月夜見
 puppy's tail 〜その40
 

  はぴぱぴ・バレンタインデーvv
 

    あのね? 今日はね? ばえんたい・でーってゆ日なんだってvv
    おいしーチョコレイトをたっくさん食べる日で、
    ウニャギの日とか お豆の日とか、おそばの日みたいに、
    テレビのニウスでも“チョコの日ですよ〜”ってゆってたのvv
    うふふぅvv すごいよね〜〜〜vv
    でもね、あのね? マキちゃんもリクも、チョコ食べたらいけないんだって。
    わんこは人間と違うとこがあちこちあって、
    ママやカイは平気だけど、
    他のわんこは、タマネギも食べたらダメだし、チョコもダメなんだって。
    ………あのね? カイもね?
    本当はね? ゴーヤーは食べたらいけないんだよぉ?
    でも、ママや ちゅたさんには内緒なの。
    ニガニガだけども我慢しゅるの。内緒よ? ネ?





            ◇



 ちなみに、カイくんの好き嫌いはゴーヤだけですので、念のため。
(苦笑) 義理チョコなんていう“無駄遣い”はやめようよとか、女友達へ贈る“友チョコ”を買うのが結構流行ってる、だとか。このシーズン限定の特別な品揃え、是非とも自分でも堪能せねばという“マイチョコ”ってのもあるとか何とか etc.…。善しにつけ悪しきにつけ、色んな形で毎年毎年話題になる風物詩。その昔に日本の製菓会社が始めたという、よって日本でだけチョコレートが飛び交う不思議な記念日が今年もやって来た。
『ホントは単に“愛の日”ってことで、愛を込めての贈り物をする日なんだってね。』
 本来は愛を大切にすることへと殉じたとある聖人を忘れぬようにと定められた、キリスト教の行事だそうで。よって、欧米ではこの日になると、母の日のカーネーションみたく、花束用のバラの相場が跳ね上がるのだとか。大人になって、商戦にまんまと乗っての結果…というのを知ってしまうと何とも業腹、噴飯ものだったりもするのだが、まま、告白だの純愛だのと重く考えず、ただのイベントと思っていいようになったと、

  「…と解釈してるってノリなんじゃないかと、思うんだが。」

 いきなり回りくどい物言いをして下さったのは、二月の三連休がしっかりと、某アスリート選手の調整トレーニングへのお付き合いで潰されてしまった、某アスレチッククラブの売れっ子トレーナー、ロロノア=ゾロさんだったりし。その筋でだけ有名な、真面目で手ごわく、どんな苛酷なトレーニング・メニューでも期日内にきっちりと完遂させる気魄と根気に、誰もが最初は鬼よ悪魔よと罵りつつも、最後には感謝してフィールドへと戻ってゆくという伝説が、生まれつつあるとかないとか。特に商売っ気がないからこその、おもねりを知らぬ態度と方針が、そのような当然といや当然の結果を導いているだけに過ぎない…と、彼自身は言うのだが。それだけだったらそれこそ、途中で恨まれ憎まれてしまうよなことに、何で付き合わなきゃならぬと、
“投げない責任感が頼りにされてんだってのにね。”
 何と頼もしいことか、次のステップアップにもぜひともご指南をと、その筋の実力ある方々から信奉を集めているなんてのは、伴侶としては誇りだが、

  「こ〜んな写真を撮らせるのはやめようよね。」

 先だってはお世話になりましたというカードと共に、愛らしいチョコレートの詰め合わせを送って来たその小包に、これも同封されて届いたは、大判サイズに引き伸ばされたツーショット写真だったりし。テレビでも良く見るお顔、スポーツ関係の方には違いないから、お仕事で接したお人なのだろうけれど。競技会の中継なんぞで、緊張しまくり、若しくは真剣勝負直前のきりりと引き締まったお顔しか見たことがない者からすれば、何とも和んで愛らしくさえある笑顔の美人アスリート嬢が、愛する亭主の肩口へと両手を重ねおき、その上へほっぺ載せて懐いてるような構図の写真を見て、なんで大人しく笑っていられましょうか。
「…焼餅、焼いちゃうんだから。」
 ぷぷうと判りやすく頬を膨らませるルフィへと、
「判ってるって。」
 ゾロとしては…自分の非ではないながら、されどここは謝るしかないかと潔い。トレーニング修了の日に、記念にと写真を撮るのは珍しいこっちゃないのだが、それをこんな格好で送って来られようとは、ゾロの側とて思わなんだ。しかも、チョコレートが男女間で飛び交うその日に。
「独身ってことになってるから、しょうがないのかも知れないけどさ。」
 日本では同性の奥方はまだ認められておらず、戸籍にもその続柄にては記載出来ないもんだから。人から訊かれりゃ“妻はいません”と、それはそれは馬鹿正直に答えてた旦那であり、

