月夜見
 puppy's tail 〜その46
 

 “あのね? 大好きvv”
 

今年の夏は、何ちゅーか アチアチだったねぇ?
何にもないのに どっからかユゲユゲが出てて、
お外に出るとお顔とかお顔とかに あちゅいのがパフンて当たるの。
何にも見えないけど何かがくっついてきて、
イヤイヤって、どいてよぉって、バイバイってするけど、
あっち行ってくれなくて、なんか不思議〜。
こんな暑っついの、カイには初めての けーけんだったです。
“お盆”てゆー日なんて、もうもう道が熱っつくて、
あゆくと あんよがイタイタになって。
これまで生きて来た中で、
いっちばん暑っつかったってゆったらば。
ママが“それはたいへんだ〜っ”ってゆって、
お庭にプール作って、って、
パパのお膝に乗っかって、ゆさゆさして おねだりしてたです。
………ママったら、お色気作戦?


  「…どこで覚えた、そんな言い回し。」






  ◇  ◇  ◇



いやホントに暑い夏でございます。
わんこをお飼いの皆様は、小さなお子様への注意と同じほど、
地面に近いところを歩くわんこへの、様々な気遣いを求められた夏でもありました。
アスファルトが火傷しそうなほど熱いとか、
わんこには発汗機能がないので、水を小まめに与えの、水浴びをさせのと、
人間が気をつけてあげなきゃいけないとか。

「それでなくとも、毛皮を常時着ている訳だもんな。」
「そうよねぇ。」

 まま、夏には夏毛に生え変わるので、
何も防寒着としての代名詞に当たる、
シルバーフォックスやミンクのそれみたいな“毛皮”ほど
たいそうなものではなくなるのだけれど。

「涼しくなる夜や突然の雨の中でも身体に響かないようにっていう、
 最低限のそれではあるけれど。」

学生さんの夏の制服…といったところの装備かしらと、
ロビンお姉様が即妙な言い方をして下さる。
よって、途轍もなく暑苦しいということはないけれど、
タンクトップにジョギパンなんてな究極の軽装を覚えてしまうと、
制服の長ズボンとか箱ひだスカートはやっぱり着たくなくなるのが人情というもの。

「人情…というのとは違うのじゃあ?」
「あれ? 引用間違い?」

大きな瞳をうるりと瞬かせ、小さな奥方が小首を傾げたのへ、
先日からのご近所さんである、作家のお姉様がくすすと笑って、

「わんこは“暑いです”と自己主張出来ないから、
 人間が察して気をつけてあげましょうって話だったはずだけれど。」

でしたよねぇ。
(苦笑)
そこへ“人情”を持って来てどうしますか。
とはいえ、タンクトップどころか
肩ひももない腹巻きみたいなチューブトップに、
短パンという、涼しげの極みな恰好が、
もはや定番スタイルとなっている奥方にしてみれば、
絹糸のようなふわふわな毛並みや、黒々としたつぶらな瞳が愛らしい、
シェルティの姿にわざわざなるのは…ちょぉっと憚られるらしく。

 「でも。意志の疎通が出来れば出来たで、
  それへもそれなりの問題はあるみたいだけれど。」

ロビンがちらと見やったは、
芝生の緑が青々と広がる窓辺の濡れ縁へ腰掛けている二人ほどへ。
これもテレビの影響か、
きっと意味も分からぬままのことだろうに
ちょっとおませさんな言いようをすることがある海
(カイ)くんへ、
お父さんが“ちょっと待て待て”とツッコミを入れる…というやり取りが、
ここ最近の時々 見受けられるロロノアさんチですが、

 「お年頃の子供を持つ親の複雑さというやつね。」
 「何それ?」
 「大人になってくれるのが嬉しいような。
  でもでも、あんまり駆け足で大きくなるのは巣立ちが間近いようで、
  寂しいような辛いような。」
 「…そんな情緒のあることなんざ語ってねぇっての。」

おおう、奥様方のやりとりが、聞こえてたみたいです、お父様へも。
見栄えなんて知ったことではなくの、あくまでの実用に沿っての構築を為された、
みっちりと鍛え上げられた屈強な肢体に、
愛想とは縁遠い不敵な面構え。
いかにも男臭い、精悍で逞しい風貌をしているその割に、
中身は意外と純情なのか。
小さな坊やがテレビからの受け売りだろう蓮っ葉な物言いをすると、

『こらこら、そういうことを言っちゃあいけないぞ?』

これも彼なりの“教育的指導”とやらをしていたりする。
ひょいっと捕まえると、お膝に乗せて向かい合い、
な? いけないぞ?と
おでことおでこがくっつくほどお顔を近づけての“メッ”を授けるお父上なのだが、

