボケvv”ってやつでしょうかねぇ。
*…っ! あああ〜っ!
このおまけで拍手の小話が1本書けたかも知んない。(とほほん)
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