  「そりゃあルフィとしては、腹に据えかねるものもあろうってもんだわな。」

 一般的なところってのを言っただけ。だってのに じろりと睨まれてしまった金髪痩躯のお兄さんへ。こちらは“力強い味方を得たぞ”と言わんばかり、ぱたたっと傍らへ駆け寄って、その二の腕へと取りつくと、
「そんな顔しないの。」
 責めるようなお顔をルフィが向ければ。大人たちのお話がどこまで判っているのやら、
「ちないのっ。」
 ふわふかな黒髪やこぼれ落ちそうな瞳、柔らかそうな小鼻や唇、どこを取ってもママそっくりな坊やまでもが真似をして、サンジさんの…こちらはおズボンに取りついて抗議をリピート。これには父上も堪えたか、
「…カイ。」
 こっちおいでと腕を伸ばすが、
「やーの。」
 かぶりを振られて、あっさりこんとフラれる始末。二月、如月のロロノアさんチは、久し振りにお客様を迎えて、日頃よりちょっぴりとにぎやかさの度合いが高まってるご様子です。





 サンジさんというのは、ゾロパパが東京で勤めてた会社の元・同僚さんで。ごくごく普通のサラリーマンだったものが、ゾロさんの“脱サラ”に刺激されたか、本当は学生時代からそっちへ進みたかったという“シェフ”への道へと乗り換えて。もともとの素養もあったし、勿論のこと、お勉強や努力も人一倍積んだその結果。本格的な修行を始めてまだ数年というキャリアながら、ちょっぴり偏屈だが腕は超一流だという師匠の店の、副料理長へという大抜擢を受けたばかり。そんなコックのお兄さんは、ルフィの秘密のこともとうにご存じで、ルフィやカイくんのお誕生日や、結婚記念日の宴なんぞを、フィアンセのナミさんと一緒に計画しては、出張シェフとしてわざわざ東京からお運びいただいてもいたほどの間柄。そんな彼が唐突に連絡を入れて来て、

  『二月の半ばに何日か泊めてもらえないかな。』

 何でも、古来よりの湯治場としてだけでなく、その昔は華族の方々のリゾート地としても栄えたという由緒のある“箱根”という土地柄のその中にあって、一際 名のある有名ホテルに招かれており、連休の間に催される“バレンタインデー・ディナー”とかいう宿泊プランの調理担当を、看板シェフとして任されたのだとか。
『? そんなだったら、宿泊の用意だってホテル側でしてくれてあんじゃねぇのか?』
『まあ、そうは言われたけどよ。』
 何だか口を濁すのを、途中でお電話代わりましたのカイくんが、
『ナイショ・メッよ?』
 と一丁前に口を挟んだのへと大爆笑してから。
『判った判った、言いますよ。』
 ただ単に、まだフィアンセのナミさんに今年こそは本気のプロポーズをしたくって。
『つか、毎年毎年本気の求婚は続けてんだが。』
 お誕生日にバレンタインデー、夏のバカンス先の宵の海岸、クリスマスに大晦日。最後の二つなんてのは、他のカップルのために超絶忙しい身になるところを何とか頑張って、逢える時間をやり繰りしての告白なのに、