 「あい♪」

間近に寄せた視野の中、にひゃ〜〜〜っと笑ってすぐさまのお返事を返す坊やの、
何とも言えない愛くるしさに、

 「…っ。///////

あらためて胸撃ち抜かれての、どぎまぎしているようでは、

「あれでは“何で叱られているのか”以前だよな。」

潤みの強い大きな瞳や、ふわふかな小鼻にほっぺ。
かくりこと小首を傾げると、頭が重たいんじゃないかと案じさせるようなほど
華奢で小さなな肩に、
まとまりは悪いが指通りはいい、つややかな漆黒の髪…などなど。
奥方の魅力的なところは残しての、
あとはそのまま三頭身へと縮小したような、それはそれは愛らしい坊や。
ただでさえ愛しい我が子が、そんなまで愛くるしい姿をしていての、
パパ大好き〜vvなんて擦り寄って来たりしようものなら、

「俺がやると、暑いだろなんて言って引きはがすくせにぃ〜〜〜。」

不公平なんだからゾロはっと、
焼きもちの片鱗を覗かせての むうと膨れる奥方へは、

“それこそ“照れ隠し”なんじゃないのかしらね。”

思いはしても、わざわざ言っての執り成してはあげない、
そこがちょっぴり意地悪なお姉様。
その代わりのように口にしたのが、

「カイくんはわんこになったら口が達者になるものだから、
 尚更のこと、ボキャブラリーが豊かなようですものねぇ。」
「あ、やっぱりそうなんですか。」

冷たい麦茶をどうぞと、
よっく冷えたみかんの寒天よせと共に
涼しげなガラスの茶器一式を運んで来て下さったツタさんが
何とも納得顔になる。

「旦那様のお言いようではありませんが、
 そんなフレーズ、どこで覚えたのかしらという言い回しも、
 たまになさっておいでなんですよね。」

同じ世代の他所のおチビさんたちが、
もう既に成犬へと育っているバランスに引っ張られてのことか。
跳んだり撥ねたり走ったりという、
運動機能や体力がわんこの姿になると上がるのと同様、
ウェスティへメタモルフォゼすると、
おクチの回り方もちょいと上がるカイくんなのだそうで。

「マキちゃんとか仔猫のハナちゃんとか、
 おしゃまなお友達と話が合ってるようだから。」
「あれ? ロビン、カイのお友達知ってるの?」

まあねと苦笑し、縁側に並んでいる大小二つの背中を眺めやる。
そんな風に、微妙にあれこれ違うところがお互いにある、
厳密に言えば“別な生き物”同士だっていうのにね。
その愛らしさにちょっぴりたじろいておきながらも、
いいか?判ったな?なんて、懇々とお説教しているお若いパパといい、

「…。////////

その睦まじさへしっかり焼き餅焼いておきながらも、
結局は嬉しそうに目許を細めて、
仲のいいご亭主と坊やを眺めやるルフィといい。

“本当に、幸せそうなご一家だこと。”

種族の差も存在の違いも、関係ない。
何があっても破綻なんてしやしなかろう、そんな温かな絆を感じる彼らだから、

“だから、安心してちょっかいをかけられるのよねvv

うふふんとその胸中にて微笑ったお姉様だったりし…って、
おいおい こらこら、ロビンさんっ!

 「あっ、みかんのじぇりぃvv
 「きゃい〜〜って、こら、まだお話が済んでな…」
 「ぱ〜ぱ、食びよ? おーしーよ?」
 「う…。////////

この夏も色々あったワケですが、
そんな中にて 覚えたらしき、カイくんの小首かっくりは、
どうやらパパには特に無敵の必殺技であるようです(まる)





 〜Fine〜  07.8.18.〜8.20.

 *カウンター 257,000hit リクエスト
      貴子様 『ぱぴぃ設定のお話をvv


 *お盆を境に更新速度が遅れていて申し訳ありません。
  どうも怠け癖がついちゃったみたいで、頑張ろうと我が身へ鞭打ってる最中です。
  (に○おかすみこだよぉって…ノリで・こらこら)

 *それはともかく。
(げほんごほん)
  三歳児って、まだ赤ちゃんだよなと思ってたんですが、
  子供によっては、
  意味が分かっていてのちゃんとした会話が出来てたりするそうで。
  すくすくあかちゃんとか観ながら
  へぇ〜っと感心してたりする、変なおばさんだったりします。

めーるふぉーむvv めるふぉ 置きましたvv お気軽にvv

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