  ――― やだぁ〜、サンジくんったら。
       いつもいつも同んなじギャグばっか言っててvv…だもんでな。

 ナミさんの声色までやってくださったお兄さんだったのは、今年こそは本気も本気で挑みたい熱意の現れだったのかも知れずで。
『ナミさんへの贈り物はホテル厨房なんぞで一括して作りたくはねぇ。だが、こんな時期のこういう土地柄じゃあ、どっかの店の厨房を借りるのも容易じゃねぇから。』
『それで、ウチのキッチンを借りたいってか?』
 先にも述べたように…最近ではカイくんとパパの親ばか噺に終始していて省かれてるが、年に何度も訪れてはお料理を作ってもくださってる関係で、作業動線に慣れているその上、彼が勝手に、火力アップしただの新機種のオーブンを持ち込みましただのという改良を加えてもくださった台所なので、使い勝手もいいとあって、
『連休明けにホテルへ招いてるナミさんへの、バレンタイン・スィーツだけは、そこで作らせてもらいてぇんだよ。な?頼む。』
『…我儘な奴。』
 まあまあとルフィやツタさんが宥めたその上、カイくんも“パパ、めぇですよ”なんて助けてくれたので、何とか了解も下りての、珍しい時期のご訪問と相成ったお客様。昼間の内はホテルの方で、打ち合わせやら買い付けやらに奔走し、キッチンの器具や何やの調子に慣れるべく、試食の料理やデザートを作ってみたりしと忙しく立ち回り。晩になればロロノアさんチへ帰って来て、子供がいる早めの夕餉にはちょこっと間に合わないものの、デザートにどうぞと、ババロアだのパフェだのそりゃあ見事なのを作ってくださる頑張りよう。そんな彼が来たのとほぼ入れ替わり、予約が入ってた特別トレーニングへのコーチングにと泊まりがけの出勤となったゾロパパであり、

  “………。”

 しかも、戻ったすぐの翌日、聖バレンタインデーに、ややこしいお届けものがあったりしたもんだから。なんてまあ巡り合わせの悪い二月なんだかと、頭を抱えたくなったお父さん。
「………。」
 いつもだったら、あのね? ソファーにこうして項垂れて座っていたらば、たとえそのカイくんを怒らせたのが原因の“がっくり”であれ、
『ぱ〜ぱ?』
 小さな天使様が“どうしたの?”なんて案じて寄って来てくれたものが。今日はそんな気配さえなくて。
「ネコの、がーふぃるは、シャボン玉を、追いかけて、公園の噴水に、おっこちてしまいました。」
「きゃいぃ〜〜〜♪」
 小さな子供って、お母さんの声へ安堵するのと逆の反応、男の人のお声にはやたらとわくわくするのだそうで。絵本を読んでもらうと効果覿面だと、そういえばどっかの育児番組でも紹介されていたような。勿論、安心感を与える相互関係を築いた相手というのが前提条件であり、自分がいなかったほんの数日の間に、そんな信頼関係をきっちりと築いてしまったらしい金髪のコックさんは。お菓子なんてな餌…もとえ武器も使わず、小さなカイくんをお膝に抱えてやっての、居間の隣りの子供部屋での朗読会の最中であり。ここからだとちょうど真横からの構図となる、ふかふかムートンに腰を下ろしている二人の姿は、ゾロパパのがっつりと頼もしくて広々した懐ろお膝にいるときの安定感とは、さすがにカラーが違えど、
「…あれはあれで絵になってるよねvv」
「………。」
 さらさらした直毛の金髪を、色白で線の細いお顔に軽く降ろした横顔の、何とも端正なお兄さん。水色や生成りなんていう、淡いトーンのシャツにカーディガンといういで立ちで、ガラス越しにさし入る冬の陽の陽だまりにいたりすると。はちみつ色に暖めた肩や背中もどちらかと言えばその細さが際立つものの、だからこその繊細さが何とも優しく。小さなカイくんが楽しそうに振り上げた笑顔へ、目元を細めて笑い返してやってる構図なんて、そのまま“冬の陽だまり、モヘア色”なんてなタイトルつけて、スチール写真にして展示したいほど。

  「…やっぱ、あの手の顔が好きなのかなぁ。」
  「はい?」

 ぼそりと呟いたご亭主へ、そのお隣りへと腰掛けて来たルフィがきょとりと瞳を見開けば、
「…だから。奴ぁ、あのサンジェストってのと瓜二つじゃねぇか。」
「ああ、そういえば。」
 彼らには…冗談抜きに外見は驚くほどサンジさんとそっくりな、サンジェスト=バラティエさんという知己がいて。
(苦笑) 普段は北欧に住んでらっしゃる、そちらはばりばりの欧州人でいらっしゃるのだが。ひょんなことから知り合ったそのまま、カイくんたら、ほんの数日しかご一緒しなかったっていうのに、そりゃあもうもう懐いて懐いて。そんな彼からの年賀状は宝物にしちゃってるほどの入れ込みよう。とはいえ、言われて今 気がつきましたという反応を示したルフィにしてもカイにしても、
「でも、匂いが違うから別人だって判ってるって。」
 何たってわんこの精霊ですから、半端じゃなく鼻が利く。姿での見極めも出来はするが、本人確認というレベルの話だ、別人だと判ってると言い足せば、
「だから。だったら尚更、ああいう姿が好みなんかなって。」
 何せ、自分とは全く逆のタイプの美丈夫だ。ええ、ええ、この際だから…カイくんの審美眼をたたえる上で認めましょうぞ。若木のように伸びやかな、嫋やかな姿がしゅっとしていて絵になる、今時 流行りそうな柳腰の美青年でしょうよ、あいつはよ。まだ小さい子供なんだから尚更に、優しい柔らかいパステルカラーのほうが一緒にいて落ち着くのも判らんではないし。
「遊び道具には、鮮やかな原色使いの方がインパクトもあって関心を惹くって聞いたけど。」
 フォローのつもりか、そんなことを言うルフィへ、
「俺は遊び道具なんかい。」
 あああ、ツッコミにも何だか力がないぞ、お父様。ちょいと前かがみという姿勢にて、ソファーに腰掛け、やる瀬ないお顔になってる旦那様へ、やれやれという吐息をついてから、

  「…俺がいるじゃないか。」

 ぽろりと呟いたルフィだったのへ、
「…。」
 落っこちかかってた大きな肩の上、短髪頭がこっちを向いた。言うつもりじゃなかったか、自分のお膝の間に両手を差し込んでもじもじしている奥方へ、その小さな肩を抱きすくめると、

  「…すまん。」

 そういや ここんとこ、ルフィのこと、現金にも“大人なんだから”って扱いしてたよな。何だよそれ。
「カイが寝てからでないと、ルフィを一番にしてって構い方してなかったってこと。」
「あ、そだぞ?」
 たちまち頬を膨らませた奥方だったが、

  「でもそれは、俺もそれでいいって思ってる。」
  「うん?」
  「だってさ…。///////

  ――― カイもゾロも、どっちも大好きだから、
       俺だってどっちかなんて選べやしない。

 だったら、まだ小さいカイにパパを譲ってあげてもいいかなって思えて来たし。なんて可愛らしいことを言うママですが。来たしってことは、つい最近なんだな? その心構えって。
(笑)

  「そか。」
  「うんvv」

 やさしい陽だまりの暖かな風景を眺めつつ、こちらもこちらでほんわりと暖まってるお二人さん。今年は何だかややこしいバレンタインデーでしたが、何とか丸く収まりそうな気配。何かとごちゃごちゃするのもまだまだお若いお二人ですもの仕方がないと、くすすと笑ったツタさんが、旦那様がお土産に持って帰った義理チョコ
(?)の山にて作り直したパウンドケーキを運んで来、

  「さぁさ、お茶にしましょうね。」

 お声をかけた暖かな昼下がり。きっとナミさんへの求婚も上手くいくことと思われて、箱根のお山もそろそろの春へ向け、穏やかそうなお顔をしていたそうな。



  〜Fine〜

  *カウンター233,000hit リクエスト
     ひゃっくり様 『こっちサイドのサンジさんへの、カイくんの反応は?』


  *穏やかそうな締め方をしたら、
   とんでもない大荒れのバレンタインデーでしたね。
(笑)
   雪崩も起きたし竜巻も起きたとかで、
   お天気にはいつだって振り回されてる感があります。
   そのバレンタインデーにも微妙に遅れてますが、
   こんな出来でいかがでしょうか?

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